主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
冒険者ギルド。新人冒険者からベテラン冒険者まで、絶対に必要とする施設。魔石の換金、新人のサポート、クエストの依頼なんてものもある。
朝から晩まで冒険者が行き交うギルドは、受付の人間も多忙を極める。ハーフエルフの職員、エイナは作業机に置かれた山のような書類に目を遠くする。別にエイナが仕事をサボってたわけではない。これがギルド職員の普通なのだ。
そんな中。見慣れない冒険者が入ってきた。黒髪の少年と、どこかの王女様なのかと見紛うほどの少女。新人なのは明らかだった。
「冒険者ギルドに、ようこそ!」
「あ、すいません。冒険者の手続きって、出来ますか?」
「はい、出来ます。こちらに所属されている【ファミリア】と名前を記入ください」
エイナは丁寧にペンと書類を渡す。数十秒もすれば、描き終わり。その書類を受け取ったエイナは、中身を確認する。
「(ヘスティア・ファミリア……新しく出来たファミリアかな)」
黒髪の少年はラグナ、白髪の少女はベル・クラネル。書類の確認を終えた後、エイナは二人の格好を確認する。
【ファミリア】には、ダンジョンを探索する冒険者以外にも仕事がある。例えば【デメテル・ファミリア】は農業系、【ディアンケヒト・ファミリア】は医療系など。多数に渡る。
オラリオの大半は探索者専門が多い。その理由はなぜかと聞かれれば、一気に名を上げれるからだ。
オラリオで強くなれば、都市外からでも。その名声は轟く。冒険者達はみんな、自分の名前を世界に知らしめたい。そんな欲望を持っている。
そして目の前の少年少女。
エイナは受付嬢として、働いた経験から思った。
────一ヶ月もしないうちに死ぬと。
何人の冒険者も見てきたエイナは、分かってしまう。彼等はダンジョンで呆気なく死ぬ。まず、黒髪の少年ラグナ。背丈は180cmに近いほど、体格は恵まれている。前衛としての仕事は果たせるだろう。
問題は彼女の方だ。ベル・クラネル。病的なほどに肌が白い。それはいっそ恐怖を感じるほどに。背丈も145Cほどだろうか。おそらく見た目通りに体力も多くはない。
ダンジョンは無限に湧き出る怪物を対処をしないといけない。そんな状況で、彼女は戦えるのか。
「君達は、新人だよね?」
「はい、昨日契約を交わしました」
「この後はどうするの。もしかして、ダンジョンに行こうなんて考えてないよね?」
御節介かもしれない。でも少しでも冒険者の生存率を上げたい。冒険者が死ぬことは日常だけど、エイナはそれを許せなかった。そして予想通りだが、少年はダンジョンに行こうとしていたらしい。
「ラグナくん、武器も持っていないのにダンジョンに行くなんて。死にに行くようなもんだからね!?」
「は、はい。すいません」
「武器も、こっちでギルド貸し出し用があるから。着けてきて」
有無も言わさない雰囲気に、ラグナとベルは着いて行った。ギルドに入って、少し奥の場所に木箱が置いてある。中には、雑に武器が並べられている。
剣、斧、槍、弓、盾と。本当に様々な武器に、ラグナは目を光らせる。新人冒険者用の武具は、なかなかに切れ味が良さそうだった。
「何か、武器の経験は?」
「……一応剣が」
意外にもラグナは剣の経験があった。幼少期から鍛えておいて損はないと、ゼウスを説得して教わった。だが、実戦の経験は数回しかない。山にいたゴブリンを、数体討伐したぐらい。
外の怪物に比べて、ダンジョンの怪物のレベルは数段違う。そのため、ラグナの剣は通用するのか少し不安だった。
意外にもゼウスは教えるのが上手かったことを覚えている。神々は力を封印して、一般人と変わらない身体能力のはずだが。ゼウスの技は、まるで芸術を見てるようだった。
