主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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61話 フィアナ

 

 

 エイナ・チュールはリヴェリアから賜った《マグル・ステッキ》を地面に突き深呼吸した。現在、エイナたち【ヘスティア・ファミリア】と、一時的にパーティーに加わっている赤髪の鍛治師たちはダンジョン10階層で探索を行っていた。

 

目標階層13階層、本日中層域に進行(アタック)する。パーティーメンバーを改めて説明する。まず前衛にベル、ヴェルフ、そしてリリが加わっていた。

 

昨日から戦闘職に転向した彼女をいきなり中層域で戦わせるのは危険じゃないのか、そういう意見は現在の10階層での彼女の戦い振りで吹き飛ぶことになった。

 

「──ふっ!」

 

『プギィ……!?』

 

 駆け抜けながら、すれ違い様に魔石を穿つ。一撃必殺、怪物と対峙する上で一番大切で難しいことを彼女は難なくこなす。レベル2とも見紛うほどの『力』と『敏捷』。

 

それはエイナの支援魔法の効果などではない。全ての理由はリリルカ・アーデに発現した【小人騎士(パルゥム・ミレス)】という【スキル】が理由であると、【ヘスティア・ファミリア】の全員が気づいていた。

 

その【スキル】の効果は主に二つある。一つ目は戦闘時に『狩人』と『槍士』が一時発現する効果だ。この二つは通常【ランクアップ】しなければ得られないアビリティであり『狩人』は会得するためには条件があり、希少である、

 

二つ目は戦闘時に能力補正が掛かるというもので、これはあまり関係ない。問題は一つ目の発展アビリティの方だった。

 

もちろん、通常は【ランクアップ】して得られるアビリティを一時的に発現させる【スキル】は強力、だがレベル2に見紛うほどの効果はない。それほどの効果に引き上げている理由は一つだけ、ラグナの【スキル】だった。

 

英雄憧導(アルゴノゥト)】の効果は経験値上昇の方だけに目が行く。それは当たり前だ、下界でもラグナ以外に発現は確認されなかった成長促進系の【スキル】なのだから。

 

だが二つ目の効果である発展アビリティの効果上昇。これがリリをレベル2と見紛うほど強化している理由だった。

 

(想いの丈により効果と範囲上昇。どれほどまでに強化されているのか推察することもできませんが……改めて規格外ですね)

 

 自身の肉体に振り回されながらも怪物を倒してリリは心の中で思った。発展アビリティを会得しているのはラグナ以外にいない。今回、リリが初めて【英雄憧導(アルゴノゥト)】の二つ目の効果を体感していた、

 

いや、実際にはベルも【英雄一途(リリアスフレーゼ)】の力で『魔導』と『覇光』という力を発現させることはできる。

 

しかし、使用したのは『小竜(インファントドラゴン)』との戦いの際。しかも雑兵に使用したのと威力が強力すぎると踏んで、その二つの発展アビリティを使用せずに行使したため気づけなかったことだった。

 

「……発展アビリティの重要性が上がりましたね」

 

 【ランクアップ】で得られる発展アビリティの重要性、それについて改めてヴェルフ以外の全員が気づくことになった。

 

話を戻す。前衛はベル、ヴェルフ、リリの三人。そして後衛はもちろんエイナとラグナである。エイナはもちろん魔導士として、ラグナは護衛と何かあった時のための保険だった。

 

既にラグナは【剣姫】と共に中層を戦っている。その経験とレベル3から逸脱している能力の高さにより、異常事態に巻き込まれた時の切り札。自分たちの背に英雄候補がいる、それだけでパーティーは安心感を得ることが出来る。

 

「次、来るな。ベルたち、一度エイナさんの魔法を試す。時間稼ぎを頼めるか?」

 

『了解』

 

「……エイナさん、いけますか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 いよいよだ。ヴェルフも例外なく、エイナに発現した魔法は知らされている。その試し撃ちを10階層という広い空間ですることも了承しており、迷いなく怪物に向かっていく。その前衛の頼もしい姿を見てエイナはもう一度深く息を吸った。そして行きますと眦を引き裂く。

 

