主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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43話 検証

 

「やっぱり【ランクアップ】してたのか」

 

 11階層から帰宅途中。ヴェルフはラグナがレベル2になっていたことを知って納得した。

 

何度も『怪物の宴(モンスターパーティ)』を残滅して、今日の累計討伐数は100を超えるほど怪物を倒している。

 

それほどまでの戦いをしても疲労感などは一切顔に出てないことから、同じレベル1だとは思えなかった。

 

「あまり驚かないんですね?」

 

「いや、驚いてはいるぞ。だが『小竜(インファントドラゴン)』を一人で倒しているなら、【ランクアップ】は早いだろうとは思ってたんだ」

 

 推定能力(ポテンシャル)はレベル2の怪物。それを単独討伐したなら偉業というしかない。短期間で器の昇格を果たすのもあり得る話だ。

 

とはいえ世界記録の【ランクアップ】を成し遂げているとは想像していなかったが。この少年が規格外の冒険者なのは身に染みるほど理解したので、すんなりと受け入れられた。

 

「しっかし、ここは緊張感がないな」

 

「11階層と比べると、ね。でも油断しちゃダメだよ」

 

 現在位置は4階層。初心者殺しなどの怪物も出現しない領域。そのためパーティーは余裕を持って地上に向かえている。

 

パーティーの陣形は前衛ヴェルフ、後衛を守る位置にラグナと11階層での役割を交換した形になる。

 

肩に担ぐ大剣で豪快に怪物を両断していくヴェルフは11階層と比べて緊張感がないと愚痴をこぼす。

 

それほどまでに、この階層は余裕だ。そんなパーティーの様子を見てラグナは覚悟を決めた。

 

「ここら辺で、魔法を使ってみても大丈夫ですか?」

 

 ダンジョンに潜る前に魔法使用の件は伝えてある。鎧が雷霆によって破壊されないか、そのための検証。それが可能なのはダンジョン内だけだ。

 

「私は大丈夫だよ。ここなら怪物も少ないし……でも、そこまで強力なの?」

 

「リリも見たのは一度だけですが……あの時は剣に雷を溜めて放って、魔剣のような感じで……10階層の霧を吹き飛ばしていました」

 

「……10階層の霧を、だと?」

 

 強力な魔法。それを空中に放てば確かに霧散する可能性もある。だがそれを付与魔法が行った事実に驚愕する。

 

付与魔法とは強化保護を行うものであり、敵を倒す一撃必殺のような威力は決してない。それどころか付与魔法は威力が総じて低く、冒険者や神の間ではハズレと評されることもしばしば。

 

その威力が強大なのは特性もそうなのだろうが、やはり魔法自体の性能が高い。使用者の肉体すら壊すほどなのだ、普通の付与魔法とは比べられない。

 

「俺も【ケラノウス】についてはあまりよく分かってないことが多い。使用回数も数える程度だし。使用に躊躇って試すことも出来ていないから」

 

 肉体の内側から発生する雷霆。そこから発せられる痛みはあらゆる過酷にも立ち向かったラグナの強靭な精神ですら苦痛を感じるほどだ。

 

洗礼においても使用はしていたが検証などをする余裕はなく、何が可能で何が出来ないのか明確にはわからない。

 

熟練度を上昇させていく過程でこの魔法の威力は進化する。【ランクアップ】した今、どこまで強化されているのかラグナにも分からない。

 

「離れててください。威力が制御できない可能性もあるから」

 

「は、はい、みなさんこちらに」

 

 漆黒の魔力を解放させて、深呼吸して準備を整える。そしてリリたちが離れたのを確認して目を見開いた。

 

「【白い雪、黒き終焉、終わりの(べる)が鳴る前に】」

 

 奏られる詠唱に淀みはない。詠唱技術で一番必要なのは何事にも動じず魔法を紡ぐ不動の精神力である。

 

多くの魔導士がそれを手に入れるのに多大な年月を掛かるそれをラグナは既に持ち合わせている。

 

『──ヴオオオオ!』

 

 たとえ、それは怪物が現れたとしても変わりない。剣を引き抜くまでもなく、徒手格闘で一撃を加えて撃破する。

 

「【破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の幻想(かげ)】」

 

 並行詠唱。高速詠唱が求められるのが後衛魔導士ならば、並行詠唱は魔法戦士などが習得する高等技術である。

 

