主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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あけましておめでとうございます。
今年もお願いします!


55話 借金と報酬

 

 

『エイナ・チュール』

Lv1

力 I:6→I:40

耐久I:2→I:19

器用I:12→H106

敏捷I:3→I:30

魔力I0→G:290

『魔法』【マギナ・ラグナ】

    ・支援魔法。

    ・詠唱連結。

    ・第一階位『マギマ・レイル』

    ・第二階位『マギガ・リルガ』

    ・第三階位『マギア・アルヴィス』

『スキル』【妖精聖女(セルディア)

     ・魔力の大幅増加

     ・支援系統の魔法効果上昇。

     ・支援魔法の射程大幅増加。

 

『リリルカ・アーデ』

LV1

力 I:33→I:80

耐久I:66→H:126

器用H:103→H:167

敏捷G:207→G:286

魔力I:50→G299

【魔法】【シンダー・エラ】

『スキル』【縁下力持(アーテル・アシスト)

     

 二人のステイタスが記された羊皮紙を見てラグナは目を剥いた。リリに関しては主神であるソーマにステイタス更新をしてもらえていなかったため、溜め込んだ経験値を解放させた結果なので妥当だといえる。

 

しかし、エイナは最近冒険者になった駆け出し。何より支援魔導士という能力値が上がりにくい役割なのにも関わらず、この成長量。

 

英雄憧導(アルゴノゥト)】の力を実感しないわけがなかった。この伸びに一番驚いていたのはエイナ自身であり、元受付嬢として冒険者の恩恵について知識があるため、このありえない伸び方にひたすら絶句していた。

 

「……出鱈目な【スキル】だね」

 

 ヘスティアの言葉に一同は勢いよく頷く。ただラグナと同じ【ファミリア】に入るだけで【ランクアップ】に手が届いてしまう。その力にエイナは恐ろしいと感じざるをえない。

 

反対にベルは希望に満ちた表情を浮かべていた。一回の探索で誰よりも伸びたベルは偉業さえ成し遂げれば【ランクアップ】できる状況にあった。この【スキル】があれば隣に並び立つことができるかもしれないと思うと今まで胸の中に抱えていた焦りが霧散していくのを感じていた。

 

「でも、この【スキル】があるからと無茶をしてはいけないよ。自分の命を最優先に考えておくれ」

 

 ヘスティアの忠告に頷くエイナとリリ。ベルは少し考えてゆっくりと頷く。

 

「あの、一つ質問なのですが……ファミリアに団員を入れる予定はあるのでしょうか?」

 

「入れたい……とは常々思っているんだけどな。問題が二つほどあるんだ」

 

「二つですか?」

 

「ああ。まず団員の人柄。俺たちと問題なく連携を取れて話せる冒険者」

 

 冒険者という職業は常に命の危険に晒されることになる。そのため粗暴で野蛮な人柄の冒険者が数多く存在しており、そんな人間を【ヘスティア・ファミリア】には絶対に入れたくない。

 

「人柄が良くないと、この劇薬とも呼べる【スキル】が悪影響に走る可能性も捨てきれない。変に力を持たれるのはリスクがあると俺は考えてる」

 

「……話を聞いて、私も同意見だよ。やっぱりファミリアだから、助け合える人じゃないと」

 

「ボクもできれば性格の良い子がいいなと思ってる」

 

 【ファミリア】の内部崩壊にも繋がりかねないため、眷属選びは慎重にしなければならない。性格が良く、実力もあって、連携も取れる冒険者など数が限られているのは当たり前だが妥協はできない。

 

「二つ目の問題は?」

 

「二つ目は単純にホームだ」

 

「……なるほど、拠点の確保ですね」

 

 現在の【ヘスティア・ファミリア】のホームと呼べる場所は教会であり、寝泊まりできる人数は最大でも三人まで。こうやって【ファミリア】の全構成員が集まって話すのも今回が初めてなほど、まだ仲が深まっているとはいいがたい。

 

【ファミリア】の結束力を高めるためという理由もあるが、やはり一番はホームがしっかりとしている派閥には人が集まるからである。思い浮かぶのは都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】のホーム。

 

