主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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48話 師弟共闘

 

「【誓約代償(レギオン)】」

 

 【スキル】の発動と共に《聖火剣(ウェスタ)》の一閃が食人花の上半身を斬り飛ばす。

 

自分の身体ではないような圧倒的なパワーにより過剰殺傷(オーバーキル)が巻き起こる、これを制御するのは不可能だろうと悟りながら次々と群がっていく食人花を解体していく。

 

『誓約代償』の効果は主に三つに挙げられる。能力の倍加、感覚の超強化、自動回復(オートヒール)である。

 

能力の倍加の効果はそのままの通りで、レベル2のラグナの能力値をレベル4以上に引き上げる規格外のスキル。

 

それほどまでに上昇させる『スキル』など『誓約代償』以外にはないと断言できるほどの『希少技能(レアスキル)』だ。

 

感覚の超強化は五感や反射神経など戦闘において絶対に使う部分の強化であり、使う機会はあまりないかもしれないが嗅覚なども獣人を超えるほど強化される。

 

自動回復は受けた損傷を回復させる効果があり、ラグナが爆風で受けたダメージは全快しており、現在のラグナは最強と呼べる力を持っている。

 

それほどの力を行使するには大きな代償が必要になるが、今は考えずひたすら敵に斬撃の嵐をお見舞いする。

 

『──オオオオオオオオ!!』

 

「……っ!」

 

 だが数があまりにも多い。倍加した漆黒の魔力に群がり、百にも及ぶ触手が襲い掛かる。強化された感覚と倍加した能力で対応しているが攻撃に転じることができない。

 

現在『誓約代償』についてわかってることはあまりない。制限時間はあるのか?長時間の使用で何が起こる?もしも効果が切れた場合は本当の終わりだ。

 

何より未だに爆発音が響き渡っているすぐにでも敵を壊滅させる必要があるとラグナは思考を巡らせて結論を出した。

 

「【破滅の雷霆、不滅の聖炎、届かない英雄の幻想(かげ)】」

 

『──オオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

 四方八方を囲む食人花がさらに活性化して触手が唸り鞭のように放たれていく、一撃も喰らえば即座に蹂躙される状況にも関わらずラグナは淡々と黒剣で対処していく。

 

弾く、斬る、避ける。どんなに並行詠唱を得意とした冒険者ですら1秒も持たない状況だがラグナは顔色を変えない。

 

その漆黒の魔力を意思の力で押さえつけて、鋼の精神で並行詠唱を続行していく。

 

「詠唱……?」

 

「い、生きてるのか……!?」

 

 その歌は【ヘルメス・ファミリア】の団員たちにも届く。遠く放たれていても感じる漆黒の魔力、そして雄々しい剣撃の音。

 

あれほどの食人花に囲まれているのにも関わらず奮戦している少年を感じて、団員たちは武器を握りしめる力を強くする。

 

「──う、おおおおおおおおおおおお!」

 

 虎人(ワータイガー)の冒険者が叫ぶ。それに呼応するように他の団員たちも叫び士気を爆発させる。

 

「ラグナさん……」

 

 爆発した士気を横目にアスフィは黒髪の少年の方を向く。夥しい量の食人花が英雄候補を喰らうべく押し寄せる姿は醜く、見てるだけで怖気が走るものだ。

 

レベル4のアスフィですら容易に近づけない状況なのにも関わらず持ち堪えている少年に瞠目しながら必死に思考する。

 

視線の先には調教師らしき仮面の男がいる、この男を潰せばもしかしたら少年を助けられるかもしれない。だがその間に団員たちはどうなる?

 

その二択にアスフィは碧眼の瞳を震わせて、一言ごめんなさいと呟いて、団員たちの援護に向かった。

 

団長として団員を優先する。苦虫を噛み潰したような表情で疾走した。

 

「なんだ、どうして殺し切れない!?」

 

 仮面の不審者が叫び苛立ちを声に出す。第一級冒険者すら確実に殺せると断言できる状況だ、これを凌ぎ切ることなど不可能のはず、動揺や焦りで汗が滲んだ。

 

「──ええい、『食人花(ヴィオラス)』さっさと殺せぇ!」

 

 追加の食人花を漆黒の魔力の元に向かわせる、数に物を言わせた圧殺を量る、その仮面の男の指示に従い凄まじい速さで向かっていく異形の生物たち。

 

「【誓いはここに、終末(おわり)の刻まで駆け抜けろ】」

 

