主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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六話 怪物狩り

 

ヘスティアはラグナの【スキル】を教えるか悩んでいた。ラグナから目標を聞いたヘスティアは自分に出来ることなら何でもやると決めた。ならば【スキル】は発現していたと告白するのが筋だ。

 

ラグナの目標は高い。ダンジョンの最下層攻略なんて、気に遠くなるほどの時間と地獄の経験が必要だろう。冒険者になって間もないラグナが辿り着けるとは思えない。

 

本人も一番分かっているはずだ。そんな偉業を成し遂げたら、英雄にだってなれる。【ロキ・ファミリア】も成し遂げれないような凄まじい偉業。

 

そこに辿り着くには【誓約代償(レギオン)】は使わざる得ない。でも、魂が傷付き壊れたら取り返しのつかない。肉体は治るかもしれないが、魂の傷は一生残る。魂が傷付けば、肉体にも影響は出るだろう。

 

まさにハイリスク。しかも、この【スキル】は『特定条件達成時任意発動』と。つまりはどこで条件がヘスティアは頭を抱えた。教えなくても、教えても関係ないかもしれない。

 

だが、条件を知った時。ラグナは簡単に使用するはずだ。ラグナの漆黒の瞳は覚悟が強く現れている。()()()()()()()()()()()()()()()

 

自分のことを軽く見ている。まるで使い捨ての道具のように。ラグナの身体からは、死臭が漂っていた。

 

そんな彼にこの【スキル】を教えるのは、まだ早いとヘスティアは結論付けた。

 

「……もう少し秘密にしておこう」

 

「何か言いました?」

 

「な、何でもないよ!早く寝よう寝よう」

 

魔石灯の灯りを消して、ヘスティアは新しく買ったソファーに横になった。ベッドはベルが、最初から置いてあったソファーにはラグナが。ヘスティアは明日のバイトのことを考えながら就寝した。

 

⬛︎

 

快晴の朝。俺はダンジョンにいく準備をしていた。買ったばかりの新品同然の剣と安い鎧。少しボロボロだが、何もないよりはマシだろうと諦める。ヘスティア様は、涎を垂らしそうになりながら爆睡している。なんとも昨日の頼もしさはどこに行ったのか。

 

階段を登り、外に出ようとした時。ベッドの布団が動いた。

 

「お、起きたか。おはようベル」

 

「……おはよう」

 

「身体は?」

 

「……少し怠いぐらい」

 

起きたベルは乱れた髪を触りながら俺を見上げる。瞼は開ききっておらず、まだ眠気が強いのだろう。ベルは目を擦り、俺の服装を見つめてくる。

 

「ダンジョン、行くの……?」

 

「ああ。早く強くならないといけないからな」

 

あとお金も稼がないといけない。ヘスティア様がバイトしているとはいえ、冒険者の出費は激しい。食事なども切り詰めなければならない。はっきりいって貧乏だ。

 

「──僕も」

 

「駄目だな。昨日倒れたばかりだぞ、少しは休め」

 

「でも何かあったらどうするの!今日は怪物に囲まれて死んじゃうかもしれないでしょ!」

 

珍しいと思った。ここまで感情を現にするベルを見るのは、ベルにオラリオに行くと宣言した時ぐらいか。

 

熱で朦朧としているのだろう。ベルはベッドから立ちあがろうとして、転び掛かる。それを俺はすぐさま受け止めた。

 

「大丈夫だ。深くは潜らないから。エイナさんが言ってただろ、冒険者は冒険するなって」

 

「でも……でも」

 

「お前が元気になったら、また一緒にダンジョンに行こう」

 

「……わかった」

 

まだ納得がいかない様子だったが。ようやくベルは頷いた。ベッドに戻り横になる。それに安心した俺は階段を登り、扉を開けた。

 

「ヘスティア様、ベル。行ってくる」

 

「……絶対に死なないでね」

 

「いって、らっしゃい……」

 

その言葉を聞いて、俺は大きく頷いて外に出た。向かう場所はダンジョン上層。昨日はコボルト一体しか倒しておらず、稼ぎはほとんどなかった。今日は怪物を死ぬほど倒して、帰ってやる。俺は快晴の空を走り抜けていった。

 

数十分ほど走れば、ダンジョンの近くの噴水広場に到着した。朝方から冒険者は多く歩いていた。

 

俺は改めて空を見上げる。雲を突き抜け、天国まで続いているんじゃないか。そう思うほどに巨大な塔。『神の塔(バベル)』。この地下に怪物が眠っているなんて信じられない。

 

この塔の屋上。そこには美神フレイヤがいる。あの日以来見られている感覚はない。もちろん気付いていないだけかもしれないが。それに行動も起こしていない。

 

行動というのは、眷属を使って襲って来ることだ。女神フレイヤは、気に入った人間がいると無理矢理にでも奪ってくる。凄まじく恐ろしい女神。俺は少しだけ身震いしながら、ダンジョンに向かった。

 

ダンジョン一階層。洞窟のような通路を歩く。一階層でも中々の広さがあり。どこからか怪物の喚き声が聞こえてくる。俺は声の聞こえる方に向かい、様子を見た。

 

