主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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59話 槍士

 

───槍を振るう。

 

『グギャァァ!?』

 

 コボルトを斬り、穿ち、二桁ほど屠った時にリリは不思議と思った。どうしてこんなに動けているのだろうと。

 

両親に冒険者として稼ぎに出された頃、武器を持ったことはあった。それでも才能はなく、敵を倒すことはできず死にかけた。そんな経験があるからこそリリは自分に才能はないことは知っている。

 

白髪の少女のような才能など持っていない。なのに、どうして自分は敵を倒せているのか。

 

それはきっと意思を持ったからだ。それはきっと夢を抱いたからだ。

 

あの少年と少女と共に冒険をしたい。そんな想いを抱いたからこそ、今リリはこうして戦えている。

 

───強くなりたい。

 

少し前の自分は思わなかった。世界を呪い、環境を呪い、自身を呪っていた自分では、そんなことは思うことは出来なかった。

 

そんな想いから背中から熱さを感じながら、リリはコボルトの群れを殲滅したのだった。

 

⬛︎

 

 

「……リリって、本当に戦ったことなかったんだよね?」

 

「ああ、そのはずだ」

 

 短剣はともかく槍なんて持ったことは初めて。それなのにも関わらず怪物相手に問題なく戦闘ができている。いや、戦うにつれて器と肉体が適合していくように動きも繊細になっていく。

 

その動きにラグナは息を呑んだ。原作で戦う姿など描かれていない。彼女はサポーターであり指揮官の適正が高い。戦闘職の才能はないはずだ。それなのにどうしてあそこまで動けているのか。

 

思考を巡らせても答えは出ない。ただわかるのは彼女が成長すれば【ヘスティア・ファミリア】にとって、とんでもない恩恵を齎すことだろう。サポーターも、戦闘も、そして指揮すらできるようになったら。

 

「リリは凄い冒険者になる」

 

 間違いなく、絶対に。彼女はきっと自分なんかよりも強く、有能な冒険者と進化することができる。それを確信してラグナは静かに拳を握る。彼女の成長、それが楽しみで心が沸き立った。

 

「……はぁ、はぁ」

 

「【マギマ・レイル】」

 

「エイナ様、ありがとう、ございます」

 

 戦闘を終えたリリにエイナの第一階位魔法の光が降り注ぐ。それによって傷や体力が徐々に回復していく。全身の血が沸き立つ感覚を味わいながら、リリはラグナに近づく。

 

「……どうでしたか、リリは」

 

「凄いとしかいいようがない。……しかも、槍なんて扱いが難しい武器なのに」

 

 過去。大神(ゼウス)の修行によって槍を試したことはあった。だが何度扱っても手に馴染む気配はなく、結局剣を主に練習した。そんなことがあるため、槍という武器を最初で扱うことは不可能とすら考えていたのだが。そんな予想を裏切られたとラグナはリリに語る。

 

「……リリもどうしてここまで槍が扱えるのか、正直わからないです。ただラグナ様の言葉の通り、頭の中で戦いを想像していただけなので」

 

 ただただ愚直に。自身の身体能力で可能な動きで、敵を翻弄する。そして魔石を穿つことだけを考えた。その結果なのかもしれませんとリリは言うが、たったそれだけで動きがあんなに変わるものなのかとラグナは思考するがやはり答えはでない。

 

「検証というか……試すことは必要だな」

 

「はい。リリももう少し戦ってみたいです」

 

「とりあえず6階層、それでも問題なさそうなら10階層まで行ってみよう」

 

 リリの『ステイタス』は10階層で戦うには物足りない。そのため段階を踏む必要はある。しかし、ここにはリリが危機に陥ってもすぐに助けることができる戦力が揃っている。何よりエイナの支援魔法もあるので上層であれば戦闘のリスクはない。

 

「ベルも、エイナさんもそれで大丈夫ですか?」

 

「うん、10階層じゃないと僕も戦えないし」

 

「私も大丈夫だよ」

 

「よし、それじゃあ出発するか」

 

 ラグナはリリの荷物であるバックパックを背負って出発しようとする。

 

「あの、最近ラグナ様はリリたちを優先してあまり戦っていませんが……大丈夫なのですか?」

 

経験値(エクセリア)の心配なら気にしなくていい。今はリリたちが最優先だ」

 

 パーティーを優先したい。その気持ちは本当だが、実際は10階層の敵を倒したところで糧になることはないからだ。レベル3という領域に踏み込んだ以上、上層中層では大した経験値にはならない。

 

