主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
オレンジ色の太陽が光り輝く時間帯。教会からリリと共に都市を歩きながら、話をする。
「本当に、付いてきてくれるのですか?」
「ああ。リリをファミリアに誘ったのは俺だし……同伴させてくれ」
はっきり言って【ソーマ・ファミリア】は危険だ。金の亡者の集まりで、神酒に溺れる冒険者の集まり。リリが脱退すると申しても、簡単に許してくれるのかわからない。
それに【ヘスティア・ファミリア】の団長は一応ラグナである。その責任を果たすためにも、同行は元から決めていた。
念の為『聖火剣』は腰に差して、脱退のための資金も既に準備済み。あとは【ソーマ・ファミリア】に向かうだけだった。
リリの案内で、歩くこと数十分。ダイダロス通りの近く。そこに存在する酒蔵に到着した。
ホームとは別に保有している酒蔵。ここを主に拠点としているのが【ソーマ・ファミリア】らしい。
「警備は厳重だな……」
【ソーマ・ファミリア】の命とも言える、酒を保管して、製造している場所だから当たり前だが、その警備は厳重だ。
門の周りには大勢の冒険者が睨みを利かせており、戦闘になれば非常に面倒臭そうだ。
しかも、外だけでこれなのだ。中にはもっと多くの冒険者が存在していることは間違いない。数だけでいったら、中堅以上だろう。
「リリ、脱退の申し込みはどうするんだ?」
「まずソーマ様にお会いする必要があるのですが……そのためには団長であるザニス様に掛け合わなければなりません」
リリは暗い表情で話す。主神であるソーマは酒のこと以外は興味がなく、自分の眷属であっても例外ではない。
そんな主神と会って話したことは数回程度。本当ならば直接、主神とやり取りをすべきだが、一度団長を経由しなければならない。
そのことを聞いて、ラグナはますます面倒くさいことになりそうだと溜息を吐きそうになった。
「……行くか」
「は、はい」
フードを深く被り、リリの後ろを歩くラグナ。門番に【ソーマ・ファミリア】の盃のエンブレムを見せる。眷属の証である、それは門に入るための唯一の切符である。
「……入れ」
「……ザニス様は、今どこに?」
お金の入った袋を見せて、リリは取引を行う。それを受け取った門番は中身を確認してニヤリと笑った。
「地下牢。先程、酒に酔いすぎた眷属を連れていったところだ」
「……ありがとうございます」
リリのおかげで、門の問題と団長の居場所の問題は解決。そのままリリの案内で地下に向かっていく。
深く暗い階段。降りた先は鉄格子がある、地下牢。中には頑丈そうな鎖が掛かっており、酒造りのファミリアには普通はないだろう、異常な場所にラグナは瞠目する。
道中、地下牢を守るドワーフがいたりと警備もなかなか厳重のようだった。しばらく歩くと椅子に座る男を見つける。
「っ……ザニス様」
「アーデと……お前は英雄候補か?いったいどういう組み合わせだ?」
種族はヒューマン。眼鏡を掛けた細身の男、ザニスは黒髪の少年を見て目を丸くする。
レベル1でインファントドラゴンを討ち取った、都市を騒がせている英雄候補。そんな有名人がどうして、小人族のサポーターと共にいるのかわからずしばらく沈黙する。
「ザニス様……脱退資金を貯めました」
「ほう……どれどれ」
リリが渡した大袋。そこにはリリがこれまで貯めていたお金と、美神フレイヤから受け取ったお金が入っている。
2000万ヴァリス。上等な武器防具が買える値段で、なんなら本拠まで購入することができるほどの莫大な金額。
それを確認した男は驚くと同時にニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「確かに、脱退に必要な金は揃ってるなぁ」
「なら……」
「だが、ソーマ様は忙しい。アーデが正式に脱退できるのはいつになるか……」
「そんな!?」
やはり面倒くさいことになった。【ソーマ・ファミリア】の団長ということもあって、その欲は底を知れない。おそらくリリが二千万ヴァリスという大金を持ってきたことで、まだ搾り尽くせるとでも考えているのだろう。
「しかし、ファミリアを脱退してどうするつもりだ?まさか、英雄候補と同じファミリアに
