主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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51話 異次元の冒険者

 

 

「───【終末戦炎(ラグナロク)】か、変な縁を感じる【スキル】やな」

 

 ソファーに背中を任せ天井に顔を向けてロキは言った。黒髪の少年ラグナが発現させている二つ目の【スキル】であり、その効果はロキたちが予想していた通り成長促進系の能力であり『獲得経験値の増幅』というもの。さらに格上を倒した時は大幅の経験値増幅が巻き起こる。

 

それだけでも破格というのに、この【スキル】は経験値の限界取得による限界突破。つまりステイタスの壁であるSを破ることができるという、今までの迷宮都市の歴史を覆す効果であり、ロキは乾いた笑みを浮かべる。

 

どうしてこれほどの逸材が【ヘスティア・ファミリア】という零細にいるんやと嫉妬心すら沸き立つほど優秀で代償も必要のない【スキル】に歯噛みする。

 

フィンたちはというと、限界突破という言葉に興味を惹かれており、Sという能力の壁を打ち砕いた少年にさらに興味を抱いているようだった。自分のお気に入りが絆されていることを気に入らないとロキは鼻を鳴らした。

 

「それで、なんでウチに相談を?」

 

「正直、ボクは戦略とか難しいことを考えるのは苦手なんだ。でも君ならそういうことは得意だろう?」

 

 戦略的眷属運用(ストラテジー・ゲーム)。眷属の経験値を神の采配で振り分け最適に調整して、その子供の才能を最大限に活かすためのもの。【ランクアップ】できる状態でも、あえて次の段階に進まず熟練度が極まるのを待ったり、地雷スキルを取得しない様にしたり。

 

様々なことが主神には選べてしまう。その主神の一手によって眷属の力は天と地ほどの差を生み、とても責任がのしかかる作業だ。自分の一手が眷属を殺しかねないと悟ったヘスティアは恩恵の更新を中断、明日戦略や謀略が得意な道化師に聞くことを決めたのだった。

 

「答えは二つあるな。少しずつ段階を踏む必要があるやろうけど、レベル4になる道」

 

「少しずつ段階って?」

 

「いきなりレベル4なんかにあげれば、器と肉体に大きなズレが生じる。1レベル上がるだけで、慣らし作業が必要なんやぞ。一気に二段階も上がれば事故が起こる」

 

「じ、事故って……?」

 

「腕の一本ぐらい使えなくなってもおかしくない。だから熟練度をある程度振り切って、レベル3に進み、少しずつ熟練度をあげる。器と肉体のズレが完全になくなってからレベル4にする」

 

「それが一つ目の選択……」

 

「手っ取り早く強くなるなら昇格するのが一番やからな。これが最適とか本当ならないはずなんやけど、今回の場合は二つ目の選択を取る方が間違いなく正解や」

 

「二つ目かい?」

 

「ああ。熟練度に経験値を全振りしてから次に進む、や」

 

 【終末戦炎(ラグナロク)】の効果である経験値限界獲得による限界突破。これは他の眷属と大きな差を付けることのできる唯一の技能であり、ラグナの重要な武器である。それを最大限に活かさずに次の段階に進む神はいないだろう。

 

「『大神(ゼウス)』や『女神(ヘラ)』の時代にも存在しなかった能力の限界を超える存在。それを駆使しない手はありえない、ということだね」

 

「そうや、何より【スキル】の効果で熟練度はまだまだ上がるやろうし。前者は危険性もあって、最大成長には至れない選択になる」

 

「……ロキの言葉を聞くと後者しか考えられないんだけど、前者を取る場合はあるのかい?」

 

「そりゃ経験値が過剰に溢れる場合とか、時間がない場合とか。結局選択するのは神と眷属やからな、それが正解になるか不正解になるかは本人次第や」

 

「ラグナくんは……どうしたい?」

 

「俺は後者でいいと思います。一度【ランクアップ】したら熟練度は上がりにくくなるし、器と肉体のズレを治す作業に時間が掛かる前者の選択は取りたくないです」

 

 ラグナの言葉にヘスティアは頷き後者の選択を取ることを決めた。今すぐ死闘が始まるわけでもなく決戦の日は遠い。その間に自分に足りないものを補う必要があり、器と肉体のズレに時間を掛けることは絶対にしたくないという判断は正しい。

 

「ドチビは段階的に経験値を解放できんのか?」

 

「やったことないから、わからないけど……ロキはやったことがあるのかい?」

 

「当たり前や、こちとら都市最大派閥の主神やぞ。何人の子のステイタス更新をしてきたと思っとる」

 

