主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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インフルエンザ、気をつけよう。


40話 NOハーレム

 

 夕方、冒険者が多く出入りする時間帯。冒険者ギルドの入り口から出てくるのは黒髪の少年ラグナとブラウンの髪のエイナだった。

 

「あ、ラグナ様!」

 

 その二人に駆け寄って声をかけるのは小人族のリリ。手には今日のダンジョン探索の成果を詰めた袋を握り締めている。

 

「ごめん、リリ。待たせちゃったな」

 

「いえ、リリは全然……それより報告は?」

 

「無事……とはいえなかったけど、終わったよ」

 

 【ランクアップ】の報告では自身の戦闘経験を話すのだが、ラグナが話せるものは怪物に関するものぐらいで、出来上がった報告書は不自然だらけの物になってしまった。

 

桃髪の受付嬢のミィシャは頭を抱え、エイナも同情するほど少ない情報。申し訳ない気持ちはいっぱいだが、こればかりはどうしても話せない。

 

まず【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者との訓練。ミノタウロスの件があったとはいえ、他派閥の駆け出し冒険者に訓練したと情報が流れれば、彼等に迷惑が掛かるかもしれない。

 

次に【フレイヤ・ファミリア】の『洗礼』だが、やはり他派閥の人間が本拠に上がり込んで修行してるなど情報が流れれば、迷惑が掛かるのは相手派閥だ。

 

【ソーマ・ファミリア】の眷属たちとの戦いなども言えるはずがなく、こうして出来上がったのが穴だらけの報告書だったというわけだ。

 

「何があったのか、わかりませんが……ひとまず終わったならよかったです」

 

「ああ。それより、ベルのお見舞いだったな。エイナさんはどうします?」

 

「私は……大丈夫。二人で行ってきて?」

 

「わかりました、気をつけて帰ってくださいね」

 

「エイナ様、お疲れ様です」

 

 治療院に向かって歩いていく二人を見て、エイナは治療院にお見舞いに行った時のことを思い出す。今まで向けられたことのない瞳。

 

受付嬢として様々な人と接する中であらゆる視線を浴びてきた。感謝や好意、怒りや不満。

 

そして白髪の少女が向けてきたのはあらゆる感情が混ざり合ったような物だった。

 

理由はわからないが嫌われているのかもしれない。同じ【ヘスティア・ファミリア】の一員として、ラグナが救いたいと願っている少女に嫌われるのは心が痛い。

 

同時に恐怖を感じていたのも事実だった。そのためエイナはお見舞いに行くことはしなかった。

 

「……ベルちゃん」

 

⬛︎

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】の病室。清潔に保たれている部屋の中央のベッドには白髪の少女がいる。

 

夕焼けが窓から差し込み、白髪が鮮やかに輝いている。そして突然、扉からノックから聞こえる。

 

扉が開かれるとそこにはラグナとリリがいた。

 

「ラグナとリリ、お見舞い来てくれたの?」

 

「はい、お見舞いと報告です!」

 

「報告?」

 

「まず一つ目だけど……俺が【ランクアップ】してレベル2になった」

 

「……【ランクアップ】」

 

 驚きはなかった【ランクアップ】自体は可能なことは知っていたからだ。

 

置いて行かれたことに拳を握りしめる。焦りや恐怖といった感情が湧き出そうになりながらも抑えて、ベルは拍手する。

 

「おめでとう、ラグナ」

 

「ありがとう。だけど、あんまり嬉しそうじゃないな?」

 

「そりゃそうだよ……ラグナが強くなったってことは、それだけ苦しい戦いをしたってことでしょう?」

 

 きっと自身の知らない間に危険な戦場に足を突っ込んだはずだ。それを考えるだけで心は痛くなる。

 

何より強くなれば、それだけラグナの戦場のレベルも上がる。

 

そうなればレベル1のベルでは足手纏いになることは間違いない。病気の自分が唯一活躍できるかもしれないのが戦場なのだ。

 

置いていかれたら、本当の無能になってしまう。

 

「俺がやるべきだと思ってやってることだから、気にする必要はないけどな」

 

「……」

 

 家族同然の幼馴染が自分のために命を削っている。そんな状況で気にも病まない人間がいたら、それは悪魔か何かだろう。

 

「それと、もう一つの報告だけど……」

 

 ラグナが視線をリリに向ける。小さく頷いたリリは呼吸を整えて、ベルの瞳を見つめる。

 

「ベル様……リリは【ヘスティア・ファミリア】に入団させていただきました」

 

「そっか、あの時の勧誘受けたんだ」

 

 ダンジョンで初対面のリリに対して熱烈な勧誘を行った少年の記憶は新しい。その時の答えを出したのだろうとベルは納得した。

 

これで【ヘスティア・ファミリア】の団員は四人目。戦力的には嬉しいことなのだろうが、ベルの心中は穏やかではいられなかった。

 

