主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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39話 器の昇華

 

 洗礼から翌日の早朝。泥のように眠って全快したラグナはベッドにて背中を晒していた。

 

故郷で磨き上げた筋肉は美しく、その背中に見惚れつつ、ヘスティアは自身の指に針を刺して、垂れる血を落とした。

 

始まるステイタス更新。前回の飛躍から更新は一度もしておらず、その上昇量は想像もできない。なのでヘスティアは覚悟を持ってステイタス更新に挑む。

 

「──覚悟はしていたけど……これは」

 

 ヘスティアは呆然とつぶやいた。そして用紙に共通語で翻訳して書いていく。その用紙を受け取ったラグナは目を見開いた。

 

『ラグナ』

Lv1

力  B:731→SSS:1260

耐久 S:937→SSS:1467

器用 B713→SSS:1135

敏捷 B759→SSS:1286

魔力 F316→SS:1004

『魔法』 【ケラノウス】

     ・詠唱式『白い雪、黒き終焉、終わりの(べる)が鳴る前に。破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の幻想(かげ)。誓いはここに、終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ』

     ・付与魔法。

     ・雷属性。

     ・全能力(アビリティ)を魔法威力に変換。

『スキル』【誓約代償(レギオン)

     ・特殊条件達成時、任意発動。

     ・使用時、魂の摩耗。

     ・全能力の倍補正。

     ・感覚の超強化。

     ・肉体損傷自動回復。

     【終末戦炎(ラグナロク)

     ・戦闘時、獲得経験値増幅。

     ・格上撃破時、獲得経験値大幅上昇。

     ・経験値限界獲得による、能力限界突破。

 

 前回と同じような上がり幅なのはもちろん。それだけじゃなく全てのステイタスが限界突破しており、SSや SSSなどヘスティアが知らない能力値と化している。

 

それほど能力が上昇したのはダンジョン探索、【ソーマ・ファミリア】との戦い、そして洗礼が大きな理由なのだろう。

 

特に【ソーマ・ファミリア】の戦いでは、格上であるレベル2の撃破まで成し遂げている。

 

【終末戦炎】の効果である格上撃破による大幅経験値増加。その効果も発揮した結果がこれなのだろう。

 

納得はしたが、それでも目を逸らしたくなるほどの成長率にヘスティアは頬を引き攣らせた。

 

「スキルの発現はなし……熟練度もそろそろ限界だけど。どうする?」

 

「そうですね……欲をいえば魔力もSSSまで伸ばしたかったですけど、【ランクアップ】します」

 

 既に【ランクアップ】に必要な偉業は成し遂げられている。第一級冒険者との訓練、竜の討伐、洗礼など上質な経験値はこれでもかというほど獲得していた。

 

「一応発展アビリティが二つ発現できるみたいだね」

 

「発展アビリティですか」

 

 ステイタスの重要な項目の一つ、発展アビリティ。有名なのはベルの幸運や冒険者に必須と言われている耐異常など、有用なものばかりだ。

 

「まず一つ目が魔防だけど……」

 

「魔防!」

 

 ヘスティアの言葉にラグナが歓喜の声を教会に響かせる。無理もない、魔防というのは魔法による攻撃への耐性を得るものだ。

 

つまり【ケラノウス】の痛みを軽減できる可能性がある。それはラグナにとって喉から手が出るほど欲しかったものだ。

 

フレイヤから、それがどこまで機能するかわからないと言われたが、それでも痛みが軽減できる可能性があるなら、それを選びたい。

 

ヘスティアは続いて口を開いた。

 

「二つ目が『不屈』ってものなんだけど」

 

「不屈、ですか……?」

 

 聞いたことがない発展アビリティに首を傾げる。レベル1からレベル2に【ランクアップ】する際に得られる発展アビリティは限られている。

 

エイナとの勉強でも、発展アビリティに関しては色々と伝授されている。その中に不屈は見たことがない。だとしたら新しい発展アビリティなのだろう。

 

「効果の考察としては精神系のものに対する抵抗付与。状態異常も弾くことができるみたい」

 

 ヘスティアの考察を聞いて顎に手を当てて考える。まず一番気になったのが精神抵抗とは、どこまで効果を発揮してくれるのかだった。

 

精神系の攻撃といったら一番に挙げられるのが魅了である。怪物にも魅了を使う種類もいるが、ラグナが一番気になっているのはフレイヤの力。

 

あのレベルに抵抗できるなら、迷わず『不屈』を取るのだが……発展アビリティに期待を掛けすぎだろうか。

 