とはいえ技術を習得している冒険者は少なく多くが諦める技術。魔力暴発を阻止する魔力制御はもちろん、怪物の攻撃を予想回避することも要求される。

 

その技術の難しさを知ると超短文詠唱がどれだけ優れているのか嫌でも理解できる。

 

「【誓いはここに、終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ】」

 

 魔法の完成。怪物は周りにいない。パーティーメンバーとの距離が取れていることを確認して、一呼吸する。

 

「【ケラノウス】」

 

 発声と共に全身を包み込む青白い雷霆。4階層に鳴り響く雷鳴は雄々しく轟き、その存在感を主張した。

 

そして臓腑から血管までも全てを巡っていく雷に苦痛が一気に襲いかかる。表情を歪め、脂汗すら滲み出る。それすらも雷は焼き切った。

 

さらに検証の対象だった銀の鎧は雷が蓄積され続けて亀裂が入り砕ける。十秒も掛からず破壊された鎧にヴェルフが目を剥く。

 

「──あの時より、さらに強力に!?」

 

「ここまで雷が伝わってくる……」

 

 肌がピリピリと感じるほど雷霆の威力は強大。リリは10階層で見た時の威力より遥かに強力となっている魔法に瞠目する。

 

「っ……」

 

 【ランクアップ】を果たして初めて使用した【ケラノウス】はレベル2の魔法の領域を大きく超えていた。

 

ラグナから周囲1Mに広がる付与魔法は敵を探し求めるように揺れ動く。制御自体は可能なようで、ある程度指向性を持たせることができる。

 

とはいえ当然変幻自在とはいかない。攻撃魔法のように雷霆を放つことはできない。そう考えると魔剣のように放てたのは《聖火剣》の影響が大きいのだろう。

 

「っ……痛みも増しているけど、耐えれてるな」

 

 苦痛は変わらない。それでも前のような意識を奪われる感覚はない。それは限界突破した耐久力のおかげか、それとも発展アビリティとして獲得した『不屈』の影響か。

 

わからないが検証できるのは今しかない。まず最初に試すのは付与魔法を一箇所に集めることは可能なのかだ。

 

魔剣のように放った時は全身の雷から分け与えるようにして剣に付与していた。身体全ての雷を剣に注ぎ込むことができれば、この痛みから解放されるのだが。

 

「……無理、か」

 

 《聖火剣》にも吸収の限界があるようで、身体中を纏う雷霆から三割程度は吸い取れるが、それ以上は不可能のようだ。

 

そして三割程度の雷霆を吸収されても、痛みは僅かでも和らぐことはなかった。

 

次に拳や脚に雷霆を溜めることは可能なのか。それは可能なようで拳を二回りほど大きい雷が覆い包む。

 

『グオオオオオ!?』

 

「……威力は凄まじいな」

 

 ちょうどいいタイミングで怪物が現れてくれた『コボルト』三匹に雷の直球拳(ストレートパンチ)を叩き込む。

 

雷霆によって加速され、拳までも強化された一撃は上層の怪物に耐えられるはずがなく、魔石ごと消滅する。

 

徒手格闘といえばラグナの頭に浮かぶのは【ロキ・ファミリア】所属のベート・ローガ。彼の拳と蹴りの攻撃はラグナ自身の肉体が覚えているほど強烈だった。

 

あのような動きを【ケラノウス】を使用した状態で行えたら、剣とは別の戦闘スタイルとして戦えるだろう。

 

「……問題は脚か」

 

 通常時の状態でも制御が難しいほどの加速を行える【ケラノウス】。それを脚に集中して使えば制御不能に陥るかもしれない。

 

それでも機動力の向上は戦闘面においてとても重要なことである。痛みに歯を食いしばりながら、脚に雷霆を集中させる。

 

「ラグナ様……?」

 

「ちょっと走るから……なんかあったら、ごめん」

 

「走る、ですか?」

 

 意味がわからない。だがラグナの言葉に身構えるリリたち。そのままラグナは前傾姿勢になり、地面を削り飛ばした。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

 レベル2の加速を大きく超越している。その速さには靴までもが擦り切れ、地面には大きな雷跡(そくせき)が残る。

 

そのまま4階層の壁が迫り来る。急停止しようと地面と脚を擦り合わせて、どうにかブレーキを掛けようとする。

 

