主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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三話 【ヘスティア・ファミリア】

 

 

どこにでもある普通の宿屋。格別に安いというわけでもなく、格段に高いというわけでもない。なかなかいい宿を取れたと、ベルは思った。ここなら相部屋だけど、何日も過ごせる。

 

まず【ファミリア】が見つからない可能性の方が高いだろう。ベルはそう考えていた。ラグナだけなら、入れてくれるところはあるだろうが。病気を持っているベルが付いてくるとなると話は別だ。

 

仕方のない話だ。冒険者とは命を賭ける職業。そんな細い腕じゃ何もできない。怪物なんて倒せやしない。

 

そう達観していた。きっと誰も自分に期待なんてしないだろうと。でも馬車の中で、ラグナは言った。弱い俺を助けて欲しいと。初めてだった。誰かに頼られるのは。

 

でも同時に思う。きっと自分では足を引っ張ってしまうと。病弱で醜悪な、この身体では何も出来っこない。

 

きっとラグナは、一人でも戦うのだろう。冒険者として、命を燃やすのだろう。カッコいいなって思う、まるで英雄譚の主人公みたいだって思う。

 

───でも、その隣に立つのは、きっと僕じゃない。

 

想像できるだろうか。外で一人で歩けない自分が、彼の隣に立つなんて有り得るのだろうか。資格がないと思う、彼には覚悟がある。それが自分のために決意してくれたということも嬉しい。

 

でも、その結果死んだら。多分だけど、ベルも死ぬだろう。彼の後を追って、この短い命に終止符を打つのだろう。でも彼は言ったのだ、ベルの力が必要だと。

 

こんな病気で何も出来ない自分を頼ってくれた。なら、その期待に応えたい。この弱い身体でいいなら、いくらでも捧げてやる。

 

それが彼女の誓いだった。

 

「ベル!俺達の神様が見つかったぞ」

 

扉を大きく開けて、息も絶え絶えなラグナは話す。たまたまじゃが丸くんという食べ物を売っていた神様と出会い、契約を交わしてくれることになったと。

 

「僕の病気のことは言ったの?」

 

「あっ。ま、まあ……大丈夫だと思う」

 

「……本当?」

 

「駄目だったら、別の神様を探すよ。さあ、行こう」

 

どこか楽観的なラグナに、少しだけ呆れる。ベルはラグナのゴツゴツとした手に引かれて、外に飛び出した。

 

 

⬛︎

 

 

女神フレイヤ。彼女はダンまちにおいて一番厄介といっても過言ではない。気に入った子供がいたら、無理矢理にでも勧誘してくるし。何よりチート能力の魅了。あれがあれば、英雄ですら傀儡にされるだろう。

 

それだけは避けたい。まずはヘスティア様の恩恵(ファルナ)を授かるところから始めなければ。フレイヤが狙ってくるなら、今のままじゃどうしようもない。まあ恩恵(ファルナ)を授かったところで、勝てる相手じゃないんだけどね!

 

宿屋に戻った俺は、ベルを眷属にしてくれる神がいると報告。ベルは目を丸くしていた。まあ、そりゃそうだ。まだ病気のことは言っていないが、ヘスティア様なら受け入れてくれるはずだ。

 

そんなこんなで、ベルを背負いながらじゃが丸くんの売っているところまで来た。

 

「ん?来たのかい。その子がもう一人の子かい?」

 

丁度バイトが終わったのだろう。服がいつもの衣装になっている。既に陽は落ちかけており、すぐにでも暗くなるだろう。

 

そういえば自己紹介も済ませてなかった。神様に大分失礼なことしてしまった気がする。

 

「俺の名前はラグナです、こっちが」

 

「ベル・クラネルです。よろしくお願いします!」

 

「おお!名乗るのを忘れていたよ。ボクの名前はヘスティア、今日からよろしく頼むよ!」

 

とりあえず自己紹介を終えて、ヘスティア様の本拠地とは名ばかりの教会に向かうことになった。ようやく恩恵を授かれるとなると、少しだけ緊張してくる。

 

「それで、なんでベルくんは背負われているんだい?」

 

「実は、ベルは病気なんです」

 

「……病気?」

 

「はい、何の病気か分からないんですけど。小さい頃から身体が弱くて、最近は少しだけマシになりましたけど……」

 

少し不安そうにヘスティア様を見つめるベル。その視線の意味を察知したのか、ヘスティア様は胸を大きく張って笑った。

 

「大丈夫さ、ボクは君を受け入れる。だから、そんな怯えなくていいよ」

 

