主人公が女の子になるのは間違っているだろうか 作:エルフ好き
アイズを先頭にして18階層を歩き回る。所々に存在するクリスタルに目を奪われながら歩いているとやはり広大。
エルフの森のように森林が広がり、川が流れている一つの国のような場所だ。適当に歩き回れば迷子になってしまいそうだ。
黒衣の人物からの情報頼りのため、記憶を頼りに歩いていく。18階層までの疾走ではない。それでも着実に歩みを進めていく。そして辿り着いたのは洞窟だった。
洞窟の入り口には赤い矢印の看板。どうやらこの先に目的の酒場があるらしい。黒衣の人物の話によれば協力者がいるらしいが。
その協力者たちは一体はどれほどの実力者なのだろうか想像を膨らませながら、その矢印の方向に向かった。
矢印の先は階段であり、先を進むとクリスタルの光が輝き放つ酒場が姿を現した。仕切りも扉もない、天然の酒場に目を奪われる。
同業者は複数人。酒を飲んだり、魔石を賭けた遊戯までやっている。机も椅子も複数ずつ設けられており、空いてるのは端の方だけ。そこに向かうべくアイズと移動する。
「ん?お前は【剣姫】と……りゅ、竜殺し!?」
端のテーブルに設置された椅子に座っていた獣人の少女がラグナの顔を見て叫ぶ。いや、それところじゃなく腰まで抜かしている。まるでお化けでも見たような反応に困惑する。
いや、それだけじゃなく周りの同業者の様子もおかしい。こっちを見る視線が強くなったような、単純に驚いているだけなのか、それとも別の理由か。
「す、すまん。取り乱した……こんなところで会うとは思わなくて、つい。隣に座ってくれ、一杯奢るよ」
「は、はあ……」
未だに焦ったような声色に困惑しながらラグナとアイズは隣の席に座る。近づいてくるドワーフの店主、どこか周りの視線が一層と強くなる。
「『ジャガ丸くん抹茶クリーム味』」
アイズが合言葉を店主に伝えた瞬間。隣の席がひっくり返る。そして周りの同業者たちが全員立ち上がる。
「お、お前らが援軍なのか……!?」
獣人の少女の声は先程より震えている。もしかしてだが、この少女が今回の協力者なのだろうか。そう考えていると周りの同業者も席から立ち上がる。
先程まで視線を隠していたが、今度は堂々とこちらを見つめている。そのことに身構えるアイズとラグナ、その同業者の中から一人の女性冒険者が近づいてくる。
フードを外し、
その美女の存在はラグナも知っている。【
都市だけじゃなく世界にも名を轟かせる『
「……本当にあなた方が援軍なのですね?」
「はい、貴方も依頼を?」
「ええ。この駄犬のおかげで、面倒な依頼を処理する羽目になりました」
「ご、ごめんよー」
重たい溜息。その眼鏡の奥の碧眼は曇っており非常に疲弊しているようだった。犬人が怯える中、ラグナとアスフィの視線が合う。
「……【剣姫】の貴方が援軍なのはとても心強い。ですが彼は【ランクアップ】したばかりの冒険者。これから向かう24階層に通用するのですか?」
至極当然の問い。これからお互いに命を預けることになるのだ。援軍として入った冒険者に足を引っ張られればたまったものじゃない。
「大丈夫……だと思います。24階層の怪物ならラグナは対応できる」
18階層までの道のり。そこで観察したラグナは予想以上に強くなっていた。それこそアイズの冒険者の常識を覆すほどに。
動きも、能力もレベル2の中堅ほど。問題があるとすれば知識面と経験だろう。知識面に関してはアイズが補うことができて、経験に関してはパーティーで補完できるもの。
第一級冒険者のアイズの言葉にどこか疑問を持っていた同業者たちは視線を和らげた。百戦錬磨の冒険者がそこまで言うなら大丈夫なのだろうと。
「……人手が増えることはこちらとしても助かります。よろしく【剣姫】、そして竜殺し」
差し伸べられた手を握り、握手を交わすアイズ。ラグナも同じように握手をする。すると周りの同業者たちが笑みを浮かべながら近づいてくる。
「お前が『
「えーと、そこまで大したものじゃないですけど……その情報もう出回ってるんですね」
「ああ、もうリヴィラの街中に広がってるぞ」
