主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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50話 代償と覚悟

 

 

 苔が生えて罅割れている教会を背にして黒髪のツインテールを揺らしながらヘスティアは頬を膨らませて、送られてきた手紙を読み返す。

 

その内容はある依頼を受けたので帰るのが遅くなるかもしれません、心配しないでくださいというもので、心配するに決まってるだろうと怒りで手紙をくしゃくしゃにした。

 

彼はいつも一人で飛び出してしまう。それは願いのため、強くなるため。それを支えることをヘスティアは誓っている。それでも自分にできているのは『ステイタス』更新ぐらいだ、もう少し何か自分に出来ることはないのか探す日々だが、神の力(アルカナム)が封じられている今じゃ何もできない。

 

情けない主神でごめんよぉと口にしてヘスティアは空を見上げる。既に辺りは真っ暗であり夜中になろうとしている。もうすぐラグナとベルが自分の眷属になって一ヶ月が経つ。さまざまな出来事に巻き込まれている彼を助けてあげたい。

 

「……ラグナくん?おーい、ラグナくん!」

 

 遠くから姿を見せた黒髪の少年にヘスティアは勢いよく走り出して、そのままラグナの胸に飛びつく。それを受け止めながら目を丸くするラグナは乾いた笑みを浮かべた。

 

「遅いじゃないか!全く、一体どんな依頼をこなしてきたんだい!?」

 

「あはは、突然異常ばっかりで大変でした」

 

「……珍しいね、君が疲れた顔を見せるなんて」

 

 ラグナが疲れを見せるのは【フレイヤ・ファミリア】が行っている『洗礼』から帰ってきた時ぐらいなもので、相当な戦いを経験してきたことがヘスティアにはわかった。

 

「でも、どうして急に依頼なんて……今まで冒険者依頼(クエスト)は受けたことなんてなかったよね?」

 

「それは……たまには挑戦してみようかなって」

 

「……何か隠してる?」

 

 ヘスティアの指摘にラグナは僅かに表情を硬くした。だとしたら一体どんな隠し事だろう。このまま問い詰めてもいいが、それだと尋問のようになってしまう。それはヘスティアとしても嫌なので彼が自分から話してくれるのを待つことにする。

 

教会に入り、地下室の階段を降りる。ベッドに二人で座り、顔を見合わせる。しばらく沈黙が地下室に流れ込み数分が経過する。ラグナは静かに顔を見上げて決心したように口を開いた。

 

「……ごめんなさい、ヘスティア様。心配させたくなくて言えなかったんですけど」

 

「うん、なんだい?」

 

「……【誓約代償(レギオン)】を使いました」

 

「────ッ」

 

 思わず口に手を当ててヘスティアは凍りついた。黒髪の少年が最初に発現させた【スキル】である【誓約代償(レギオン)】は『能力倍加』『感覚の超強化』『自動回復』という凄まじい効果を得る代わりに魂が摩耗するという諸刃の剣。

 

それを多用すれば魂が壊れ、その場でラグナは死亡して、輪廻転生の輪に入れなくなり来世などがなくなる。ヘスティアは顔を青白く染めて手足を震えさせた。

 

どうして使ったんだ。それほどの危険な依頼だったのか。なんで頼ってくれなかった。様々な思考が駆け巡る中でヘスティアは黒髪の少年の瞳を見つめる。

 

「……聞かせてもらえるかい。今日何があったのか」

 

 主神として事情を知らずに責めることも怒ることも違う。まずは話を聞かなければ何の話もできない。蒼の瞳に見つめられてラグナは頷き語り始める。その内容を聞いていたヘスティアは顔を何度も青くして、最近は平気だった胃が痛くなった。

 

まず18階層という領域に向かったことはいい。隣にはロキの眷属()である第一級冒険者がいたので危険はないからだ。だがそこから【ヘルメス・ファミリア】の眷属と共にパーティを組み始めて24階層の最奥に向かう道中から話がおかしくなった。

 

なんでも最近『怪物祭』でも出現した食人花という怪物と相対したのだという。その怪物の強さは24階層に出現する怪物とはレベルが違い、レベル3の冒険者たちでも楽勝に片付けられないほど。

 

