主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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57話 ヘルメス

 

 【ヘルメス・ファミリア】ホーム『旅人の宿』。そこで羽の付いた帽子を被った優男の男神は書類と睨めっこしていた。

 

「……24階層。食人花に怪人、単なるダンジョンの未知というには怪しすぎるな」

 

 その裏に蠢く何かを感じ取り神ヘルメスは顎に手を当てる。都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】ですら、未だに正体を明らかにできていないのは確実に神の仕業だと考えられる。それは都市を破滅に導く巨悪か、それとも───。

 

「それよりも、おかしいのは、ラグナくんだよなぁ……」

 

 24階層の食糧庫での戦いでレベル2でありながら、第一級冒険者と同等、いやそれ以上の活躍をした冒険者。この冒険者が駆け出しだとは誰も思わないだろう。

 

「あのゼウスが育てた最後の希望、最後の英雄(ラストヒーロー)か」

 

 大神ゼウス。女好きで自由奔放。基本的に眷属に関しては放任主義であり、たまに助言をする程度だった神が直々に鍛え上げた少年。それが現在都市を騒がせている英雄候補のラグナだった。

 

一体どんな鍛錬をしたのか聞いても教えてくれなかった。ということは相当ヤバいことをしてそうだと少年について思考を巡らせる。だがゼウスが剣術を教えているからといって、24階層の戦いはおかしいところが多すぎる。

 

【スキル】や【魔法】の力があったとして、レベル2の冒険者を第一級冒険者相当まで強化するものなど存在しない。あるとしたら相当量の代償や制限があるはずだが……考えてもわからない。

 

「ヘルメス様、ラグナさんが来ました」

 

「今行く、談話室で待っていてくれ」

 

「……了解しました」

 

 ヘルメスの言葉に頷き自慢の眷属であるアスフィが扉を閉めて行く。噂をすればというやつだ。ヘルメスは頬を吊り上げながら、その英雄の顔を拝むために準備するのだった。

 

⬛︎

 

「どうぞ、座ってください」

 

 ダンジョンから帰還してラグナが真っ先に向かったのは【ヘルメス・ファミリア】のホームである『旅人の宿』だった。探索系だけではなく、商人という側面もあるためか見たことのない骨董品や道具などが置いてある談話室に案内された。

 

フカフカのソファーに座り、出された珈琲を口にする。なんとも落ち着いたホームだとラグナは都市最大派閥のホームを思い出して、そんな感想を抱いた。対面に置かれたソファーにアスフィが座り、その碧眼の瞳でラグナを見つめる。

 

「改めて。24階層の件、貴方に助けられました。感謝を」

 

「いえ!俺もアスフィさんの指揮に助けられました。こちらこそありがとうございます」

 

 道中の機転も指示もラグナとしては記憶に焼きつくほど鮮烈なものであり、とても助けられたことを覚えている。パーティーにおいて絶対的な指揮官の存在は重要だと理解させられるほど頼もしかった。

 

何より彼女自身も【万能者(ペルセウス)】という二つ名を持つほど、指揮だけじゃなく戦闘もこなせる。自身の作った魔道具(マジックアイテム)によって敵を翻弄したり、壊滅させたりと万能である。

 

「──やあ、君がラグナくんかい?」

 

 ラグナがアスフィの能力について思考していると扉を開けて現れたのは優男風の男神であり、その姿からすぐに神ヘルメスだと気づく。立ち上がり、ラグナは軽く挨拶をする。

 

「【ヘスティア・ファミリア】所属のラグナです。えーと、アスフィさんたちには24階層でお世話になりました」

 

「丁寧にどうも。オレの名前はヘルメス。それと24階層の件でお世話になったのはオレたちの方だ。君がいなければ間違いなくオレの眷属は死んでいた」

 

 魔力で食人花を引き寄せ、壊滅させて傷ついた冒険者に近づかせないように立ち回り、さらには巨大花の討伐。それからも囮と殲滅を繰り返して仲間を救った。MVPの活躍といっても過言ではなく、ヘルメスはラグナの手を取って深く感謝を示す。

 