前者はいくつもの塔が並び、一棟一棟が笑えるほど広い。数多の眷属の部屋が用意されており、その設備は冒険者の活動を支えるために全て活用されている。

 

後者は白亜の城と呼べるほど大きく、どこかの王城と見紛うほどに豪華。何より『強靭な勇士(エインヘリヤル)』のための設備は無駄が全くなく、美神が所有するに相応しいと断言できるほど。

 

「エイナさんは家を借りてて、リリは宿屋を借りてる状況だから。ホームがあれば色々な問題が解決できると思ってるんですけど……」

 

「問題はお金……」

 

 【ソーマ・ファミリア】の一件で美神から貰った一千万ヴァリス、そしてリリが貯めていた一千万ヴァリス。合わせて二千万ヴァリスは用意できるが、それでは全くといっていいほど足りない。

 

数億……それぐらいは必要になると考えていい。今現在の稼ぎは一日で10万ヴァリスほど。等分しても億という数字に届かせるためには相当な時間を要する。

 

だが【ヘスティア・ファミリア】には。いや、ラグナとベルには時間がない。一刻も早く強くなり、深層に辿り着かないといけない。ではどうやってお金を稼ぐのか。それを話し合おうとしているとヘスティアが恐る恐る、一つの紙を取り出した。

 

「お金といったら……なんだけど……えーと」

 

「何か名案でも……?」

 

「あはは、全然違うよ。ま、まあ……ラグナくんの剣って凄いと思わないかい?」

 

 全員がラグナの腰に差してある《聖火剣》に視線を向ける。白色の鞘に包まれており、抜き放つと黒の刀身が姿を現す見ているだけで高級品とわかる一級品の武器。

 

一切の刃こぼれを起こさず、血をいくら浴びようとも切れ味を損なわない。ラグナが武器の性能に頼りきりになるほど、その武器の力は偉大だ。

 

「《聖火剣(ウェスタ)》っていう名前で、これはボクのもう一つの名前でもあって……燃え続ける炎って意味があるんだけど……えーと、この剣は神友であるヘファイストスに作ってもらって……」

 

「ま、まさか……!」

 

「───四億ヴァリスの借金(ローン)があります!」

 

 勢いのままにヘスティアは神友から教わった奥義である土下座を繰り出した。その美しい姿勢には使い手であるラグナでも目を引くものであり、そしてゆっくりと現状を受け入れて震えるのだった。

 

「よ、よ、四億……」

 

 未だに貧乏ファミリアである【ヘスティア・ファミリア】にとって、その数字はあまりにも重くのしかかるものだった。

 

ラグナはどうして今まで値段を聞いてなかったと、自分が馬鹿すぎて地面から崩れ落ちる。そうだった原作でも《ヘスティアナイフ》には莫大な金額が掛かっている。

 

特性だけをヘスティアに聞いて使用していた。言い訳をするならあまりにも余裕がなかった。竜の件から様々な修行や問題で奔走しており、剣の値段のことが完全に抜け落ちていたのである。

 

「……でも、これはボクが個人的にした借金なんだ。だから君たちは気にしなくていい」

 

 【ヘスティア・ファミリア】として話しておかないといけないと思ったから、話しただけだとヘスティアは話す。

 

「俺も一緒に返済をさせてください」

 

 『小竜(インファントドラゴン)』と戦った時から共に戦い続けた《聖火剣》。この剣のおかげで勝利を掴めた戦いが幾度もあり、一心同体と呼べるほど愛着が湧いている。そんな剣のためならいくらでも金を稼ぐとラグナはヘスティアに話す。

 

「……だめだ。ヘファイストスと約束したんだ。絶対に自分の力だけで返済するって」

 

「でも……四億ヴァリスなんて……」

 

「何十年、何百年掛かっても返済してみせる。これはボク一人でやらなくちゃ意味がないんだ」

 

 ヘスティアの美しい深い青の瞳に見つめられてラグナは、この人の意思を捻じ曲げることはできないと悟った。

 

「……でも、助けが欲しかったら遠慮なく頼ってほしいです。俺たちは貴方の眷属なんですから」

 

「……ラグナくん……うん!」

 

「……あの、感動的なのは良いんですが。この借金のせいで団員を集めるのは難しくなったことをお忘れなく!」

 

