主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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五話 医神

 

 

「メーテリア……?」

 

端正な顔が歪み、誰かの名前を呼ぶ。その名前は聞いたことがある。ベルのお母さんの名前だったはずだ。ベルと同じ白髪と、病気を患っていた人。一度ゼウスに話を聞いたことがある。

 

身体の弱いベルの母親が、少しでもベルと暮らさなかったのには理由がある。それは『黒龍』の討伐に失敗した、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】は世界中から恨まれたからだと。

 

最強の冒険者の【ファミリア】だが、一度の失敗で世界中から敵視されるようになった。そして唯一の生き残りのメーテリアにも悪意が晒されたらしい。

 

このままじゃ、ベルにも悪意が向けられる。それを危惧したメーテリアがゼウスに預けたと。

 

その話をしていたゼウスの表情は、本当に酷かった。その時の光景を思い返すように。メーテリアはゼウスに言ったらしい。健やかに育ててほしいと。

 

だが不幸にもベルは病を受け継いでしまった。

 

ゼウスは迷っていた。このままベルは山で過ごして幸せになれるのか。もちろん、幸せなんて訪れない。ベルの病気はじわじわと、命を枯らしていくだろう。

 

迷宮都市に来て。ベルをミアハ様に見せようとは思っていた。それがこんな形で見せることになるとは思わなかったが。

 

「……やはり、あの子と同じか」

 

「何か、分かりましたか?」

 

「いや、正直に言おう。この病気は医神である私にも治せない」

 

「君でも、治せないのかい!?」

 

ミアハ様は、横になっているベルの背中から肺の辺りを触る。少しすると、ミアハ様は断言した。この病気は治せないと。ヘスティア様は驚いていたが、俺は分かっていた。

 

普通。病気が恩恵に定着することなどありえない。だがベルの場合は恩恵にまで反映されている。『スキル』を消すことは神でも出来ない。もしも、出来るとしたら神の力(アルカナム)を使わずには無理だ。

 

医療の神すらお手上げの下界の未知。

 

なら恩恵を授けなければいいと俺は思っていた。でも時間がなかった。ベルの命は、既に枯れようとしている。

 

恩恵は身体能力の強化だけじゃない。レベルを上げていくことに、神に近づいていく。とはいえ神の力を手に入れるようなことはできない。あくまでも近づくだけだ。

 

でも近づいていくと寿命が伸びていく。人間には考えられないほど、長生きすることも可能だ。病気に侵されたベルの身体でも、寿命はある程度伸びる。

 

今のベルに残された時間は十年ほどだろうか。レベルを上げれば、それだけ寿命は伸びる。その短い時間の間に病気を治す薬を手に入れないといけない。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私の名前はミアハ。よろしく頼むよ」

 

「ラグナです。よろしくお願いします!」

 

軽い自己紹介を済ませて俺は考える。俺の目標には、神様の協力が必要不可欠だ。俺の原作知識は17巻までだ、18巻の知識は持っていない。17巻の最後は、【フレイヤ・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)することになったと記憶している。

 

そこまで生きていられるかわからないが。ヘスティア様の力は絶対に必要だった。

 

そしてミアハ様。オラリオでも珍しい医神。してほしいことが一つだけある。

 

俺はヘスティア様とミアハ様に、話があると言って上に連れ出した。この話はベルに聞かれるわけにはいかない。

 

「話したいことって、なんだい?」

 

「俺がオラリオに来た理由はベルを治すためです。これは知ってますよね」

 

「うん、なんとなくだけどね」

 

ヘスティア様は、俺の瞳を真っ直ぐに見つめて頷いた。ミアハ様は黙って、俺の言葉を聞いている。そんな二人の目を見て、俺は話す。

 

「ダンジョンの70階層以降に、ベルのことを治せる薬があるらしいです」

 

「ダンジョン、70階層……?」

 

俺の言葉にヘスティア様は首を傾げた。今の【ロキ・ファミリア】の最高到達階層は、60未満。俺は都市最大派閥の到達階層を超えると、言ったようなものだ。改めて無理難題だと自笑する。

 

英雄級の冒険者でも辿り着いていない領域。そこに俺は最速で向かう。並いる英雄でも、困難な道だ。というか【スキル】も【魔法】もない今の俺が、最下層を目指すなんて、馬鹿げてる。

 

それでもやるしかないのだ。やらないとベルは死ぬ。強くならないと、『黒龍』によって世界は滅ぶ。

 

世界は英雄を求めている。俺は最後の英雄にならなければいけない。

 

神様だから嘘は通用しない。俺の言葉が嘘じゃないと知って、ヘスティア様は真剣な表情で口を開いた。

 

「──君は、あの子のために。全てを費やすつもりかい?」

 

「はい」

 

「死ぬかもしれない。もっと酷い目に合うかもしれない。それでも?」

 

「それでも──精一杯やってみます」

 

今ここに、主人公なんてかっこいい人間はいない。人を助けて、少しずつ強くなっていった英雄(ベル・クラネル)はいない。いるのは才能のない一人の冒険者だ。

 

代わりになんて到底なれない。ベルのように人を惹きつける才能はない。ベルのように次代の英雄としての資格はない。でも全てを賭ける覚悟はある。

 

「……ボク。君とベルくんが初めての眷属なんだ。ボクは君を死なせたくない。もちろんベルくんだって、そうさ。でも、君は覚悟しているんだね」

 

「はい」

 

「ボクは支えるよ。君の覚悟は受け取った。ボクに出来ることはなんでもしよう。だから約束してくれないか?──死なないでくれ」

 

