主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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52話 想いと才能

 

 

『ラグナ』

Lv2

力 D:523→SSS:3106

耐久C:673→SSS:3640

器用D:510→SSS:2980

敏捷D:514→SSS:3065

魔力E:402→SSS:3209

不屈I→H

『魔法』【ケラノウス】

『スキル』【誓約代償(レギオン)

     【終末戦炎(ラグナロク)

     【英雄憧導(アルゴノゥト)

     ・器力共鳴(ファルナ・エフェクト)

     ・発現者の一定範囲内に存在する同神血(イコル)の眷属への経験値増幅。

     ・発現者の一定範囲内に存在する同神血(イコル)の眷属への発展アビリティの効果上昇。

     ・想いの丈により効果と範囲上昇。

     ・意思が続くまで効果持続。

     ・発現者は効果適応外。

 

 ラグナは何度も渡された用紙を穴が開きそうなほど見つめて、その上昇した経験値と発現した新しい【スキル】の効果にどんな感情を抱けばいいのかわからなかった。

 

まず上昇量。集団(パーティ)とはいえ24階層までの道のりの怪物討伐。そして食糧庫での激戦。それに加えて【スキル】の効果が乗った結果、これまでの異次元の成長を遂げているラグナでも圧倒的トップの累計上昇値だった。

 

合計すると10000以上の能力値が上がっており、まだ控えている【ランクアップ】を含めると身体が追いつくのか不安になる。

 

肉体と器のズレ。それは戦闘をこなせば治すことができるものだが、ラグナの成長は主人公(ベル・クラネル)を超えており、そのズレを治すには想像できないほどの戦闘量をこなす必要がありそうだ。

 

「……問題は【スキル】」

 

 新たに発現した技能(スキル)英雄憧導(アルゴノゥト)】。その効果は器力共鳴(ファルナ・エフェクト)といって、ラグナの主神であるヘスティアの血を宿す眷属に様々な強化を行うもの。そして肝心の強化内容にラグナは冷や汗をかいた。

 

経験値獲得上昇と発展アビリティの効果上昇。前者は成長促進系と呼ばれる、ラグナ以外では発現していない【スキル】効果であり、それを【ヘスティア・ファミリア】の眷属ならば受けることができる。

 

発展アビリティの効果上昇も普通ならば、そこそこありがたい恩恵にしかならないが、この【スキル】の一番怖いところは想いの丈により効果が上昇するものであり、それによって二つの効果がどれほどの効果を発揮しているのかわからない。

 

おそらくこの系統の【スキル】は本来ならば、効果範囲と同じ眷属という縛りがあって、たくさんの冒険者を効果上昇(バフ)できるものだが、その分効果も薄くなるはずだ。

 

しかし、それが想いの丈により効果が上昇するという一文のせいで予想のできない【スキル】に飛躍している。

 

「ヘスティア様、凄いですよ。この【スキル】!」

 

「う、うん……す、すごいねぇ……」

 

 まるで極寒の地にいるが如く震えているヘスティアにラグナは目を輝かせながら用紙の【スキル】の欄を指差した。【英雄憧導(アルゴノゥト)】があれば仲間の成長に間違いなく貢献できる。

 

何よりベルが【ランクアップ】すれば、ベルの肉体は丈夫になり、寿命という制限時間が伸びる。もちろん昇格には偉業を成し遂げる必要はあるが、それでもこの【スキル】によって可能性が見えてきたのは間違いない。

 

「……ただ、どれくらい効果があるのか」

 

 想いの丈。それは原作の【憧憬一途(リアリスフレーゼ)】と同じ効果内容であり【剣姫】に対する恋慕の強さに応じて成長速度があがるものだった。

 

それじゃあ【英雄憧導(アルゴノゥト)】はどんな想いによって効果を上昇しているのだろう。想いといっても色々あって憧れ、怒り、憎悪など数多に存在する。

 

ではこの【スキル】が指すのは一体どんな想いなのか。考察を膨らませても答えは浮かばない。効果は実際に戦闘をこなして確かめるしか無さそうだ。

 

考察が終わり、いよいよラグナは次の段階に進むために未だにベッドで震えるヘスティアを見る。

 

「ヘスティア様、【ランクアップ】を……」

 

「……ラグナくん、ごめんだけど。その前に一つだけ約束しないか?」

 

「約束ですか?」

 

「ああ、まずこの【スキル】を絶対の絶対の絶対に他の冒険者や神にバラさないことだ!」

 

「……どういうことでしょう?」

 

