主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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32話 魔導士の心得

 

 騒がしい酒場、豊穣の女主人。そこには可愛らしい店員が忙しなく働き、冒険者が酒を料理を楽しむ、都市でも有名な酒場だった。

 

「乾杯!」

 

「「乾杯」」

 

 そして端っこのテーブルにいるのは黒髪の少年ラグナと、ツインテールを揺らすヘスティアと、ハーフエルフの元受付嬢エイナだった。

 

「さあ、今日はエイナくんの歓迎会だ。どんどん食べて飲んでって!」

 

「ほ、本当にいいのでしょうか?【ヘスティア・ファミリア】は、その……」

 

「確かにボクたちは貧乏だ。でも最近、ラグナくん達の力もあって徐々に金は貯まっていってるんだ。晩御飯もじゃが丸くんだけじゃなくなったし」

 

 麦酒を口にしながらヘスティアが話す。10階層の探索を開始してから、凄まじい勢いでお金を稼いでいる。それはベルの幸運の影響もあってのことだろうが、そもそもの怪物討伐速度が異常なほど速いのも理由の一つだ。

 

「晩御飯がじゃが丸くん……」

 

「ははは。でもじゃが丸くんでも意外とお腹が膨らむんですよ。それより、このパスタ料理美味しいですよ」

 

「……それじゃあ、いただきます」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の一員となったのだ、遠慮して食べないのも失礼に当たる。エイナはフォークを手に取って、ラグナが勧めたパスタを口に運ぶ。

 

「美味しい……」

 

「ですよね、本当ならベルとリリも連れてきたかったけど……」

 

 ベルは治療院。リリに関してはどこに宿があるのか知らないため誘うことができなかった。少し残念な気持ちになりながらも、食事を進めていく。

 

「それで、魔法はどうだったんだい?」

 

「凄かったです。まだ実戦で投入していないので、分からないところはありますけど……あれはパーティーに人が増えれば増えるほど、重要性が上がる」

 

 例えば遠征で階層主と戦う場合などの集団戦闘で、大きく機能することは間違いない。逆に現在のラグナのパーティーだと、うまく利用するのは難しいかもしれない。

 

とはいえ第一階位の治癒力の強化など、第二階位の力、速度の向上はどんな場面でも輝く。第三階位は詠唱の長さも、精神力の消費量も多いため、頻繁に使うのはできないだろう。

 

「回復士としても、頼もしいです」

 

「回復薬を使わなくて済むのは大きいね……」

 

「で、でも……怪物と戦闘中に詠唱できるか、ちょっと不安だな」

 

 第一階位の有用性を理解したとこで、エイナが自身の不安を吐露する。今日の一階層では怪物が接近してくることはなかった。

 

もし怪物が近づいてくる中で、詠唱を完璧にこなせる自信がない。後衛を守る前衛が一人しかいないことも、エイナの不安を煽る。

 

せめてベルがいれば、接近してくる怪物を撃ち払えるのだが、彼女はしばらくいないため、ラグナが少しでも怪物を後ろに逃がせば、その怪物の牙はエイナやリリに降り掛かるだろう。

 

「そうですよね……魔法の詠唱に関しては俺もそこまで自信がないです」

 

「あれ、ラグナくんも魔法が発現してるの?」

 

「ああ、はい。……クソみたいな地雷魔法ですけど」

 

「地雷……?」

 

 その魔法について触れた瞬間、ラグナの顔が暗くなる。【ケラノウス】の全能力を魔法威力に変換するという特性。それはおそらく支援魔法で上がった能力すら、換算してしまう。

 

つまり、エイナの支援魔法が掛かった状態で、【ケラノウス】を発動して仕舞えば、今まで以上の痛みが襲い掛かることは間違いない。

 

だが痛みは伴うとはいえ、支援魔法が掛かった状態の【ケラノウス】は間違いなく最強の威力になる。一応、試してみるのは必要だろう。

 

「怪物が怖いなら、大丈夫ですよ。上層の怪物だったら、絶対に守れます」

 

「……」

 

「信じられませんかね?」

 

「う、ううん……頼もしいなって思って」

 

 その黒の瞳の頼もしさに一瞬見惚れた。そんなことを素直に言えるはずもなく、エイナは頬を赤らめながら誤魔化した。

 

「なんか、君たち仲がいいね。主神のボクを置いてけぼりにして……」

 

「何言ってるんですか。俺が一番信頼している神はヘスティア様ですよ」

 

「──もうラグナくんってば、ボクのことをそんな風に思ってくれてたのかい?」

 

 一瞬で不機嫌からご機嫌に変わる。あまりにもチョロい主神はお酒をゴグゴクと呑みながら満面の笑みを浮かべる。そんなチョロい姿に大丈夫かと心配になるエイナだった。

 

「ラグナさん」

 

「リューさん?」

 

 そんな中、ラグナ達に近づいてくるエルフがいた。リュー・リオン、レベル4の冒険者であり、今後の目標にも仲間にする必要がある酒場の店員である。

 