「三体か……」

 

人狼のような姿をした怪物。昨日俺が倒した怪物だが、数が三体。少し危ないかもしれない。だが、昨日の戦いは瞬殺で終わった。

 

一体を不意打ちで倒せば、なんとかなりそうだ。俺は剣を抜いて、発走する。コボルトは気付いたが、もう遅い。一体の首はすれ違い様に切り捨てる。すぐ近くのコボルトにも斬りかかり囲まれるのを防ぐ。

 

『オオオオオオオオ!!』

 

「あと、一体……」

 

倒したコボルトは灰になり。残すは後一体になった。やはりコボルトは弱い。鋭い爪と牙は厄介だが、爪の攻撃は射程が短く。牙の攻撃は簡単に避けられる。

 

囲まれたら分からないが、今のところは大丈夫そうだ。魔石を小袋の中に入れる。今日のところは、これを重くするまで帰らないつもりだ。俺は一階層を抜けて、二階層に向かった。

 

⬛︎

 

 

「ふん。それで何しにきた?」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の主神。ディアンケヒトは不機嫌を隠さずに吐き捨てる。それにミアハは、苦笑しながらも話を切り出す。

 

「私と一緒に、ある薬を作ってほしい」

 

「なに?」

 

「私一人では作れない薬なんだ」

 

ミアハの言葉にディアンケヒトの瞳が鋭く尖る。当たり前だ。オラリオの一番の回復士を抱えるディアンケヒトにとって、メリットも何もない。そもそもの話。【ミアハ・ファミリア】の眷属の義手を作った恩を忘れたのかと。怒りに呑まれそうになった瞬間。ミアハは驚きの言葉を口に出した。

 

「──メーテリアと同じ病の子がいた」

 

「なんだと……?」

 

メーテリア。その言葉はディアンケヒトにとって、忘れられない少女の名前。雪のような白髪の少女の病気は、神にとっても未知な物だった。医神のプライドだろうか、絶対に治してみせると何回も薬を作ったことを覚えている。そのどれもが徒労に終わったが。

 

結局。最後まで少女を助けることが出来なかった苦い思い出。下界に降りて唯一心に刻まれた出来事に、ディアンケヒトは沈黙する。

 

「その子はメーテリアの生き写しのようだった。白い髪、細い腕、何もかもがだ」

 

「…………クソが。久しぶりに気分が悪いわ」

 

机に置かれたお茶を飲み干す。ゆっくりと数年前のことを思い出す。メーテリアという人間は見たことのないほどの善人だった。薬をいくら飲んでも治らない未知の病は、彼女の命を少しずつ吸い取っていく。

 

ディアケンヒトと同じく、医神のミアハも。メーテリアを救うために尽力していたことを思い出す。【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】から提供される薬の材料。

 

それを使い薬を製作しても、治る気配がなかった。それでも少女はディアンケヒトを責めることはしなかった。むしろ隈が出来ていたディアンケヒトを心配していたぐらいだ。

 

なぜ、あそこまで必死だったのか。

 

メーテリアはベッドの上から出られない。一人では外の空気を吸うことすらできない弱い身体。誰もが彼女を憐れんだ、同情した。それでもメーテリアは笑顔を絶やさなかった。

 

私は大丈夫。そう言って笑う姿を何度見たことだろう。周りを心配させないように。嘘を言っている彼女は、とても見ていられなかった。

 

彼女が死んだ日。ディアンケヒトとミアハは共に見送った。何もできない無力な自分を呪いながら、彼女が来世では幸せに生きられるように。その時だけは仲の悪い二人は、同じ思いだった。

 

「話だけ、聞いてやろう」

 

「ありがとう、ディアンケヒト。実は────」

 

ミアハは話した。【ヘスティア・ファミリア】の眷属であるベル・クラネルとラグナに出会った経緯を。ラグナの目標である70階層以降には、その薬を治せる薬があるかもしれないことを。

 

その過酷な戦いには、ベル・クラネルの力が必要不可欠であると。ダンジョンで発作が起きても抑えれる薬を作りたいと。ミアハは最初から最後まで話した。それに対しての返答は。

 

「はあ?無理に決まっておろう」

 

【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が全力で探した薬の材料。それを新規の【ヘスティア・ファミリア】が得られるわけがない。

 

そもそも歴史が違う。何十年も冒険者をやってきた冒険者達の集まりが、見つけれなかったのだ。【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】ならば成し遂げれる可能性はあるが。それでもまだ時間は掛かるだろう。

 

「今度、実際に会ってみてほしい。ラグナにも、ベルにも」

 

「ふん。名前だけ覚えといてやる。さっさと帰れ」

 

「──また来る。ディアンケヒト、君が頷くまで」

 

そんな言葉を言い残して、ミアハは去った。ディアンケヒトはソファーに項垂れる。

 

「会ったら、情が湧いてしまうだろうが……」

 

ディアンケヒトは一言呟いて、目を瞑った。残酷な運命に殺されたメーテリア。また同じ病を持った少女が現れた。それを治そうと命を張る少年。もしも救えたのなら、後世に残る偉業だろう。ディアンケヒトは暖かいお茶を飲み干した。

 


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