主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
ソード・オラトリアという物語がある。ベルを主人公に進む物語とは違い、【ロキ・ファミリア】の視点で描かれるダンまちにおける外伝。
第一級冒険者が苦戦する敵が多く登場するほど彼等が戦っている敵のレベルは高い。今のラグナでは太刀打ちできないだろう。
ラグナの武器である前世の記憶を活かすにも物語の記憶に穴が空いておりとても使い物にならない。
そんなラグナは黒衣の人物が【剣姫】に出した依頼に同行するか思考を巡らせていた。黒衣の人物と金髪の少女はラグナに分からない会話を繰り広げており依頼の話を進めていく。
黒衣の人物が出した依頼は24階層の
24階層は中層の最後の階層であり当然ラグナも足を踏み入れたことはない。推奨されている冒険者の能力基準はレベル2のC〜Sであり、上級から最上級と呼ばれるほどの熟練度が必要。
それほどの領域で怪物の大量発生。ギルドとしても問題の早期解決のために第一級冒険者を派遣するのもおかしくない話ではある。
だがここで黒衣の人物が出てくるということは、それ相応の修羅場なのだろうとラグナは察していた。
原作通りなら彼女は苦難を前にしても乗り越える。英雄の道を歩んでいる彼女なら問題はない。だがこの世界は原作とは大きく違う。
白髪の少年がいないことで起きる影響は些細なものではない。その変化で第一級冒険者が敗れることがあれば、その時点で終末の刻を早めることになる。
「一刻も早く向かってほしいのだが、いいかな」
黒衣の人物と金髪の少女の話し合いが終わる。もう迷っている暇はないとラグナは眦を決した。
「──その依頼、俺も同行してもいいですか?」
「……ラグナ?」
「何を言っている。この依頼は危険だ。レベル2に上がったばかりの駆け出しを連れていけるわけがあるまい」
黒衣の人物は正論を口にする。そしてアイズも小さく頷いた。
何よりアイズの脳裏に焼きつく調教師の存在がいる可能性がある以上連れて行くことは不可能。
万が一にでも彼を失えばという防衛本能が働いているのもあって、アイズは絶対に同行させる気はない。しかし正論を叩きつけられたラグナは上半身を纏っていた
露わになる鍛え上げられた肉体。故郷での修練と都市に来てからの過酷によって最高峰とも呼べる肉体。
それに顔を沸騰させるアイズ。素晴らしい肉体だと惜しみない賞賛を贈る魔術師。
「あの、
「……ああ、そういうことかい。急に脱ぎ出したので肉体自慢でもしてきたのかと」
「……能力、見てもいいの?」
「はい。少しでも判断材料にしてくれたら……」
ステイタスに鍵はされていない。露わになった背中には
そして神聖文字は習得難易度が高い。そのため背中を晒したということは、アイズが神聖文字を読めることを知っているという他ない。
どうして知っているのだろう。疑問が頭に浮かぶ中、アイズはラグナの能力を覗き込んだ。
ラグナ
Lv2
力 D523
耐久C673
器用D510
敏捷D514
魔力E402
「っ!」
この能力を見てアイズは息を呑んだ。【ランクアップ】を果たして数日しか経っていないはず。それなのに既にレベル2の中級まで熟練度を上げている。
それは同じく能力を見た黒衣の人物も同じだった。恩恵や冒険者などの知識を知り尽くしている魔術師からしても異常と呼べる成長速度。
【ランクアップ】して約四日間の迷宮探索で得られた経験値がこれである。
【ケラノウス】の検証、そして慣れのために10階層や11階層でも魔法の使用を行ったこともあり耐久は突出している。
それでもここまで上昇したのはやはり怪物の討伐数が膨大だったからだろうと主神であるヘスティアは話していた。
服を着直したラグナはこれが判断材料になるといいのだがと真剣な眼差しで二人を見た。