肩を叩かれ【ヘルメス・ファミリア】の団員と言葉を交わす。ラグナの【ランクアップ】の情報がギルドに張り出されたのが今朝のこと。
既にリヴィラの街まで情報は出回り、噂となってると聞いてラグナはこれまで以上に絡まれそうだと嫌な想像をする。
神々の追いかけっこ。身体能力に優れている冒険者でも逃げ切ることができなかった。神の勘とでもいうのか、逃げ切れたと思ってもすぐに場所を特定されたのだ。
改めて変に名前が挙がることでこういうリスクもあることを再確認した。
「今日は先輩の俺たちを頼れよ。ここのメンバーの多くはレベル3だし、24階層は楽勝さ」
「レベル3……それなら安心ですね」
冒険者の言葉に目を剥く。レベル3の冒険者が多数在籍するファミリアなど両手で数える程度しか存在しない。
現在のファミリアでトップなのは二大派閥であり、その下が【ヘファイストス・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】などが入る。
もしかしたら【ヘルメス・ファミリア】もその中に入ってくるほど実力があるのかもしれない。
その後アスフィをリーダーとして情報交換、役割の分担が行われていく。
「──ラグナさんは前衛を任せても」
「大丈夫です」
中衛にはアスフィなどの戦力が入るためラグナは必然的に前衛になる。必然的に戦闘回数も多くなり、危険にも陥りやすい役割だが、一番慣れている役割に振られて安心する。
何より前衛にはアイズもおり、第一級冒険者が隣にいる安心感は18階層までの道のりで体験済み。
慣れた様子で役割を振っていくアスフィに感心しながら、同業者は荷物を背負い出す。
「それでは買い出しを終えて、出発します」
アスフィの言葉で冒険者の集団は酒場から出て、必要な道具類を調達しに向かった。
⬛︎
買い物を終えたパーティーが24階層を目指し進行する。19階層『大樹の迷宮』、状態異常の
19階層に進出して、毒をもらってリヴィラの街に蜻蛉返りする冒険者が後を絶たないほど、状態異常特化の迷宮だ。
進行しながら援軍として入った冒険者。二人の動きを全員が注目する。
第一級冒険者であるアイズ・ヴァレンシュタインは元より、その名声も実力も世界に轟いているため心配はない。
心配なのは黒髪の少年。レベル1で
神々も冒険者も気にならないわけがない存在。そして前衛が怪物と接敵する。
『オオオオ──!』
バクベアー。熊型の怪物が五体続いて姿を現す。2M以上の巨体、鋭い爪による攻撃、そのデカさに見合わない敏捷性を兼ね備えた怪物である。
接敵と共に駆け出すのはアイズ。銀の剣の一振りで熊を解体する。あっという間の絶技に目を奪われる。
続いて黒髪の少年が黒剣を引き抜く。敏捷性の高い爪がラグナの接近より先に放たれる、だがその爪の上に飛び乗り、そのまま怪物の胸に肉薄する。
超近距離で魔石を狙った一撃必殺。それによりバクベアーは消滅する。怪物の攻撃を完全に予測して利用した動きは最近までレベル1だった冒険者とは思えない。
「……あれが英雄候補」
たった一戦。それだけで実力に疑問視していたパーティーメンバーを黙らせる。今日発表された【ランクアップ】の情報。つまりまだレベル2として間もないはず。
それでもレベル2中堅、いや上位に届くほどの能力。戦いの機転も申し分なく、レベル3だらけのパーティーでも問題なく機能する。サポーターがバクベアーの魔石を拾い、また進み始める。
⬛︎
(……あっという間に24階層か)
今日だけで到達した階層記録を大幅に更新してしまった。
24階層に突入してから怪物の数も多くなり、苦戦するかと思ったがパーティメンバーが頼もしく、誰も傷を負うことなく辿り着けた。
このパーティーのほとんどがレベル3の実力者。24階層の基準を余裕で満たしており、そこに第一級冒険者のアイズや第二級冒険者のアスフィまで加われば過剰というもの。
だが今回の目的は探索ではなく依頼。難易度が測れない以上、どれほどの戦力があっても不安はあるものだ。
(それにしても、本当に広いな……)