これ以上強くなる方法としては【フレイヤ・ファミリア】で洗礼を受けるか、第一級冒険者と戦うぐらいしか方法はない。アイズと訓練はしているが、死闘と呼ぶには程遠く、訓練程度ではラグナの成長はとても微妙だ。

 

何よりファミリアを狙っている派閥がいる以上、今はパーティーを優先するとラグナは決めていた。

 

「……ラグナ様がそう仰るなら、いいのですが」

 

「別に遠慮してるわけじゃないんだよね?」

 

「ああ。上層だけで、こうしてるってだけだ。中層に入ればどうせ戦うことになるだろうから」

 

 『火精霊の護符(サラマンダーウール)』の確保は既に済んでおり、いつでも中層に行く準備は整っている。しかしながら、パーティーの連携。何より経験などが不足している状態。中層の異常事態に対応できるほど余裕が出来るまでお預けなのだが。

 

「先に進もう。今日一日は俺がサポーターってことで」

 

「ふふ、それじゃあ頼みますね!」

 

 バックパックを背負い直して、パーティーが進み始める。その後ろを大きな荷物を抱えたラグナが着いていくのだった。

 

 

⬛︎

 

『プギィ……ギィィイイイイイイイイ!』

 

 醜い豚の咆哮。それが鼓膜に突き刺さる。リリは槍を握り、その手を震わせた。

 

「近くで見ると、圧迫感がありますね……!」

 

 現在のリリは前衛の位置に立っている。今までは後方で支援や援護をしていたため、わからなかったが。10階層の怪物はこれまで戦った怪物より遥かに恐ろしいものだった。

 

まずデカい。大型級に分類される怪物、それが『オーク』である。そんな怪物が何体も生まれ、重たそうな身体を引きずりリリたちに向かってくる。

 

「リリ。今まで通りでいい、確かに攻撃は一度も喰らっちゃいけない相手だけど、それは今までも同じだっただろう?」

 

「それは……はい。リリは小人族(パルゥム)ですから、どんな攻撃も致命傷になりかねないです」

 

「ああ、それにオークの攻撃は読みやすい。まず大振りの一撃、それを引き出して、反撃に移るのが一番楽だ。ちょっと見ててくれ」

 

 リリのお手本となるためラグナは抜剣して、オークの前に降り立つ。そのオークは『天然武器(ネイチャー・ウェポン)』を装備している。

 

武器といっても、10階層に生えている木を引き抜いただけなのだが。それを膂力の凄まじいオークが振るうことで喰らえばレベル2でも致命傷になるほどの破壊力を生み出す。

 

しかし、そんなオークでも一度でも武器を振ってしまえば、大きな隙が生まれる。

 

『オオオオオオオオ!』

 

 咆哮。それと共に接近してくるオーク。ラグナも同じくオークに接近する。真っ直ぐに走ってくるラグナに対してオークは反射的に武器を振り下ろす。そんな攻撃を引き出したラグナは即座に横に回避、そのまま剣で一閃を繰り出した。

 

鮮やかで、見惚れてしまうような戦闘。それだけでオークは灰となり、消滅する。

 

「こんな風に一撃で倒すことは別に考えなくてもいい。オークは人型だから、目と手首、足首を狙ってから殺す方が安全かもしれない」

 

 リリの『ステイタス』では、この10階層は全ての敵が格上。だからこそ一撃必殺を狙うのは逆に危険だ。止めの一撃こそ油断してはいけない。

 

「……やってみます」

 

「大丈夫、何かあったら助ける。だから挑戦する気持ちでいこう」

 

「はい!」

 

 霧の奥から接近してくるオークを見つけて、リリは深呼吸と共に槍を構えた。それを心配そうにエメラルドの瞳が見つめていた。

 

「大丈夫かな……リリちゃん」

 

「6階層から9階層までのモンスターは問題はなかったけど……」

 

 新米殺し。そんな怪物と相対してもリリは問題なく対処してみせた。だが10階層は、また敵のレベルは上がる。ベルの瞳は細く、そして期待と心配で揺らいだ。

 

『オオオオオオオオオオオオ……!』

 

 地響きのような唸り声を上げながらリリに近づいてくる。低く重心を落としてリリは槍を構えた。脳にあるのは先ほどのラグナの鮮やかな戦闘。あんな素晴らしい動きはリリには不可能。しかし、敵の攻撃を誘導する。技と駆け引きなら肉体は関係ない。

 

「……行きます」

 