「うっ……」

 

 借金のある【ファミリア】に入りたいと思う人間がいるはずなく、よほどの物好きかお人好しか……別の理由でもない限り入団希望者は現れないだろう。

 

一応、借金を隠して入団させるという手もある。だがそんな手を使えば仲間に不信感を抱くことになり、良い方向には進まないだろう。

 

つまり借金を受け入れてくれて、人柄もよい冒険者を探しつつ、ホームのためのお金を貯めるという鬼畜とも呼べる難易度に全員は重い溜息を吐くのだった。

 

 

⬛︎

 

 

 24階層の食糧庫の件から三日後。黒髪の少年は【ヘルメス・ファミリア】の獣人の少女と【ロキ・ファミリア】幹部の金髪の少女と共に歩いていた。

 

先日のこと、獣人の少女のルルネは依頼を託してきた黒衣の人物に『報酬だ』と三つの鍵を渡されたのである。【ヘルメス・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】そしてラグナに分配するためにわざわざ手紙を送り、集合を果たしたのだった。

 

向かっている場所は貸し出しの金庫と呼ばれるところであり、その金庫の中に黒衣の人物が報酬を入れたのだろうとルルネが話していた。

 

そして金庫に辿り着き、687、688、689と並んである金庫に鍵を同時に差し込んだ。ラグナが開いた金庫には宝石、金の指輪、装飾された一角獣(ユニコーン)の角。さらには魔導書(グリモア)も二冊入っていた。

 

「……っ」

 

 合計金額は数億ヴァリスは優に超すことに戦慄が走る。これだけで《聖火剣》の借金を払えるかもしれない。いや、それよりも二冊の魔導書にどうしても目が引かれる。

 

これがあれば魔法が強制的に発現するという、冒険者が喉から手が出るほどほしい代物である。魔法の空き欄(スロット)がない場合でも運が良ければ二つ目、三つ目と覚えられたりなど、値段だけじゃ計り知れない価値がある。

 

ラグナ自身は二つ目の魔法を覚えようとは思っていない。【ケラノウス】という扱いが難しい魔法がある以上、二つ目の魔法も同じようなリスクの高い魔法だった場合は有効活用できる気がしない。

 

何より魔導書は圧倒的な才能のベルとハイエルフの血を引くエイナに手に渡るのが相応しいだろう。

 

「ルルネさんもアイズさんも同じ感じですか……?」

 

「ああ、宝石に希少種の戦利品……あの地獄の戦いの報酬と考えると、安いのか高いのかわからないけどな」

 

 地獄のような戦いだった。黒髪の少年、第一級冒険者、千の魔法を操る妖精の力がなかったら全滅していてもおかしくなかった。そんな戦場で戦い抜いた結果だと考えると妥当なのか判断できない。

 

「──ラグナ、24階層の後もバタバタしていてしっかりお礼できてなかったな。本当にありがとう」

 

「いえ……俺も【ヘルメス・ファミリア】の皆さんには助けてもらいましたから、お互い様です」

 

 24階層の食糧庫に向かう最中。経験不足と知識不足であるラグナを助けてくれたのは【ヘルメス・ファミリア】であり他派閥の冒険者を見捨てずに面倒を見てくれた冒険者には感謝が尽きない。

 

「むしろ、俺こそセインさんの足を引っ張って……」

 

「アイツ、言ってたぜ。『英雄候補の命を救った、これほど名誉なことはない』ってな。だからお互い様なんだろうが……恩があると少しむず痒くてな。何か協力できることがあるなら言ってほしいんだ」

 

 【ヘルメス・ファミリア】はギルドには隠しているが、深層に足を踏み入れた経験もある中堅以上のファミリアである。経験も知識も他の派閥とは一線を画している。

 

「それなら……ひとつだけお願いというか、相談したいことがあって……」

 

「相談?」

 

「ここじゃ話せないんですけど……」

 

 隣で話を聞いている金髪の少女を見る。どこかオロオロと何か話したそうな表情の【剣姫】を見て、ラグナは微笑みを浮かべた。

 

「夜、ホームに行ってもいいですか?」

 