「【大聖樹の光よ、迫り来る仇敵を撃ち払え──我が名はアールヴ】」

 

 短文詠唱。エイナの緑色の魔力が光り輝く、そして頭上に召喚されるのは光の玉だった。人の頭より大きいサイズであり、一体どんな魔法なのか予測がつかない。ラグナはその魔法について考えながらも前衛に退避を告げた。

 

「……【リヒトレイン】」

 

 エイナが《マグル・ステッキ》を怪物の集団に向ける。前衛がいなくなり、射程には怪物だけが存在する。呼吸と共に魔法名を告げた。

 

その瞬間、光の玉から雨のような光の弾丸が発生した。その数は数えきれないほど膨大であり、その弾丸が怪物の群れを貫いていく。怪物を倒し終わる頃にはエイナの頭上の光の玉は小さくなっており、どうやら一度に撃てる数は決まっているようだった。

 

「……凄いです、攻撃魔法とは聞いてましたが、短文詠唱でここまでの殲滅力なんて」

 

「【ヴァンガーデンヘイム】……改めて、エイナさんの才能が恐ろしいです」

 

 今回エイナが発現させた魔法は攻撃魔法だった。そして支援魔法と同じく詠唱連結を可能にしている。先程使用した【リヒトレイン】は第一階位の魔法であり、それだけでも怪物の群れを駆逐するには足る火力だった。

 

それからまだ二段階も上の魔法がある。それを考えるとエイナの魔法の才能は凄まじく、同時にとても心強いものだった。

 

支援魔法と攻撃魔法。合計で6つの魔法を操る魔導士、そんな冒険者がいたならば間違いなく世界中から欲しがられる。というか神々に狙われる可能性すらありそうだ。対策をするべきかもしれないとラグナは考える。

 

そんな中でエイナは怪物の亡骸を見つめた。自分が倒した怪物。あまりにも実感が湧かなかった。

 

(でも、この力があれば戦える)

 

 支援魔導士。この役割だけではエイナ・チュールは守られるだけの存在だった。運動神経も悪く、戦いの才能もないエイナは怪物に接近を許せば抵抗する間もなく殺される。だが、攻撃魔法の会得によりある程度自衛することも可能になった。

 

もちろんそれだけじゃない。ベルが魔法剣士の役割に転向したことによって、後衛の火力はゼロという状態だった。それは今のところ問題はなく、前衛の火力だけで上層の怪物は処理できている。

 

しかし、後衛の火力。それはパーティーにおいて一番重要視されるものといっても過言ではない。怪物の群れ、あるいは階層主級の怪物との戦いでは後衛魔導士の存在こそ重宝される。

 

支援魔法と攻撃魔法。それを三つずつ、合計六つの魔法を操る彼女に全員が瞠目した。

 

「二段階目はどうします?」

 

「今は【リヒトレイン】の扱いを練習しようと思う、次の魔法は慣れてきてからにしようかな?」

 

 攻撃魔法。与えられた武器に喜んでいる暇はない。今は一刻も早く魔法の力、特性を理解する必要がある。そうエイナは考えていた。手札が多くなること、それは魔導士にとって大きな力だ。しかし、同時に罠も存在する。

 

手札一つ一つを活かしきれず、中途半端に扱うこと。合計6つの魔法を操ることができるようになったエイナだが、その力を持て余すわけにはいかない。全ての魔法の特性を知り、そして後日リヴェリアから助言を貰うためにもエイナは第一階位の行使に集中する。

 

「改めてとんでもないパーティーだな……なあ、俺には教えてくれないのか?お前らの強さの秘密」

 

「あはは……【ヘスティア・ファミリア】の命運を分ける情報なので」

 

 さすがにヴェルフも勘付いていた。小人族、それもサポーターだった少女が戦闘職に転向して、すぐにあのような動きができるわけがない。それだけじゃなく白髪の少女に関してもそうだ。

 

日を追うごとに動きの精度が上がっている劇的に能力が上昇しているのが、ヴェルフでもわかるほどに。だからこそ何かしらの【スキル】か【魔法】が働いているのだろうと予測がつく。

 