「【剣姫】はどう思う?」
「……私は」
軽く手合わせしただけで彼が異常な成長を遂げていることは感じていた。
だからといって冒険者によくある恩恵に振り回されるような戦い方でもなく、技と技術が飛躍的に向上している。
第一級冒険者の自分にすら駆け引きを仕掛けたりと、順調に着実に成長しているのを肌で感じた。
それでも同行を許すには恐怖が染みつく。レベル6となった自分でも守り切れるか怪しい、だからこそ同行を拒否しようと口を開いた時、少年が先に言葉を重ねる。
「──守りたいんです」
「……え?」
その言葉に金の瞳が揺れる。風でアイズの長髪が靡く。
第一級冒険者であるアイズ・ヴァレンシュタイン。その能力も過去も明らかになっていない。唯一わかっていることは彼女がいなければ黒竜討伐は成し遂げることはできない。
例えラグナが白髪の少女を命を賭けて救ったとしてその後が続かなければ意味がない。だからこそ英雄たちに力を貸したい。
「レベル2の俺じゃ力不足なのはわかってるんです。それでも力になりたい」
「そ、そんなの……」
「お願いします、アイズさん。俺をパーティーに同行させてください!」
揺るぎない意思。本気で第一級冒険者である自分を助けようとしてくれている。嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい。
望んでいた言葉。憧れていた存在。諦めていた自分の求めていた夢。それが現実になって、どうすればいいのかわからなくなる。
そわそわと歩き回り、唸り声をあげて答えを必死に探すが見つからない。
黒衣の人物の話によるとリヴィラの街には協力者がいる。その協力者と連携すれば危険性は減るだろう。
「……わかった」
「本当ですか?」
「でも……道中で戦えないって思ったら、リヴィラの街で待機してもらう。それでいいなら」
18階層までの道のり。そこで発生する怪物との戦いを見て判断する。彼が24階層で戦える能力はあるのか。アイズの足を引っ張らずに戦えるか。
その条件にラグナは頷く。未知の怪物相手にどこまで戦えるか、対応力が試されるだろう。
「……【剣姫】が同行を許可したのなら、私は何も言わない。だが予想できない危険が降りかかることは覚悟しておいてくれ」
「覚悟は済ませてます」
黒衣の人物は少年の瞳を見て、異常な冒険者だと心の中で舌を巻く。命知らずなのか、それとも先が見えすぎているのか。
「あの【ファミリア】に伝言を頼んでもいいですか?」
「あ、俺もヘスティア様に……」
「それくらいなら承ろう」
用紙に簡潔な手紙を描く。そのままヘスティアがバイトしているじゃが丸の屋台の場所を伝えて手紙を渡した。アイズも同じように手紙を渡して準備万端。
「しっかりと届けておく。あとは頼んだぞ【剣姫】、そして竜殺し」
「……はい。行きます」
「手紙お願いします!」
梟が飛び立つと同時に二人の冒険者は駆け出していく。その姿を見届けて黒衣の人物は静かに武運を祈るのだった。
⬛︎
12階層。霧が広がり、大型級の怪物が咆哮をあげる中。ラグナはアイズの背中を必死に追っていた。
風のように疾走する少女。これでもレベル2のラグナに合わせて相当手加減されている。そのことに改めて第一級冒険者の凄さを思い知りながらオークを両断する。
上層の最終層まであっという間に辿り着き、そのまま中層の入り口まで辿り着く。一度も止まらずに辿り着いたことに目を剥き、そして急停止したことに首を傾げる。
「……ここから先は中層。怪物の特徴は知ってる?」
「注意するべきはヘルハウンドですよね」
エイナから教わった中層から出現するヘルハウンド。特徴は口から炎を吐いて遠距離攻撃をしてくるという。
その魔法のような攻撃方法にあらゆる冒険者パーティーは全滅に追いやられている。
「炎を吐く時は一瞬だけタメがあるから……」