19階層から24階層まで続く『大樹の迷宮』。その広さは上層と比べ物にならない。正規ルートを通っても次の階層に辿り着くのに時間を要する。
時間を考えると一日で潜って帰還は難しそうで、だからこそ中継地点にリヴィラの街があるのだろう。
「……うげぇ」
進行していると前方の通路から感じる気配にアスフィが停止の号令を出す。それに従い停止して、通路を覗くとそこには夥しい量の怪物が階層を埋め尽くしていた。
ここまで怪物が密集している姿は初めてであり、この場所に無策で突っ込めば第二級冒険者ですら餌食になるだろう。
どうするか。パーティーで話し合おうと向き直る瞬間、剣を引き抜く音が響く。
「私が行きます」
「ちょ……!い、行っちゃった」
駆け抜ける金髪の少女の姿に目を丸くする。そのまま怪物に突貫して怪物を斬り裂いていく。
『──ヴオオオオオオオオオオ!』
怪物の咆哮。視認した剣士を蹂躙するべく押し寄せる。しかし、彼女は第一級冒険者。死線を潜り抜け、器の昇華を続けた冒険者。その一閃にて怪物を両断していく。
圧巻、圧倒。これが第一級冒険者の力。訓練していた時とは違う。怪物を殺すためだけに特化した剣。それはラグナが追い求めても辿り着けない領域。
彼女だけの絶技に見惚れることはできない。いつか彼女を追い抜くほど強くならねばならないのだから。だから静かに観察する。彼女の技術、その一端でも盗めるように。
「───終わり」
剣を鞘に仕舞って、戦闘終了を告げる。怪物の魔石、戦利品、灰によって埋め尽くされた階層を背景に彼女は佇む。静かに自身の成長を噛み締めるように。
「お、お疲れ……怪我はないか!?」
「はい、大丈夫です」
少しの傷すら負わずに完勝。その冒険者の強さに【ヘルメス・ファミリア】の眷属たちは自信を喪失しかけており、一人でいいんじゃないかと落ち込んでいる。それほどまでの圧巻な戦闘だった。
「集まってください、一度場所の再確認をします」
パーティーが集合して地図を広げる。目的地である食糧庫は三つ存在する。
南西、南東、そして北。地図に印がつけられており、それを確認すると途方もない広さだと改めてわかる。
「どこに向かうんだ、アスフィ?」
「怪物が押し寄せてくる方向に向かいます。今回の問題は怪物の大量発生、それならば怪物が多く出現している方に向かえばいい」
その説明に確かにと頷く。機転、知恵、指揮能力。戦闘能力まで高いアスフィに【万能者】という二つ名がここまで似合う冒険者はいないだろうと思う。
「……アイズさんは、今回の件。何が原因だと思いますか?」
「わからない。食糧庫から大量発生しているだけなのか、それとも……別の何かが原因なのか」
予想がつかない。もう食糧庫に辿り着く、ラグナはより一層気を引き締める。アスフィの号令によりパーティはもう一度歩き始める。
怪物の軍隊が現れた方向にしばらく進む。そしてパーティーはそれを目撃する。
「……なんだ、あれ」
ラグナの呟きが響く。アイズたちの進行方向を塞ぐ肉の壁。それは植物のようにも、肉のようにも感じるもので嫌悪感を感じざるえない。
迷宮探索を始めて一ヶ月も経たないラグナが初めて気持ち悪いと思った。それはラグナだけじゃなくアイズや他の団員たちも同じようで、全員が驚きをあらわにしていた。
「ルルネ、道は合っているのですか?」
「あ、合ってる。間違いなく合ってるはずなんだ……」
「……他の経路も調べます。ファルガー、セイン、他の団員を連れて分かれてください。異常があればすぐに引き返し報告を」
的確な指示を飛ばし、パーティーが分かれる。ラグナ、アイズ、ルルネ、アスフィの四枚がその場に留まり、壁や地面を探索する。
「……魔法だったら破壊できるか?」
「ええ、ですが……他の通路が空いてるならそこから入った方が得策です」
未知の何かが、この肉壁の先から現れないとも限らない。できるだけ慎重な策を取り進む必要がある。
「アスフィ……他の通路も同じだ。塞がってやがる」
帰ってきた冒険者の言葉にアスフィは静かに情報整理を行い思考を巡らせる。そして答えを得たように目を見開いた。
