主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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風邪引いて、遅くなりました。すいません!


34話 リリルカ・アーデ

 

 ベルのお見舞いを早々に終えて、解散した次の日。今日も空色の瞳をした妖精と訓練を行う音が響き渡る。

 

「……横、甘い!」

 

「ぐっ……!」

 

 今回行われているのは格闘戦。拳と蹴りを交えながら、ラグナは凄まじい攻撃に空いた隙を確実に責められていた。

 

【ステイタス】の差はもちろんある。ベートの動きを模倣した付け焼き刃の格闘の技術の低さ。何よりリューの駆け引きの上手さに翻弄されていた。

 

「【マギア・アルヴィス】!」

 

「──っ!」

 

 第三階位の魔法が発動する。緑光がラグナの全身を包み込み、全能力を向上させて、五感までもを強化する。その効果を使って、今度はラグナが猛攻を繰り出す。

 

【ステイタス】的にはレベル2中位ほどの動き。先程の動きとは段違いで、凄まじい緩急にリューは目を剥きながら、攻撃を捌いていく。

 

そして攻撃を捌きながら、反撃までも繰り出すリュー。だが反射能力を上がったラグナは、それをなんとか避けることに成功した。

 

「……やはり、チュールさんの魔法は異常だ」

 

 支援魔法というのは集団戦にて大きな効果を発揮するものだ。例えば階層主という迷宮の守護者との戦い。

 

前衛でヘイトとタンクを担い、魔導士の魔法で戦うというのが階層主との戦いの基本戦術。

 

しかし支援魔法があれば、前衛の集団で階層主を討伐することもできるだろう。特にエイナのような、治癒力の向上。攻撃、速度の強化。全能力の強化に五感の強化。

 

この三つの魔法を扱えると知られれば、どんな【ファミリア】でも喉から手が出るほど欲しくなるだろう。

 

何より恐ろしいのは、まだレベル1であの能力向上なのだ。もし【ランクアップ】などを果たして、魔力の熟練度を上がればさらに能力上昇は予想もできないほど膨大になることは間違いない。

 

──そして、そのエイナすら霞むほどに、目の前の少年にリューは驚いていた。

 

その身体を包んでいるのは黒の魔力。彼は魔力制御を行いながら、格闘戦を行っていた。並行詠唱というわけではない。

 

ただ攻撃を喰らっても一切揺らぎない魔力。何度攻撃を受けようと立ち上がり、攻撃を続ける精神の強さ。

 

最初は魔力暴発の危険性があるため心配だったが、全てが杞憂だった。彼は恐らく遠くないうちに、並行詠唱をマスターできるだろう。

 

都市に来て一ヶ月も満たない駆け出しが、習得できる技術ではない。それを実現しようとしている、その少年は今まで見てきた冒険者の中で最速で突き進んでいる。

 

「もっと、もっと来なさい」

 

「は、はい!」

 

 そんな少年との訓練が楽しく、ついやりすぎてエイナに怒られるリューだった。

 

⬛︎

 

 冒険者が行き交う、噴水広場。都市に来て日が浅い、ラグナにとっても馴染みの場所になっており、端のベンチに二人で腰を下ろしていた。

 

いつも先に待っててくれていたリリがいないことに、少し疑問を抱きながらも二人は簡単な雑談をしながら待っていた。そんな時、一人のヒューマンの冒険者が近づいてくる。

 

「英雄候補様ぁ、初めましてだなぁ?」

 

 中肉中背。いかにもヒューマンの冒険者らしい風貌。雰囲気からも強さは感じられず、だがラグナは白色の鞘に手を触れながら警戒する。

 

「何か用ですか。気に入らないことでも?」

 

「いやぁ、ただ聞いておきたくてな。あのサポーターと組んでんだろ?」

 

「……リリのことなら、組んでますが」

 

「ふ、はははは!あのコソ泥、英雄候補まで狙ってんのかよ!」

 

 男の大笑いにラグナとエイナは顔を顰める。この男は間違いなく、リリに関係のある人物。原作の細部まで覚えていないため、明白ではないが……おそらく最終的にリリを嵌めた人物だろう。

 

そんな人物がどうして接触してきたのかわからず、ラグナはしばらく思考していると、エイナがゆっくりと口を開く。

 

「……あの、コソ泥って」

 

「ああ。俺は親切だから教えてやるよ、あのサポーターは冒険者から金目の物を盗む、クズなんだよ」

 

「っ!」

 

 男の言葉にエイナの肩がビクッと震えた。昨日初めて話し、パーティーを組んでいた仲間。とてもパーティーのことを考えていて、サポーターの仕事を忠実にこなす姿にエイナは尊敬を覚えていた。