「成長促進系の【スキル】なんて神や冒険者が一番欲しがるものだ。それを【ファミリア】内に振り撒くことのできる『超希少技能(レアスキル)』を持った冒険者なんていたら……?」

 

「う、奪い合いが起こる……?」

 

 ヘスティアの言葉にラグナは冷や汗を流した。もしもこの【スキル】がバレてしまった時の想像をして身震いする。都市内の神々、冒険者はもちろんのこと、都市外からも襲撃されるだろう。そうなれば発足したばかりの【ヘスティア・ファミリア】では成す術なく潰される。

 

「だからこそ、この【スキル】を話すのは同じ【ファミリア】の眷属だけにするんだ。決してバレたらいけない。もしも話が漏れた瞬間、ボクたちは終わるっ」

 

「は、はいっ……絶対、絶対バレないようにします」

 

 ただ悩みところなのが、この【スキル】は大勢の団員がいる【ファミリア】などで発揮するものだ。現在の【ヘスティア・ファミリア】の団員数はラグナを除くと三人であり、その三人だけに効果が適応されるのは勿体ないとはラグナもヘスティアも思う所だった。 

 

ラグナとしては芯のあり、自身の目標にも付いてこれる精神の強い人間さえいるならば躊躇なく勧誘するのだが、そんな良縁とはなかなかに巡り会えないし、一番問題なのが冒険者経験のない人間に指導できる人間が【ファミリア】内にはいないこと。

 

ラグナもベルも、エイナやリリは知識面で指導することが可能だろうが、剣や魔法の技術指導は厳しい。今は自身たちの地盤を固めるのが先決なのかもしれない。

 

「それとだけど【ランクアップ】の報告はしばらくの間はしないで欲しい」

 

「それは力がバレるからですか?」

 

「ああ。正直いってただでさえ君は注目を浴びている。ここでさらに【ランクアップ】の報告なんてしたら、どうなるか想像できるだろう?」

 

 そういえば【ランクアップ】の情報がギルドに張り出されてから、神々に追いかけ回されたと思い出した。既に多くの神々に成長促進系の【スキル】の存在はバレている可能性が高い。そんな神々を刺激するのは危険かもしれない。

 

ただギルドに【ランクアップ】の報告をするのは義務であり規則だ。それを破るとさまざまな罰則が科せられるのだが……ラグナはしばらく考えて一つの【ファミリア】を思い出した。

 

24階層の食糧庫の戦いが終わり、反動で気絶したラグナはしばらくリヴィラの街で休息を取っていた。その時に【ヘルメス・ファミリア】から何かあれば力になってくれるといっていた。

 

そして24階層の食糧庫まで向かうまでの会話で、彼等は深層まで潜ったことがあるのにも関わらず、ギルドには19階層までしか潜っていないと報告しているらしい。つまり彼らは偽造を行っている【ファミリア】であり、彼等は偽造に慣れている可能性が高い。

 

そのことをヘスティアに話すと、ヘルメスの眷属らしい子だねと苦笑いを浮かべた。

 

「とりあえず相談してみます」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 これで【ランクアップ】の報告の問題は終わり、今後の方針は【ファミリア】全員が集まった時にするとして、ようやく次の段階だ。

 

「よし、それじゃあ【ランクアップ】しようか」

 

「お願いします!」

 

「うん、今回の発展アビリティだけど二つだね。前回と同じ『魔防』と『耐異常』の二つ」

 

 どっちにすると首を傾げるヘスティアに唸り声を上げながら思考を巡らせる。『魔防』は前回の【ランクアップ】時にも発現可能だった発展アビリティであり、効果は魔力による攻撃に対する防御力向上。

 

ラグナの【ケラノウス】の副作用の関係で『魔防』の効果は欲しいものだったのだが『不屈』のアビリティを取得してから魔法使用でも気絶しなくなったため必要性が少し前と比べて落ちた。

 

とはいえ激痛は未だにあるので『魔防』で痛みが減るならば是非とも選びたい。

 

そして後者の『耐異常』は冒険者にとって有用な発展アビリティである。その効果は単純で毒や麻痺などの状態異常に耐性を得るもので、アビリティのランク次第で毒を完全に克服できる。

 

ダンジョン探索で生活している冒険者にとっては基本的な発展アビリティ。これから中層、下層、そして深層でも『状態異常』という問題は付き纏う。そのため耐性を得るアビリティは欲しい。

 

「痛みは耐えればいいだけだよな……」

 

 これまで一ヶ月の間にあらゆる激痛を耐え抜いてきたラグナだからこそ言える言葉。普通の冒険者ならば【ケラノウス】の威力に一秒と耐えられない、それを内側から流され続けるという拷問の結果、ラグナはあらゆる痛みを恐れなくなっていた。