なぜなら一緒にダンジョンで探索していた時とは一変して表情が明るくなってるからだ。その理由は正確には知らないが、ラグナが影響を与えたのだろうと簡単に察することができた。

 

「……おめでとう、リリ」

 

 それでもリリに関してはパーティーを組んでくれた恩や、ダンジョンで助けられたことばかりだった。だから嫉妬や不安を覚えることはなかった。

 

しかし、これで四人目だ。酒場の看板娘。金髪金瞳の剣士。ハーフエルフの元受付嬢。そしてサポーター。

 

もしかしたら、他にももっといるかもしれないし、今後増えていくと考えるとベルはラグナに冷ややかな視線を飛ばした。

 

深紅(ルベライト)と灰色の瞳に貫かれて、ラグナは冷や汗をかいた。

 

「……ラグナって、もしかしてハーレムを作ろうとしてるの?」

 

「いやいや、ちょっと待ってくれ……どうして、その単語を!?」

 

「お祖父ちゃんに教えてもらったけど……?」

 

「──あのクソジジイぃぃ!」

 

 ベル・クラネルという少女は何事にも染まりやすい。そのため口を開けばハーレムだの、女を求めて旅をしろなどと宣う老神から守ってきたつもりだった。

 

だが守りきれていなかったらしい。おそらくハーレムという単語を知っているということは、他にも様々なことを吹き込まれてるに違いない。

 

絶望して頭を抱えるラグナにリリが驚いた表情を浮かべる。ここまで感情を表に出す少年を見たのは初めてだった。

 

「それでどうなの?」

 

「断じて、ハーレムなんて考えてない!俺をあのクソジジイと一緒にしないでくれ」

 

「……」

 

「あ、信じてないなこれ。本当だって、たまたま【ファミリア】に女性が多くなってるだけだから!」

 

 本当なら男性の冒険者も仲間に引き入れたい。今のパーティー状況からして、前衛が圧倒的に不足しているのもあるし、女性が多くなっていくと肩身が狭くなりそうだからだ。

 

それでも勧誘などを行ってないのは人柄などを見抜ける自信がないからだ。冒険者は荒くれ者が多い。性格も人格もしっかりしてる冒険者なんて数が少ない。

 

金、名声、女。この三拍子が冒険者の常識である。だからこそベルや他の女性陣に危害を加えかねない人間を勧誘することはできない。

 

もしも積極的に勧誘するとしたら鍛治士の青年ぐらいだろう。性格、実力、才能。全てが揃ってるのは彼ぐらいだ。

 

「今度、神様のいる前でもう一度聞くね」

 

「ちょっと信用なさすぎじゃないか?」

 

「だって一ヶ月もしないうちに、これだもん」

 

 数週間でここまでの女性を引っ掛けるラグナを祖父が見れば驚くに違いない。故郷だとベルとずっと一緒にいたため、女たらしの部分は見えなかったのだが、都市に来て開花したのだろう。

 

「……と、とりあえず。報告は終わりだ。それでなんだが、薬の進捗はどんな感じだ?」

 

「たまにミアハ様とディアンケヒト様が様子を見に来てくれて、話してくれるんだけど、順調だって」

 

「そっか、よかったぁ……」

 

 二柱の医神が協力して製薬しているのだ。これで完成することが出来なかったなら、誰にも薬の製薬は不可能だろう。

 

そして同時に希望が芽生える。ベルの発作を抑える薬が出来上がるということは、【スキル】とまでなったベルの病を打ち砕くことも可能ということの証明になる。

 

「ベルが退院したらの話だけど、中層の進出を目指そうと思ってる」

 

「中層ですか……?」

 

 13階層から24階層までが中層。現在の【ヘスティア・ファミリア】の最高到達階層が10階層であり、その目標の高さにリリは目を剥く。

 

中層からの適正はレベル2。ラグナがいれば、その適正はなんとかなる。だが中層からは『最初の死線(ファーストライン)』と呼ばれるほど過酷になる。怪物の質も量も今までとは比にならないだろう。

 

「もちろん、徐々に目指す予定だ。エイナさんももう少しダンジョンに慣れてもらわないといけないと思うし」

 

「ベル様が加わればいけないこともないとリリは思いますが……やはり前衛が一人なのは苦しいと思います」

 

 上層ではなんとかなっていたが、中層からはそうもいかない。後衛を守りながら敵を倒す前衛の負担は計り知れないし、いくら強靭なラグナであっても疲弊するだろう。

 

経験豊富なサポーターの意見にラグナは頷きつつ、やっぱり勧誘するべきだと脳に赤髪の鍛治士を思い浮かべた。

 

ヴェルフ・クロッゾ。【ヘファイストス・ファミリア】所属の生粋の鍛治士。彼の力さえ借りれれば、ラグナはそう思った。

 

 

 

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