「ヘスティア様はどう思います?」

 

「うーん、ボクは不屈だと思うな。精神抵抗は効果を発揮する場面が少ないかもしれないけど、状態異常も弾いてくれるならダンジョンで多く作用してくれそうだし」

 

「……そうですよね」

 

 ダンジョンという罠の宝庫で状態異常に関する防御策はいくらあってもいい。

 

似たような効果として耐異常もあって、それも獲得できれば異常状態に関する憂いは無くなるといっていいだろう。

 

そのため不屈の有用性は理解した。だが魔防を手放すことに惜しさを感じている。

 

ここを逃したら次の【ランクアップ】まで、またしても雷の痛みを耐えなければならない。

 

そのことを考えるだけでうんざりするし、なんならレベル2になったことで雷の威力は上がっていく。

 

早めに獲得して、発展アビリティを成長させなければ魔防でさえ意味を無くしそうだ。

 

唸り声を上げること数分、ラグナは決心したように顔を上げた。

 

「……『不屈』にします」

 

「わかったよ。本当に不屈でいいんだね?」

 

「はい。お願いします!」

 

 魔防を選んで効果が全くなかったら、最悪なので確実に役に立つだろう『不屈』を選択した。

 

【ケラノウス】の痛みは仕方ない。そういうものだとして受け入れるしかないだろう。

 

そんなラグナの言葉に頷いたヘスティアはもう一度、背中に触れて儀式を行った。

 

「よし、これでレベル2だ。──おめでとう、ラグナくん」

 

「ありがとうございます!」

 

『ラグナ』

Lv2

力 I0

耐久I0

器用I0

敏捷I0

魔力I0

不屈I

『魔法』 【ケラノウス】

『スキル』【誓約代償(レギオン)

     【終末戦炎(ラグナロク)

 

⬛︎

 

「「──ランクアップ〜!?」」

 

 エイナとリリの絶叫が噴水広場に響き渡った。周りの視線がこっちに向いて二人は慌てて口を塞ぐが、もう手遅れだった。

 

「……ぼ、冒険者になって……二週間ぐらいだよね!?」

 

「は、はい。そうですけど」

 

「記録更新どころじゃないですよ……!?」

 

 レベル1からレベル2までの【ランクアップ】最速はアイズ・ヴァレンシュタインが持つ一年という記録。

 

それを大きく更新した団長に対して二人は戦慄する。そして同時に危機感も抱き始めた。

 

そんな最速記録を樹立した冒険者なんて、女性からも神からも狙われたっておかしくない。特にラグナは眉目秀麗で、性格まで良いときた。

 

彼目当てで冒険者を希望するものが現れたとて不思議じゃないだろう。

 

とはいえファミリアの増強に新しい団員は必要不可欠。何より少年の目標のためにも団員の多さはそのまま力に直結する。なので、受け入れるしかないという結論にはなるのだが。

 

「ここまで早く【ランクアップ】出来たのも、俺に発現した【スキル】が理由なんだ」

 

「【スキル】ですか」

 

「ああ。人がいるところじゃ話せないけど……」

 

 ラグナの言葉に二人は納得しそうになったが【スキル】の影響とはいえ、二週間の【ランクアップ】はおかしい。

 

それはあまりにも強く、冒険者が喉から欲しがるような『希少技能(レアスキル)』だ。仮に神がこのことを知ればチートと揶揄してもおかしくはないほどだ。

 

「……散々驚いたけど、おめでとうラグナくん」

 

「おめでとうございます、ラグナ様」

 

 器の昇華。それはどんな冒険者にとっても記念すべきものだ。その二人の言葉にラグナはありがとうと口にする。

 

「あの、【ランクアップ】ってギルドに報告しないといけないんですよね」

 

「そうだよ。神会(デナトゥス)で二つ名を決めるためにも、世界に冒険者の名前を届ける目的で、ギルドに報告するのが冒険者の義務なの」

 

 他にも冒険者の能力を記録するためでも情報提供は必要といえる。元受付嬢のエイナの解説にラグナはなるほどと頷いて、一つの疑問を浮かべた。

 

「報告って、誰にすれば良いんですか?」

 

「報告なら受付嬢かな。私の同僚だったミィシャにお願いする?」

 

「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

 受付嬢と仲の良いエイナが同行してくれるなら安心である。そんな会話を見て栗色の頭髪の少女が口を開く。

 

「リリもベル様に入団報告しないといけません!」

 