弱点が斬撃だったのが幸運でレベル2のラグナでも応戦できたが武器が一級品の《聖火剣》じゃなかったら生き残れなかったと語るラグナにヘスティアは顔を青くして、神友であるヘファイストスに感謝の念を捧げた。

 

問題はここからだ。ようやく辿り着いた24階層の最奥である食糧庫。そこで戦闘になったローブの集団が爆発物を使用した自爆特攻を行い、一人の妖精がラグナを庇い大怪我を負ったこと。その直後に食人花の群れが現れたことでラグナは切り札である【スキル】を使用した。

 

それは自身の命を守るため、そして共に戦う仲間を守るため。【スキル】の使用と【魔法】の使用により聞いてるだけで気が遠くなりそうな戦いを繰り広げたという。

 

「……それで」

 

「まだあるのかい!?」

 

「そう、ですね。ここから怪人とか、新しい新種の怪物とか……」

 

 その後も続くラグナの戦い。これが今日一日で起こった出来事なのが信じられないとヘスティアは何度も絶叫しそうになった。それでも真剣な眼差しで、その話を聞く。

 

人間と怪物の混成種、巨大花なんてものの話も出てきた辺りでヘスティアはいよいよ吐きそうになった。そんなの間違いなくとんでもない地雷案件で生半可な覚悟で首を突っ込める問題じゃない。

 

それだけじゃなくラグナ本人の魂の問題もある。魂の僅かな傷は肉体に影響を及ぼす可能性が大いにある。

 

五感の消失。機能不全。寝たきりにすらなる可能性だって十分にある。そして魂は回復することが不可能であり、一ヶ月の間にその切り札を二回も使用したことはとんでもないことである。

 

「……身体に異変はあるかい?」

 

「リヴィラの街で回復薬を飲んだので傷とかは大丈夫です。疲労感はありますけど」

 

「回復薬を飲んだ時、味覚はあったかい?」

 

「は、はい。ありましたけど……」

 

「今のところ異変は起きていないようだね……それじゃあボクの匂いを嗅いでみて、どんな匂いがする?」

 

「花の匂いがします……けど」

 

 どうやら五感には何の異変もなく他の場所も影響は及ぼしていない。そのことにヘスティアは安堵する。ラグナは何が何だかわからない表情をするがヘスティアは思考を巡らせていた。

 

ラグナが依頼に同行して怒涛の戦いを繰り広げた新種の怪物と神々ですら予想外の怪物と人間の混成種である怪人(クリーチャー)。冒険者や戦闘についての知識が乏しいヘスティアも、その怪物たちに恐れ慄いてしまった。

 

「……一応聞いておきたいんだけど、君はこの件に関わるつもりでいるのかい?」

 

 そして何より一番ヘスティアが恐怖しているのは、この問題についてラグナがどういう行動を取るのかということだった。その質問にラグナは即答できずに沈黙が流れる。

 

今回の戦いでラグナは【ヘルメス・ファミリア】の妖精の前衛を殺しかけた。運が良く助かっただけで、自分のミスが人の死に繋がりかけたのは間違いなく未だにラグナの脳裏に焼き付いている。

 

経験不足、知識不足、能力不足。あらゆることが足りてないと痛感している今は簡単にソード・オラトリアの物語に関われないと考えていた。

 

「……どうすればいいと思いますか?」

 

「……ボクは下手にこの問題に関わるのは危険だと思う」

 

 敵の戦力すら把握できていない、情報が圧倒的に足りない。そんな状況で下手に薮を突けば何が出てくるかわかったものじゃない。現在の【ヘスティア・ファミリア】は零細から少しずつ脱却してきたところで、主神も含めて全員が新米。

 

経験不足のファミリアが歴戦練磨の都市最大派閥に関わったとして問題が解決することはなく、むしろ死亡の危険が高まるだけだ。ラグナだけ関わる選択をしたとしても、戦闘には【スキル】の使用が前提になる。

 

そんなことすればラグナの魂は砕け即座に死ぬ。それをラグナ自身も理解している。

 

「何より君が下手に関わればベルくんたちも巻き込むことになる」

 

 【ヘスティア・ファミリア】に所属している女性陣は全員がラグナのことを気にして、支えるために研鑽に励んでいる。そんな彼女たちをいきなり凄まじい戦場に引きずりこむなんてことができるのかとヘスティアは問う。