「ああ、別に構わない。アスフィにも話を通しておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

 ルルネからホームの位置を教えてもらい、約束を取り付けた。この問題はいくら協力関係を結んでいる【ロキ・ファミリア】所属のアイズにも話せない。少しだけ申し訳ないと思いながら、今もきょろきょろとしているアイズに視線を向ける。

 

「えーと、アイズさんどうしたんですか?」

 

 何か話したそうだったため、ラグナからそう切り出すとどこか嬉しそうにアイズは目を見開く。

 

「……あの、い、一緒に訓練しない?」

 

 可愛らしい表情で首を傾げるアイズに『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』で訓練の約束をしていたことを思い出した。

 

ダンジョンはお昼頃からの予定なので時間はまだまだある。肉体と器のズレを治すためにも全力で戦える第一級冒険者との訓練はありがたい。その誘いにラグナは頷くとアイズは花が咲いたような明るい表情になった。

 

そのままルルネと別れてラグナはアイズの隣を歩く。第一級冒険者と世界記録者(ワールドレコーダー)が歩く姿に冒険者、民衆の視線が突き刺さる。

 

他派閥の二人がどうして歩いているのか。そんな視線を感じてラグナは慌てて離れようと距離を取った。

 

「───!」

 

 ガーン。そんな効果音が聞こえてきそうなほどアイズの顔が曇った。顔面蒼白。嫌われた……と目尻に涙を浮かべる。その姿にラグナはぎょっと目を見開いた。

 

「あ、あの……見られてるので……離れただけです」

 

「……本当?」

 

「は、はい。他派閥同士絡んでる姿を見られるのは、あまりよろしくないと思うので……ちょっと距離を取りましょう」

 

 そう言って、第一級冒険者にしか聞き取れないほど小さな声でラグナは話す。ラグナが一番恐れているのは【剣姫】と『英雄候補』ができているなんて噂が流れることだった。

 

眷属を愛する赤髪の女神ロキに、その噂が耳に入れば……せっかく築いた協力関係が白紙になる可能性もある。だからこそラグナは慎重になっていたのだが……アイズは話を聞いていなかったのか距離を縮めてくる。

 

「あ、アイズさん?」

 

「…………」

 

「いやいや、聞こえないフリしても無駄ですから!ちょっと、第一級冒険者!?」

 

 まさかの知らんぷり。それにラグナはいよいよ不味いと冷や汗を流し始める。こうなればと距離を離すために早歩きにしたり、走ったりする。だが第一級冒険者にそんな行為は無駄だった。完全に一定の距離を保たれ、ラグナは恐怖を感じる。

 

──この人のことよくわからない。

 

単純に天然なのか、それとも強さの秘密を教えたから執着しているのか。あるいは別の理由があるのか。様々な考察を頭の中で巡らせる。

 

「──ラグナさん!」

 

「うわ……シルさん……!?」

 

 久しぶりに聞いた声にラグナは思わず飛び退いた。薄鈍色の髪、店員の服装、容姿の整った看板娘の姿に目を丸くする。

 

「ど、どうしてここに……?」

 

「買い出しの最中で……ラグナさんは……。……っ!」

 

「……な、なんですか?」

 

 何かに気づいたようにシルはラグナにゆっくりと接近して、その視線を直接ぶつけてくる。

 

「──へぇ、ラグナさん……使っちゃったんですね」

 

「ッ!」

 

 瞳を細め、妖しく囁いてくるシル。人間の魂を視認することができる神の目、それによって傷ついたラグナの魂を確認したのだ。

 

「ラグナ……、そ、その人は……?」

 

「あ」

 

 看板娘という衝撃によって思考の外に出ていた金髪の少女が震えた声で、仲が良さそうに絡んでいる黒髪の少年と薄鈍色の少女にショックを受ける。

 

「えへへ、実は恋人なんです」

 

「え、ちょ!?」

 

「──こい、びと?」

 

 シルの言葉にアイズは何度も言葉を心の中で転がす。こいびと、コイビト、恋人?どういう意味だろうと呆然と立ち尽くすアイズに面倒くさいことになったと溜息を吐いた。

 

「冗談ですよ、アイズさん……騙されないでください!」

 

「冗談って酷い……私のことは遊びだったんですね!」

 

「遊びってなんだ!?誤解を招く発言はやめて!?」

 

