主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
「神ヘスティア。初めまして、エイナ・チュールと申します」
綺麗なブラウンの髪色とエメラルドの瞳。そして普段は付けているメガネを外しているエイナは礼儀正しく挨拶をする。
ヘスティアは礼儀正しい挨拶に押されながらも、昨夜のことを思い出す。黒髪の少年から、いつものようにダンジョンの報告を受けていた。
それは日課のようなもので、大事な主神と眷属のコミュニケーションだった。
昨日はベルの【スキル】のことと入院したこと。そして新しい入団希望者のことを報告された。
零細【ファミリア】である【ヘスティア・ファミリア】に入団希望者が現れるとは思わず、しばらく固まっていたが、すぐに気を取り戻して話をして驚いたのは目の前のエイナが受付嬢だったということ。
(ダンジョンの受付嬢って……就職難易度が高いって聞くけど……それを辞めて、どうして冒険者に?)
そんな疑問を抱くヘスティアだが、エイナが黒髪の少年を見る目でなんとなく理解した。
(また、新しい女性を引っ掛けたのか……だけど、新しい眷属は大歓迎だ……ラグナくんとベルくんのためにも)
70階層という巨大な壁を乗り越えるためには人材はいくらあっても足りない。何よりラグナに無理をさせないためにも、強力な人材は喉から手が出るほど欲しい。
ハーフエルフのエイナなら魔法にも期待できるだろうし、何より挨拶から性格も問題なさそうだ。
いや、問題といえばベルのことだが……。
(絶対嫉妬しちゃうよね……)
主神であるヘスティアでさえ、ラグナと必要以上に近づくと、視線を危うくするほど嫉妬深い。
あれは嫉妬もあるのだろうが……どちらかというと恐怖が大きいのだろう。病弱な自分に自信がない。美人で健康な女性がいれば、そちらの方を選ぶに決まってる。そんな風に考えてしまうほど自己肯定感が低い。
だからこそ目の前のエイナという美人が近くにいることで、精神的に病んでしまわないかが心配だった。
「神ヘスティア?」
「あ、ああ!ごめんごめん。ボクの名前はヘスティア、君のことはラグナくんから聞いているよ」
「はい……あの、入団に関してなのですが……」
「それに関しては面接とか何もないから……と思っていたけど、一つだけ聞いていいかい?」
「はい」
「君にラグナくんと歩む覚悟はあるかい?」
ヘスティアが一番聞きたかったことはそれだけ。ラグナの目標は高く、不可能と断言されても不思議じゃない偉業。
現在の都市最大派閥でさえ成し遂げていない、そんな高い壁に挑むには、何回も冒険をする必要がある。
そんな命の奪い合いをする世界で戦う覚悟を問う。
「神ヘスティア。私は既に覚悟しています。彼のことを支えたい、そのために傷つくことなど恐れません!」
「……うん、嘘偽りはないようだね。それじゃあよろしく頼むよ、エイナくん。君を【ヘスティア・ファミリア】の三人目の眷属として迎えるよ!」
「ありがとうございます、神ヘスティア……!」
握手を交わす二人。内心、ヘスティアは冷や汗をかいていた。ラグナの話を聞けば、彼女が冒険者になることを決心したのは二日前。
それなのにどうしてここまで覚悟が決まっているのか。受付嬢という平和な場所で働いてきたのに、どうして一瞬で冒険者という職業に転職することができたのか。その行動力に恐ろしさを感じた。
「エイナさん、これからよろしくお願いします」
そして全ては黒髪の少年のせいなのだろう。彼はどこか周りを味方にする力がある。いや、正確には違うのだろう。
きっと傷つきながらも前に進む彼の姿が、周りの人間を焼いているのだ。きっとこれからも、エイナのような人間が【ヘスティア・ファミリア】に入団するのだろう。
それが一体何人になるのか、想像できなくてヘスティアは苦笑いを浮かべた。
「よし、それじゃあ早速、恩恵を刻もうか……ラグナくんは外に出ていてねー」
「はい。それじゃあエイナさん、また後で」
「うん。……それじゃあ、神ヘスティア。お願いします!」
ラグナは教会を出て、二人きりになる。
「それで、ラグナくんのどこが好きになったんだい?」
「はひっ!?」
一瞬で真っ赤に染め上がるエイナ。それを見てやっぱり間違いじゃなかったとヘスティアは溜息を吐きそうになった。
「どこが好きになったって……そ、そんなの……」
「やっぱり顔?カッコいいもんね」
「ち、違います……確かに、顔はカッコいいですけど……実は私の母も病気が多くて……きっとそれでベルちゃんのために頑張ってるラグナくんを……」
その言葉にヘスティアは微笑ましい気持ちになりながらも、同時に【ファミリア】の今後について考える。
まず間違いなく、ラグナはこれからも女性を引っ掛けるのだろう。そうなった際、ファミリア内で争いが起きたりしないのか。