 

「……それはできません」

 

「なら、この件については忘れよう……絶対に関わるべきじゃないんだ」

 

 沈黙が流れる。何度も何度も何度もラグナの頭で思考を駆け巡らせる。ヘスティアはその様子を静かに見守った。そして顔を上げてラグナは静かに口を開く。

 

「……俺はベルの病気を治して終わりじゃないと思ってます」

 

「終わりじゃないって……?」

 

「ベルの病気が治ったあとも、この世界が続かないと意味がない。黒竜に迷宮……この世界は終末に近づいてる」

 

「ッ」

 

 三大冒険者依頼(クエスト)というのがある。陸の王者ベヒーモス、海の覇王リヴァイアサン、最後に隻眼の黒竜。この三体の怪物こそが世界を脅かす最凶の魔物であり、過去の大神(ゼウス)女神(ヘラ)の眷属たちによって黒竜以外の怪物が討伐された。

 

大神と女神は神々が地上に降り立った時代から準備を始めて、そして十五年前に最後の隻眼の竜の討伐に乗り出して敗北した。その【ファミリア】にはレベル9という未だ破られていない最強の冒険者がいた、それでも敗北した。

 

あれから十五年。都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】がいるとはいえ、過去の英雄たちには及ばない。

 

そして次に失敗すれば世界は終わる。それがラグナが大神に教わった事実であり、確率の高い結末である。

 

しかも、それだけじゃない。黒竜討伐が終わっても迷宮攻略が残っており、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の最高到達記録は71階層。

 

どこまで迷宮が続いているのかわからないが、そんな最強の英雄たちでも71階層が限界到達点だった。おそらく黒竜以上の過酷が待ち受けている。その二つを打ち破ること、それが冒険者に課せられた使命であり宿命。

 

「全てを救う主人公(英雄)にはなれない。けど、手を伸ばすのをやめたら一生叶わない気がするんです」

 

「────それは」

 

「怪人の男が言ってました。『英雄の産まれる都市(オラリオ)』を滅ぼすって。俺はそれが嘘には聞こえなかった」

 

「だから戦うのかい!?魂まで削って!」

 

「──アイズさんもベートさんもレフィーヤさんも。他の冒険者も命を魂を燃やしていた。英雄が戦っているのを傍観することは許せない」

 

 経験不足、知識不足、能力不足。そんなのは言い訳にすぎない。それを補うため全力で努力するだけ。

 

「俺は関わりたい。関わらないといけないと思う」

 

──もう言っても聞かない。

 

その黒の瞳は。黒の意志を捻じ曲げることができないことをヘスティアは知っている、知ってしまっている。彼の精神は既に英雄として完成していて、その歩みを止めることはヘスティアにはできない。

 

「──君の考えはわかった、けどまずは情報が集まってから決断しよう」

 

「情報が集まってから?」

 

「ああ。まずロキのところに行って情報を貰おうと思う、その上でもう一度考えよう。今答えを出すには早すぎると思うんだ」

 

 判断材料が薄い中で少年を戦場に送り出せば、また魂を擦り減らして帰ってくることは間違いない。それを阻止するためにも敵の戦力、狙い、さまざまな情報を得ることが必要だ。

 

「いいかい?今回は奇跡的に身体に異変が起きなかった。けど次はわからないんだ、慎重に行動するためにも情報を得てからだ。いいね?」

 

「……はい、ごめんなさいヘスティア様」

 

「わかったならいいんだ」

 

 彼の行動を縛り付ける真似はしたくない。だが全速力で進む彼のストッパーとなる存在も必要だと認識する。その役割を自分が担えるかわからないが、それでも彼を死なせないために何でもする覚悟を抱く。

 

「……ステイタス更新しようか」

 

「疲れてる顔をしてますけど……大丈夫なんですか?」

 

「うん、明日に持ち越す方が辛いからね。多分、とんでもない経験値を稼いでるだろうし」

 

 聞いてるだけで幾多の格上の敵を打ち下している。いったいどこまで伸びているのか、ヘスティアは震えながら筋肉質な背中に血を垂らした。浮かび上がる神聖文字の羅列、神秘的な光が教会の地下室を照らす中で、ヘスティアは徐々に顔色を青くしていった。