「……そうです、リリは【ヘスティア・ファミリア】の一員になりたい!だから、ソーマ様と今すぐ会わせてください!」
「はは、ははははは!こんなサポーターを欲しがるファミリアがいるとは!面白い、いいぞ条件を出そうじゃないか」
ザニスは白い瓶を取り出した。ラグナはなんだと警戒して、リリはそれを見て背筋を凍らせた。
『神酒』。【ソーマ・ファミリア】の眷属たちを例外なく酔わせ、狂わせた最悪の酒。それが杯に注がれて、黒髪の少年に差し出される。
「これを飲んでくれれば、ソーマ様に会わせてやる。簡単な条件だろう?」
「──だめです!ラグナ様、それを飲んでは……!?」
「飲めば、本当に神ソーマに会わせてくれるのか?」
「ああ、約束するよ」
嘘くさい作り物の笑み。それを見てラグナは溜息を吐いて、杯に入った酒を眺める。
今まで見てきたどんな酒よりも芳醇な匂い。これを飲んであらゆる冒険者が狂ったのかと、目を細めラグナは一気に飲み干した。
「……っ」
「はは、飲んだな……これで、英雄候補は俺の支配下……!」
金を稼げそうな冒険者。地位を持った冒険者。ザニスが利用できると思った冒険者には、くすねた神酒を使って支配下に置いていた。
酒欲しさに冒険者は金を持ってきて、そしていつしか【ソーマ・ファミリア】の一員となる。その酒の魔力にはどんな冒険者であろうと抗えない。
そう、抗えないはずだった。
「誰が支配下だって?」
「───あ?」
頬を赤くした黒髪の少年の姿にザニスは限界まで目を見開く。ラグナは顔こそ赤くしているが、酩酊している様子はなかった。普通の冒険者ならば獣のように次の酒を強請り、暴れるというのに。
まさか飲んでいないのかと思ったが、杯は空っぽ。つまり神酒を飲んで耐えたとでもいうのか。
「女神の魅了に比べれば……全然だな。それで、早く神ソーマに会わせてくれよ、約束しただろ?」
「……は、ははははは。──チャンドラ、侵入者だ!増援を呼んで囲め!」
「ザニス様!?ど、どういうことですか!?」
「うるせえ!神酒を飲んで耐え切ったのは褒めてやる。だが地下牢に捕え、酒を飲ませればお前も俺の下に付くさ!」
下衆。そうとしかいいようがない男の言葉。何より怪物のような醜悪な顔にラグナは嫌悪を抱いた。しかし、時間はない。この場所で冒険者に囲まれれば、危険極まりない。
「リリ!」
「ら、ラグナ様!?」
隣のリリを横抱きにして、階段を駆け上がる。そのまま大広場まで走って、ラグナはその光景を見て笑った。
「多すぎるな……」
「奴は英雄候補だ。数で囲んで捕まえろ」
跡を追ってきたザニスが静かに命令を下す。ラグナが白色の鞘から聖火剣を抜き去り、全方位を警戒する。
「ザニス。そこまでして、お前は何がしたい?」
「ふふ、そんなの決まってる。全てだ。金も地位も酒も女も、あらゆる快楽は俺のために存在する!」
「──なるほど。話しても意味がないことがわかって安心した」
数は五十を超える。レベル1がほとんどで、数人レベル2が混ざっている程度。リリが震えながら、ラグナの裾を引っ張る。
「に、逃げてください……ラグナ様」
この数相手じゃ、いくらラグナであっても敵わない。捕まったらリリが味わったような地獄が、彼に降りかかる。それだけはだめだ。それだけは許してはいけない。
自分を助けてくれた人を。守ってくれた人を。幸せを願ってくれた人を。ここで失くしたくはない。
「リリ。これから歩む仲間として聞いてほしい。俺はどんなことがあっても仲間を見捨てることはない。たとえ、それが強大な敵を前にしても、屈することはありえない」
「……でも、でも!」
「──俺を信じろ」
「っ!」
「これからたくさん強敵と戦うことになる。誰もが諦めてしまうような敵と対峙した時でも、俺が勝つと信じて欲しい」
その少年の言葉にリリは震えた。そして裾から手を離して、顔を上げた。
「信じます。リリは、ラグナ様を信じます!」
「──最後の話は終わりか?」
「ああ。お前のことだから、会話の途中に襲ってくるかと思ったが……意外と気が遣えるんだな?」
「ははは……──やれ!」
『おおおおおおおおおお!』
雪崩れ込んでくる冒険者。全方位からの襲撃に普通のレベル1なら、そこでリンチにされて終わる。