 

とても信じられないと拳を握りしめるエイナ。そして異常に気づく。コソ泥などと仲間を貶められたら、真っ先に怒るであろう少年が沈黙を貫いている。その状況にエイナはもしかしたらと、不安を煽られる。

 

「それで、本当に何の用ですか」

 

「まあ、提案をしたくてな……あのサポーターを嵌めねえか?」

 

「嵌めるって」

 

「あのサポーターは逃げ足が早い。だから逃げられねえようにダンジョンに誘き寄せてくれるだけでいい。あとは俺がやるからよぉ」

 

「そ、そんなこと……!」

 

 男のニヤニヤとした表情にエイナは怒りに震える。リリが盗みをしていたなら、憲兵などに報告するのも一つの手のはずなのに、ダンジョンに誘き寄せることは一つしかない。

 

全てを奪うつもりだとエイナは悟った。ダンジョンで事件が起こっても全てが怪物の仕業で事が進む。

 

サポーターの彼女がダンジョンで捕まれば、その末路は想像に易い。

 

「もちろん、金は山分けでいい。お前らも盗みを働いている、サポーターなんて雇いたくねえだろ」

 

「断る」

 

「なんだと?正気かてめえ」

 

「もうリリは俺たちのパーティーに欠かせない大事な仲間だ。もしも今後、リリに手を出してくるなら許さない」

 

「……脅してんのか」

 

「なんとでも受け取ればいい」

 

 今のラグナなら、たとえ仲間を引き連れて来ようとも負けることはない。絶対な自信を覗かせる少年に、ヒューマンの男は舌打ちをしたあと、ラグナたちの前から去っていく。

 

「……ラグナ、様?」

 

「リリ?」

 

 その男と入れ替わるようにして、サポーターの少女リリが姿を見せる。その表情は暗く、何か迷っているようで。もしかしたら聞かれていたかもしれない。それなら後回しにすることは良くないとラグナは思って口を開く。

 

「……あの男にリリが泥棒だって言われた」

 

「っ!」

 

「正直にいえば、俺はリリが盗みをしていても、してなくてもどちらでもいいと思ってる」

 

 彼女の事情は原作知識から知っている。劣悪な環境、冒険者への憎悪。盗みは悪いことだが、彼女は断罪されるほどの罪を犯してはいない。

 

「少し、話をしないかリリ」

 

「……はい」

 

⬛︎

 

 ダンジョン探索は中止して、三人は【ヘスティア・ファミリア】の教会で集まった。ここなら他の誰かに見られることも聞かれる心配もない。

 

「盗みをしたのは……本当なのか」

 

「……はい。リリは冒険者から金銭や武具を盗みました」

 

「アーデさん……どうして?」

 

「……復讐と金目当てです」

 

 冒険者に恨みを持ったのはいつだっただろう。サポーターとして搾取をされて、利用されて、冒険者と関わってよかったことなどなかった。物心が付けば、すぐに金を稼げと両親に言われ、地獄のような生活を過ごした。

 

気づけば両親は無謀な探索で死んで、リリは一人ぼっちになった。その後、神酒を飲んで、自身を見失い、金の亡者と化してサポーターの仕事を学んだ。

 

大半の冒険者は小さく見窄らしいリリを見て、見下し馬鹿にする。それだけじゃなく、報酬すら支払われないことが多かった。

 

復讐したい。そう思っても小人族の力じゃ絶対に敵わない。だから何もできずに必死に耐える日々だった。

 

だが魔法が発現して、リリはついに復讐の手段を手に入れた。

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

「耳が消えた……?」

 

 生えていた猫耳が消えたことに瞠目する。変身魔法という冒険者が発現するには、なかなかない魔法の種類。これがあれば長年の盗みをしていても、バレることはないかもしれない。

 

「……リリは、この力を使って盗みを働きました。それに加えてラグナ様の武器も盗もうと企んでいました」

 

 言葉を震わせながら、リリは罪を告白する。その姿にエイナは口元に手を当てて、沈黙する。ラグナは静かに、話を聞いていた。

 

「あの男はリリのことを知って、追っているということは、その魔法がバレたのか?」

 

「……魔法を解除しているところを見られてしまって」

 

「なるほど。ならあの男はずっと追ってくるだろうな」

 

 きっとどんな手段を使ってでも、リリを追ってくるだろう。それを想像してラグナは溜息を堪える。

 

「……あの、失望しないんですか?」

 

「どうして?」

 

