主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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58話 鍛錬と練習

 

「……姉弟子か」

 

 早朝。黄昏の館でレフィーヤは思い悩んでいた。その理由は新しくリヴェリアの弟子となったエイナ・チュールの存在。希少な魔法を発現させた有望な魔導士であり、未だ冒険者になって僅かの駆け出し冒険者。

 

そんな冒険者を導いてやれとリヴェリアに言われて、レフィーヤはどうすればいいのか分からずにウロウロと庭を散歩していたのだった。レフィーヤもレベル3、【ロキ・ファミリア】の主戦力として経験を積んでいる。

 

しかし、その経験を伝えたとして駆け出しの彼女に活きることはないように思える。それならば普段やってる修行方法を伝えようとも考えたが、彼女は支援魔導士。レフィーヤとは役割が全く違うので悪影響を及ぼす可能性がある。

 

正しい助言。それがどれだけ難しいのか、レフィーヤは改めて師であるリヴェリアを尊敬しながら、庭を歩く。すると金髪の髪を目撃する。

 

「……アイズさん?」

 

 早朝から訓練だろうか。そう思い近づこうとすると、アイズは横をキョロキョロと見渡して、高い塀を飛び越えたのだった。一体何がと動揺するレフィーヤ。わざわざ門を使わずにホームから出ていくなど、何か隠し事でもしているのか。

 

とにかく追跡しようとレフィーヤもアイズと同じように塀を飛び越えるのだった。

 

⬛︎

 

 

「本当に来るのか?」

 

「……昨日言ったでしょ、変な事しないか見張らないと」

 

 メインストリートを歩きながら会話をするのは黒髪の少年ラグナと白髪の少女ベルだった。現在向かってるのは【剣姫】と訓練場所として使っている壁上であり、そこでラグナはもう一度問いかけていたのだった。そしてその問いの答えを聞いてラグナは溜息を吐きそうになる。

 

思い出すのは小竜(インファントドラゴン)の一件が終わり、入院したラグナをお見舞いに来たベルとアイズが鉢合わせした時のこと。あの時も何故か地獄のような空気が室内を包み込んだ。

 

あの時と同じような空気をもう一度感じる事になるかもしれない。そう思うと先が思いやられる。

 

そもそも彼女がこんなに嫉妬深いと知ったのは都市に来てからだった。故郷では修行と看病に時間を割いていたため、見られなかった一面だった。

 

「……そういえば、昨日はどこに行ってたの?」

 

「あー、それは言えないんだが、ちょっと相談を」

 

「相談?」

 

「ああ。レベル2になって神から追いかけ回された話はしただろ?俺の【英雄憧導(アルゴノゥト)】で、ベルたちも【ランクアップ】するのは早いだろうから、それについての対策をな」

 

 耳打ちで小声で話してベルは納得を示す。実際の目的はそれだけじゃないのだが、それを話すと色々と大変なことになるのでラグナはそれ以上は話さなかった。

 

メインストリートは早朝だというのに人が多く行き交っている。人間、亜人、妖精。種族も多種多様であり、その全員に視線を向けられながらラグナはアイズと訓練している壁上に歩いていく。

 

その最中。ラグナはいつも感じる好奇の視線から、別の視線を強く感じた。それに咄嗟に振り返ると僅かだが靴音が聞こえた。

 

「……つけられてるな」

 

「え?」

 

「他派閥の冒険者か、それとも別の誰かか」

 

 おおよそ見当はついている。おそらくつけてるのは【アポロン・ファミリア】だ。昨夜、美神の言葉の通りラグナを、いや【ヘスティア・ファミリア】を狙っているのだろう。だとすれば、ラグナが取れる行動は二つしかない。

 

「……ベル、ちょっとごめんな」

 

「……?」

 

 驚くほど細い腰に手を回し、一瞬で横抱きにして駆け抜ける。レベル3の俊敏で人混みを抜き去り、そして路地に入り込む。そのまま大丈夫と確信できる位置まで走り去るのだった。

 

「……ここまで来れば大丈夫か」

 

「う、うん」

 

 頬を赤くしたベルを降ろして、視線がなくなったことを確認する。ラグナのレベル3の全速力で追えなくなったということは相手はレベル2ぐらいだと推察できる。追跡者を逆に追いかけることももう一つの選択にあったが、人が多いメインストリートで騒ぎは起こしたくなかった。

