主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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42話 パーティプレイ

 

 

『ブギッ……オオオオオオオオオ……!』

 

 ダンジョンの壁に亀裂が走り、それを突き破るように一体のオークが生まれ落ちる。大型級の怪物はゆっくりと起き上がり、冒険者たちを視認して咆哮を上げた。

 

それだけじゃない。そのオークの咆哮に続くように次々と壁に亀裂が走っていく。

 

ダンジョン10階層から発生する異常事態(イレギュラー)、『怪物の宴(モンスターパーティー)』だ。

 

『プギィィィィィ!』

 

「っ!」

 

 冒険者を蹂躙するべく醜い豚が鼻を鳴らす。それに悲鳴を鳴らしそうになるのはパーティーの支援魔導士エイナだった。

 

ダンジョン10階層に踏み入ってからというもの、怪物との遭遇(エンカウント)が劇的に増え数も質も向上した。

 

知識では知っていたが、実際に体験すると汗が滲み出る。この恐怖と冒険者は常に戦っていたのだとエイナは知った。

 

恐怖で足が竦む。近づいてくる豚の軍勢。顔を青くするエイナの肩に手を置いたのは一人の少年だった。

 

「大丈夫」

 

「っ」

 

 ただ一言、それだけを残して少年はレベル2の瞬発力を持って走り出した。新調した銀の鎧と《聖火剣》を装備して騎士のように勇ましく戦う姿を見てエイナは震える手を握りしめた。

 

このパーティーには彼がいる。誰よりも早く突き進み、周りの人々を燃やし尽くすような熱い炎を持っている少年がいる。そのことを再認識してエイナは顔を上げた。

 

『──オオオオオオ……!』

 

「おいおい……いくらなんでも多すぎるだろ」

 

 オーク。インプ。他にもさまざまな怪物が壁から這い出てくる。その姿にヴェルフは瞳を鋭くしながら愚痴をこぼす。

 

「武器を持ったオークが来ます!」

 

 生まれ落ちて天然武器(ネイチャーウェポン)を装備したオーク。他の怪物とは一線を画した『力』を誇っている怪物が持つことで、恐ろしい破壊力を発揮する。

 

「離れてろよ」

 

 リリの注意に肩に担いでいた大剣を構えるヴェルフ。そのままオークと戦闘に入る。奥の怪物はラグナが担当しているため一対一。

 

武器を装備しているオークの攻撃は一度も喰らうわけにはいかない。そのため馬鹿正直に正面から戦うわけにはいかない。だがヴェルフは余裕そうに笑った。

 

「【黒の意志、黒の死願(ねがい)、黒の地獄(みち)】」

 

 背後で歌い始めるエイナ。余裕そうな笑みを浮かべたのは後衛の支援魔法があるからだった。

 

「クロッゾ様、支援魔法が完成するまで耐えてください!」

 

「家名で呼ぶなっての!」

 

 軽口を叩きながらヴェルフは全神経を回避に注いだ。

 

エイナの持つ支援魔法は三つの段階に分けられる。治癒力を向上させる第一階位、力と敏捷を上昇させる第二階位、最後に全能力を劇的に増幅させる第三階位だ。

 

階位が上がることによって詠唱も効果も跳ね上がる。そして今回エイナが選択した支援魔法は第二階位。

 

「【破滅に向かう英雄に精霊の加護を。壊れゆく魂に聖女の歌を。──我が名はアールヴ】!」

 

 酒場のエルフとの訓練によって成長している詠唱技術によって、すぐに魔法は完成する。

 

「【マギガ・リルガ】!」

 

 第二階位の魔法名を発声すると、エイナの緑光の魔力が前方で戦うヴェルフの全身を包み込んだ。

 

「っ……うおおおおお!」

 

『ブギィィ!?』

 

 突然動きが素早く力強くなった鍛治士の一撃に対応できずにオークは両断された。そのまま流れるように奥のインプまで大剣で両断する。

 

さらに奥で戦っていたラグナも最後の一体を討伐したようで、あらかた片付いたといっていいだろう。

 

一息ついて、ヴェルフは消えゆく緑光を見つめて言った。

 

「やっぱり、出鱈目だな……エイナ嬢!」

 

 これまでのダンジョン探索でヴェルフを幾度なく助けた支援魔法。そのとてつもない効果には何度も驚いてしまった。

 

それもそのはず【ヘファイストス・ファミリア】のパーティーは前衛だらけ。後衛の、それも支援魔導士の魔法なんて受けたことはなかった。

 

能力向上の魔法だけじゃない。治癒まで可能な彼女の魔法。他のパーティーが観れば涎を垂らして欲しがるほどの逸材だ。

 

「助けられてるなら良かった。私もヴェルフくんには助けられてるから」

 

「そうか……?正直、支援に頼り切りで何もしてない感じなんだが……」

 

「後衛を守る前衛の役割は普通のことですが、それだけでラグナ様が自由に動けるのが大きいのですよ」

 

 ベルが入院したことによって、ラグナは普段の探索では後衛を守るために常に一歩引いた位置に立っていた。

 

それをヴェルフがパーティーに加わったことにより、前のように自由に行動できて、負担が減っている。

 

何より前衛があるだけでパーティーの安定性は上がる。現在のように後衛の方が多い状況ではなおのことだ。

 