 神の直感で地雷の【スキル】が発現しそうだと思えば、その【スキル】を発現させる経験値を保存して解放させないことで回避できる。これまで数多の冒険者の経験値更新を行ってきた経験と本人の性格からロキはこういうことが大得意だった。

 

「う……ちょっと不安になってきた」

 

 眷属を持って一ヶ月も経っていないヘスティアは経験が乏しい。自分がミスすれば眷属を殺すことになると知って肩に重圧がのしかかる。そんな情けない姿を晒すヘスティアを見てロキは重い溜息を吐いた。

 

「ラグナきゅん、乳だけの女神やなくてウチにせえへん?」

 

「な!ボクの目の前でラグナくんを勧誘するなんて……!許さないぞ、絶壁女神!」

 

「なんやと!?い、言ってはならんことを……!」

 

「落ち着いてください……これからのこともまだ決まってないんですから」

 

「ロキも落ち着いてくれ」

 

「「ふぅ、ふぅ、ふぅ」」

 

 必死に呼吸を整えて落ち着こうとしている二柱の女神。相性は決して良くはなく、犬猿の仲と呼べる姿に眷属たちは苦笑いを浮かべるのだった。

 

⬛︎

 

 

「なぜ、なぜ冒険者に……!」

 

 翡翠色の髪を揺らし、【ロキ・ファミリア】副団長リヴェリア・リヲス・アールヴは普段の温厚な姿からは考えられない悲痛な声を上げた。その美しい翡翠の瞳が向けられている先は元受付嬢のエイナ・チュールだ。

 

今日のことである。ダンジョンから帰宅して次の遠征の準備を行っている過程でギルドに寄ることになり、親友の娘であるエイナの顔を見ておこうと受付まで行くと、そこで告げられたのは「エイナは冒険者になるために受付嬢をやめましたけど……?」というものだった。

 

その場でリヴェリアは数分ほど立ち尽くして、平静を取り戻せないほど動揺した。そして今日、ファミリアの話し合いを抜けてでもエイナと話し合いの場を設けたのである。

 

「……冒険者は危険だ。お前もわかっていることだろう?」

 

「それは……もちろんです。受付嬢として関わって、たくさんの冒険者の死と向き合ってきましたから」

 

 初めて担当した冒険者が『小竜(インファントドラゴン)』に殺された記憶は今でも焼き付いており、その後も数多の冒険者の死を見届けてきた。ただ笑顔を振りまいて書類仕事をするのがギルドの受付嬢の仕事ではない。そういった受付嬢にしかわからない過酷は存在する。

 

「ならば、なぜ急に冒険者に……」

 

「支えたい人ができたんです」

 

「支えたい人、だと?」

 

「はい。何かに追われてるみたいに必死で命を懸けるのが当たり前だと思っている冒険者で……見てて心配になる男の子なんです」

 

 そのままエイナは語り始める。その少年のことを。最初の出会いから最近の出来事まで、まるで惚気のように話す彼女にリヴェリアは目を剥いた。ギルドでは真面目で男の影などなかったエイナが楽しそうに少年について話す姿は成長したなと感慨深くさせるものだった。

 

「ファミリアの名は……?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】で……おそらくリヴェリア様も知ってると思いますが、世界記録(ワールドレコード)の……」

 

「まさか、お前の意中の相手は……」

 

「い、意中って……で、ですが私が支えたいと思ってるのはその子で間違いないです」

 

 不思議な縁だとリヴェリアは目を細める。少し前に【ロキ・ファミリア】が逃した『ミノタウロス』、上層にまで逃げて他の冒険者を襲うところだったのを一人の少年が時間を稼ぎ、奇跡的に死亡者が生まれなかった出来事。あの件から少年は第一級冒険者と訓練を行い、都市最大派閥に多大な影響を及ぼした。

 

「だが……私は認められん。もしもダンジョンで何かあればアイナにどんな顔をすればいい?」

 

 親友の娘をダンジョンで死なせるなど絶対にさせてはならない。何より今はダンジョンでさまざまな問題が発生しており、それが冒険者に降り掛かる可能性も捨てきれないのだ。せめて【ロキ・ファミリア】に所属していればリヴェリアが直接指導して面倒を見ることができただろう。

 

だが彼女は他派閥。深く関わることは自分たちの派閥の不利益となり、お互いに良くない噂を流されることになりかねない。一体どうすればいいとリヴェリアは頭を悩ませていた。

 

