主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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33話 通常探索

 

「【マギガ・リルガ】」

 

 ダンジョン2階層。上層の浅い階層にて、エイナ・チュールの支援魔法が前衛であるラグナに行き渡る。そのままコボルトの群れに突っ込んでいくラグナを見て、リリは拳を握りしめた。

 

【ヘスティア・ファミリア】に新しく入団したハーフエルフのエイナ・チュール。綺麗に整えられたブラウンの髪、宝石のように輝くエメラルドの瞳。そして支援魔法という才能を持っている。

 

(いったいいくつ、恵まれているのですか……)

 

 ラグナから聞く話によれば、エイナは受付嬢だったらしい。ギルドの受付嬢は難関と呼ばれており、就職できれば将来に困ることはないだろう。冒険者なんて職業とは全く違う、危険なんて二文字が一切ない平和な職。

 

それを切り捨てて、彼女は【ヘスティア・ファミリア】に入団したという。その行動をリリは理解できなかった。自ら恵まれた地位を捨てて、冒険者の道を選ぶなんて自殺志願者なのかとも思った。

 

しかし、彼女が冒険者を選んだ理由はきっと……あの少年なのだろう。

 

レベル1で竜殺しを成し遂げた英雄候補。駆け出しとは考えられないほど強い少年は、ただ病気の少女のために突き進んでいる。その姿は見ているだけで焼かれるほど眩しい。

 

「──アーデさん?」

 

「っ……はい、なんでしょうエイナ様」

 

「今日はごめんなさい。急にパーティーに同行して……この階層だと怪物の量も少ないし、稼ぎも減っちゃうよね」

 

 エイナは謝罪をする。迷宮のこと、怪物の知識はあるが、それでも冒険者の経験は補えない。今もラグナに気遣われて、浅い階層で停滞を選んでいる。そんな状況になれば稼ぎも減る。

 

それはサポーターとしては痛手で、エイナとしても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「いえ……ラグナ様と同じ、【ヘスティア・ファミリア】の一員なのですし……パーティーに同行するのは普通のことです」

 

「でも……」

 

「それに今のパーティー状況で下の階層に行けば、傷つくのはラグナ様です。戦えない後衛二人を守りながら、戦闘するなど普通の冒険者では不可能でしょう」

 

 もしも後衛に怪物が向かえば、その時は大惨事になりかねない。しかし、この浅い階層の怪物ならハンドガンで応戦できる。万が一の保険がサポーターのリリ、そんな状況で下の階層に行けるはずがない。

 

やはり白髪の少女がいないと、下の階層には向かえない。あの最凶の魔法を持つ彼女さえいれば、後衛の安全面の問題など全て吹き飛ぶのだから。

 

「アーデさんって……凄いね」

 

「え……?」

 

「パーティーのこと、しっかり考えてて……アーデさんが、ラグナくんたちのサポーターなら安心だね」

 

「っ……」

 

 その言葉はリリが思ってもないもので、思わず顔を伏せる。お金が貯まれば、リリはファミリアを脱退してラグナたちのサポーターを辞める。

 

そうなれば、あの少年はどう思うのだろうか。たった数日、サポーターを務めたリリに対して、何を思ってくれるのだろう。リリにはわからない。

 

リリが知ってる冒険者はサポーターを軽視して、報酬さえ払わないことが大半の野蛮な人間たちだ。だからこそ、お人好しなラグナたちが何を思うのか全くわからない。

 

「リリは大したサポーターじゃないのに……」

 

 小さく、誰にも聞こえない声でリリはつぶやいた。

 

⬛︎

 

「魔力を上げるための修行……?」

 

 ダンジョン4階層。そこでラグナはリューから聞いた修行方法を試すため、仲間の許可を取っていた。

 

「危険だと思いますが、4階層程度なら大丈夫だと思います。万が一があっても、エイナ様の支援魔法がありますし」

 

「……アーデさんがそういうなら、私も反対はないよ」

 

 その二人の言葉を聞いて、ラグナは深呼吸して詠唱の準備に移った。

 

「【白い雪、黒き雪、終わりの(ベル)が鳴る前に。破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の幻想(かげ)。誓いはここに、終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ】」

 

 あとは魔法を完成させるだけ。その魔法完成状態を維持して、ラグナはもう一度呼吸をした。

 

「これを維持して戦うだけ、か」

 

 単純ながらも、危険な魔法行使状態にしたままの戦闘。魔法を発動せずとも、魔力は伸びるし、何より並行詠唱の練習の習得にも大きく貢献したというリューの訓練方法だった。

 

この訓練のいいところは魔力制御を意識しながらの戦闘を行えること。ただ失敗すれば、魔力暴発が起こってしまい、パーティー全滅の危機に陥ることだ。

 

まあ、その時はラグナの耐久とエイナの第一階位の魔法でどうにかなると思うが、リスクは高い。

 

とはいえ【ランクアップ】するには魔力を限界まで上げる必要があるので、この訓練をしない選択肢はなかった。

 

『ヴオオオオ!』

 

 コボルトが数匹、迷宮の壁から産まれてくる。それを見て白色の鞘から聖火剣を抜き去って、そのまま戦闘を始める。

 

「魔力維持しながら、戦うなんて……そんなことできるんだ……」

 