 怖い。そんな想いを握りしめてリリは駆け出した。オークは睥睨して、手に持っている『天然武器(ネイチャー・ウェポン)』を構える。接敵する、その前にリリは腰から短剣を取り出して投擲する。その投擲速度は緩やかで、オークはそれを弾き飛ばす。

 

その隙にリリはオークの膝を穿つ。完全に穿つことは考えない。自身の『力』のアビリティでは、それはできないと現実を理解しているリリは僅かに傷を与える。

 

そのまま走り抜け、背後に振り返る。オークは傷ついた右足に苛立ちを感じたのか、次は咆哮を放ちながら突き進んでくる。痛みから暴れ、凶暴となったオーク。その姿にリリは狙い通りだと心の中で呟く。

 

これでさらに元々荒かった攻撃が大雑把となり、技と駆け引きが初心者なリリでも読めるほどになるだろう。問題は回避、あのオークの攻撃を喰らえば小人族のリリでは致命傷となるだろう。だからこそ一撃を受けることは許されない。

 

『───オオオオオオオオ!』

 

「っ!」

 

 慎重に。それでもギリギリまで引きつけて、リリは滑り込むようにオークが振り下ろした『天然武器(ネイチャー・ウェポン)』の攻撃を回避した。そのままオークの魔石は狙わない、先ほども攻撃した右足を今度は完全に穿った。

 

『──プギィィイ!?』

 

「はぁぁぁ!」

 

 体勢を崩したオーク。その心臓に槍を突き刺す。噴き出る血液、その数秒後にオークは灰となる。

 

『───オオオオオオオオオオオオ!』

 

「ッ!?」

 

 一体を倒して安心したリリ。それを狙うように背後から『インプ』が現れる。その爪撃が襲いかかる。その瞬間に「【福音(ゴスペル)】」と魔女の一撃がインプを破壊した。

 

「……大丈夫?リリ」

 

「ベル様……ありがとうございます……!」

 

「なんて言えばいいかわからないけど、凄いね、リリ」

 

 上手く褒め言葉が見つからないベルは素直に賞賛した。最初のコボルトとの戦いと比べると見違えるようだった。一対一、しかし相手は格上の怪物。それも小人族の身で倒した、紛れもない冒険にベルは目を奪われていた。

 

「り、リリは全然……!」

 

「……謙遜しないでいい。リリは凄いよ」

 

「で、ですが、一対一です。複数体を倒せるようにならなければ、まだベル様たちには……」

 

「初めてでここまでやれたんだから、複数体が相手でも問題ないと思う。って話す暇もないみたいだね」

 

──ピキリ。

 

そんな音と共に壁に亀裂が走る。『怪物の宴(モンスターパーティ)』の前兆にリリは目を剥く。10階層から発生する異常事態の一つ、それに遭遇する。

 

「どうする、リリ?キツそうなら僕一人で倒すけど」

 

「っ!……やります、リリにもお供させてください!」

 

「……そっか。なら頼りにしてるよ」

 

 珍しくベルの表情が緩む。そしてすぐさま引き締まる。その表情にリリは槍を握りしめて戦闘態勢に入る。

 

亀裂が次々と産まれていく怪物。それに心臓が、脈が早くなる。複数体の怪物を相手にして自分はどこまで戦えるのか未知数。隣には才能の権化がいるが、その背中を預かった以上、役に立ちたい。

 

「【破滅を退き、駆け抜ける英雄に聖女の加護を与えよ──我が名はアールヴ】

 

 そんな時に聞こえたのは王族(ハイエルフ)の血が混ざったハーフエルフの歌声だった。魔法の完成、それと共に翠光がエイナの周りをフワフワと漂う。

 

「【マギア・アルヴィス】」

 

 その翠光は前方、リリたちに向かって飛んで、そのまま全身を覆う。第三階位魔法『マギア・アルヴィス』。その効果は全能力の向上、それと五感や反射能力の強化を行うというもの。

 

それによってリリは全身が別人の身体になったような軽さを覚える。そして霧によって悪くなっていた視界すら、どこか鮮明に見える。

 

「……行くよ」

 

「はい!」

 

 変哲もない鉄剣、それを装備したベルに続きリリも槍を構え続くのだった。

 

⬛︎

 

 

「な、な、な……」

 

 教会地下。そのソファーの上でリリは一枚の用紙を見てワナワナと震えた。

 

『リリルカ・アーデ』

Lv1

力I:80→E:410

耐久H:126→G:240

器用H:167→E:419

敏捷G:286→C:610

魔力G:299

【魔法】【シンダー・エラ】

『スキル』【縁下力持(アーテル・アシスト)