 

 

「──な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

⬛︎

 

 

「──異常やな」

 

 【ロキ・ファミリア】黄昏の館の一室。アームチェアに腰掛ける赤髪の女神ロキは呟いた。24階層の食糧庫の戦いが終わり一日が経過した。昨日は夜遅かったのと疲弊していたアイズたちを考慮して日を跨ぎ情報交換を行っていた。

 

談話室にいるのは罰ゲームとしてメイド服を身につけたアイズと、脚を骨折して治療院から帰ってきたばかりのベート。そしてリヴェリアを除く幹部陣が勢揃いしていた。

 

そんな中でロキが呟いたのは怪物や新しく出てきた怪人に対してではなく、黒髪の少年ラグナに対して向けられたものだった。

 

「レベル2に上がったばっかりの冒険者が第一級冒険者並みの活躍をしてみせた。普通に考えてありえへんやろ」

 

「俺がデタラメ言ってるとでも言いてえのか?」

 

「常識的に考えてみーよ、駆け出しの冒険者をベートと肩を並べれるほど強化する【スキル】なんてあり得るわけない」

 

 それに加えて肉体の自動回復まで行っていたという。ハッキリ言ってレベル1からレベル2まで二週間で到達したことといい、今回の怪人に関係してるんじゃと勘繰りたくなるほど異常に包まれている。

 

「アイズは何か知らないのかい?」

 

「……そういえば、ダンジョンに向かう前にステイタスを見せてもらいました」

 

「ステイタスを?『(ロック)』は掛かっていなかったのかい?」

 

 神聖文字(ピエログリフ)さえ読めれば冒険者の能力を盗み見ることが可能な恩恵。それを隠すために神は眷属の背中を隠し保護する『鍵』を作る。それさえあれば背中を晒されても能力がバレることはない。

 

「うん、掛かってなかった」

 

「ドチビは最近下界に降りてきた新米やからな。どうせ知らんかったんやろ、世間知らずやなぁ」

 

 眷属の情報。それが敵にバレたらどうするつもりなのだ。零細ファミリアだから危機感がないのかと呆れ果てる。

 

「それでアイズ、アイツのステイタスはどんな感じだった?」

 

「珍しいのう、ベート。お前が冒険者のステイタスを気にするとは、やはり相当気に入っているようだな」

 

「うるせえ、ドワーフ!……アイズ、さっさと答えろ」

 

「うん、ステイタスは最高がCまで到達していたよ」

 

 アイズの言葉に幹部たちは全員が目を剥いた。既に中堅並みの熟練度まで上昇している。レベル2に上がったばかりでそこまで熟練度が上がることは普通なら不可能である。

 

「やはり希少技能(レアスキル)か……」

 

「そうやな、成長促進系……冒険者なら誰もが欲しがる【スキル】やな」

 

 恩恵の昇格。それは才能がある冒険者でも一年以上の時間を要するもの。それを短期間、一ヶ月と経たないうちに成し遂げたのは間違いなく【スキル】が理由だと全員が確信を持つ。

 

だとすれば今回の戦いで凄まじい活躍をした少年はどこまで成長しているのだろう。全員がそう考えた時に談話室からノック音が響いた。フィンが入室の許可をすると、それは門番である下級構成員だった。

 

「すいません、世界記録者(ワールドレコーダー)とその主神が訪ねて来てますけど……」

 

「噂をすれば、か。どうする、ロキ」

 

「通せ。色々と聞きたいことが山積みやったんや、丁度いいやろ」

 

 ロキの言葉に門番である団員は足早に駆け抜けていく。本音を言えば本拠内に因縁のある神を入れたくはなかった。だがアイズとベート、そしてレフィーヤを助けた少年がいる以上、無下にするわけにもいかない。

 

ラグナが来ることに表情を綻ばせるアイズ。そして主神であるロキにしかわからないほど少しだけ尻尾の角度を上げた狼人。双子の女戦士もどこかワクワクした眼差しを浮かべ。フィンとガレスの二人もどこか楽し気だ。

 