 動かずに魔力制御するのに精一杯のエイナは、風のように動きながら魔力を抑え込むラグナの姿に瞠目する。

 

リリはというと、ダンジョンで魔力の上げる修行をする度胸とストイックさにドン引きする。

 

とはいえ10階層の時も、並行詠唱のような芸当をやっていたので、今回の修行も魔力暴発は起こらないだろうという確信があった。

 

そのリリの確信通り、ラグナは魔力制御に一切の揺らぎが見えない。表情も一切変わらず、今まで通りのパフォーマンスを発揮している。

 

今までと変わらない動きが出来ているのなら、この修行は今後やっても大丈夫だろう。

 

 

⬛︎

 

 

「新しい薬です」

 

 銀髪の少女が小さな瓶と共に部屋に入ってくる。アミッド・テアサナーレ。都市最高の治療師である。その薬を見て白髪の少女、ベルは少し苦い顔をした。

 

「本当に薬なんてできるんですか?」

 

「……貴方の病は『スキル』に変質してしまっています。それを貫通する薬を作るには、普通では相当な時間が掛かるでしょう」

 

「僕にはそんな暇はないんです。……早く、強くならないと」

 

 10階層で使用した【英雄一途(リリアスフレーゼ)】というスキル。階層破壊すら引き起こす、凄まじい威力。あれさえ自由に使えるようになれば、ラグナの隣に立てる。

 

ただ使っただけで失神するほどの反動が来た。おそらくスキル使用による体力の消費、そして【福音】の威力にベル自身の体が耐えられなかったことが大きな要因。

 

その対策には【ランクアップ】して、ベル自身の耐久力を上げる必要がある。

 

「貴方が強さを求める理由はわかっています」

 

「……なら」

 

「ですが発作を抑える薬がなければ、貴方のパーティーメンバーに多大なる負担が掛かることでしょう」

 

「……」

 

 アミッドの言葉にベルは沈黙する。一度、ダンジョンで発作が起きたことがあった。その時は浅い階層のため何とかなったが、現在潜っている10階層などでは霧のせいで、怪物の奇襲が多くなる。

 

そんな場所でベルが動かなくなれば、ベル自身はもちろんサポーターのリリまでもが被害を受けることになる。

 

「普通なら相当な時間が掛かると言いましたが、ディアンケヒト様とミアハ様が二人で製薬しています。どれほど時間が掛かるのかはわかりませんが、そこまで時間は掛からないでしょう。なので、どうか我慢してください」

 

「……はい、すいませんでした。我儘を言って」

 

 そもそも治療院の料金なども負担してもらっている身、こんな我儘を言える立場ではなかった。あの日から焦っているのだろう。ラグナの圧倒的な成長。それに置いていかれないか、ずっと心配なのだ。

 

こうして入院している間にも、彼は下界最速の速度で成長しているのだから。それに万が一。彼の身に何かあれば、ベルは耐えられないだろう。

 

薬を飲んで、アミッドがいなくなりベルは寂しい病室で天井を見上げる。

 

時刻はお昼過ぎ。暖かい日差しが窓から差し込んでいる。ぼーっとしていると、コンコンと扉を戦う音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

「ベル、お見舞いに来た」

 

「ベルちゃん……こんにちは」

 

「ラグナ……とエイナさん?」

 

 ベルの病室に入ってきたのは、黒髪の少年ラグナとギルド受付嬢のエイナだった。しかし、エイナの服装は戦闘衣を身に纏って、眼鏡を外している姿で、ベルは困惑する。

 

「体調はどんな感じだ?」

 

「体調は大丈夫……けど、どうしてエイナさんが?」

 

「ああ、それは……」

 

「ベルちゃん、ごめんね。急な報告なんだけど……私、【ヘスティア・ファミリア】の眷属になったの」

 

「──え?」

 

 思わず低い声が出てしまうほどの情報に、ベルの深紅と灰色の瞳が鋭くなった。たった数日の間にいったい何が起きたというのだろう。

 

「ベルを治療院に連れていったあとに、俺も話を聞いて……」

 

「……エイナさんは、どうして冒険者に」

 

「それは……ラグナくんの【スキル】について聞いたから、かな」

 

 ラグナのスキルといえば、【誓約代償(レギオン)】のことだろう。魂を摩耗する代わりに凄まじい効果を得られる、最悪のスキル。

 

それを聞いて受付嬢を辞めて、冒険者に転職。そんなことあり得るのだろうか。ベルはエイナを観察して……その瞳を昏くした。

 

(あの目は……【剣姫】と同じ)

 

 竜の件で入院したラグナをお見舞いに来た、アイズ・ヴァレンシュタインと同じ瞳。懸念していたことが現実になる。ラグナを狙う女狐が一瞬で背後まで迫っていた。

 

「私、ベルちゃんとラグナくんを支えたくて……」

 

───嘘だ。

 

そんな言葉を吐きそうになり、必死に飲み込む。ここには彼がいる。きっと彼も必要だから、彼女をファミリアに引き入れたのだ。

 

ここで、争ったら、ファミリアの不和を生み出してしまう。だからベルは掌に爪を突き立てて我慢した。

 

「だから、これからよろしくね、ベルちゃん」

 

「はい。よろしくお願いします、エイナさん」

 

 必死に笑顔を作って、ベルはエイナと握手を交わした。

 

 

 

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