「君はどこか納得していなさそうだね。それは自爆特攻から庇われたからかい?」

 

「……そう、ですね。もしも一歩間違っていたら、セインさんは死んでいた。あれは俺が至らなかったからなので」

 

「あれほどの未知に遭遇すれば、仕方ないと割り切れそうなものだけど……君は生真面目だね」

 

 生真面目。そう言われてそうなのだろうかとラグナは首を傾げる。誰であっても自分の周りで人が死ぬのは嫌だろうと思うし、何よりそれが自分のミスや経験不足から来るものだったらなおさらのことだ。

 

「さて。今日は相談があるんだろう?」

 

「はい。ええっと……言いづらいんですけど、【ヘルメス・ファミリア】ってどうやってギルドに偽装してるのか聞きたくて」

 

「何か報告したら都合が悪いものでもあるのかい?」

 

「……実は24階層の件で【ランクアップ】しまして」

 

「【ランクアップ】!?」

 

 アスフィとヘルメスの目があらん限りに見開かれる。少年の積み上げた偉業を考えれば【ランクアップ】することは全くおかしくない。それでもラグナは最近レベル2に上がったばかりであり、そこから一瞬でレベル3など常識的に考えてあり得ない。

 

「……【スキル】が関係しているのかな?」

 

「そう、ですね。【終末戦炎(ラグナロク)】っていう、経験値増幅の【スキル】が発現して」

 

「なるほど、成長促進系の【スキル】。それなら君の驚異的な成長にも納得が行く」

 

 下界で初めて発現したであろう成長促進系。それに目を向きながら納得を示すヘルメス。そして未だに少年の【ランクアップ】に放心状態のアスフィを置いて話は続いていく。

 

「君が【ランクアップ】を伏せる理由だけど、それは()()()()()()()()かな?」

 

「はい。【ランクアップ】した時に知らない神に追いかけ回されたこともあって……いつか、その矛先が俺だけじゃなく周りにまで向く可能性を考えるとギルドに報告できないと考えまして」

 

 今の【ヘスティア・ファミリア】は駆け出しの冒険者が三人で、実力的に見れば実際に戦えるのはラグナとベルだけ。

 

襲撃などを考えるととても不安であり、それを阻止するためにも【ランクアップ】の報告はしたくない。それで到達階層を誤魔化したりしている【ヘルメス・ファミリア】に相談したかったのだ。

 

「そうだね……ギルドの偽装は別にこれといったことはしてないんだよな」

 

「ええ……到達階層を誤魔化すのには、少々裏技を使いますが……能力についてはほとんど何もしていません」

 

「そうなんですね、なんか特別なことをしてたのかと……」

 

「下手なことをすればギルドは勘付くからね。とはいえ、もしバレた時の罰則は覚悟しておいた方がいい」

 

「ちなみに、罰則ってどんなのが……?」

 

「そうだね主な物は罰金で……まあ、数千万から数億ヴァリスってとこかな……」

 

「……数千万から数億」

 

 悪質なものだったら、より罰金が重くなるとヘルメスが続く。その言葉にラグナは身震いしながらも仕方ないと割り切ることにした。能力が世界中に広がって悪影響が出ないことが最優先だ。

 

「悩みは消えたかい?なら、一つオレからも聞きたいことがある」

 

「聞きたいことですか?」

 

「ああ。君は今後、24階層の未知を相手にこれからどうする気なんだ?」

 

「……それは戦う気なのかってことですよね。それなら俺は戦うつもりです」

 

「……っ」

 

 嫌な予感が当たったとヘルメスは目を細める。この飛躍とも呼べる成長を遂げている少年はあまりにも精神が完成している。それはゼウスとの関連で身についたものなのか、それとも本来の性質なのかは定かではない。しかし、今回において、その精神が最悪な方向に向かおうとしている。

 

「オレからの忠告だが……関わるべきじゃない。君が関わるには敵の強さも狙いも不透明すぎる」

 

「だから【ロキ・ファミリア】に丸投げするなんて、俺にはできません」

 

「だが君は駆け出しだ。いくら成長しているといっても、経験は知識は急に得られる物じゃない。君は成長期間だ、都市最大派閥すら苦戦する敵との戦いは危なすぎる!」

 