「そうだな、俺も【ランクアップ】したことを言わないといけないし。一緒に行くか」

 

「はい、お願いします!」

 

 まるでエイナに対抗するように約束を取り付けて、リリは微笑を浮かべた。静かな火花が散りそうになるが、ラグナのそろそろ出発しようとの声で歩き始めた。

 

⬛︎

 

 ダンジョン8階層。蟻型の怪物の群れと相対するのは黒髪の少年だった。レベル2と至ったばかりの能力をキラーアントにぶつけるため発走する。

 

抜き放った剣が滑らかに振り下ろされる。風のように早く、吸い寄せられるように正確に魔石を貫く。

 

8階層までに降りる途中で器と肉体のズレを調整したからか、能力に振り回されることなく最短効率で怪物を殺せている。

 

その姿を栗色の瞳とエメラルドの瞳が見惚れるように見ていた。

 

後衛で戦えないリリたちにも気を配りながらも、十秒足らずで群れを一掃する前衛は最強だった。

 

何よりその身には漆黒の魔力が帯びており、並行詠唱の修行まで行っている。

 

「……うん、問題ないな」

 

 素振りをしながら感触を確かめる。急激に成長すると肉体と器にズレが生じる。

 

ベル・クラネルもよく陥っていたことだが、この症状を失くすには出来るだけ戦いをこなす必要がある。

 

まだ完全には器とのズレは治っていないが、今日中には治るだろう。こうしてパーティーはしばらくダンジョン探索に励んだ。

 

⬛︎

 

「うええええええん、仕事多すぎるよぉ……!」

 

 ピンクの髪を掻き乱しながらギルド受付嬢のミィシャ・フロットは愚痴をこぼした。親友で同僚のエイナ・チュールが冒険者に転職してもうすぐ一週間。

 

勤勉で優秀だったエイナがいなくなった影響は大きく、ミィシャの仕事量は増加した。

 

あの時はカッコつけて、エイナを応援してしまったが、こんなことになるなら泣き叫んで引き止めるべきだったかもしれない。

 

「ダメダメ……エイナを応援するって決めたんだから、泣き言吐かない」

 

 書類の山を見て溜息を吐きながら、ミィシャはまた事務作業に戻った。

 

「ミィシャ!」

 

「……エイナ?」

 

 自分を呼ぶ声にミィシャは昏い瞳で顔を上げる。そこには眼鏡を外して、冒険者らしい戦闘衣(バトルクロス)を身につけたエイナがいた。

 

そしてその隣にはスラリとした長身の黒髪の少年が立っており、改めて整った容姿に目を奪われる。

 

「探索帰り?お疲れ様……」

 

「み、ミィシャこそ……大丈夫?」

 

「──大丈夫じゃないよぉぉ!見て、この書類の山!もう私も冒険者になろうかなぁ!」

 

「お、落ち着いて……ほら、話は相談室で……」

 

 癇癪を起こしたミィシャを立たせて、そのまま相談室に入室、ソファーに座らせる。

 

「……ごめんね、叫んじゃって」

 

「ううん。私の方こそ、ごめん。仕事忙しいかったよね」

 

「忙しいけど……何かあったの?」

 

「すいません、用があるのは俺の方で……」

 

 ミィシャは隣に座るエイナから対面に座るラグナに目を向けた。

 

「初めまして、【ヘスティア・ファミリア】のラグナです」

 

「知ってるよ。君は有名人だもん。私はミィシャ・フロット、エイナの親友だよ。それで、用って何かな?」

 

「あの【ランクアップ】の報告をしたくて……」

 

「【ランクアップ】の報告?えーと、君って最近冒険者になったばかりじゃなかったっけ?」

 

「冒険者になって、二週間ちょっとです」

 

「──えええええええええ!?」

 

 ミィシャの絶叫が響き渡る。前代未聞の下界最速の【ランクアップ】に疲れすぎて見た夢なんじゃないかと頬を抓るが痛い。

 

「……嘘じゃないんだよね?」

 

「はい、信じられないかも知れないんですけど」

 

「いや、信じるよ。だって君はインファントドラゴンだって倒してるんだから。……でも【ランクアップ】かぁ」

 

 間違いなく迷宮都市が騒がしくなる。ただでさえ竜の件で名前が広がった少年の名前が轟くことになるだろう。

 

「よし、報告書作るから、今までの戦った怪物とか教えてほしいな」

 

 羊皮紙にペンを持ってミィシャは準備万端。そのままラグナは怪物との戦いを振り返りながら話していくのだった。

 

 

 

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