 頭上から降ってくる食人花、四方八方だけじゃなく上からの攻撃も加えることで回避不能の攻撃を仕掛ける。

 

だが一歩遅い。それより早く魔法が完成する、時が止まるような感覚の中でラグナは眦を決して、雷神(ゼウス)に影響された魔法の真名を言葉にする。

 

──最凶の雷霆(ケラノウス)

 

雷鳴が24階層……いや、中層域に響き渡る。雷の色は漆黒、普段の青白い姿とは違う雷が全身を暴れ回り、近くの食人花を穿ち上半身を消し飛ばす。

 

【ケラノウス】の特性、全能力を威力に換算させる特性がある。『誓約代償』により倍加した能力を魔法威力に変換した結果、第一級冒険者を上回る火力の魔法が降臨する。

 

「行くぞ、雷霆(クソジジイ)

 

 その瞳には怒りがあった。その瞳には炎によって燃えていた。自分のせいで仲間が死んだ。

 

少しでも知識を蓄えていれば違ったかもしれない、少しでも強かったなら回避できたかもしれない、自分の能力不足のせいで仲間を死なせた。

 

身体が痛い。あのエルフが自分を弾き飛ばした瞬間が頭に何度も蘇る。その怒りを糧にラグナは発走する。

 

全身を駆け巡る雷の付与魔法により攻撃の威力と敏捷性が別次元に強化される、その結果嵐のような剣撃が蹂躙を始めた。

 

「ぉ、うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 その光景を24階層の『食糧庫(パントリー)』に辿り着いた三人の影が見つめていた。

 

「なんですか……あれは」

 

 山吹色の髪の妖精(エルフ)が呆然と立ち尽くす。雷鳴の音に誘われて辿り着いたら鮮烈な戦闘が繰り広げられていた。

 

黒き雷の斬撃が食人花を容赦なく斬り裂き、目に追えない速度で駆け抜けていく。アイズ・ヴァレンシュタインの魔法に匹敵する強力な付与魔法、それにひたすら唖然と立ち尽くす。

 

「……竜殺し、英雄候補の力……」

 

「……ッ」

 

 二人の妖精はそれに視線が釘付けになり、身体から湧き上がる熱により心臓が五月蝿く鳴り響いた。

 

「──吠えてやがる」

 

 狼人(ウェアエルフ)の青年が雷霆を見て呟いた。あの瞳は遥か昔の自分を見てるようで痛々しく、そして傷を刺激させる。頬を触りベートは静かに苛立ちから拳を握りしめる。

 

そして食人花に指示を飛ばす仮面の男を視認してその牙を剥き出しにした。

 

「……殺す」

 

 第一級冒険者の跳躍でベートは仮面の男に接近する。

 

『──オオオオオオオオオオオオオオ!』

 

「──死ね」

 

 最後の食人花の上半身を消し飛ばした。周りを確認するも増援はないため静かに周りを見渡す。

 

「……ベートさん?」

 

 奥の方で戦闘を行っている第一級冒険者を視認する。ベートは謎の仮面の男と一進一退の攻防を繰り広げている。

 

そしてローブの男たちも勢いを完全に失くしており、今まで押し込められたのが不思議なほど完璧な対処を行っていた。

 

その後ろでは山吹色の妖精が魔法を唱えて治癒魔法を唱えており、それにより冒険者の傷が全快していく。

 

「アスフィさん!」

 

「ラグナさん……!」

 

「っ、ごめんなさい。俺のせいでセインさんが……」

 

「そのことですが……貴方が時間を稼いでくれたおかげで万能薬(エリクサー)を飲ませることができました。まだ目は覚めていませんが、生きています」

 

「──本当、ですか?」

 

 声が震えた。自分のせいで殺してしまった冒険者、それが生きてると知って苦痛の表情を浮かべていたのが消える。

 

本当なのか確かめるため、そのエルフの姿を確かめると確かにサポーターの少女に抱えられて眠っている。強化された視力から間違いなく生きていることがわかり、目が潤む。

 

「……よかった、本当によかった」

 

「っ」

 

 今日出会ったばかりの同業者をここまで思える、冒険者らしくない姿にアスフィは驚き深々と頭を下げた。

 

「ですが、まだ終わっていません。これ以上の異常事態が起こる可能性も捨てきれません。なので……」

 

「はい。……ベートさんの援護、ですよね」

 

 24階層の領域、その奥で高速戦闘で仮面の男と戦っている【凶狼(ヴァナルガンド)】の姿を見てラグナは剣をもう一度握りしめる。

 