     ・一体以上の装備過重時における補正。

     ・能力補正は重量に比例。

     【小人騎士(パルゥム・ミレス)

     ・戦闘時『狩人』『槍士』の一時発現。

     ・戦闘時『力』『器用』『敏捷』の補正。

 

 たった一日ダンジョンで戦った結果の合計上昇値は1000。普通の冒険者としてもおかしいのに、小人族の身でここまで上昇した。それはラグナの【英雄憧導(アルゴノゥト)】の力はもちろん、リリ本人がダンジョンで敵を倒した結果だ。

 

しかも、能力の上昇だけじゃなく【スキル】まで発現した。今まで発現していた【縁下力持(エーテルアシスト)】はサポーター向きの能力だったのに対して、新しく発現させた【スキル】は戦闘系に作用するものだった。

 

小人騎士(パルゥム・ミレス)】。その効果は戦闘の時に『狩人』と『槍士』という発展アビリティを一時発現させるものだった。

 

『狩人』は一度倒したことのある怪物と戦う時に能力に補正が掛かるもの。『槍士』は槍を装備した時に能力が向上し、扱いが上手くなるという効果。そのどれもがダンジョンの戦いで有効である。

 

そしてもう一つの効果でもある『力』と『器用』と『敏捷』の補正も戦闘においては重宝するもので、今回の『ステイタス』更新でリリは別人とも呼べる強さを手に入れたといっていいだろう。数十分ほど、リリは自身のステイタスの把握に努めた。

 

(この成長は全て、ラグナ様の【スキル】の影響……)

 

 【英雄憧導(アルゴノゥト)】。眷属に対して強制的に経験値の増幅、並びに発展アビリティの強化を行うもの。その上昇幅はただの【スキル】とは思えないほど高いのは、小人族であるリリのこの『ステイタス』で証明できる。

 

レベル1ということを考えても、それでも異常な成長。そんな急成長を促進させるラグナの【スキル】に改めて畏怖を覚えながらもリリは今後について思考する。

 

(この急成長に負けないぐらい、リリは技を磨かないといけません)

 

 戦闘経験はもちろん、技と駆け引き。客観的に見てそれが一番足りていないものだと、リリは理解していた。例えば黒髪の少年は修羅場を潜り、洗礼を受けて、第一級冒険者の指導を受けている。その技と駆け引きはレベルに見合うものに成長している。

 

そして白髪の少女は、その圧倒的な才能で技と駆け引きを自然と行っている。何より彼女の使う武器は駆け引きなど無用なほど暴力的であるため、あまり駆け引きが姿を見せたことはない。

 

しかしながら、ラグナたちは急成長に対する土台がある。対してリリは何もない。肉体はもちろん精神面でも、器を制御する心が足りない。

 

本格的な戦闘を始めたのは今日が最初。それでもリリは凄まじい向上心を漲らせていた。

 

⬛︎

 

 リリの『ステイタス』用紙を見て、ラグナは目を剥いた。小人族を侮っているわけじゃないが、一番能力の上がりにくい種族のため、どこまで成長しているのか全く未知数。そのため想像以上の成長は予想外だった。

 

やはり発現した【英雄憧導(アルゴノゥト)】の力が凄まじいのか、それともリリ自身の素質によるものなのか。わからない、わからないがひとまず仲間の成長に喜ぶことにした。

 

「それでラグナくん、本題というか。今日の話し合いの理由を教えて欲しいな」

 

「あ、実は……話したい内容は、これについてなんですけど」

 

 エイナの言葉に二冊の本を机に置く。タイトルもなく、白色の表紙が目立つ本。それが話し合いの内容なのか、と首を傾げる。

 

「これは『魔導書(グリモア)』って物で、魔法を強制発現できる代物だ」

 

魔導書(グリモア)?」

 

「魔法を強制発現させる高級品じゃないですか!」

 

「ね、値段は数千万ぐらいだった?それが二冊……!」

 

「い、一体どこでこんなものを!?」

 

 ベル以外の全員がラグナに詰め寄る。それを落ち着いてと必死に落ち着かせる。

 

「どこで手に入れたっていうと……ある依頼の報酬で」

 

「ある、依頼?」

 

「早く言わないといけないと思ってたんだが、色々あって。覚悟して聞いてほしい」

 

 ラグナの真剣な表情を見て全員が静まり返る。そうしてラグナは黒衣の人物から受けた依頼と、24階層の出来事を告白するのだった。

 

 

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