「なるほど。今回の件は単なる怪物の大量発生ではないようですね」
「ど、どういう?」
「食糧庫には多くの怪物が餌を求めてあらゆる階層から集まります。ですが、このように道が塞がっていれば……」
「別の食糧庫に移動する……怪物の大移動……」
「ええ。腹を空かせた怪物が冒険者たちが探索する通路まで大移動を行った結果が、この怪物の大量発生の正体でしょう」
アスフィの推理に団員たちが納得する。単なるダンジョンの異常事態ではなかった。では怪物の大移動の理由となった、この肉壁はいったいなんだ。
「……調査しなきゃだよな」
黒衣の人物の依頼内容を改めて思い出す。それは大量発生した怪物の掃討と原因解明。この食糧庫を塞ぐ肉壁について知らなければ、もう一度怪物の大移動が発生する。
とはいえ、この先に進むことは大きな危険性が伴う。ラグナはもちろん、アイズすら知らない何かがあるかもしれない。冒険者全員に緊張感が走る。
「一応、門みたいのがあるけど……」
「……斬る?」
「物騒すぎだろ……」
「いえ魔法を試しましょう、メリル」
アスフィの指示に小人族の魔導士が前に立つ。冒険者たちは肉壁から距離を取り、魔法の完成を見守る。そして魔法の呪文が終わり大火球が放たれる。
肉壁の穴。そこに向かって放たれた炎の球により燃焼していく。やがて完全に燃え尽きたことを確認してパーティーが進む。
「……修復した」
まるで何事もなかったように塞がった肉壁に思わず呟きが漏れる。冒険者たちを閉じ込めるような光景に動揺が走る。
「落ち着きなさい。脱出口はまた作ればいい話でしょう」
アスフィの言葉により低下しそうだった士気が戻る。そのまま進行を始める。
「……内部も同じような感じか」
緑壁。まるで怪物の体内にでも入り込んだようだ。背筋が凍りそうな光景に怖気が走る。そして同時に確信する。
───この先に何かがいる。
《聖火剣》を強く握りしめる。その何かを確かめるべくパーティーは先を進んだ。
内部構造はこれまでの迷宮と酷似している。壁には薄っすらと燐光が纏っており、それが灯となっているようだ。
とはいえそれだけでは光源としては頼りなく内部は薄暗い。冒険者の強化された視力じゃなければ進むのも一苦労だっただろう。
それに加えて壁や天井に生えている極彩色の花も目を引く。本当に不気味で、何度見ても鳥肌が立つ。
「……もう地図は使い物にならなそうですね。ルルネ」
「はいはい」
24階層の形状とは違う。この緑壁によって道の形状も変化しているようだった。用意してきた24階層の地図は役に立たない。アスフィの言葉にルルネが地図と筆を用意する。
「
「そうかー?一応
慣れた手つきで地図が作成されていく。迷宮の通路を記憶することは不可能であり、そんな冒険者を助けるのが地図である。
先人たちが作り上げた積み上げた命の結果。完成された地図によって冒険者は迷子に陥ることなく、計画的に探索を行えるようになった。
地図制作の技術。それは今後のラグナの目標である最下層の攻略においても必要不可欠な高等技術。その技術を持つ少女にラグナは思わず熱烈な視線を向ける。
そのままパーティーは地図を埋めながら通路を進んでいく。来た道の目印も忘れず、未開拓の領域の進め方をラグナは学んでいく。
「……怪物の死骸」
「運良く通り抜けることができた怪物でしょう、そして何かに殺された」
灰の中に落ちているドロップアイテム。それを確認してアスフィが言う。全員が武器を抜いて陣形を取る。全員の視線が通路に向く中、アイズが上を見る。
「──上」
全員の視線が上を向く。頭上に這い動く何かに全身の警鐘が鳴り響いた。
その正体はわからない。極彩色の花弁、そこから垂れていく粘液。人間の嫌悪感を刺激するためだけに作られたような異形。未確認の怪物。
──その群れが降ってきた。
『オオオオオオオオオオオオオオオ────!』
なんとか回避する中、咆哮に今までの怪物とは違う威圧感を感じる。
「各自迎撃しなさい!」
アスフィの号令。それによりその正体不明の怪物との戦闘が始まった。