 人が往来する場所でなんという発言をしてくれるのだろう。内心キレそうになりながらラグナは必死に混沌(カオス)を収めようとアイズを宥めるが放心状態のアイズには届かない。困り果てたラグナは頭を抱える。

 

「……話は変わりますが、ラグナさんは今日空いてますか?」

 

「いや、空いていない……」

 

「───空いてますか?」

 

「あ、空いてます」

 

「それならよかった!いつもの場所で待ってますね!」

 

 有無を言わさない圧力にラグナは従うしかなかった。今日は訓練、ダンジョン探索、【ヘルメス・ファミリア】のホームにも行かないといけないというのに、多忙な一日を想像して肩を落とした。

 

⬛︎

 

「……冗談?」

 

「はい。揶揄うのが好きな人なんですよ……」

 

 黒衣の人物から依頼を受けた壁上でラグナはようやく気を取り戻したアイズに先程の説明をしていた。

 

「……そっか」

 

 安心したと胸に手を当てるアイズ。それを尻目にラグナは軽く準備体操を行っていた。器と肉体のズレをなくすために調整する相手として第一級冒険者の胸を借りる。

 

現在のラグナのレベルは3。潜在値(エクストラポイント)まで含めるとレベル4とも戦えるほどであり、他の冒険者とは一線を画すといえる。

 

しかし、それほどの能力を身に宿すということは、それを御するためには相当な技量が必要になる。急激な成長によって、そこが損なわれているとラグナは自覚しており、それを磨くためにも剣技という括りだとトップクラスのアイズは絶好の訓練相手だ。

 

《聖火剣》と《デスペレート》の鞘がお互いに向き合う。

 

「……行きます」

 

 30%の力で踏み込み、その鞘を振るう。鋭くも素早い一撃を難なく弾く。続く連撃も軽く弾き、いなし、回避する。軽やかな防御に目を剥く。そして次は私と、アイズが鞘を握り発走してくる。

 

「っ!」

 

 絶え間ない斬撃。呼吸の時間すら奪うほどの隙間のない連撃。全力で防御を行うが、その攻撃によってできた隙を的確に突いてくる。だからこそラグナはあえて剣を持たない左側に隙を作った。

 

経験不足のラグナが仕掛ける精一杯の駆け引き。左側に剣が向かうなら反撃を喰らわせるという意思表示、右側に向かっても狙いさえ絞れるならそれでいい。

 

そんな駆け引きに対してアイズが選択したのは───上だった。

 

軽やかな靴音と共に跳躍、そのまま振り下ろされる斬撃をお見舞いしようと迫ってくる。それに全力で後ろに後転して回避する。

 

「……駆け引きを仕掛けるのはいいけど、思考の外の攻撃も想像しないとダメ」

 

「……はい!」

 

 そうして壁上に剣戟が響き渡るのだった。

 

⬛︎

 

 剣戟が響き渡るのは壁上だけじゃなかった。豊穣の女主人の裏路地では木刀がぶつかり、軋む音が轟く。

 

「っ……なんて、才能」

 

 呟いたのは酒場の妖精、リュー・リオン。空色の瞳があらん限りに開かれ、その視線を目の前の白髪の少女に注ぐ。

 

不治の病を患い、才渦の怪物と呼ばれた『英雄』の血を継ぐ存在であるベル・クラネル。音の魔法だけじゃなく、他の才能まで受け継いでいた少女にリューはひたすら瞠目するのだった。

 

入院していたから、修行ができなかったため、遅れを取り戻すためにも今日から訓練をつけてほしい。そう願ってきたベルに了承して、前回と同じように魔法の訓練を行うのだろうと考えていたのだが……付けて欲しいのは剣の稽古という言葉を聞いて心底驚いた。

 

リューから見ても、ベルの肉体はあまりにも魔法剣士に向いていない。病によって鍛えられていない足腰は剣を振るのも難しいはずなのにも関わらず、平然と振るう。

 

その姿に過去の大戦を思い出して戦慄するリューはどうしても『灰の魔女』と重ねてしまう。そして間違いなく、その魔女に匹敵する怪物となるだろうと未来の姿を思い浮かべて恐怖するのだった。

 

 

 

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