 

「『耐異常』にします」

 

「了解。それじゃあ更新するよ」

 

ラグナ

Lv3

力 I0

耐久I0

器用I0

敏捷I0

魔力I0

:不屈H :耐異常I

 

 一週間も経たないうちに【ランクアップ】するとは思っていなかったため、あまり実感が湧いていない。この一ヶ月の間に一体どれほど戦ってきただろう改めて考えると濃密すぎる時間だ。

 

それでもレベル3じゃ安心できない。これから挑むソードオラトリアで起こるだろう戦いは第一級冒険者ですら苦戦するほどなのだから。だからこそラグナは更なる成長を遂げなければならない。

 

能力だけじゃなく、知識や技と駆け引き。まだまだ足りないものがある。それを磨くためには何をするべきか、何をやらないといけないか、ラグナは既に次を見据えていたのだった。

 

「ええっと……確か、こうやって……お、消えた!」

 

「ヘスティア様?」

 

「ロキに教えてもらってよかったよ『(ロック)』のやり方」

 

 今までしていなかったことに戦慄を覚えるほどで、ロキにも本当にお前は大丈夫かと心配までされる始末。そのことに反論もできず、ただただ落ち込んだヘスティアだったが、これでもう眷属の情報がバレることはない。

 

今回【ロキ・ファミリア】に尋ねなければ知ることがなかったかもしれない。改めて主神として頼りなさすぎると思いながら、ボクも成長しないといけないとやる気を漲らせるヘスティアだった。

 

⬛︎

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院施設には冒険者が退院するために身体の機能や動きを確認する訓練施設が存在する。大手の治癒師の【ファミリア】ということもあり、その施設はなかなかに広大である。中には思ったより多くの冒険者が集まり一人の少女を見つめていた。

 

「…………」

 

 空から降り注ぐ雪のような綺麗で無垢な白髪。瞳の色は灰色と深紅(ルベライト)のオッドアイであり、女神に負けない美貌を持った少女だった。そんな少女は訓練用の木刀をその細枝で振るう。

 

それだけで凄まじい風圧と共に空気を斬り裂く。まるで誰かの剣技を思い出すように、そしてなぞるようにして訓練をする少女。その名前はベル・クラネル、現在薬の製作中のため入院している駆け出しの冒険者だった。

 

彼女は病弱であり産まれた時から身体が弱く、不治の病を背負って生きている。そんな彼女は冒険者としての役割は後衛の魔導士である、ではなぜ剣を振るっているのか、それは単純に入院中に身体を動かそうとアミッドに紹介されて、この場所に連れてこられたからである。

 

そこで彼女の幼馴染のラグナが持つ剣を振ってみると、なんとなくだけで剣の振り方を覚えてしまい、もしかしたらと思い武器の訓練を行っているのだった。

 

身体能力には自信がない。それなのにどうして自身は武器を完璧に振るえているのか、ベルにはわからない。ただこの力を利用しない手はないと思い、新たな戦闘スタイルの構築を目指して剣を振るうのだった。

 

そんな彼女をアミッドは静かに見つめていた。圧倒的な才能……その片鱗を感じざるをえない。これまで彼女が振るった武器は槍、斧槍(ハルバード)、大剣、刀、弓、短剣などなど多数で、その全てを何年も扱ったことがあるように使用している。

 

これが一ヶ月にも満たない冒険者、それも病を抱えながらの力なのかと驚かざるをえない。その才能にアミッドは静かに喉を鳴らすのだった。

 

⬛︎

 

 

「……私はどうすればいいんだろう」

 

 迷子のような顔で金髪の少女は呟く。新種の怪物、怪人という強敵、さまざまな問題が【ロキ・ファミリア】を、アイズの前に立ち塞がる。だが現在アイズが悩んでいるのは黒髪の少年のことだった。

 

今日、少年とその主神が話してくれた内容は驚くものばかりであり、アイズを悩ませているのは彼の【スキル】である魂を代償に劇的な力を手に入れるというものだった。

 

魂。ふわふわとしていてアイズもよくわかってないもの、だが何となく命と同等以上に大切なものであると直感が告げていた。そんな魂に傷が入る代わりに第一級冒険者に匹敵する力を今回の戦いで使用したと知った時、アイズはひたすら固まった。

 

そして我に返り一つ質問したのだ。怖くないのかと。

 

『怖くないですよ、それ以上にやり遂げないといけない悲願(ねがい)があるから』

 