「……ヴェルフ様が【ヘスティア・ファミリア】に加入してくれるなら、この秘密話せるんですけどね」

 

「お前らも知ってるだろ、俺がどれだけヘファイストス様に憧れ、超えたいと願っているか」

 

「知ってはいます。ですが、ヴェルフ様にも一刻も早く『鍛治』のアビリティを獲得して、ラグナ様の武具を。そしてゆくゆくはリリたちの武具も打ってもらう必要があります」

 

 ラグナはヴェルフと専用契約を結んでいる。しかし、今までラグナに打ったものは大体が破損している。その理由は【魔法】の存在があるからで、それに耐えられるものを打つためには『鍛治』のアビリティが必要だとヴェルフは考えていた。

 

そのためラグナは戦闘衣(バトルクロス)を装備しただけの軽装であり、これからの戦いでは不安が残る装備だった。それ自体にヴェルフは罪悪感を感じながら怪物を屠っている。

 

しかし、偉業を。【ランクアップ】に必要な上質な経験値を得るためには過酷が足りない。何より格上を倒す技量が鍛治師であるヴェルフは足りていなかった。

 

「何より、ヴェルフ様には強くなってもらわないといけません!これからリリたちは中層、下層、そして深層まで探索するパーティーの一員となるのですから」

 

「……それは」

 

「それとも、小人族に負けるんですか?ヴェルフ様」

 

「ッ!」

 

 その言葉に、リリの発破を掛けるような言葉にヴェルフは大剣を握りしめた。

 

「負けるわけねえだろ……!だからといって、【ヘスティア・ファミリア】に改宗するのは……」

 

「ヘスティア様とヘファイストス様は仲の良い神友の間柄だとか。契約を結べば、五年……いえ、一年だけの期間だけでも入団する手はあります」

 

「っ」

 

 その勧誘自体にラグナたちは驚きはしなかった。昨夜、魔法の発現を確認してからの話になる。今後の【ヘスティア・ファミリア】の動きを決める中で、一番重要な戦力の増強と強化。

 

戦力の増強。つまり新しい団員の加入である。しかし、ラグナの【スキル】によって、秘密を漏らさず、成長に酔って悪用しない性格の良い冒険者が条件となった。

 

そんな冒険者は一人しか思い当たらず、それがヴェルフ・クロッゾだった。冒険者としての実力も、人間性も【ヘスティア・ファミリア】から好印象であり、何より【ヘスティア・ファミリア】に入団して成長することによって『鍛治』のアビリティの獲得も見込める。

 

それによって装備が充実すれば、戦力の強化にも繋がる。ヴェルフの獲得は【ヘスティア・ファミリア】の成長に大きな影響を与える。しかし、彼は【ヘファイストス・ファミリア】の一員。

 

改宗してくれるのは難しい。しかし、リリがなんとかしてみますと手を挙げ交渉役を申し出たのだった。

 

「もちろん、今すぐ答えを出す必要はありません。なんならヘファイストス様の時間が空いたら、話し合いをすることもできます。少なくとも不義理というわけではありません」

 

「……丸め込まれてる気がするな。だが、聞きたい。本当に【ヘスティア・ファミリア】に加入して、俺は──俺はヘファイストス様を超えられるのか?」

 

「知りませんよ、そんなの。それは全てヴェルフ様の努力次第です」

 

 リリの言葉にヴェルフは瞳を見開いて微笑した。確かに、その通りだ。至上の武具を打つためには努力と気概が必要だ。

 

「地上に帰還したらヘファイストス様と話をしてみようと思う」

 

「っ、はい。ぜひそうしてください」

 

 第一関門は突破。リリは静かに表情を綻ばせた。その交渉の手腕にラグナが、ベルが、エイナが感心するのだった。

 

⬛︎

 

「【大聖樹の光よ】」

 

 ダンジョン12階層。上層最後の階層でエイナは【ヴァンガーデンヘイム】の一段階目の魔法の呪文を唇に乗せていた。そんなエイナのエメラルドの瞳が見つめている先は『小竜』である。

 

『オオオ……オオオオオオオオオオオオ!!』

 