「なっ!?」
しかし、連携がない集団の攻撃なら簡単に弾き飛ばせる。一人を力で吹き飛ばし、退路を開く。そのままラグナはリリを連れて退路を走った。
「リリ、離れてほしい」
「……はい!」
それは逃走ではなく、リリを逃すための一手。これから使う切り札は威力が強大すぎるあまり、サポーターの少女ですら傷つけてしまうから。
リリは何もできない自分が嫌になりながらも、彼を助けることができるであろうハーフエルフの元に向かう。
彼なら大丈夫だと、心から信じて走り出した。
「逃したかと思って、ヒヤヒヤしたぜ。やっぱり、英雄候補……普通じゃねえな」
「──こんな冒険者とも呼べない連中に逃げるかよ」
【ステイタス】に振り回されて、駆け引きなんて知らない冒険者。強固な意思も、願いも何も持たない欲望だけの冒険者に、少年は負ける気がしなかった。
「【白い雪、黒き終焉、終わりの
「魔法……!止めろぉ!」
『おおおおおおおおおおお!』
漆黒の魔力が展開されて、ザニスは眷属たちに命令を下す。真正面からの突撃にラグナは華麗に躱し、弾き、完璧に防御する。
ザニスは焦る。あの魔法がきっとインファントドラゴンを倒したものだと思ったからである。そんな魔法を放たれれば、もしかしたら敗北もありうる。それだけは避けなければと、ザニス自身も矢面に立つ。
レベル2のザニス。その攻撃はレベル1からすれば苛烈極まりない。だがラグナは淡々と防御して、余裕の表情だった。
「【破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の
「っ……魔剣!」
「うおおおおおお!」
それでも止められないと悟ったザニスが魔剣の使用を許可した。格上すら倒すことができる、強力な魔剣が放たれる。属性は炎で、ラグナの肌を焼き焦がし、服すら燃やす威力。
「当たった!」
それにザニスは勝利を確信する。魔剣の威力は絶大、レベル1の耐久では到底耐えられまい。そう思ったが黒髪の少年は倒れない。それどころか魔力すら維持したままだった。
「【誓いはここに、
「や、やめろ……!」
「──【ケラノウス】!」
肌を焼いた炎。それを遥かに凌駕した雷が全身から鳴り響いた。痛い、痛い、痛い。内側を焼き尽くす雷が暴れ回り、臓腑を痛めつける。
「な、なんなんだ、この雷はぁぁぁぁぁ!?」
少年の全身を包み込む付与魔法。その威力は離れていた眷属すら吹き飛ばすほどだった。まるで攻撃魔法のような威力にザニスは驚き、そして恐れた。
雷鳴が鳴り続ける。その音が耳朶に張り付いて、離れない。逃げようにも腰が抜けてしまい、逃げることはできない。
「ま、魔剣を撃てぇ!」
「し、死ねぇぇ!」
氷の魔剣が放たれる。その氷は少年に突き刺さったかのように思えた。だが雷の威力で相殺。次々と放たれる魔剣、しかし全てを相殺していく圧倒的な雷。
「──終わりか?なら、こっちも終わらせる」
「ぐああああああああ!!?」
剣を鞘に戻したラグナは走った。徒手格闘で、一瞬で眷属たちを撃破していくラグナ。50以上いた眷属はあっという間に失神した。最後に残ったザニスは失禁しながら、口を開く。
「な、なぁ……頼む、見逃してくれ」
「──多分だけど、お前の欲は痛い目を見ても収まらないんだろう。だからトラウマになるぐらいには、喰らってもらう」
「じょ、冗談だろ……!?」
ラグナは雷を掌に集めて、男の頭を握り、そのまま雷を流し始めた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「──今後、リリに関わったら、これ以上の雷を喰らわせる。いや、違うな……悪事を働けば、いつでもどこにいても、この雷がお前を追う」
「わ、わかりました……悪事はしないから……!もう、雷はやめてくれ!」
「そうか……じゃあ、最後にもう少しだけ」
「う、うああああああああ!!?」
雷の出力を上げて、男を気絶させる。レベル2であっても、【ケラノウス】の威力には耐えられない。
そしてラグナも壮絶な痛みに膝を突く。魔剣を喰らった痛みとは比にならない、内側を破壊される痛み。それを味わい尽くしたラグナはゆっくりと気を失った。