「ベルちゃんは、後衛なの?」
「はい、僕の身体じゃ前衛なんて出来ませんから」
「もしかして、魔法使える?」
「まだ使ったことがないので、分からないですけど……多分?」
そのベルの言葉にエイナは瞠目する。魔法種族でもない、人間が魔法を発現させるのは難しい。でも昨日恩恵を授かった、ということは最初から発現していたのだろう。それは凄い才能だとエイナは思った。
もちろん魔法にも種類はあるが、総じて強力な物が多い。攻撃魔法、回復魔法、付与魔法。冒険者にとって魔法とは命綱に等しい。
「あ、そういえば。この剣っていくらぐらいなんですか?」
「確か……15000ヴァリスだったかな?」
「高っ!」
ラグナは手に持っていた、片手剣を見つめ直す。15000ヴァリス。これを稼ぐのに、一体何日必要なのだろう。少しだけ、拳で戦うことも視野に入れながら剣を握る。
悪くない。といっても比較対象が村で作った不細工な木刀だけだ。切れ味はどうなのか、耐久力はあるのか。さまざまな疑問が浮かぶが、それはエイナを、ギルドを信用するしかない。
「あと、ダンジョンについてなんだけど……今から時間あるかな?」
⬛︎
ギルドで俺達は5時間ほど、密室で教えを受けた。エイナさんは優しく丁寧に迷宮のこと、怪物のことについて教えてくれた。正直言って、独学で勉強するよりも何倍もいい。
腰に差した剣を撫でる。これが15000ヴァリスと思うと、なんだか腰が重い。この剣を使って、お金を稼がないと。この武器が壊れてしまえば、俺は拳で戦うことになってしまう。
「ベル、体調はどうだ?」
「大丈夫。恩恵のおかげなのかな?あんまり疲れてないよ」
「そっか、ならダンジョンに行ってみよう。ベルも魔法を試したいだろ?」
俺の言葉にベルは頷き、俺達はダンジョンに向かった。
数分後。俺達は『
ベルは魔法を俺は剣を。後は連携とか怪物の強さとか。確かめることはたくさんある。少しだけ身震いしながら、俺とベルは進んでいった。
少し進んだ先に、ダンジョンの入り口がある。そこには門番が、冒険者達を観察していた。怪しい者がダンジョンに入らないか見張ってるのだろう。
俺とベルも冒険者の人混みに入り、奥に進んでいった。
そこからは長い長い階段が続いている。冒険者は数え切れないほど、階段を降りている。俺とベルは邪魔にならないように、端によりながら降りていく。
ダンジョン一階層。上層と呼ばれる場所に到着した俺は、エイナさんの言葉を思い出す。
『ダンジョンで、一番死者が多いのは上層。怪物の数が多くて、囲まれることも少なくない。いい?ラグナくん。ベルちゃん。ダンジョンでは冒険しないこと!』
原作のベルくんにも口酸っぱく伝えてた言葉。実際、間違っていないと思う。でも強くなるためには、冒険を冒す必要があることも事実。
といっても、上層で死にかけたら深層なんて夢のまた夢。
『──ガアアアアアア!!』
壁から生まれ落ちる怪物。角が生えた小鬼、その姿は小さい頃討伐したことのあるゴブリンだ。ダンジョンでも最弱の怪物は、俺達の姿を視認すると接近してくる。
とはいえ、そこまで早くはない。落ち着いて対処すれば簡単に倒せる。抜剣して、敵の攻撃に構えた瞬間。ベルは枝のように細い腕を伸ばす。そして一言だけ発声した。
「【
その瞬間。空気は歪み、音の速度で怪物を貫通した。怪物の断末魔を掻き消すほどの、音響がダンジョン内に響き渡る。そのすぐ後に怪物の身体は灰と化した。
その灰の中には、毒々しいほどの紫色の石。『魔石』が落ちていた。豆粒のように小さいが、これでも売ることが出来る。
「これが、僕の魔法……?」