 上層最強の『インファントドラゴン』。竜種という種族ゆえの強靭さ、タフネスを持ち合わせている怪物である。そんな怪物に挑むのはエイナ含めて三人だった。

 

赤髪の鍛治師ヴェルフ。栗色の少女リリ。その二人の前衛、そして後衛のエイナだけで竜退治を開始していた。

 

その後ろを、いつでも介入できるように見守るのはラグナとベル。前者はレベル3、後者は才能の権化。戦闘に介入すれば上層最強の竜は瞬殺だ。だからこそ、今回の戦いでは静かに見守るだけだった。

 

全ては上質な経験値を得るためにリリから申し出たことであり、それに対してヴェルフも、エイナですら賛同した。ヴェルフは【ランクアップ】のため。リリも成長のため。

 

意外なのはエイナだ。冒険者は冒険してはいけない。それが口癖だったはずの彼女は今こうして危険な戦い『冒険』をしている。

 

「はぁ!」

 

「おおおおおおお!」

 

 リリとヴェルフの身には第二階位の支援魔法『マギガ・リルガ』が行使されており『力』と『敏捷』を上昇させている。リリの槍が、ヴェルフの大剣が『竜』を傷つけるが、それでも決定打にはならない。

 

何よりリリもヴェルフも耐久に乏しい。二人とも鎧などの身を守る装備は身につけていない。そのため攻撃に全てを振り切るわけにはいかない。つまり目的としては囮、陽動がメインだった。

 

『───オオオオオオオオオオオオ!』

 

「っ……」

 

 攻撃魔法の発現。先程、初めて怪物を倒した。あらゆることが初めて、あらゆるものが不足している現在。エイナは冒険しなければ、大事な物が守れないことを知った。

 

覚悟は決めた。しかし、それでも竜を間近にするのは怖い。過去、この竜に殺されて帰ってきた冒険者をエイナはこの目で見ている。あんな風に殺されるかもしれない、そんな光景が脳裏に焼き付いて離れない。

 

杖を握る手が震える。魔力が嫌でも揺らぐ。『大木の心』を習得するために努力したはずだが、実践しようとしても上手くいかない。

 

未熟。惰弱。脆弱。あらゆる罵倒が浮かぶ。それでもエイナは魔力を手放さない。

 

「【迫り来る敵を撃ち払え──我が名はアールヴ】!」

 

 魔法の完成。それと共に頭上に発生する光の玉。その光に竜は瞠目して潰そうと突進を繰り出す。

 

「ッ、エイナ様……!」

 

「エイナ嬢!」

 

『オオオオオオオオオオオオ!!』

 

「───【リヒトレイン】!」

 

 光の弾丸。それと竜の突進がぶつかった。うなるような光の雨、それが竜の突進を受け止める。そして相殺した。

 

竜の身体には傷がついている。しかし、タフネスが売りの竜。光の玉を失ったエイナは竜の餌にしかならない。

 

竜の尾がエイナに襲いかかる。それを誰よりも早くリリの槍が食い止める。

 

『オオオオオオオオオオオオ!』

 

「───ぐっ!?」

 

「リリちゃん!?」

 

『ッ!』

 

 その尾の攻撃を受け止められず、リリは壁まで吹き飛ばされる。壁に激突する寸前、ラグナが間に入り壁との激突を回避させる。だが竜の一撃を受け止めた槍と右腕は折れていた。

 

「……回復薬を!」

 

「──手を出さないでください」

 

「リリ……?」

 

「この程度の敵倒せなければ……リリは貴方を守れない!」

 

 武器を失った。右腕も折れた。支援魔法の効果も消えた。この状況で何をしようとしている。やめるべきだ。戦うな。そんな言葉はラグナの口からは出てこなかった。

 

「勝たなきゃ、いけないんです」

 

───瞳が燃えていた。

 

負けるわけにはいかない。黒髪の少年が白髪の少女が成し遂げた偉業。竜の討伐。それを成し遂げなければ、リリは隣に立つことは許されない。

 

腕が痛かった。動くだけで激痛が走る。今すぐラグナとベルに泣きついて、代わってもらうことはできる。それでもしたくない、それをしてしまえばリリの願いは叶わない。

 