 

「……また神?」

 

「いや、神ならきっと騒ぎながら追いかけてくるはず。それに神がかった勘でどこまでも追いかけてくるだろうし……」

 

 間違いなく冒険者。それも大人数だとラグナは推察する。そうなるとやはり中堅派閥である【アポロン・ファミリア】しか思い当たる存在はない。

 

「……ラグナを狙ってるの?」

 

「おそらくな。……俺だけならまだいいんだが、ベルやエイナさん、リリまで狙ってる可能性もある」

 

 つけてくるだけなら、まだいい。しかし、襲ってくる可能性も考えなければならない。だとすれば今日のダンジョン探索時に話し合った方がいいだろう。

 

「……とりあえず、アイズさんのところに行くか」

 

「……また、名前」

 

 どこかジトリとした視線を感じながら路地を歩く。すると路地の角から靴音が聞こえてベルと共に静止する。そして路地から飛び出して来たのは山吹色の髪色の妖精だった。

 

「レフィーヤさん?」

 

「……あ、あなたは!」

 

 【ロキ・ファミリア】所属、レベル3。レフィーヤ・ウィリディス。【千の妖精(サウザンドエルフ)】の二つ名を持つ魔導士。彼女としっかりと会話したことはなかったが、彼女には24階層の一件で助けられた。

 

「誰?」

 

「ああ、【ロキ・ファミリア】の魔導士で……少しな」

 

「この方は……?」

 

 レフィーヤはベルの全身を見て思わず目を見開いた。雪のような穢れを知らない白髪。宝石のような輝きを放つ深紅(ルベライト)の瞳。その瞳とは反対に静謐な印象を与える灰色の瞳。絶世の美女、いや美少女がそこにいてレフィーヤは言葉を失っていた。

 

どこかの姫か。それとも聖女か。アイズに匹敵する美貌に恐れ慄きながらレフィーヤは目が離せないでいた。

 

「俺の幼馴染で、一緒の【ファミリア】に所属しているベルです」

 

「……ベル・クラネルです。あなたは?」

 

「れ、レフィーヤ・ウィリディスです。は、はじめまして!」

 

 顔を真っ赤に染めながら自己紹介をするベルとレフィーヤ。ベルは新たな女かとジトリとした視線を向けるのにレフィーヤは気づかず、その美しさに見惚れていた。

 

「どうして、路地にレフィーヤさんが?」

 

「ああ!そうでした、アイズさん。アイズさんを見かけませんでしたか?」

 

「どういうことですか?」

 

「実は……」

 

 早朝から塀を飛び越えてホームを出ていったアイズを見かけて、そのままずっと探し回っており、いまここに辿り着いたという。

 

「また何か事件に巻き込まれてるかもしれません!」

 

「……あの、それなんですけど……多分。心当たりがあります」

 

「本当ですか!?」

 

「はい、えーと。一緒に来ますか?」

 

「もちろんです!」

 

 意気揚々と頷くレフィーヤにラグナは苦笑いを浮かべながら、嫌な予感がするな、と溜息を吐くのだった。

 

⬛︎

 

 風に揺られ、金髪の少女アイズは黒髪の少年を待っていた。頭の中には少年にどんな訓練を施すかばかりを考えており、その頬は親しい人には即座に分かるほどに緩んでいた。

 

「アイズさん!」

 

「……レフィーヤ?」

 

 聞き慣れた声にアイズは振り向き、その背後の三人に目を見開く。レフィーヤ、ラグナ。そしていつもラグナと共にいた白髪の魔女。それにアイズは戦慄を走らせた。

 

「なんで、ここに……」

 

「実は昨日、訓練したことがベルにバレて……」

 

「……そう、なんだ」

 

 離れたところから無言で見守るベルを見てアイズは顔を歪めた。せっかくの心地の良い訓練だったのに、邪魔者が入ったことに怒りすら湧き出る。

 

「あの、アイズさん。どうしてホームにラグナさんを呼ばなかったんでしょう……?」

 

 そんなアイズの怒りに気づかずレフィーヤはアイズに純粋な疑問を投げかける。わざわざ塀など飛び越えて、忍んでこの場所に行く理由が全くわからない。前回の訓練と同じように『黄昏の館』で訓練を行った方が効率面でも安全面でも遥かにいいはずだ。

 

「……ホームに連れていったら、ベートさんがいるから」

 