「リヴェリア様に心配してもらえるのは、ありがたいですし、恐れ多いです。ですが私は冒険者を辞めることはないです」

 

「……本当に、覚悟をしているのか」

 

「はい、言葉で言っても信じられないかもしれません。ですが私は冒険者として最期まで彼を支えたいと思っています」

 

 その緑玉色(エメラルド)の瞳は光り輝いており、リヴェリアすら見惚れるものがあった。それでもリヴェリアは数多の冒険者を見てきた。怪物と迷宮を前にして心を折る者、両腕を失い絶望を味わった冒険者も。あらゆる絶望がダンジョンには渦巻いている。

 

彼女は耐えられるのだろうか、その過酷に。彼女は立ち向かえるだろうか、その悪辣な罠に。

 

「エイナ。お前はパーティーでどんな役割を担っている?」

 

「支援魔導士です、けど?」

 

「支援魔導士……【魔法】が発現したのか。ではどういう魔法が発現した?」

 

「お、恐れ多いことですが……リヴェリア様と同じ三段階に分けられる支援魔法で……」

 

「──なんだと?」

 

 リヴェリアの目があらん限りに開く。リヴェリアの二つ名である【九魔姫(ナインヘル)】の由来である階位魔法は三つの段階の『攻撃』『防御』『回復』があり、それは実質的に魔法が九つ発現しているのと同じであり、最強の魔導士と呼ばれる所以である。

 

そしてエイナもその特性を受け継いでいると聞いてリヴェリアは驚くのと同時に納得もする。親友であるアイナもまた王族の血を引くものであり、その子であるエイナも『アールヴ』の血筋だ。リヴェリアと同じ特性の魔法を発現させても全くおかしくはない。

 

改めて彼女に発現した魔法の効果を聞いてリヴェリアは目を剥いた。支援魔法というのは珍しい部類に挙げられる。強化や補助、付与魔法などは多いものの支援魔導士は圧倒的に数が少ない。

 

それは冒険者の資質が魔法に反映されるからであり、エイナが支援に偏っているのは彼女の優しい精神が恩恵を通じて発現した結果なのだろう。

 

そして問題である魔法の効果も驚くものがあった。第一階位の『マギマ・レイル』は自己治癒能力の向上であり、少し時間を掛ける必要があるが自動治癒(リジェネ)に似た効果があり、範囲内の冒険者を選択して付与できるという。戦闘中に傷を負っても回復できるというのは非常に大きい効果だ。

 

第二階位『マギガ・リルガ』、その効果は『力』と『敏捷』の能力強化であり、これもまた範囲内の冒険者に選択して付与できるという。前衛に遊撃や中衛などが上昇すれば嬉しい能力であり、汎用性がありそうな魔法だ。

 

最後の第三階位『マギア・アルヴィス』。未だに使用した回数は少なくわからないことが多い魔法で、その効果は全能力の向上と感覚の強化を行うものだという。これも範囲内の冒険者に選択して付与できるもので、その力は正しく集団戦闘(パーティプレイ)における核となるものだった。

 

どれほど能力向上するのか不透明だが、レベル1でこれだけの魔法を操る支援魔法など【ロキ・ファミリア】ですら活躍できるほどだ。

 

しかも、まだ魔法の空き欄(スロット)は一つ残っており、魔法を覚える可能性はまだある。凄まじい将来性にリヴェリアは何度も驚き、そして冷静に思考する。

 

「……お前の才能については理解した。だがそれでも心配は捨てきれないんだ」

 

「リヴェリア様……」

 

「だからこそ私の弟子にならないか?」

 

 そのリヴェリアの提案にエイナは言葉を失うのだった。

 

「弟子、ですか?」

 

「そうだ。私の魔導士としての経験、知識、そして必要なことを叩き込もう」

 

「り、リヴェリア様に……そんな恐れ多いことは、第一に他派閥ですし……」

 

「もちろん条件付きということになる。【千の妖精(サウザンドエルフ)】を知っているな?」

 

「は、はい。もちろんです!」

 

 同胞の魔法を召喚し行使することができる、今までの魔法の中で規格外であり、リヴェリアが最大九つの魔法を操るのに対して【千の妖精(サウザンドエルフ)】、レフィーヤ・ウィリディスは千の魔法も行使することが可能である。

 

「レフィーヤは詠唱文と魔法名、効果を知ることで同胞の魔法を操ることができる。エイナ、お前の魔法は集団戦闘において有用だ。だからこそ、その力を貸してもらう代わりに弟子としてあらゆることを授けよう」

 