「ベルさんはどうしてますか?」

 

「ああ……実は昨日、入院しちゃって。あ、別に病気が進行したわけじゃなく、検査入院みたいな感じで」

 

「そうですか……酒場の仕事で忙しく、ベルさんの魔法の指導が出来ていなかったので……明日にでも、と思ったのですが」

 

 その言葉にラグナは少し考えた後に、口を開く。

 

「リューさん……無理なお願いかもしれないんですけど」

 

「お願いですか?」

 

「はい。エイナさんに魔法使いの立ち回りを教えてほしくて」

 

「立ち回り?」

 

 リューは空色の瞳で、椅子に座るハーフエルフを見つめる。新しく【ヘスティア・ファミリア】に入団した魔導士なのだろうか。

 

「魔法の種類は?」

 

「支援魔法です」

 

「なるほど……支援魔導士、立ち回り程度なら教えれると思いますが」

 

「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

 その言葉にラグナは安心する。そして訓練の時刻を決定していく。

 

「あ、あの……え、え、え?」

 

 勝手に訓練が決まり、エイナは戸惑いを隠さなかった。

 

⬛︎

 

 早朝。ラグナとエイナは豊穣の女主人の前で集合して、移動していた。目的の場所は、豊穣の女主人の裏の路地で、人気があまりのない場所だった。

 

「聞くタイミングを逃したんだけど……あの店員さんは?」

 

「俺が魔法を唱えるのが一番上手いと思う人です」

 

「あの、酒場の店員さんが……?

 

 そんな人に魔法が発現したばかりの自分が教えてもらうなんて。恐れ多いという気持ちと、同時に魔導士の基礎が学べるなら頑張らなければと拳を握る。

 

路地を進んでいくと、風を切る音が聞こえた。その音の正体はリューで、木刀を振って身体を動かしているようだった。

 

洗礼された動きに見惚れる二人。しばらく見ていると、リューの空色の瞳がようやくこちらを向いた。

 

「来ていたなら、声を掛けてください」

 

「いや、邪魔するのも悪いなと思って……いつもここで身体を動かしているんですか?」

 

「はい、動かさないとどうしても鈍ってしまうので」

 

 リューは汗をタオルで拭いながら、エイナの瞳を見つめる。そして表情を変えず口を開いた。

 

「リオンと呼んでください」

 

「あ……エイナ・チュールと申します。よろしくお願いします、リオンさん」

 

 簡単な自己紹介にエイナも礼儀正しく返す。そのまま指導に入るのかと思ったが、空色の瞳がラグナに向いた。

 

「……申し訳ないのですが、ラグナさん」

 

「はい?」

 

「まだ身体を動かし足りないので、付き合っていただけませんか?」

 

 白色の鞘、聖火剣を指差してリューは言った。その言葉にラグナは一瞬戸惑いながらも頷いた。

 

最近、格上と戦ったのは洗礼ぐらい。上層では既に相手になる怪物はいない。身体が鈍る前に格上との戦闘はしておきたいと思っていたところだった。

 

「手加減はしますが……もしやりすぎてしまったら、すいません」

 

「……大丈夫です、慣れてるんで」

 

 聖火剣の鞘を構える。リューもまた木刀を構え、静寂に包み込まれる。明らかな隙は右の横腹。だがそんな見え見えの隙をリューが用意するはずがない。なのでラグナは、その隙を無視して反対の脇腹を狙うことを決めた。

 

「──いきます」

 

 彼女に一本取るには自分の異常な成長を叩きつけるしかない。都市に来て二週間程度の冒険者だと侮っている彼女に、驚異の速度を叩きつける。

 

「っ……!?」

 

「……レベル1とは思えない敏捷ですね。ですが、まだです」

 

 簡単に木刀で攻撃を受け止められる。そしてそのまま回し蹴りで、吹き飛ばされて、ラグナは目を丸くする。

 

レベル4でも上位の実力を持っている彼女は【フレイヤ・ファミリア】のレベル4よりも、強いと断言できる。

 

一対一なら、少しは戦いになるかと思ったが間違いだ。本気の戦いになれば、即座に自分など切り捨てられる。

 

「……来ないなら、こっちから行きます」

 

「ぐっ!?」

 

 重たい木刀が横から襲いかかる。鞘で挟むことには成功したものの、そのまま脇腹ごと吹き飛ばされる。

 

「反応はいいですが、予測が足りません」

 

「はい!」

 

「あともう少しフェイントを織り交ぜなさい」

 

 いつのまにか、体を動かすというより訓練になっていることに気付かない二人。それをオロオロとしながら見ているエイナはなかなか止めることが出来なかった。しかし、少年の鼻から血が出た瞬間、エイナは魔力を解放する。

 

「【聖女の涙、霊峰の守護、黒の終末おわり、歌い続けろ英雄の歌。──我が名はアールヴ】」

 

「……アールヴ!?」

 

「【マギマ・レイル】」

 