もし、そんなので【ファミリア】が崩壊すれば、ラグナの夢も元も子もなくなる。というかヘスティア自身も嫌だ。処女神のファミリアが女性関係で崩壊などあってはならない。
「……といっても、対処方法はないんだけど」
「神ヘスティア?」
「……独り言さ。服を脱いでくれるかい?今から恩恵を刻むよ」
その言葉にエイナは上半身の服を脱いでいく。シャツのボタンを外し、真っ白な背中を外に晒す。その背中を見て、ヘスティアが首を傾げる。
「君はどこかのファミリアに入っていたのかい?」
「いえ、ファミリアではなく、学区に所属していました。恩恵はその時に」
「学区……?」
聞いたことのない単語に首を傾げながら、ヘスティアは自身の指に針を突き刺す。赤い雫がエイナの背中に垂れて、
「ん、んん?んんん?」
そして経験値を反映させてる中で、ヘスティアは何度も目を丸くする。
「神ヘスティア、どうかしましたか?」
「……魔法とスキルが発現したっぽい」
「ほ、本当ですか?」
「う、うん。と、とりあえず……紙に書き写すね……。あ、ラグナくんも呼んできてくれないかな?」
「は、はい。わかりました」
ヘスティアは用紙を素早く取り出して、共通語でステイタスを書き記していく。しばらく紙と睨めっこして、ヘスティアは顔を上げて、用紙を二人に見せた。
『エイナ・チュール』
Lv1
力 I6
耐久 I2
器用 I12
敏捷 I3
魔力 I0
『魔法』【マギナ・ラグナ】
・支援魔法。
・詠唱連結。
・第一階位『マギマ・レイル』
・詠唱式【聖女の涙、霊峰の守護、黒の
・第二階位『マギガ・リルガ』
・詠唱式【黒の意志、黒の
・第三階位『マギア・アルヴィス』
・詠唱式【偉大なる
『スキル』・【
・魔力の大幅向上。
・支援系統の魔法効果上昇。
・支援魔法の射程大幅増加。
「あはは、あはははは……なにこれ?」
ラグナが乾いた笑いをこぼした。
「うん……正直ラグナくんとかで慣れてなかったら、気絶してたかも。なにこれ?」
ヘスティアが諦めたような笑みを浮かべる。
「……り、リヴェリア様と同じ階位魔法……な、なんでぇ?」
そして尊敬するリヴェリアの魔法と同じ系統なことに、エイナは恐れ多いと涙目を浮かべた。
「というか、アールヴ!?……エイナさんって」
「う、うん。一応お母さんにハイエルフの血が……」
「……だ、だから……こんな魔法が」
アールヴとはエルフの王族だけが持つものである。それで魔法に含まれているということは、そういうことであった。
「……で、でも、この力があればラグナくんを支えられるよね!」
「それは……間違いないと思いますけど……」
この魔法は最強の魔導士であるリヴェリアと同じ系統。つまり効果には大きく期待できる。とはいえ試さないことにはわからない。
「ヘスティア様、エイナさんとダンジョンに行っても大丈夫ですか?」
「それは構わないけど……エイナくんは大丈夫なのかい?」
「はい、私もこの魔法について知りたいので」
「それじゃあ行っておいで、ボクは疲れたから眠るよ……」
ラグナで慣れてるとはいえ、凄まじい情報量だった。ヘスティアはベッドに飛び込み、そのまま瞼を閉じた。そんな姿の主神を見てエイナは笑い、ラグナは苦笑した。
⬛︎
「今日はダンジョン探索は?」
「はい、連日でダンジョン探索だったので、少し休暇を」
「ラグナくんは休まなくて大丈夫なの?私に付き合わせて……」
「いえ、むしろ身体を動かしたかったところなんで!」
都市を歩きながら会話する二人。改めてラグナはエイナの格好に注目する。魔導士のような戦闘衣、眼鏡を外しており、その新鮮な姿に思わず見惚れそうになる。
「それより、エイナさんに魔法が発現して安心しました」
「そうだね……私も前衛なんて絶対できないし、後衛としてやるなら弓士ぐらいだけど……」
弓なんて扱ったことのないエイナが習得するには時間が掛かりすぎる。何より扱いを間違って、前衛に当たる危険性も考えると弓は難しい。
これでエイナの役割は決まった。後衛の支援魔導士。前衛職が一人の【ヘスティア・ファミリア】には贅沢すぎる、魔法使い。
「あ、そうだ。伝え忘れてましたけど、俺たちの本拠はあれなんで……」
「大丈夫だよ、私には家があるから。そこは気にしないで」
教会の本拠はただでさえギチギチである。シングルベッドにヘスティアとベルが眠り、ソファーでラグナが眠るという形で、今は問題はないが、今後のことを考えると不便だ。
原作だと戦争遊戯で、【アポロン・ファミリア】から奪っていたが……原作と同じように事が進めば、やりやすいのだが……そう上手く事は運ばないだろうとラグナは思った。
「魔法の空き欄もあと一つ残ってますし……そうなるとエイナさんは四つ以上の魔法を操ることになるんですね」
「そうなるのかな……?」
確かにエイナの【魔法】の空き欄はあと一つ残っている。今、発現している魔法と合計すると四つ以上の魔法を操ることになる。