まるで母親のような表情をするヘスティア様に、ベルは瞠目する。出会って数時間も経過していないのに、ここまで優しくしてくれるなんて。やはりヘスティア様は凄い神だ。

 

ベルも少しだけ嬉しそうに、小声でありがとうございますと呟いた。それにヘスティア様はにっこりと満面の笑みを浮かべたのだった。

 

「よし、ここだよ。君達のホームは!」

 

「────嘘?」

 

苔が生え、罅が入り、想像していた物よりずっと酷い。これは掃除する必要がありそうだ。ベルは口を開けたまま呆然としている。

 

ヘスティア様は気恥ずかしそうに、えへへと笑うが。笑えない。どこまで放置したらこうなるんだろう。

 

まあ、こんな人気のない場所に建てられている教会なら仕方ないと思うが。

 

「ま、まあ。今日はとりあえず恩恵(ファルナ)を刻もうじゃないか!」

 

「……それも、そうですね」

 

ホームのことは忘れて、一旦中に入る。外見は悪いが、中はそれほど汚くない。ただベルの病状が悪化しないように、掃除するつもりではあるが。

 

教会の地下。そこが、俺達の新しい拠点。あるのはベッドとソファーと机だけ。適当に買ったのだろう本が散らばり、ぐーたらしてたことがわかる。

 

「ささ、一人目は誰かな?」

 

「──僕から、お願いします」

 

俺が一番最初にと思ったが、意外にもベルが挙手した。恩恵を捧げるには、神の血が必要だ。その血を背中に垂らし、人間の可能性を開く。そんなイメージだ。

 

【ステイタス】は力、耐久、器用、敏捷、魔力と五項目ほどある。冒険をして、恩恵を再更新すると能力が上昇する。敵を多く倒せば、その分上がるというわけでもない。

 

格上の相手との戦闘などの上昇量は半端なく高い。

 

「あっ。ラグナくんは外に出ておいてね」

 

「そうだな。終わったら呼んでくれ、上にいるから」

 

恩恵を授けるには上半身を裸になる必要がある。俺は階段を登り、終わりの時を待った。

 

⬛︎

 

ヘスティアは初めての眷属に心を高鳴らせていた。ずっと夢だった【ファミリア】。それが今日突然に叶った。黒髪黒目の少年ラグナくん、雪のような白髪を腰まで伸ばしたベルくん。

 

ベルくんが病気を患っていると聞いた時は驚いたが。だからといって邪険にするつもりもない。当たり前だが、初めての眷属だ。大切にしたいのだ。

 

【ファミリア】とは家族のような物だ。主神であるヘスティアの血は、永遠に残り続ける。

 

細長い針に、ヘスティアは指を刺す。真っ赤な雫が、真っ白な背中に溢れ落ちる。すると現れるのは文字の羅列。これが彼女の【ステイタス】だ。

 

『ベル・クラネル』

Lv1

力 I0

耐久I0

器用I0

敏捷I0

魔力I0

『魔法』 【サタナス・ヴェーリオン】

     ・詠唱式『福音(ゴスペル)

     ・単射魔法

     ・音属性

『スキル』【運命廻継(アルメー)】・病弱付与。

           ・身体能力低下。

           ・耐久力低下。

           ・魔力に高補正。

           ・精神力に高補正。

 

「(魔法が発現している……!?)」

 

確かに魔法が発現していることは、そこまで珍しいことではない。問題はスロットの数。人間は最低一つ、最高で三つ魔法を覚えることが出来る。そしてベルは最大の3つの魔法スロットがあった。

 

「(で、問題はこのスキル)」

 

能力の低下。これはおそらく病気のせいだろう。ステイタスの低下は分かるが、身体能力低下はどういうことだろう。ヘスティアは少し考えて、こう考察した。

 

恩恵を与えられた人間は、誰しもが圧倒的な力を手にする。『魔法』とか『スキル』関係なしに。超人的な力を手に入れる。

 

おそらくだが、恩恵で得た身体能力はこの『スキル』のせいで相殺されたのではないか。

 

「(うーん。これ以上は考えていても仕方ない)」

 

ヘスティアは終わったことを、ベルに伝えて羊用紙に共通語で【ステイタス】を描く。それが描き終わった時、ヘスティアはラグナの名前を呼んだ。後はラグナにも同じように恩恵を授けるだけだ。

 

ラグナは、ベルのステイタスを見て瞠目する。女性になった影響なのか、それとも自室で本を読んでいたからか。魔法のスロットも三つ、更にアルフィアの魔法まで覚えた。

 