 リヴェリアとしてはエイナを鍛えることができて、その有用な魔法を【ロキ・ファミリア】内で行使することができる。それに加えて魔法と引き換えに弟子にするならば外野も文句は言えないだろう。

 

「どうする、もちろんエイナ次第だが……」

 

「……私の魔法が役に立てるなら、もちろん力を貸します。ですが本当にいいんですか?第一級冒険者のリヴェリア様が私などに時間を……」

 

「親友の娘だぞ。時間などいくらでも使ってやる。そんなことを気にする必要はない」

 

「……それじゃあ、お願いします!」

 

 リヴェリアの申し出はありがたい話だった。エイナもリューに魔法の行使に関して勉強はしているが、彼女の本職は魔法戦士。後衛、支援魔導士を的確に鍛えるならば最強の魔導士であるリヴェリア・リヲス・アールヴ以上に適任はいないだろう。

 

リヴェリアは和やかな笑顔で手を差し伸べる、その高貴な手に震えながら握り握手を交わした。

 

⬛︎

 

 【ロキ・ファミリア】から情報を貰って、そのまま教会に帰還したヘスティアとラグナはソファーに座り、今回の件について語る。

 

「【スキル】とか全て話したけど、大丈夫だったのかい?」

 

「全然大丈夫です。これから同盟とは言わないまでも、協力関係を結ぶわけですから」

 

 情報を提供して貰って【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の間で協力関係を結んだ。それは新種の怪物や怪人などに関わる情報を得た場合はお互いに交換して、そして戦いが起こりそうな場合は協力しあうもの。

 

普通ならば零細ファミリアと結ぶことなどなかっただろうが、24階層の食糧庫の事件によって、ラグナが周りの冒険者を助けた功績は無視できない。そのことからロキは渋々とヘスティアと協力関係を結んだのだった。

 

そして【ロキ・ファミリア】の幹部陣に【スキル】の効果の全容を知られたとしても、悪用されることはないとラグナは知っている。都市最大派閥、偉大なる冒険者には信頼を置いている。

 

ヘスティアとしても【誓約代償(レギオン)】を知ってもらうことで、戦いの際は守ってくれるかもしれない、そんな魂胆を抱いているのでラグナさえ良ければ話すことは問題ないと思っていた。

 

「──早速、ステイタス更新をしようか」

 

「そう、ですね。お願いしてもいいですか?」

 

 ラグナは慣れたように上半身の服を脱いで背中を晒してベッドにうつ伏せになる。その背にヘスティアが座り、いつものようにステイタス更新を始めるのだった。

 

今回は二段階昇格(ランクアップ)は行わない。ロキの助言通りにレベル2の熟練度を最大まで上げて、次の段階。つまりレベル3に昇格させる。一ヶ月の間にレベル3まで昇格させたラグナにもう一度瞠目しながら、その背中に自身の神血(イコル)を垂らすのだった。

 

巻き起こる神秘的な光、背中に神聖文字(ピエログリフ)の羅列が並ぶ中でヘスティアは集中してステイタス更新に臨む。

 

「────」

 

 何度も更新を行ってもう驚かないと思っていたのに、その膨大な経験値の量に目を奪われる。そして更新の終わったステイタスを共通語にして描き終わる作業をしてヘスティアは無言でベッドに寝転んだ。その顔は真顔であり、とても疲れ切ったものだった。

 

『ラグナ』

Lv2

力 D:523→SSS:3106

耐久C:673→SSS:3640

器用D:510→SSS:2980

敏捷D:514→SSS:3065

魔力E:402→SSS:3209

不屈I→H

『魔法』【ケラノウス】

『スキル』【誓約代償(レギオン)

     【終末戦炎(ラグナロク)

     【英雄憧導(アルゴノゥト)

     ・器力共鳴(ファルナ・エフェクト)

     ・発現者の一定範囲内に存在する同神血(イコル)の眷属への経験値増幅。

     ・発現者の一定範囲内に存在する同神血(イコル)の眷属への発展アビリティの効果上昇。

     ・想いの丈により効果と範囲上昇。

     ・意思が続くまで効果持続。

     ・発現者は効果適応外。

 

「──ええええええええええええええ!?」

 

 

 




発展アビリティ不屈の補足説明。
主な効果は呪詛や状態以上に関する抵抗上昇だが、他にもさまざまな効果がある。精神疲弊でも動けたり、気絶や失神などに大きな耐性を持ちます。
そのため【ケラノウス】の地獄の痛みを味わっても意識が飛ばなくなりました。
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