黒き雷霆は高威力の雷を垂れ流しているせいで、燃費は良いとされる付与魔法のはずなのに凄まじい量の精神力を食う。

 

『誓約代償』が続いているとはいえ、ラグナの強さを支えているのは、この圧倒的な雷霆があるからだ。

 

これがなくなれば一気に弱体化する。そのため一瞬で蹴りを付ける必要がある。ラグナは地面を蹴り上げ合流のため疾走を始めた。

 

「オラァァァァァァァァァ!」

 

「やるな、第一級冒険者!だが『食人花(ヴィオラス)』!」

 

「チッ!?」

 

 男が手を掲げると天井に垂れていた蕾が開花して数体の怪物が産まれ落ちた。そのまま仮面の男の指示の通りにベートを挟撃しようと蠢く。

 

複数の触手が襲いかかるがそれを双剣で両断、だが体勢が崩れた一瞬の隙を仮面の男は逃さずに追撃する。さらにはもう一度触手の攻撃が襲い掛かろうとする中で霹靂の一撃が阻止する。

 

「ベートさん!」

 

「……ハッ、行くぞ、()()()

 

「はい!」

 

 助けられたお礼など言わない。ただベートの表情はどこか晴々としており、尻尾がゆっくりと揺れている。

 

冒険者になって一ヶ月も経っていない冒険者が隣に並んでいる。酒場で雑魚と罵倒して発破を掛けた冒険者が命を張っている。

 

それは仲間を守るため、偉大なる使命のため。いや、そんなのはどうでもいい。ただ今はこの感情と共に駆け抜ける。

 

「──寄越せ、ラグナ」

 

 発走の直前にラグナに纏わりつく雷霆に脚を近づけその雷を頂戴する。《フロスヴィルト》というベートの装備であり、ミスリルで作られた装備の特殊効果は魔法効果の吸収。

 

黒き雷霆が吸い込まれ、そのメタルブーツを纏う。暴れ回る雷霆にベートは牙を剥き出しに笑いながら、ラグナと共に地面を蹴り上げた。

 

第一級冒険者とそれに負けない能力値まで上昇したラグナの二人に囲まれた仮面の男は動揺していた。

 

それもそうだ。あの黒髪の怪物、アイツはあれほどの食人花に囲まれながらも無傷で生還したのだ。第一級冒険者でも不可能な偉業を成し遂げた雷霆に天井の蕾を次々と開花させる。

 

『──オオオオオオ!』

 

 産まれ落ちる食人花をベートの双剣が、ラグナの黒剣が即座に両断する。そのまま圧倒的な速度のまま仮面の男に接近を果たし攻撃を開始する。

 

「るぉおおおおおおおおおお!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ぬ、ぬぅぅぅぅぅ!?」

 

 双剣と黒剣の容赦ない斬撃。そこに連携なんて物は存在しない。ただただ自分の力を相手にぶつけるだけの獣の猛攻。

 

ラグナは一歩下がり、剣に雷霆を溜める。危険だと直感した仮面の男が阻止するべくラグナに殴りかかるがそれをベートの双剣が阻止する。

 

そしてラグナは特大の雷を解き放った。魔剣のように放たれた一撃、それを緊急回避した仮面の男。

 

───だが。

 

「──ハッ、雑魚がやるじゃねえか」

 

 その特大の雷の本命はベートの《フロスヴィルト》だ。ラグナの技と駆け引き、そして能力では詰めきれないと判断した結果、師匠であるベートに雷を託す。

 

その咄嗟の連携に対応したベートは雷霆が《フロスヴィルト》だけじゃなく、身体にも纏わり付いたことに瞠目しながら、獰猛な笑みを浮かべて走った。

 

「──死ね」

 

「う、おおおおおおおおおおおお!?」

 

 第一級冒険者のベート・ローガにラグナの雷霆が合わさり凄まじい破壊力が生み出される。両腕でガードされたものの、確かな手応えをベートは感じる。

 

そのまま壁に吹き飛んでいく仮面の男。一瞬で終わった戦闘に誰もが目を奪われる中でラグナは膝を付いていた。

 

「……精神摩耗(マインドダウン)か」

 

 仕方なく雷霆を解除して息を吐く。ここまでずっと戦い続けて疲労が蓄積している。視界が歪み汗が滲む中で2本の回復薬が目の前に転がってくる。

 

「飲め、まだ終わってねえ」

 

「……え?」

 

 そんなはずがと砂埃が舞う壁に視線をやる。するとそこから老人のような白髪が現れたのだった。

 

「──惜しかったな」

 