「ぶぁ!?」

 

 だが遅かった。壁に無様に叩きつけられる。雷霆は解除されて、叩きつけられたラグナはゆっくりと地面に転がった。

 

「──ラグナ様!?」

 

「──ラグナくん!?」

 

「おいおい、大丈夫か!?」

 

 瞬時に駆けつけてくるパーティーメンバー。ラグナはなんとか気を失うことはなく持ち堪える。回復薬を口にして大きな溜息を吐いた。

 

「なんとか、大丈夫です」

 

「ほ、本当?凄い勢いだったけど……」

 

「途中減速しましたから……それより鎧が」

 

 身につけていた鎧は雷によって砕け地面に落ちた。

 

「気にするな。ずっと鍛冶場に眠ってたのを渡しただけだから。それに実際に魔法の威力を見てみたいって言ったのは俺だ。気にするな」

 

 申し訳なさそうな表情をしたラグナにヴェルフは肩を叩いて言った。その言葉に小さく頷き、自身の身体を見る。

 

身につけているのは戦闘衣(バトルクロス)などの軽装。そこには穴も空いておらず、付与魔法による被害はない。

 

「……鎧が壊れたのって」

 

「内側からの雷が原因だろうな……」

 

 内側は衝撃を和らげたりするためそこまで強度はない。そこにあの威力の雷が攻撃すれば壊れることも理解できる。

 

戦闘衣(バトルクロス)などに傷がないのは雷を通すからでもあるのだろう。だとすると内側の強度を補強すれば問題ないように思えるが。

 

「そもそもの魔法威力が高すぎるな」

 

 内側を強固にしたとしても、そもそもの雷の威力に耐えられない。あの雷を防ぐためには特殊な素材や希少鉱石が必要になる。

 

そしてそれを打つ技量は今のヴェルフ・クロッゾにはない。【ランクアップ】して鍛治のアビリティを獲得できれば話は別なのだが。

 

「ヴェルフさん?」

 

「望み通りの防具には時間が掛かるかもしれん。……いや、作れるのか怪しいところだ」

 

 【ランクアップ】して鍛治のアビリティを獲得したところで、その難易度の防具は難易度が高い。

 

そもそも鎧の内側を強化すれば、衝撃に耐えれない鎧と化す。そんなのは鎧とは呼ばず不完全だ。

 

「すまん」

 

「別に俺もすぐに望んでたわけじゃないので、気にしないでください!」

 

 不甲斐ない。そんな表情で頭を下げるヴェルフに慌てて顔を上げさせる。

 

「他の鍛治士に頼んだりしても、俺は文句は言わないぞ」

 

「そんなことしませんよ。防具に関してはヴェルフさん以外に頼む気はありません」

 

 防具を手に入れることは確かに重要なことだ。だがそれより重要なのはヴェルフ・クロッゾとの繋がりである。

 

最後まで共に歩んでくれる鍛治士は彼ぐらいしか心当たりはない。ラグナの目標は高く、聞いただけで普通の冒険者なら戦う意思を削がれる。

 

それでも付いてきてくれる存在は貴重であり、その貴重な存在は原作のベル・クラネルを支えてきた人間だ。

 

ヴェルフがラグナを逃しちゃだめだと思っているのと同じように、ラグナもまた赤髪の鍛治士を逃す気はない。

 

「なら、その期待に応えないとな」

 

 契約を交わした冒険者に頼られている。魔剣ではなく防具を。その期待に応えなければ鍛治士とは呼べないだろう。

 

⬛︎

 

「……おいおい、嘘だろ!?」

 

 冒険者ギルド。そこでは多くの人集りができていた。あらゆる冒険者がその情報を一目見ようと潜り抜けていく。

 

ギルドの提示版に貼られている内容。それは都市中、いや世界中を震撼させるものだった。

 

【ヘスティア・ファミリア】所属ラグナ。レベル2に【ランクアップ】。所要期間は約二週間。

 

「……ありえねえだろ!」

 

「いやでも……小竜(インファントドラゴン)を倒したんだろ?」

 

「それにしても早すぎないか?」

 

 その情報は瞬く間に都市中に広がる。それは都市最大派閥にも届いていた。

 

 

 




次回、都市最大派閥出現。
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