だからこそリリは惜しいと思う。この鍛治士がパーティーにいる期間は【ランクアップ】するまでの間なのだから。

 

レベル1上位の実力の鍛治士。初対面でも他メンバーとの連携できる柔軟な対応力も魅力的だ。どうにかしてパーティーに固定メンバーとして入ってもらいたい。そのためにはどうするべきか思考するリリ。

 

「考え込んで、どうしたチビスケ?」

 

「チビスケ……?ってなんですか!?チビスケって……!」

 

「チビスケはチビスケだろ」

 

「リリには、リリルカ・アーデという立派な名前があるのです!」

 

「それじゃあリリスケだな」

 

 そんな軽口の中を言い合う二人をエイナとラグナは微笑ましく見守る。

 

「ごめんなさい、エイナさん。いきなり11階層まで連れてきて……」

 

「ううん、謝らないで。私に気を遣って、ダンジョン探索が進まないのは私も嫌だもん」

 

 支えるどころか、足を引っ張ってしまったらエイナは酷い自己嫌悪で落ち込んでいただろう。

 

「やっぱり、受付嬢の世界と冒険者の世界は全然違うね」

 

「……怖いですか?」

 

「うん、怖い。……ラグナくんは怖くないの?」

 

「怖いですよ」

 

 猛牛(ミノタウロス)小竜(インファントドラゴン)剣姫(アイズ)凶狼(ベート)強靭な勇士(エインヘリアル)短剣(ヘルン)暗黒物質(フレイヤ)。たった三週間の間に数えきれないほどの恐怖が身に刻まれている。

 

「でも、それならラグナくんはどうして真っ直ぐに進めるの?」

 

「……怖いからです」

 

「怖いから?」

 

「ここで逃げたら……もしも戦わなかったらどうなるか知ってるから」

 

 主人公がいない物語の終わりは悲劇だと知っているから。止まることは世界が、自分が許さない。

 

「……」

 

 その漆黒の瞳はいったい何を見据えているのか。エイナにはわからない。それでもどこか孤独のようなものを感じるのは気のせいなのだろうか。

 

わからない。改めて彼のことを何も知らないことを思い知る。知らないといけない。彼が何も思い、何を考えて、前に進んでいるのか。

 

それを知らないと支えることなどできないのだから。

 

⬛︎

 

「やってきたな、11階層!」

 

 大剣を担いだヴェルフが11階層に足を踏み入れて言った。その言葉の通り、現在ラグナたちは今まで足を踏み入れたことのない領域、11階層にやってきていた。

 

視界を遮る深い霧は相変わらず。10階層とそこまで変わらない景色だが、唯一の変化点を上げるとすれば、地面の天然武器(ネイチャーウェポン)の数が増えているということぐらいだ。

 

「……怪物の強さも大きくは変わらないけど、ここからは『小竜(インファントドラゴン)』が出現するから、気をつけよう?」

 

 受付嬢としての知識で警告するエイナ。上層の事実上の階層主であるインファントドラゴンが出現するのは11階層から12階層までである。

 

希少種という扱いではあるものの、その出現率は他の希少種よりも高く、多くの冒険者パーティーを全滅に追いやった。

 

受付嬢として担当していた冒険者を全滅に追いやられたことがある、エイナは真剣な眼差しだった。

 

その表情に一同が頷いて了承する。そして探索を始めた。

 

「今日はどこまで潜るのですか?」

 

「パーティーの状況を考慮してって感じだけど……そんな深くまで潜ることはしない」

 

 後衛を守る前衛という慣れない役割のヴェルフ。そのヴェルフの加入により連続で魔法行使しているエイナ。そして効率が良くなり、魔石採取によって疲労がいつもより溜まっているリリ。

 

ラグナを除いて全員に疲労が蓄積している。それを鑑みると12階層の進出は危険極まりない。その言葉にリリも同じ考えだと同意した。

 

「やはり魔導士……ベル様が恋しいです」

 

 音魔法を操る白髪の少女。彼女さえいればパーティー構成が一気に変わる。後衛が後衛を守り、前衛が一気に前線を押し上げる超攻撃的な構成。

 

万が一、前から怪物が後ろに流れても最速の魔法で対処できる。その構成さえ組めれば、上層では苦戦しなくなる。

 

「ベル様って?」

 

「俺の幼馴染で……同時期に【ヘスティア・ファミリア】に入団した仲間です」

 

「へぇ、どんな実力なんだ?」

 

「多分、状況次第だと……俺も負けると思います」

 

「おいおい、冗談はよせって」

 

「本当ですよ……遠距離の戦いなら勝ち目はないです」

 

 【福音(ゴスペル)】という超短文詠唱。それに加えて【英雄一途(リアリスフレーゼ)】が合わさることで、とんでもない威力を発揮する。

 

それは階層破壊すら起こせるほどで……あれを喰らえばレベル2のラグナは耐えられないだろうと悟っていた。

 

「ラグナより強いって、どんな魔導士だよ……」

 

 ここまで怪物を蹂躙してきたラグナよりも強い魔導士。それがこのパーティーにはいる。その事実にヴェルフは冷や汗を流した。

 

『竜殺し』の英雄候補。知識豊富の支援魔導士。指示を飛ばし視野の広いサポーター。それに凶の魔導士が加わる。後衛に偏っているが、それでも恐ろしいと感じざるをえなかった。

 

 

 

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