 最後の英雄。その階段を駆け上がる少年を未知との戦いで失うわけにはいかない。そんな心配をラグナは感じて、申し訳なさを感じながらも答える。

 

「……俺には目標があります。黒竜討伐、迷宮攻略。その二つを成し遂げるには生半可な修羅場じゃ足りないです。この戦いで死ぬようなら、俺は夢を成し遂げられない」

 

「……っ」

 

「ごめんなさい、ヘルメス様。心配はありがたいですが、意思は変わりません……この後も用事があるので、そろそろ帰ります。相談ありがとうございました」

 

 そう言って扉を開けて『旅人の宿』から出ていくラグナ。それを止めることはしなかった。

 

「……完成された精神。止めることはできない、か」

 

 漆黒の意思。それを砕くことはどんな者でも不可能だと悟り、ヘルメスは思わず笑みがこぼれる。あの英雄は自ら高い壁に挑み、己の限界を超え続けるだろう。それに対して旅を司る神ができることは───。

 

「アスフィ。悪いが───」

 

 

⬛︎

 

 

 その色は漆黒だった。何人にも汚せず、何人たりとも犯せない。

 

魂の色というのは不思議なもので、その色によりさまざまな生き様や精神性などを覗き見ることができる。フレイヤはこの力のおかげで有望な冒険者を勧誘して、現在の都市最大派閥を作り上げている。

 

そんな力で都市に来たばかりの少年を見た時は驚いた。なぜなら全てがチグハグであり、二つの魂が混ざり合ったような独特な形と色をしていたから。だからこそ興味を抱いて、欲しいとすら思った。

 

ここまでは単なる女神の好奇心。今まで通り変わらなかった。だがヘスティアから恩恵を授かり、徐々に魂の形と色が変化していった。

 

そして現在、フレイヤの目の前にいる少年は第一級冒険者にも負けない輝きを放っていた。

 

「……綺麗ね」

 

「なんだ、気持ち悪い」

 

「ふふ、今日は素なのね」

 

「人払いはしてもらったからな……聞かれたら半殺しじゃ済まないだろ」

 

 今日の話は誰にもバレたくないという少年の意向からフレイヤは眷属たちに命令を下し、二人きりの状況を作り上げていた。神室に差し込む月光が美しく、机に置かれたワイングラスを輝かせる中で口を開いたのはフレイヤだった。

 

「……魂、やっぱり傷ついてるわね。やっぱり【スキル】を使用したのね?」

 

 ガラスに亀裂が走るように魂が傷ついている。それを改めて視認してフレイヤはどうしても『小竜(インファントドラゴン)』の件を思い出してしまった。

 

あの時のあれさえなければ、ヘスティアは【スキル】のことを知らせずにラグナも無事だったかもしれない。そう思うと心が痛く美しい相貌が苦悶に歪みそうになる。

 

ラグナはそんな僅かな変化を無視して、話をする。

 

「……経緯まで話すと長くなるけど、フレイヤは新種の怪物について聞いたことは?」

 

「……それはロキが言っていた『怪物祭(モンスターフィリア)』でも発生した植物の?」

 

「知ってたのか……なら話は早いな、まずは……」

 

 そうして24階層の激戦のおおよそを話していくラグナ。【剣姫】の依頼に同行して、そのまま18階層まで直行。その後パーティーを組んで24階層の食糧庫に向かっていく。その途中で先ほども話した新種の怪物と交戦したこと。

 

色々あり、第一級冒険者と分断されて、食糧庫で向かった。そこで異様な光景と闇派閥の残党に自爆特攻で襲われた末に仲間に庇われて死にかけたこと。さらに追い討ちのように食人花が迫ってきたことで【スキル】を使用したことを話す。

 

それに対してフレイヤは僅かに目を細めるだけで反応はしなかった。その後第一級相当の怪人や、再度現れた数百規模の食人花の話をして、24階層の件のおおよその話は終わった。

 

「……そうね。あなたの【スキル】を使用した経緯は理解した。それであなたはこの下界の未知とも呼べる問題に介入するつもりでいるのよね?」

 