それはリヴェリア・リヲス・アールヴとレフィーヤ・ウィリディス以来、三人目であり、その才能が受付嬢に眠っていたことに驚くしかない。
こうした会話をしながら、二人は神の塔に向かっていった。
⬛︎
ダンジョン1階層。弱い怪物しか現れない領域にラグナとエイナは辿り着く。その迷宮の空気にエイナはドキドキしながら、周りを見渡した。
「もう、魔法を試していいの?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「……ふぅ、よし行くね」
深呼吸したあと、エイナは記憶した詠唱を思い出しながら呪文を編み始める。
「【聖女の涙、霊峰の守護、黒の
エイナの瞳と同じエメラルドの魔力が解放され、滞りなく呪文が紡がれていく。初めての詠唱にも関わらず、どこか慣れたように感じるのはおそらく彼女の血の力なのだろう。
エルフという先天的に魔法を覚える、
「【マギマ・レイル】」
魔法が発動した瞬間、エメラルドの魔力がラグナに宿る。
「っ!?」
その瞬間、全身が脈を打った。お風呂に入っているように身体が暖かい。だが全く効果が分からず、ラグナは試しに剣で指を切り裂いてみた。
「ラグナくん!?」
「すごい……これは治癒魔法?いや、支援魔法だから何かの能力を上げてる……ということは治癒力の強化か?」
切りつけた指が一瞬で回復したことで確信する。自己治癒力の強化……どれほど強化されてるのかは分からないが、切り傷が一瞬で治ったことから凄まじい出力なのは間違いない。
そして血液を流した瞬間、心臓が高鳴った。もしかしたら血液を作る能力までもが強化されてるのかもしれない。
「ラグナくん……自分を傷つけるのはやめて」
「エイナさん……でも、エイナさんのためにも試さないと」
「だからって自分を傷つける真似は絶対だめ。君は冒険者でしょ?身体をもっと大事にしないと!」
そのエイナの言葉に面を喰らうラグナ。自分の身体を大事にといっても、第一級冒険者にボコボコ、洗礼で格上達にリンチ、魔法で自分の体を破壊。そんな日々を送ってきたので自分を大切という言葉に驚いてしまった。
「君が焦らないといけない環境なのはわかる。だからこそ自分を大切に進んでいこう?」
「エイナさん……はい、次からは気をつけます」
「よろしい!それで、私の魔法はどうだったかな?」
「凄いです……第一階位で、この力はありえないと思います」
「そっか、よかった」
エイナが安心したように微笑む。パーティーを支える支援魔法。その第一階位は治癒能力の強化。もしかしたら他の副次効果もあるかもしれないが、今判明しているものでも凄まじい力だ。
「でもこの支援魔法は私自身には付与できないみたい」
「なるほど……俺以外にも付与できそうな感じはありましたか?」
「それは多分できると思う」
自身に付与できない、完全に味方をサポートする魔法。パーティーの底上げが出来る魔法はあるだけでありがたい。
「【黒の意志、黒の
次の魔法は第二階位。第一階位であれほどなのだ、既に予想できない。
「【破滅に向かう英雄に精霊の加護を。壊れゆく魂に聖女の歌を。──我が名はアールヴ】」
詠唱完成。一体どんな魔法なのか、ラグナは心臓を高鳴らせながら、その時を待つ。
「【マギガ・リルガ】」
瞬間、先ほどと同じエメラルドの魔力がラグナを包み込む。さっきとは違い、目に見える効果が現れる。
「力と敏捷の強化……!」
単純ながら戦闘の際に一番嬉しい能力向上。軽く走るだけで自分の肉体ではないような向上具合に目を剥く。
「能力向上……基本時に、この魔法を使うことになりそうだね」
「そうですね、力と敏捷が上がれば討伐速度も上がりますし……」
戦いやすさがまるで違う。戦闘の安定度が大きく変わるだろうし、この支援効果は未だ魔力が成長していないエイナで、これなのだ。
これからの成長次第で、どれほどまで支援効果が上がるのか全く分からない。その未知数な魔法にラグナは背筋を凍らせる。
「よし、最後の魔法を使うね」
「はい、お願いします!」
「【偉大なる
エメラルドの魔力が美しくエイナの周りを包む。第三階位、これが三段階の支援魔法の中で最強だろう力。長い詠唱を次々と編み込んでいくエイナ。魔力の制御も一切問題がない。
「【破滅を退き、駆け抜ける英雄に聖女の加護を与えよ。──我が名はアールヴ】!」
「【マギア・アルヴィス】!」
エイナから放たれる翠光。それがラグナの全身を包み込んだ。
視界が広がり、迷宮の匂いが濃く感じる。全ての神経が尖り、何より全能力が向上しているのを感じる。
「全能力向上、五感の強化……!?」
この感覚、どこか似ていると思ったら【
「……詠唱は長いけど、これがパーティー全体に付与されたら」
集団戦闘が楽になることは間違いない。どんなパーティーも、ファミリアも欲しがる圧倒的な支援能力。その魔法にラグナは戦慄した。