黒髪の少年が【ロキ・ファミリア】に与えた影響は凄まじいと改めてロキは思う中でロキ自身も口角が上がっていた。控えめなノック音が響き渡る、もう一度フィンが入室を許可すると、そこには黒髪の少年と幼女の女神が緊張した面持ちで室内に入る。

 

「お、お邪魔します」

 

「すいません、急に押しかけて……」

 

「構わないよ。むしろ君は大丈夫かい?相当な激戦だったと聞いているけど」

 

「身体は平気です、心配ありがとうございます」

 

「──それで、ドチビとラグナきゅんは何のために来たんや?」

 

 このまま行くと本題に入るのが遅くなりそうだったので、ロキはまず最初に気になったことを聞いた。おおよそ予測はついているが、実際に本人たちの口から聞きたかった。

 

「──新種のモンスターと怪人(クリーチャー)について。それとこれからどうするつもりなのか、それを聞きたいんだ」

 

「……やっぱりか」

 

 ヘスティアの蒼い瞳を見てロキは予想通りやなと心の中で呟く。もしもロキがヘスティアの立場でも自身の眷属が巻き込まれた事件の調査、そして相対した敵について知りたいと思うことは普通のことだ。ロキはフィンと目を合わせて通じ合うように頷く。

 

「神ヘスティア。まず第一に僕たちが握っている情報は少ない。特に怪人(クリーチャー)という存在も先程知ったばかりだ。そのため話せる情報はほとんどない」

 

「構わないよ!僅かな情報でも欲しいんだ」

 

「──ドチビ、情報を知ってどうするつもりや?」

 

 ロキは鋭い眼光でヘスティアを見つめた。糸目から除く眼の圧は強く、生半可な答えは許さないといった意思を感じるほど。神々の駆け引きなどロキ相手には無意味だとヘスティアは知っている。だからこそ真正面から向き合った。

 

「はっきり言って下界には未知で溢れているといっても、怪人に関連する話はその中でも特大級のものだと思う」

 

「まあ、そうやな。怪物と人間の混成種なんて……そんなの頭になかったことや」

 

「そんな未知。本当ならボクは君に丸投げして知らんぷりしたいところさ。でもラグナくんはそうじゃない。君たちに全て任せるなんて真似ができないんだ。共に命を張らないと気が済まないんだよ」

 

「つまり、ベートやアイズと一緒に戦いたい。そのために情報が欲しいということか?」

 

 小さく頷くヘスティアにロキは深い溜息を吐いた。本当ならば零細ファミリアが生意気なことを言ったなとブチギレるところだが、実際に少年は戦闘において多大な貢献をしたとアイズとベートの口から聞いている。

 

食人花の魔力に吸い寄せられるという習性を利用した(デコイ)作戦により他冒険者の被害を抑えたり。巨大花という食人花よりも強力な化け物を一撃で倒したり。怪人の男をベートと共に追い詰めたり。

 

聞いてるだけで本当にレベル2なのかと疑いたくなる戦果をあげている以上、協力なんていらないと突き返すことはできないし、何より真剣な眼差しでこちらを見るアイズは凄まじい圧でロキを見ており、変な返答をすれば制裁を喰らいそうだと遠い目をする。

 

「……情報は話したる。今後新しく手に入れた情報も教えていい。だがこっちも知りたいことがある」

 

「知りたいこと、かい?」

 

「ああ。ベート共に戦えるほどの強化を誇る【スキル】、それについて話せ、ドチビ」

 

「ッ!」

 

 ロキの言葉にヘスティアとラグナは固まった。やはりやましいことがあるのかとロキはさらに視線を尖らせる。レベル2を劇的に強化して、肉体損傷すら即座に癒す規格外の【スキル】。単純に【スキル】の効果が高いだけなのか、それとも別の理由があるのか。

 

「……ラグナくん、どうする?」

 

「話しても大丈夫だと思います。この後【ステイタス】に関する相談もしないといけないですし」

 

「……わかった」

 

 二人で相談を終えてヘスティアは眦を決する。それほどの【スキル】なのかと室内にいる全員が変な緊張感を覚える。

 

「【スキル】の名前は【誓約代償(レギオン)】、そのスキル効果は『能力の倍加』『感覚の超強化』『自動回復(オートヒール)』の三つ」

 

「能力の倍加、やと?」

 