「ベートさんがいるから……?」

 

「ラグナの訓練は私一人でやりたくて……だからホームじゃなくて、ここで……」

 

 だからこそ団員たちには話すことはせず、この場所を選んだのだった。そのことを聞いてレフィーヤは隕石でも降ってきたかのような表情になった。

 

他派閥の冒険者と訓練。それ自体、黒髪の少年じゃなかったら怒っているところだった。しかし、敬愛するアイズが二人きりになるために行動するなど、脳破壊ものである。

 

「……あ、アイズさん!わ、私も同じ訓練をお願いします!」

 

「レフィーヤ……?同じ訓練って……」

 

「む、無茶かもしれませんが、それでも同じ訓練をやりたいんです!」

 

 その瞳の力に気圧されながら、アイズは昨日の訓練を思い返していた。ひたすら《デスペレート》の鞘で攻撃、攻撃攻撃攻撃。もちろん死なないように手加減はしていたが、それでもあのような攻撃をレフィーヤにすれば不味いのはアイズも理解できた。

 

前衛と後衛。それだけの差じゃない。単純にラグナは攻撃や衝撃を受け流す術を熟知している。それは数多の強敵たちから受けた攻撃の影響なのだろう。それがないレフィーヤにアイズが攻撃するわけにもいかない。

 

「……魔導士の訓練には役立たない、と思う」

 

「そ、それでも、お願いします!」

 

「う……そ、それじゃあ、一回だけ訓練の様子を見てみる?」

 

 真正面から無理だと断っても彼女が傷つく可能性が高い。そう判断したアイズはラグナに目線を向けながらそう言った。あの訓練を見ればさすがにレフィーヤ自身から無理だと悟ってくれるだろう、そんな考えだった。

 

「……えーと、それじゃあ始めてもいいんですか?」

 

「……うん、いいよ」

 

 不思議な空間だった。レフィーヤとベルは離れた地点で、目を見開き、その訓練の様子を見守ろうとしていた。レフィーヤは勉強のため。ベルは変な事をしないか監視のためと視線の種類こそ違うが、ラグナはこの視線に晒されながら戦うのかと鞘を握りしめた。

 

戦いの思考に切り替える。もし実際に【剣姫】を相手にした時を想定してラグナは技と駆け引きを絞り出すため思考を巡らせていた。たとえアイズが本気を出していない、訓練時の出力だとしても、本気で挑むことで今後の糧とする。

 

まず情報から。相手のレベルは6。間違いなく迷宮都市のトップクラスの冒険者。剣技はもちろん、白兵戦の技と駆け引きは絶技と呼べるほど。戦闘スタイルは体術を織り交ぜた剣士であり、速度に重きを置いた戦闘スタイル。

 

そんな冒険者を倒すために有効なのはカウンター。高速の連撃によって引き起こる僅かな隙を突くしかない。だからといって防戦に回れば、そのまま押し切られることもある。だからこそ最初の一撃は重要、ラグナは剣を構えて発走した。

 

レベル3。潜在値の影響により凄まじい速度でアイズに迫り行くラグナ。そのまま右手の鞘を握りしめて攻撃の動き(モーション)を作り出す。振り下ろす瞬間、アイズは鞘で攻撃を弾くだろう。

 

それを予測したラグナは直前で鞘を止め、そのまま空いた右横腹を狙い蹴りを放つ。僅かだが、その攻撃に目を剥きながら超人的な反射能力で、後転跳躍で回避する。

 

「……すごい、ね」

 

 同じレベルなら、あの攻撃を喰らっていたかもしれない。そうアイズは素直に賞賛する。そして次はこっちの番と《デスペレート》の鞘を握るのだった。

 

 

⬛︎

 

 

───なんて動き。

 

一挙手一投足に無駄がなく、全ての行動に理由がある。それほどの行動を高速戦闘で繰り出してることが信じられない。冒険者としての経験では圧倒的にレフィーヤが上のはずだ。

 

【ロキ・ファミリア】の主戦力として深層で戦っている。それでも黒髪の少年と戦って勝てる未来が見えない。前衛と後衛、剣士と魔導士。求められる役割が違うのは理解できる。

 

しかし、それでも無性に心が燃え盛る。あの少年に負けているようじゃ、自分が憧れているアイズたちに追いつけない。そう直感して拳を握りしめた。そんな中で視界の端で、その訓練を冷たい瞳で見つめる白髪の少女が映る。