「その隙に倒す、ですね。ありがとうございます、やってみます」
「……うん、行こうか」
その情報を受け取り、臨時パーティーは中層に足を踏み入れた。13階層の構造は天井が広く、洞窟のような造り。特徴的なのは一直線に道が進んでいることだろう。
道に迷う心配はなくなるが前後から挟まれる危険性はあがる。そんな初めての領域を観察、思考しながら二人の冒険者は疾走する。
その通路の奥から白い何かが飛び出してくる。
『キュィィ!』
記念すべき中層初の
《聖火剣》が美しい軌道を描き魔石を両断する。小柄で敏捷性の高い怪物だが、ラグナの斬撃は回避できない。そのまま消滅して次のアルミラージを斬り裂く。
「っ……」
未知の領域。そして戦ったことのない怪物と相対すれば動きに迷いが出るものだが、彼の戦闘には迷いがない。常に一撃必殺を狙い、最大限の効率化を図っている。
それだけじゃない。ここまで休息なしで走り続けているのにも関わらず疲れていない。驚異的な体力、継戦能力まで高い。
そこまでの強さには過酷との対峙が、鍛錬が必要不可欠。いったいアイズが見ない間にどれほどの血と汗を修行に捧げたのだろうか。
それだけの修行。生半可な動機じゃ簡単に精神が砕かれるはず。それを支えているのは絶対の意思。黒竜討伐という願望を叶えるためここまで成長しているのだ。
それがどこか嬉しくてアイズは頬を緩むのを抑えきれなかった。あっという間に15階層に辿り着く。
レベル2のお荷物を抱えながらでもこの到達速度。本当ならばどれほどの速度で18階層に辿り着くのだろう。
『ブモォォォォォ!』
「ミノタウロス!」
懐かしい雄叫び。筋骨隆々の肉体、人を貫くには十分な角、そのミノタウロスの群れを目にしてラグナは迷いなく斬りかかる。
ミノタウロスの特性として一番に挙げられるのは
怪物の。それも肉体戦を得意とする怪物の前で一瞬でも停止すれば当然起こるのは全滅である。その咆哮に耐えるにはレベル2以上が必要だった。
『ブオオオオオオオオ!』
咆哮と共に振り下ろされる腕。その腕を《聖火剣》で切断する。圧倒的な切れ味を誇る武器、それに加えてレベル2の能力は断ちにくいミノタウロスの肉体を切り刻んだ。
武器の耐久性を一切心配していない使い方。道中であれだけの敵を屠ってもなお切れ味を損なわない剣にアイズは瞠目する。
《
それと似たようなものをラグナが扱う剣に感じる。とはいえ《不壊属性》は壊れないが切れ味は落ちていく。
それがないのは一体どういうことだろう。後で聞いてみようとミノタウロスを全滅させるラグナを見て思うのだった。
⬛︎
「アイズが……ラグナきゅんとダンジョンに向かった!?」
【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館。その庭園にて赤髪の女神ロキは喉を軋むほどの絶叫を放った。
梟が届けてきた手紙。その内容は簡潔なもので、ラグナと
最近意味不明な事件が起こってるというのに心配しないのは無理な話だろう。ロキは近くの団員にベートとレフィーヤを呼んでくれと、頼む。
「……24階層が関係していそうかい?」
庭園の椅子。その対面に座る男神ディオニュソスの言葉にロキは頷く。24階層で怪物が大量発生しており、冒険者が被害に遭っている。
そして【ロキ・ファミリア】が遭遇している騒動。それと無関係とは思えない。本当ならばフィンたちも集結させたいところだが、運悪く別件対応中だ。
「疑問なんだが、どうして【剣姫】はそのラグナという冒険者を?私もその名声は聞き及んでいるが……レベル2に上がったばかりの冒険者をどうして24階層に?」
「ウチかて聞きたいわ!」
犬猿の仲と呼べるヘスティアの眷属ラグナ。その少年と知り合ったのは『
本来ならば中層から出現するミノタウロスを上層に取り逃し、その怪物が冒険者を襲いかかったという事件だ。