 それはロキの思っている通りの能力ならば破格どころではない。前代未聞、条件が揃えば過去の【女帝】すら超えることができるほどの力。そしてロキは納得した、確かにこの【スキル】があればベートと肩を並ぶことも可能だと。

 

ロキだけじゃなくフィンやベート、アイズたちも目を見張る。これが彼の強さの秘密だったのかと。下界をひっくり返す力に瞠目する中でフィンは思った。これほどの能力、それを使用するための条件があるはずだと。

 

どんな【スキル】でも強力なものは代償を支払う必要がある。それは体力だったり、傷だったり、精神力だったりと様々。ではこれほどの【スキル】にはどんな代償が必要なのだろう、親指が少しだけ疼いた。ロキもまたこれほどの力が簡単に発動できるはずがないと目を細める。

 

「ただ、それを使用すると魂の摩耗が発生する」

 

『────ッ』

 

「これを使用するごとにラグナくんの魂には傷が発生して、いずれ()()()()、これが【スキル】の全容さ」

 

 やはりというロキとフィン。言葉を失うアイズとベート。魂の摩耗という不可解な言葉に首を傾げる女戦士の双子。静かに目を瞑るドワーフ。全員が各々、その代償について顔色を変化させる。

 

「砕け散ればどうなるのよ、死ぬの?」

 

「死ぬだけならまだマシやろうな。魂が砕ければ天界に還ることができず、ラグナきゅんの転生の可能性は消える」

 

「転生の可能性が消える、か」

 

 下界の人間にとって死とは恐れるべきものであるが、それでも受け入れている人間が多数いる。それは天界に還り、次の人生が待っていると確約されているからである。

 

それを救いにして命を懸ける冒険者もいるほど、転生というのは下界の人間にとって重要なことで、神々にとっても子供達に与えられる最大限の祝福なのだ。

 

「……覚悟の【スキル】」

 

 そんな魂を代価にする最凶の【スキル】が発現したということは、少年にとって魂すら代価にする覚悟があるほど強さを望んでいるということ。そんな彼の片鱗を感じる【スキル】にロキは面白い子でもあり、どこか幼い日のアイズを見ているようでもあった。

 

「おい、ラグナ。その【スキル】をいつ使った?」

 

小竜(インファントドラゴン)の時と、今回の24階層の食糧庫の2回です」

 

怪物祭(フィリア)の時の竜も、その【スキル】で撃破したのか」

 

 納得する。上層最強の竜種の討伐を駆け出しが真っ当な方法で行えるわけがない。こうして代償を支払った結果だったのだ。

 

あと何回【スキル】を使用したら魂が壊れるのかわからない。ただその魂が摩耗するという言葉にアイズは顔面蒼白になりながら必死に思考する。どうすればいいのだろう。何をすればいいのだろう。

 

少年について詳しくは知らない。それでも彼は進み続ける光だ。その歩みは止められず【スキル】の使用は絶対に起きると確信できる。そんな彼が魂ごと砕け散る、そんなのアイズには耐えられない。

 

「……ラグナ、は平気なの?」

 

「えーと、何がですか?」

 

「魂が摩耗するなんて、怖くないの?」

 

「──怖くないですよ。それ以上にやり遂げないといけない願望(ねがい)があるから」

 

 アイズは呼吸を失った。ずっと感じていたことだったのかもしれないが、今明確に気づいた。

 

彼は似ている、記憶の奥底に封じ込めた大英雄()の姿に。周りを心配させて、それでもたくさんの人を味方に付けて前に進み続けた英雄に。そんな英雄がまた黒竜に挑もうとしている。魂を代価に使ってでも戦おうとしている。

 

その末路は想像に容易い。彼はいつか燃え尽きて死んでしまう。それがわかったアイズはその返答を聞いてひたすら呆然と固まることしかできなかった。

 

「はぁ……なんともまあ、とんでも【スキル】を発現させてるな、ラグナきゅんは。条件通りにドチビに情報を話したる」

 

「あ、その前に一つだけ相談したいことがあるんだ」

 

「相談?」

 

「えーと、二段階の昇格(ランクアップ)が発生した時って、どうすればいいと思う?」

 

「──はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?!?!?」

 

 

 




遂に50話……終わる頃にはどれくらい話数が嵩むのだろう。
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