「…………頑張ります」

 

「うん。今はその返事で十分だよ」

 

ヘスティア様は、俺の頼らない返事を聞いて笑った。正直自信がないというのが本音だった。俺は改めて言うが、死なないと断言出来るほど強くない。

 

「それで、ラグナよ。君は私に何を求める?」

 

俺の話を聞いていたミアハ様が口を開く。この話を聞かせたということは何かさせたいことがあるのだろうと。ミアハ様は見抜いていた。実際、俺は頼もうと思っていたことがある。

 

「ベルの身体の発作を抑える薬を作ってほしいんです」

 

「……どういうことだ?」

 

「実は今日、ベルの【魔法】を見ました。凄まじいなんて言葉じゃ表せないほど強力です。それこそ上層の怪物は、ベルの相手にならないぐらいに」

 

「まさか、あの子をダンジョンに連れて行くのか?」

 

大きく目を見開いたミアハ様。まあ、それもそうだろう。俺はベルと共にダンジョンに潜ることを諦めていない。というか、ベルの助けがないと無理だ。

 

福音(ゴスペル)】の魔法は、音速で敵を砕く。俺が危ない時は、すぐさま音速の魔法が飛んでくるのだ。心強いことこの上ない。

 

もちろん、ダンジョンで発作が起きると。それは致命傷だ。でもそれを抑えることが出来たら、絶対に強力な力になる。

 

「お願いします。ベルに薬を作ってください」

 

「…………」

 

「ボクからも頼むよ、ミアハ。ベルくんに薬を作ってあげてくれ」

 

俺とヘスティア様は並んで頭を下げる。これを頼むことが出来るのは、ミアハ様だけだ。あと作れる可能性があるのは【戦場の聖女(ディア・セイント)】だけ。ミアハ様が作ってくれないなら、あの人に頼む他ない。

 

でも出来るなら、この神様に作ってもらいたい。原作でも、赤字になりながら回復薬を配っていた善神。ヘスティア様と同じように、眷属を大切に思っているいい神様だ。

 

「作るだけ、作ってみよう」

 

「本当ですか!ありがとうございます!!」

 

「ありがとう、ミアハ!」

 

その言葉を聞いて、俺は心の中でガッツポーズを取る。ミアハ様なら受けてくれると信じていた。

 

「時間は掛かるだろう。それでもいいのか?」

 

「はい。作ってみてもらえるだけで、嬉しいです」

 

「そうか。私は一度ホームに戻る。また会おう、ラグナ、ヘスティア」

 

「うん、またね。ミアハ!」

 

「ありがとうございました!」

 

俺とヘスティア様は、ミアハ様をお見送り。教会の中に帰っていった。

 

⬛︎

 

 

ミアハは思い出す。白い雪のような少女との出会いを。

 

あれはミアハが【ファミリア】を結成したばかりの時。都市最強が【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】だった時だ。今と変わらずに、回復薬を作っていた。

 

その時は太陽が、燦々と輝いていた日だった。その日はたまたま、天界最悪の女神ヘラと出会ってしまったのだ。

 

長い黒髪に、美神にも負けない美貌。でもどこか近寄り難い雰囲気を纏う神。ミアハもヘラとだけは関わりたくなかった。

 

『お前は医神だったな、付いてこい』

 

鋭い瞳で睨み付けられたミアハは頷くことしかできなかった。連れられた【ヘラ・ファミリア】のホームで、ミアハはメーテリアと出会った。

 

『ヘラ様……?この方は?』

 

『医者だ、診てもらえ』

 

『まあ、メーテリアです。よろしくお願いします』

 

その少女は細かった。いや細いなんて段階(レベル)ではなかった。一人で歩けないほどに筋力は発達していない。その理由はベッドで一年中過ごしていたからと気付くのに時間は掛からなかった。

 

医神として、様々な病気と対面してきたミアハ。でもメーテリアの病気は診たことがなかった。絶対にどんな病にも治療法がある。だが、一向に見つからなかった。

 

ミアハがメーテリアに出来たのは、痛みを和らげることだけだ。恨まれても仕方ない。そう思った。

 

でも彼女は薬を飲んだ後、決まってこう言った。

 

『いつも、お薬ありがとうございます。なんだか、薬をもらってから良くなってきた気がします』

 

神には嘘は通じない。メーテリアは嘘を吐いていた。本当は良くなってなんかいないのに、嘘を吐き続けていた。でも、あの笑顔は。太陽のような明るい笑顔は嘘じゃないと信じている。

 

数年後。『黒龍』討伐にゼウスとヘラが失敗した数日後。彼女は呆気なく命を散らした。

 

「すまない、時間はあるか?」

 

太陽は完全に沈み、星が空を泳ぐ時間。ミアハは、ある治療院に来ていた。

 

「なんでしょう……ミアハ様!?」

 

「ああ、アミッド……ますます美しくなったな」

 

「そ、そんなこと……何か用事が……?」

 

「ああ、ディアンケヒトと話がしたい。頼む」

 

オラリオでも最高の治療院【ディアンケヒト・ファミリア】。そのホームにミアハは、覚悟を決めた表情でアミッドに頼んだ。

 

今からすることは償いなのかもしれない。あの子の生き写しを助けて、メーテリアに償おうとしているのかもしれない。それでも、何も出来ずに見殺しにすることはミアハにはできなかった。

 

 




たくさんの評価ありがとうございます。
ランキングにも載って、びっくりしました。
まだまだ至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします。

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