その瞳の奥には炎が揺らめいていた。最初に会った時からも微かに感じ取れていたものが、目を離したうちに巨大な炎となり渦巻いていた。何を代償にしても成し遂げる意思にアイズは大英雄()の姿と重ねてしまった。

 

「本当に、どうしよう……」

 

 あまりにも危い。目を離したら、その炎と共に燃え尽きてしまいそうで怖い。他派閥の冒険者、でももう無関係でいられるはずがない。黒髪の少年は既にアイズの心の中心に居座っているのだから。

 

そもそも自分はどうしたいのだろう。ラグナに【スキル】は使ってほしくないことは確かな気持ち。では戦わないで欲しい、剣を持たないで欲しいとは思えない。なぜなら彼はアイズと同じ悲願を胸に抱いている。

 

いうならば同志とも呼べる存在で、凄まじい速度で成長する彼を見ているとアイズも頑張らないといけないと思える。負けられないと思える、初めての存在なのだ。

 

「私って我儘……?」

 

 共に戦ってほしい。けれど魂の傷つく【スキル】は使わないでほしい。そんなことを他派閥の冒険者に言われたとして了承する人間はいないだろう。むしろそんなことを言って嫌われてしまったら……そう考えると震えが止まらなくなる。

 

そもそも今回の件はアイズが同行を許したのにも関わらず、彼の隣で戦ったのは数回程度であり守ることは出来なかった。そのせいで彼の魂に傷が付いたのだと心のアイズは涙目を浮かべ、遂には決壊する。

 

どんより。アイズの自室はその一言に尽きた。そんな雰囲気を壊すべくノックの音が響く。既に夜遅いためアイズは暗い声色のままどうぞと口に出した。

 

「……なんだ、その顔は、大丈夫かアイズ?」

 

 扉を叩いたのは翡翠色の髪の【ロキ・ファミリア】副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴだった。アイズの顔を見てすぐに近寄り、その状態を本人に聞く。

 

「……あの、リヴェリア、ラグナのことは聞いた?」

 

「ああ、先程フィンから【スキル】の件と協力関係を結んだことは聞いたが……?」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の主神と少年自身に許可を取り、幹部間に彼の情報は伝えることとなっており、リヴェリアも報告された際に凄まじい情報量から凍りつくほどだった。

 

「リヴェリアはどうすればラグナが、魂が傷つかなくて済むようになると思う?」

 

「……なるほど、それで悩んでいたのだな」

 

「うん、どうすればいいのかわからなくて」

 

「そうだな、まず第一に【誓約代償】の力は少年自身のものだ。この使用は全て本人次第、私たちが関与できる問題では絶対にない」

 

 自己の力では勝つことができない敵と相対したり、よほどの異常事態に巻き込まれた場合など、さまざまな場面で少年は【スキル】を使用して状況を打開するだろう。それを止めることは何人たりとも不可能であり、自分たちにできることはないとリヴェリアは言う。

 

「だが、そうだな。その【スキル】の使用は止められなくても、使用させない状況なら作り出せるだろう」

 

「使用させない状況……?」

 

「単純な話だ。彼には成長促進系の【スキル】が発現している。鍛えあげれば間違いなく第一級冒険者の高みまで追いつくだろう。そうなれば魂を代償にする【スキル】など使うことは少なくなる」

 

 そう、少なくなるだけだ。強くなるにつれて敵のレベルも上がっていくため、いくら強くなっても【スキル】の使用は完全になくならないだろう。だが第一級冒険者という高みに辿り着くことができれば、自己の力のみで敵を打倒できる可能性を手に入れれる。

 

「でも私……教えるの下手だから……」

 

 力を求めるあまり誰かに教えた経験などラグナが初めてであり、その結果があの地獄の鍛錬だった。それを反省してもう一度教えるにも自信がないと顔を伏せるアイズにリヴェリアは微笑みを浮かべた。

 

「最初から教えるのが上手い人間は少ない。お前も少しずつ成長していけばいい。誰かに教えることでお前も得られることがあるのは間違いない」

 

「少しずつ成長……うん、リヴェリア、私やってみる」

 

 元より訓練の約束はしていた。明日にでもラグナの元に向かい話をしようとアイズは暗い顔から一転してやる気に満ちた顔に変化する。コロコロと表情を変えるアイズにリヴェリアはやはり少年と関わることで成長しなかった部分が変わっていっていることを認識する。

 

他派閥の少年。彼が【ロキ・ファミリア】に、いや世界にどんな変化を起こすのか。リヴェリアは楽しみと同時に恐ろしさを感じていたのだった。

 

 

 

 

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