ベルは自分の手をまじまじと眺めて呟いた。驚くのも無理はないだろう。自分の魔法が、怪物を一撃で破壊したのだから。そういう俺も驚いている、実際に目の前で放たれた魔法。
こんなの人に放ったら……そう考えると背筋が凍りそうだ。
「ラグナ!これなら、戦える。ラグナを守れるよ!」
「あ、あぁそうだな……」
そんなにゴブリンを倒したことが嬉しいのか、それとも魔法が強くて興奮しているのか。ベルは満面の笑みだ。
ベルが落ち着いた頃、俺達は今日使った金銭を取り戻すために先に進んだ。
しばらく進むと、そこには狼のような怪物がいた。
『グウゥゥゥ!!』
どこか犬のような唸り声を上げるコボルト。俺とコボルトは睨み合う。次の瞬間、俺は走り出した。人狼のような見た目の怪物、相手の武器は爪と鋭い牙。爺さんとの訓練を思い出しながら、俺は剣を振り下ろした。
肉を両断する感触。それを感じていたらコボルトは灰になる。初めての戦闘に、大きく息を吐く。こんなコボルト相手に苦戦するようじゃ、この先が思いやられるからな。なんとか余裕で勝つことが出来た。
だが、しかし。怪物の本当の脅威は物量だ。あのコボルトが2体、3体となると苦戦もする。まあ、ベルは別だろうが。そう思いながらベルの方を確認する。
「──ベル!?」
ベルは肩で息をしていた。心臓を押さえて、咳を繰り返す。何度も発作を見てきた俺は、すぐさまベルを横抱きに揺れないように走った。
無我夢中で、階段を登り、街を駆ける。恩恵をもらったため、思ったよりも早くホームに到着した。
ベッドにベルを寝かせて、薬を飲ませる。意識が朦朧としているのだろう。俺の服を握り締めて離さない。
「───ごめんなさい……ごめんなさい」
謝罪を繰り返すベル。何に謝ってるのかわからないが、ゆっくりと背中をさする。数分後経つと、ヘスティア様が階段を降りてきた。
「ベルくん!?ラグナくん、何があったんだい?」
「ダンジョンで、急に発作が出てしまって……」
「大丈夫なのかい!?」
「多分……大丈夫だと思います」
「……少し待っててくれ!」
ヘスティア様は、焦ったように階段を登る。俺はそれを尻目に、ベルの手を握り続けた。
⬛︎
小規模な薬屋『青の薬舗』。そこには青い髪色の神ミアハが、薬を調合していた。なんてことのない普通の回復薬を作っていると。突然に扉が開かれた。
「なんだ、ヘスティアか。どうかしたのか?」
黒髪のツインテールを揺らし、息をする女神ヘスティア。その焦った姿に、ミアハは訝しむ。何か良くないことでも起きたのだろう、話を聞こうとする。
「──ボクの、ボクの眷属を見てやってくれ!」
「うむ?どういうことだ」
ミアハはヘスティアには眷属がいないことを知っている。最近出来たのだろうか、それならば自慢してきそうだが。ヘスティアは息を切らしながら、ゆっくり話をする。
昨日契約を交わしたベルという少女が、病気を持っていて。『スキル』に反映されるぐらいの、不治の病ということ。それを聞いたミアハは、まさかと考える。
「わかった、私でよかったら見よう」
「ありがとう、ミアハ!君が居てくれてよかったよ!」
ミアハは一本の回復薬と共に、ヘスティアに着いていった。ミアハの脳裏には、白い雪のような少女が浮かんでいた。
誰よりも世界を恨んでいいのに、誰より笑顔だった少女。ミアハが救えなかった、一人の少女。そんなことありえないと、幻想を振り切る。
ヘスティアに案内されて数十分。苔が生え、罅が入り。なんとも、ホームとはいえない有様だ。
教会内に入り、地下に向かう。そこで、ミアハは息を呑んでしまった。
雪のような白髪。それを腰まで伸ばした美しい少女。ミアハは無意識のうちに呟いていた。
「──メーテリア」
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