それはラグナの期待以上の力だった。

 

ラグナも同じように、上半身の服を脱いだ。畑仕事をしていた影響で、身体は筋肉質だ。そんな彼の背中に、先ほどと同じように一滴の血を溢す。

 

『ラグナ』

Lv1

力 I0

耐久I0

器用I0

敏捷I0

魔力I0

『魔法』 【  】

『スキル』【誓約代償(レギオン)】・特殊条件達成時、任意発動。

           ・使用時、魂の摩耗。

           ・能力の倍補正。

           ・感覚超強化。

           ・肉体損傷(ダメージ)自動回復。

 

 

ヘスティアは目を剥いた。ラグナにも『スキル』が発現していることに。しかし、内容にも瞠目する。例えば、能力の倍補正という部分。力とか耐久とか。そういう次元の強化ではない。

 

本当に倍率で、強化されるとしたら恐ろしいだろう。まあ、その代償という部分が凄まじく壊れているのだが。

 

「(魂の摩耗……)」

 

これほどの【ステイタス】の強化並びに、自動回復まで付いている『スキル』。その代償が、魂とは。それは吊り合っているつもりなのだろうか。ヘスティアは、嫌な汗が止まらなかった。

 

下界の人間は、例え死んだとしても生まれ直すことができる。魂の漂白を終えた後、また下界に生まれ落ちる。だが、それは魂があるからできる話だ。

 

つまり。この『スキル』を使いすぎると魂が壊れる可能性がある。

 

それはつまり。この少年の人生どころか、来世すら壊す物だ。

 

「(隠そう。これは、無かったことに……)」

 

ヘスティアは乾いた笑いを響かせなら、羊用紙に書き記していく。もちろん『スキル』なんて発現するわけがなかった。そんな才能を持った人間なんて、いないいない。

 

現実逃避しながら、【ステイタス】を記した用紙をラグナに渡したのだった。

 

⬛︎

 

渡された用紙を見つめる。何の【魔法】も【スキル】も得られなかった。仕方ないと思う、でも焦りも感じている。今の俺は技術も知識もない凡夫だ、せめて【スキル】があれば違うのに。なんてないものねだりをしてしまう。

 

逆にベルは魔法を取得した。なんていうか、神というか運命は残酷なのだろう。彼女の義母に当たる、アルフィアの魔法を受け継ぐとは。それに加えてスキルまで手に入れた。

 

まあ、デメリットとメリットとがはっきりしすぎて笑うしかない。ベルは圧倒的な魔法能力の代わりに、耐久力が弱い。下手に攻撃を受けたら重症を負うだろう。まあ【福音(ゴスペル)】があるから、そもそも近付けないだろうが。

 

「ベル。身体はどうだ?どこか変わったところとか」

 

「なんか、少しだけ身体が軽くなった気がする。恩恵の効果かな?」

 

「なるほど、少しは効果はあるんだな。良かった」

 

ベルの能力は物凄いと思う。原作でもチートとされていたアルフィアの魔法。さすがに、アルフィアみたいな剣技とかは模倣出来ないだろうが。後衛の魔術師として、これ以上頼りになる存在はいない。

 

「ヘスティア様。今日からよろしくお願いします」

 

「お願いします、神様」

 

「そんな畏まらないでおくれよ。ボクたちは家族(ファミリア)なんだからさ!」

 

綺麗な笑みを浮かべて、ヘスティア様は言った。俺としてもヘスティア様とは仲良くなりたい。目標のためもあるが、彼女の協力無しでは70階層なんて辿り着けない。

 

当分の目標は冒険者として、戦いに慣れることからだ。それが出来てようやく、原作が始まるのだろう。それまでに【スキル】が発現するといいが、まあ期待はしないでおこう。

 

「ふっふっふ。今日は【ヘスティア・ファミリア】結成祝いとして、食事を買ってきたのさ」

 

唐突にヘスティア様は、懐から何かを取り出した。それはじゃが丸くんだった。そういえば、今日は何も食べてなかったことを思い出した。今更だが、お腹の虫が鳴り始める。

 

「ふふ、さあ。食べようじゃないか、じゃが丸くんで乾杯だ!」

 

「乾杯……?」

 

「乾杯!」

 

ベルは不思議そうに、じゃが丸くんを手に取って口に入れた。俺も続いて、口に入れる。初めて食べるじゃが丸くんの味は、濃厚な抹茶味だった。

 

 


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