「……介入というか、見過ごせないだろ。【ロキ・ファミリア】だけに、この問題を対処させるのは」

 

 敵の力量があまりにも未知数。今の世界の状況で【ロキ・ファミリア】、いや第一級冒険者を一人でも失えば滅ぶかもしれない。そんな状況で見過ごせるはずがない。

 

「……【フレイヤ・ファミリア】は」

 

「協力、同盟なら無理ね」

 

「……まだ何も言ってないんだが、まあいい。どうして無理なんだ?」

 

「私の眷属の性格知ってるでしょ?ダンジョンで仲間割れするほどなんだから、それでまともな連携なんて取れないし、何より絶対の指揮官が二人発生する」

 

 【ロキ・ファミリア】の団長【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。武勇はもちろん、世界に轟くのは指揮能力であり、どんな状況でも最適な判断を下せる怪物。

 

そして【フレイヤ・ファミリア】で指揮をしているのは【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】の二つ名を持つ第一級冒険者、ヘディン・セルランド。『強靭な勇士(エインヘリヤル)』を手足のように動かす、こちらもまた怪物だ。

 

そんな二人が同じ戦場に降り立てば、当然ながら指揮の取り合いになり、パーティーに混乱の渦を巻き起こす。それだけじゃなく、問題はいくらでも出てくる。

 

「無理そうだ」

 

 その話を聞いてラグナは乾いた笑みを浮かべて協力を仰ぐのを諦めた。フレイヤが常時命令できる環境ならば、まだ可能性はあったが、神を戦場に連れてくるわけにもいかない。つまり【フレイヤ・ファミリア】に協力を仰ぐのは不可能。

 

「……それと、私からも一つ話があるのだけど」

 

「話?」

 

「……あなたが世界最速で【ランクアップ】したからか、狙っている神がいるわ」

 

「狙ってる神……」

 

「【アポロン・ファミリア】って知っているかしら?」

 

 その一言で全て察した。原作でもベルを狙い戦争遊戯(ウォーゲーム)という派閥間での戦いを仕掛けてきた悪辣な神である。そんな神が自分を狙っているという事実に顔を歪める。

 

「私の方で潰すこともできるけれど……」

 

「いや、これに関しては別に問題はない」

 

 【アポロン・ファミリア】団長のレベルは記憶が確かならレベル3。同じ階位ならばラグナは負ける気はしない。それが派閥同士の戦いであっても殲滅できる自信があった。

 

問題はそれを【ヘスティア・ファミリア】のメンバーに向けられること。人同士の戦いとなると色々な問題が生まれるだろうし……とにかく今は警戒しておくことに損はないだろう。

 

「アポロンが策略を働いてくる可能性もあるけど……今のあなたなら問題ないわね」

 

 何かあれば美神(わたし)が介入すればいい話。それにアポロンのことだから、おそらく抗争ではなく戦争遊戯という形で戦うことになる。そうなればラグナの戦いを見ることができる、それはフレイヤも嬉しいことである。

 

「……ファミリアといえば、遠征の件はどうなったんだ?」

 

「準備は完了している。けれど、さっきも話した通り、あらゆる神が貴方を狙ってる状況ということもあるし、先ほど聞いた新種の怪物のこともある。しばらく様子を見ようと考えているわ」

 

 そもそも主神の護衛という仕事があるためか、戦力がどうしても別れてしまう。そのため到達階層を増やすという本来の目的を達することは難しい。フレイヤの命令であっても、フレイヤ自身の命に関わることがあれば全ての眷属が命令に反するだろう。

 

「……そうか。そういえば幹部の人たちとは会ったことがないけど、どんな人たちなんだ?」

 

「そうね。言葉にするのは難しいけれど、全員いい子よ。性格には難があるけれど……いつか会うことになるんじゃないかしら?」

 

 少年が『洗礼』を乗り越えて、戦いが物足りなくなれば更なる過酷を与えないといけないだろう。その時は歴戦の第一級冒険者が少年を迎えることになる。そう言われて冷や汗をかいて苦笑いを浮かべるラグナだった。

 

 

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