「どうしてって、リリは盗みをしていた犯罪者なんですよ!?そんなリリに嫌悪を抱かないはずがないです!」

 

 心に溜めていた言葉を吐き出すリリ。仲間の武器すら狙っていたクズに罵倒の一つをぶつけるのは当たり前だ。

 

「嫌悪なんて全く湧かない。それほど追い込まれていた理由も話してくれたし……何より大切な仲間を傷つけたりはしない」

 

「大切な仲間……」

 

 どうして嫌悪してくれない。どうして罵倒してくれない。犯罪を犯した人間をパーティーに置いていても、良いことは何もないだろう。それなのに大切な仲間なんて、どれだけお人好しなのだろう。

 

「リリが自分のことを許せないとしても、俺は許すよ。たとえ世界中の人間がリリを嫌ったとしても、俺だけは味方でいてやれる」

 

「どうして……たった数日、パーティーを組んだだけなのに!」

 

「たった数日。それでも俺を助けてくれたことに変わりはないだろう?」

 

「そんなの……」

 

 黒髪の少年の笑みを見て、リリは呆然と立ち尽くす。ずっと考えていた。もし自身のやったことを告白したら、目の前の少年はどんな反応をするだろうと。

 

味方なんてしてくれるはずがない。そう思い込んでいた。きっと嫌われるだけだと考えていた。

 

でも少年はこうして、前と変わらない反応でリリの味方になると言ってくれた。それが夢のように嬉しくて、リリは心臓を大きく鳴らした。

 

「それでリリはどうしたい?」

 

「ど、どうしたい……とは」

 

「【ファミリア】を脱退したあとのことだ」

 

「……リリは、冒険者を辞めたいです」

 

「そっか。【ソーマ・ファミリア】って脱退にお金が掛かるんだよな?」

 

「……はい。脱退には膨大な金額が必要です」

 

「なら今すぐ脱退しよう。そして都市の外に逃げた方がいい」

 

「え?」

 

 リリの力は欲しい。サポーターとしての力はもちろん。今後パーティーの指揮官を担当できる潜在能力。パーティーの相性までもがいい。

 

だが無理矢理【ヘスティア・ファミリア】に入団させるわけにはいかない。彼女自身が冒険者を辞めて、自由に過ごしたいというなら、その意思を尊重したい。

 

今すぐ脱退するのは、あのヒューマンがリリを狙っているからだ。脱退して都市の外に逃げれば、追うことは出来なくなる。

 

「金なら、アテがある。正直頼りたくはないが……」

 

「なんで、そこまで……」

 

「なんでって……リリには幸せになってほしいからな」

 

「────」

 

 白髪の少年がいないこの世界で、サポーターの少女が幸福になれるかわからない。そのため最低限の責任は果たすべきだとラグナは考えていた。

 

そしてリリはラグナの言葉に衝撃を受けて凍りついていた。幸せになってほしい。そんなことを願ってくれる人は今までいなかった。

 

嬉しい。そして、そんな少年と別れることになる。それがどうしようもなく怖かった。

 

もし冒険者を辞めて、リリに幸福を願ってくれる人間は現れるのだろうか。小人族で弱者の自分を求めてくれる人は、目の前の少年以外にいるのか。

 

「……ラグナ様は、リリがいなくなった後はどうするのでしょう」

 

「変わらないよ。今よりもっと強くなって、最深層を目指す。──何を代償にしても、辿り着く」

 

「その目標に、リリは必要ですか?」

 

「……ああ。……必要だ」

 

 必要。その言葉はリリを縛りつける鎖になるのではと思い、なかなか口に出せなかった。

 

「──リリは冒険者が嫌いです」

 

「うん」

 

「でも、ラグナ様とベル様とする冒険は楽しかった……!リリは……リリの幸福はあなたと共にある」

 

 涙を流しながら、リリはラグナの手を握った。

 

「リリをあなたの隣に置かせてください!」

 

 その顔は今までにない明るい表情で、希望に満ち足りていた。

 

「本当にいいのか?俺と一緒に歩むということは……」

 

「わかっています。都市の外に逃げてた方が良かった。そう後悔するほど過酷なのでしょう。でも、いいんです。ラグナ様と共に歩めるなら……」

 

 その過酷も。痛みも。苦しみも。全てを共に歩めるなら、リリはどんなことも出来るような気がした。

 

「なら……リリ」

 

「はい!」

 

「これから、俺のことを、俺たちのことをサポートしてほしい」

 

「──はい!リリは、ラグナ様たちのことを、精一杯支えます!」

 

 その少女の笑顔にラグナは安堵して、小さな手を優しく握った。

 

 

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