 

「あの、ベルさんは。魔導士ですよね?」

 

「……今は魔法剣士をやってる」

 

「ま、魔法剣士!?」

 

 その細い手足で魔法剣士なんてありえるのか。レフィーヤの瞳はあらん限りに開かれる。

 

「……ほ、本当に魔法剣士なんですか?」

 

「……別に信じなくてもいいよ」

 

「う、疑ってるわけじゃなくて、ただ意外というか……」

 

 レフィーヤの脳内に浮かぶ魔法剣士はフィルヴィスというエルフであり、その少女も細いながら凄まじい斬撃を披露していた。しかし、そんなフィルヴィスとは比べ物にならないほど、白髪の少女は怖くなるほど細い。まるでずっと寝たきりだったような細さだ。

 

そんな細さの少女が前衛という役割をこなしている姿がどうしても想像できなかった。

 

「……そ、それにしても。訓練、凄いですね」

 

 見ていて理解できないほど高度な戦闘。それにレフィーヤは改めて目を向ける。それにベルは静かに瞳を細く尖らせる。

 

「……ラグナの動きが格段に上がってる」

 

 ダンジョンの動きとは全く違う。少年の全力の姿はベルの予想よりも遥かに強く、鋭いものだった。ベルが入院している間にレベル2という領域に踏み込んだからだろうか、それにしても動きが段違いに上がっている。

 

器の昇格はそれほどまでに能力を上げてしまうのかと、ベルは思考をする。そしてやはり第一級冒険者。そんな成長を遂げたラグナですら一撃を入れることも敵わないほどの実力差。

 

圧倒的な剣技。圧倒的な経験。圧倒的な能力差。それを側から見ているベルでも肌から感じる。

 

「……【英雄一途(スキル)】があっても、か」

 

 ベルは脳内で第一級冒険者との戦闘をシミュレーションする。格上すら打ち倒せるだろう必殺を使用しての不意打ちなら可能性はある。しかし、真正面の戦いでは勝つことは不可能だと悟るのだった。

 

「べ、ベルさん……あの私たちも訓練しませんか?」

 

「……え?」

 

 そんなシミュレーションを続けていると、隣のエルフがそんな言葉を言い放った。

 

「み、見ているだけでも勉強にはなると思いますけど……じ、実際に動かすことも必要だと思いますし……それにベルさんの動きを見てみたいんです」

 

「…………」

 

 初対面だというのに距離を縮めようとしてくるレフィーヤにベルは怪訝な表情を浮かべる。目の前のエルフが何を考えているのか理解できない。

 

「……別にいいけど。何をするの?」

 

「ま、魔法は行使できませんから……く、組み手とか?」

 

「……組み手?」

 

「は、はい。冒険者である以上、武器なしの防衛術も練習するべきだとリヴェリア様も仰っていましたから!」

 

 その言葉に溜息交じりにベルは頷く。断ったら、またそれで面倒くさそうと思ったからである。肉弾戦、体術など経験はない。なのでベルはただ自然体で構える。

 

レフィーヤのレベルは3。ベルのレベルは1。レフィーヤは手加減しないと、と妙な緊張感を覚えながら構える。

 

「……行くよ」

 

 ベルは宣言と共に、その身体をゆらりと動かす。そのまま流れるような仕草でレフィーヤに右裾を掴み、そのまま投げ飛ばした。

 

「───へ?」

 

 あまりの予想外の技。それによって空を仰ぐレフィーヤはひたすら目を丸くする。何が起こったのか理解できない。それもそうだ、ただなんとなくで放った技で投げられたのだから。

 

それは才能?それとも修練で得た技?まるで熟練者のような動きだった。滑らかで一切の無駄がない。

 

「……投げ技を習っていたんですか?」

 

「いや、さっき初めて投げた」

 

「───」

 

 その言葉にレフィーヤはひたすら戦慄する。あれほどの動きが初めて?そんなことあり得るのか。レベル1の冒険者がレベル3の冒険者を投げる技など、初めてでできる芸当じゃない。その身に宿る才能。それにレフィーヤはただただ圧倒されるのだった。

 

 

⬛︎

 

 訓練が終わり、ダンジョンにラグナとベル。そしてエイナとリリはいた。ヴェルフは【ファミリア】の用事から今日は外しており、【ヘスティア・ファミリア】だけの探索である。