 第一階位の魔法がラグナを包み込む。心地いい暖かさと共に身体の傷が徐々に回復していく。その自己治癒能力の強化に瞠目しながら、心配そうなエイナの手を借りる。

 

「エイナさん、ありがとうございます」

 

「ううん。それよりリオンさん、訓練するならもう少し相手を労ってください!こんな顔がボコボコになるまで殴るなんて……」

 

「す、すいませんラグナさん」

 

「いえ……俺は全然大丈夫です!」

 

 深々と頭を下げるリューにラグナは苦笑いする。ラグナの周りにはやりすぎる人しかいないので、それを止めるエイナに尊敬の眼差しを送る。

 

「……チュールさん。その魔法の詠唱は?」

 

「あ、えーと……アールヴのことですよね……母にハイエルフの血が入っていて……」

 

「なるほど……王族の血筋ですか……」

 

 エイナは身分不相応だと思ってるのか、顔を伏せる。

 

「……それで、魔法について聞いてもいいでしょうか?先程のことから治癒魔法のようですが」

 

「三段階あって……第一階位が自己治癒力の強化で、第二階位が力と敏捷の強化で、第三階位が全能力向上と五感の強化です」

 

「……それは、リヴェリア様と同じ」

 

「はい、階位魔法です」

 

 リヴェリア・リヲス・アールヴ。【九魔姫(ナインヘル)】の二つ名を持つ、第一冒険者でありエルフの王女でもある。その二つ名の由来となったのが、九つの魔法を操る階位魔法。

 

攻撃、回復、防御。それぞれ三段階の威力、効果があり、普通ならば三つの魔法が限界なのだが、その理を破った初めての魔導士。

 

そして目の前のハーフエルフも、そのリヴェリアの魔法と同じ階位魔法。リヴェリアが攻撃、回復、防御なのに対して、エイナは支援(バフ)

 

そもそも支援魔導士自体が珍しい。その上、リヴェリアと同じ階位魔法を持っていることから、その才能は類い稀なるものだ。

 

「それでは魔導士について話していきます。まず、攻撃魔法を発現している魔導士と支援魔法の魔導士とでは動きが全く違います」

 

「どう違うのでしょうか?」

 

「まず攻撃魔法を持った魔導士ですが、前衛がいなくても戦えます。ですが支援魔法は前衛……つまり仲間がいなければ何も出来ません」

 

 もちろん、どんな魔導士でも前衛というヘイトタンクがいなければ危険だ。だがどんな状況もありえるのがダンジョンで、備えなきゃいけないのが冒険者の仕事。

 

攻撃魔法がある魔導士と違って、支援魔法しか使えない魔導士は仲間への依存度が違う。

 

前衛に守られ、怪物を蹴散らす魔導士と。前衛を強化して、戦う支援魔導士。そのどちらにも利点があり欠点がある。

 

「まずエイナさん、貴方に求められるのは高速詠唱の習得です」

 

「高速詠唱ですか?」

 

「はい、どんな魔導士よりも早く支援を届けなきゃいけない。それが支援魔導士の仕事です。その詠唱の速さで、前衛が怪物に打ち勝てるかが決まります」

 

 高速詠唱。それは高等技術であり、魔導士で一番重要な技術である。

 

「魔力を凪の心で制御して、魔法を全力で編み込む。この技術は簡単には習得できません。まず詠唱に慣れることが必要です」

 

「詠唱に慣れる……あの、リオンさん、それは?」

 

「魔力回復薬です」

 

 リューが取り出したのは、紙袋にパンパンに詰まった精神回復薬。本当はベルとの訓練で使う予定だったのを、持ってきたのだった。

 

「訓練方法は簡単です。ひたすら魔法を使ってもらいます」

 

「ひたすら魔法を?」

 

「はい、まずは歌い慣れてもらいます」

 

 そうして始まったリューのスパルタ修行。リューの言葉通り訓練自体は簡単だった。ただ詠唱して魔法を放つだけなら。

 

「【マギガ・リルガ】」

 

「はい、次は第三階位を」

 

「っ……【偉大なる王血()よ、導き賜え】」

 

 第一階位から順に第三階位までを延々と魔法を使う。もしも精神枯渇が起きるようなら、精神回復薬を使って精神力を回復させて再開。休憩なし、情けなし、そんな無慈悲な訓練にエイナは涙目になった。

 

「魔力制御をもっと意識しなさい。魔力暴発で動けなくなれば、前衛を殺すことになります」

 

「っ、はい!」

 

「詠唱は丁寧に、早さは後からついてきます」

 

 ただ途中で挟まれるリューのアドバイス。そのおかげでラグナにもわかるほど、詠唱が上手くなっていく。冒険者になったばかりのエイナには過酷だが、支援魔導士は詠唱を上手くなる他、強くなる方法が僅かしかない。

 

そしてリュー以外に魔導士について詳しい人を知らないため、エイナが助けを求める瞳をしていても、ラグナは心を鬼にして無視した。その訓練は精神回復薬が無くなるまで続いた。

 

 

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