「……チッ」

 

「……嘘だろ」

 

 咄嗟の連携だったがそれでも強烈な一撃だったはず、普通の人間なら間違いなく再起不能になるほどの攻撃だった。なのに平然と立っている男に全員が息を呑んだ。

 

男の仮面は壊れ、その素顔を顕にしており、その姿を見た一人の妖怪が身震いする。

 

「……オリヴァス・アクト!」

 

 アスフィたちと共にいる黒髪の妖精フィルヴィスが人名をこぼす。それに【ヘルメス・ファミリア】の団員たちは限界まで目を見開く。

 

「オリヴァスって……【白髪鬼(ヴェンデッタ)】か!?」

 

「なんで……死人がここに!?」

 

 張り裂けそうな声が響き渡る。未だに状況が呑み込めていないラグナは上位回復薬と精神力回復薬を口にして回復させる。そして警戒も忘れずにベートと睨みつけながら。

 

「し、死人って……」

 

「オリヴァス・アクト。悪名高き闇派閥(イヴィルス)の使徒、そして27階層の首謀者。既に主神も送還され、件の事件で怪物に喰われて死亡しているはず」

 

「ああ、そのその通りだ。俺は怪物に喰われそして蘇ったのだ」

 

 誇らしそうに自身の腕を触る。恍惚したような笑み心酔した信仰者の顔つきに嫌悪を抱いていると、ベートの一撃により傷ついた胸から極彩色の何かが見えた。

 

──魔石。

 

怪物の核である、それが人間の胸に埋まっている。そのことに全員が顔を青くして、オリヴァスは見せつけるように胸を張った。

 

怪物と人間の混成種(キメラ)にラグナとベート以外の冒険者が顔を青くして動揺する。

 

「貴方はなんなんですか!」

 

「人とモンスターの力を兼ね備えた至高の存在だ!神々の恩恵に頼るだけの冒険者がどうして私に勝てる?」

 

「……貴方は闇派閥の残党ですか?」

 

「はっ、私はあのような神々に踊らされる者とは訳が違う」

 

 ローブの男たちの爆死体、それを見てオリヴァスは言った。ローブの男たちは闇派閥の一員なのだろうと推察が付く。

 

暗黒期から闇派閥が消えていなかった、まだ残党がいることにアスフィが静かに唾を飲み込む。

 

「……ここはなんなんですか」

 

苗花(プラント)だ。食糧庫にモンスターを寄生させ、食人花を量産させる。深層のモンスターを浅い階層で増殖させ、地上に運び出す。そのための中継地点」

 

「つまり、調教師である貴方が連れてきたモンスターを使役して、この領域を作り出したと?」

 

「違うな、私は調教師などではない。食人花(ヴィオラス)も、私も彼女から作り出された同族だ。彼女の代行者として私の意思に従っているだけだ」

 

「──彼女?」

 

 ペラペラと情報を話すオリヴァスに全員が違和感を覚えながらその情報に目を剥く。

 

食糧庫の栄養、それを使い増殖させて地上に運ぶ。その結果起こるのは混乱と蹂躙、そして混沌だろう。

 

恩恵を持たない人間、もしくは下級冒険者は太刀打ち出来ずにただひたすら怪物の餌となる。古代の時代と同じような暗闇の時代が訪れる。

 

「なんで……そんなことを」

 

「──オラリオを滅ぼす」

 

「────」

 

 その目的を聞いて静寂に包まれる。

 

「彼女は願っている!空を目にしたいと!」

 

「彼女は望んでいる!空を手にしたいと!」

 

「そのためには、大穴を塞ぐ都市を滅ぼさなければならない!」

 

「私は選ばれた!彼女の手によって第二の命を与えられた!」

 

「──ならば私も彼女の願いを叶える、いや成就させてみせる!」

 

 完全な心酔。その彼女と呼ばれるナニカに空を捧げるために都市を滅ぼす、そう言い放つ男に背筋が凍りつく。

 

「──御託はいい、おめえはくたばれ。どうせ碌に動けねえんだろ?」

 

「はは、バレていたか。そうだ私はもう碌に動けない状況だ──私はな」

 

 男の視線が大柱に巻き付く巨大な怪物に向く。ラグナとベートが阻止しようと発走する。だがそれよりも早く男が片腕を掲げた。

 

「やれ──巨大花(ヴィクスム)

 

 




【ケラノウス】はある一定値の能力まで上がると姿が色が青白さを失い、漆黒に染まります。その分威力と機能が拡張されます。
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