 

「あの、短剣と槍を購入しましたが……」

 

 ダンジョン5階層。新米殺しと呼ばれる怪物が出てくる手前の階層で、サポーターの少女リリはバックパックから二種類の武器を取り出した。

 

短剣。リーチは短く、超近距離まで接近する必要がある武器。武器の威力という面では他の武器より劣るものの、ダンジョンという世界では魔石さえ狙うことができれば何の問題もない。それより大事なのは小人族のリリでも扱える簡単さだ。

 

槍。80C(セルチ)と、そこそこ長い槍。その武器のアドバンテージは何といってもリーチの長さと、攻撃の幅の広さ。突く、払う、斬る。戦いにおいて選択肢が増えることは勝利に直結する。

 

「……本当に戦うの?」

 

「は、はい。ベル様が前衛に行く以上、後衛を守る存在は必要ですから!」

 

「無理しちゃダメだからね」

 

 今、現在のパーティーは前衛三枚、後衛二枚と攻撃的な編成だ。後衛を守れるようにラグナは位置を調整している。それをリリが戦えるようになれば、エイナを守ることもできる。そしてゆくゆくは前衛で戦えるようになれば、戦術の幅が広がるだろう。

 

『オオオオオオオオオオ……!』

 

「コボルト……」

 

 最初に試すのは短剣。小さな手で鞘から取り出し、それを怪物に向ける。護身用として短剣を装備したことは多々あれど、怪物を斬った経験はないといっていい。深呼吸、それから栗色の瞳を尖らせてリリは「やぁぁぁぁぁ!」と突撃した。

 

そのナイフはコボルトの喉笛に深く突き刺さる。怪物は苦悶の声を上げて消滅した。これまでの逃亡生活によりGまで上がった敏捷による恩恵が大きいのだろうとラグナは考察する。

 

ただ10階層や、これから挑む中層では通用しない。狙いもわかりやすく、恩恵に振り回される典型的な冒険者。それもそうだ、これまで戦闘など援護ぐらいのリリだ。そこを直さなければラグナの【スキル】で成長したとしても、強い冒険者にはなれない。

 

「……次、槍を使ってみるか」

 

「は、はい」

 

 細長い槍。それを構えてリリは軽く振ってみる。やはり短剣とは違い、そこそこの重量がある。これを振り回して戦うのは至難であり、槍使いは熟練の経験が必要不可欠になる。

 

「……リリ、まず自分の身体でできると思う行動だけを行おう」

 

「できると思う行動ですか……?」

 

「ああ。リリは今まで他の冒険者の動きを参考にして動いてるだろ?それだと小人族(パルゥム)の小柄な身体じゃ、振り回される。だから自身がやれると思った想像通りに動いてみよう」

 

「……想像通りに」

 

 背丈が低いこと。それは冒険者にとって不利だという意見が大多数だ。しかし、ラグナはその素早い肉体で接近戦を仕掛けられるのは想像以上に相手からしたら嫌なことだ。だがそこまでに至るのは難しい、なので今はステイタスに振り回されないように鍛えるしかない。

 

『オオオオオオオオオ!』

 

「……想像」

 

 戦いにおいてシミュレーションするのは大事なことだ。相手がどのよう行動を取ってくるか。自分だったらどう行動するか。小人族ならばなおさら、それを突き詰めるしかない。

 

自分にできるであろう動きを想像して、その通りに動いてみた。

 

まず一歩を踏み出す。軽い靴音、風のような速さはいらない。ただ敵に来ると思わせることが重要。リリの予想通り、コボルトは身構える。僅かに後ろに逸れた重心、それを離れた距離から払うようにして体勢を崩す。

 

倒れたコボルト。その魔石部分に槍を突き刺して、その怪物が消滅する。

 

「……こ、こんな感じでしょうか」

 

 リリは背後で見守るラグナたちに問いかける。その表情を恐る恐る確認すると、そこには驚愕でいっぱいだった。

 

「……良い。さっきより全然動けてるよ!」

 

「本当ですか!?」

 

 たった一言の助言。それでここまで変わるものなのか。そもそものリリの素質なのか。分からないが、それでも可能性が見えてラグナは微笑みを浮かべた。ベルとエイナもそのサポーターの少女の戦いに素直に称賛するのだった。

 

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