その時間でラグナという少年は殿を務め、時間稼ぎをしてくれたおかげで、なんとか被害を出さずに済んだのだ。
もしも被害が出ていれば【ロキ・ファミリア】の名声に影響が出てしまっただろう、それを阻止してくれたのは恩人に等しい。
「アイズがラグナきゅんを気に入ってたことは知ってたけども……ここまでやったか?」
普段は笑顔を見せないアイズは少年の話を聞いたりするだけで笑顔が浮かんでいた。
少なくない影響を受けているのは確かなこと。それでも24階層に連れていく蛮行を冒すだろうか。
いや、今はそんなことに悩んでいる暇はない。一刻も早くベートとレフィーヤにアイズを追わせなければ、ロキはすぐに切り替えるのだった。
⬛︎
「……すごいな」
第一の拠点であるリヴィラの街。そこにはダンジョンの中とは思えない街が広がっていた。宿屋、武具屋、装飾品なども売られており、ダンジョンで消費した道具の補給が行える。
「……これ」
「回復薬……いいんですか?」
「うん。ここまでずっと走ってたから……」
さすがのラグナでも戦闘経験のない中層から疲労度は上昇していた。ダンジョンで疲労をそのままにすることは死に直結するほど危険なこと。ありがたくいただくことにする。
「……ダンジョンとは思えないぐらい明るいな」
目的の場所に向かう途中。ラグナは天井を見て呟いた。まるで空をそのまま迷宮に切り取ったような、そんな光景に目を奪われる。
「……そっか。初めてだもんね。ちょっとだけ寄り道する?」
「寄り道ですか?」
そのままアイズに手を引かれて歩いていく。森に入り、川の流れる音と森林を明るく照らす宝石に瞠目しながら進む。
「すごい……」
「クリスタル、だよ」
二種類の輝き。太陽のような白光に青空に似た蒼光。その二つの輝きが迷宮に空を作っていた。『
「……夜になると光源が消えて、ここにも夜が訪れる」
「夜が……本当に地上と似たような感じなんですね」
この光景。【ヘスティア・ファミリア】のみんなに見せたら喜ぶに違いない。いつか近いうちにパーティーで辿り着こう。そして白髪の少女にも見せてあげなければ。
「──ラグナ、誰のこと考えてたの?」
「ぱ、パーティメンバーのことですけど……」
「……ダメ」
「え?」
頬を触られ、そのまま金の瞳と強制的に視線が重なる。美神にも負けない美貌の少女の顔面に驚愕する。
「……あの子のこと考えちゃ、ダメだよ」
「そう言われても……大事なパーティメンバーだから。あの、離して……?」
「……私も今は同じパーティーだよ?」
「そ、それはそうですけど……」
様子がおかしい。急にどうしたのだろう。第一級冒険者の腕力で顔を抑えられている以上脱出はできない。困惑の中で川の流れる音だけが耳に伝わる。
「どうしたら、私のこと考えてくれる?」
「どうしたら……う、うーん。く、訓練してる時とかですか?」
「……そっか。訓練してる時……それじゃあ帰ったらたくさん訓練しよう?」
その言葉にさらに意味がわからなくなる。あまり深い関わりはないアイズ・ヴァレンシュタインにここまで迫られる理由がわからない。だが解放されるためにラグナは何度も頷く。
「あ、ごめん……」
ようやく解放される。痛みこそなかったが重圧感で一気に疲弊した気がした。
「ご、ごめんね……顔掴んで……痛かったかな」
「大丈夫ですけど……急にどうしたんですか?」
「……わ、わからない。ただなんだか……身体が動いて」
衝動ということだろうか。少なくとも原作の彼女はこんな行動はしなかったはずだ。疑問や困惑で頭がいっぱいになる中、暗い顔をするアイズ。
「もう気にしなくていいから、先を進みましょう。依頼のこともありますし」
「……うん、そうだね」
気を取り直さなければ。アイズは高鳴っている心臓を抑えて先頭を歩いた。