「【(あらた)なる願いを此処に】」

 

『───っ!』

 

 リリは淡い光と共に詠唱を開始した。エイナだけじゃない。リリも二つ目の魔法を発現させていた。

 

ここまで使用していなかったのは彼女の魔法には使用したら待機時間(インターバル)が必要だからだった。切り札、それを道中の怪物に使うのは勿体無い。

 

そして今、絶好の怪物が目の前にいる。リリはラグナたちより数歩前に出て、怪物を睨みつける。

 

『───オオオオオオオオオ!!』

 

「【砕かれた宿命、呪われし瞳、光槍は馬蹄と共に】」

 

 リリには並行詠唱の技術はない。それもそうだ、リリが最初に発現させたのは『変身魔法』。戦いには使うことのできないものだ。それに対して竜は当たり前に尻尾を唸らせ、先程と同じく攻撃を仕掛けた。

 

しかし、先程の攻撃はエイナを守るためのもの。リリは軌道を予測していたように、その小人族の体躯を使って潜り抜けた。

 

「【この身は聖女、駆け抜ける小人の守護者】」

 

 その額に汗を垂らし、激痛に声を漏らしながらも、リリは歌う。槍を失い、腕を折られ、それでも高らかに呪文を紡ぐ。

 

「───負けて、たまるかよ!」

 

『オオオオ!?』

 

 その背から襲いかかるのはヴェルフの大剣。回避に注いでいた気力すら攻撃に回し、竜の気を逸らす。

 

「【聖女の涙、霊峰の守護、黒の終末】!」

 

 エイナもまた、自分を庇ってくれた彼女を支援するべく呪文を紡ぐ。その三人の連携に竜は混乱、そして咆哮を打ち上げる。

 

『オオオオオオオオオオオオ───!』

 

『……………プギイィィイイイイイ!』

 

「仲間を呼んだ……俺たちも」

 

「ダメ、僕たちは手を出したらダメだよ」

 

「……だけど!」

 

「リリは、リリたちは自分のために強敵を乗り越えようとしてる。僕たちに出来ることは見守るだけ」

 

 ベルの言葉にラグナは強く拳を握りしめる。これは彼女たちの冒険。本当ならば二人は戦うことのない運命だった。

 

エイナは受付嬢として。リリはサポーターとして。これほどの危険を味わうことはなかっただろう。

 

改めて、自分が彼女たちを地獄に巻き込む。それを実感してラグナは瞳を揺らした。

 

「【この身は光、勇気を司る女神】」

 

「【歌い続けろ英雄の歌──我が名はアールヴ】」

 

 支援魔法、第一階位。その魔法が完成、すぐさまヴェルフとリリの肉体に宿る。【マギマ・レイル】、その効果は自己治癒能力の強化。それによってリリの腕が治癒されていく。

 

「【大聖樹の光よ、迫り来る敵を撃ち払え──我が名はアールヴ】」

 

 迷いなく、エイナは攻撃魔法の構築を行う。リリを助けるため、ヴェルフを助けるため、全ての神経を魔法に注ぐ。

 

自分に与えられた魔法の才能。それを惜しみなく使い、頭上に光の玉を召喚する。それに竜は反応する。その凄まじい光の弾丸により体力を大幅に削られている、厄介な力を感じ気が逸れる。

 

だがここでエイナは二択を迫られる。竜を狙うか、呼び出した怪物を狙うのか。前者はさらに竜の気を逸らし、リリの詠唱を助けられる。後者は対応しているヴェルフを助けることができる。

 

二者一択。判断を迫られたエイナは迷う暇はない。

 

「【リヒトレイン】!」

 

 選んだのは後者。その光の弾丸は怪物を、オークたちを貫き魔石に変える。しかし、光の玉を失うまで打ち尽くすことはしない。僅かに光の玉を残し、その一撃を大事に残す。

 

この玉が残ることで竜は意識せざるをえない。いつ撃ってくるのかわからない光の弾を警戒しながら、リリに攻撃を当てるのは至難。何度も潜り抜けるように、敵の攻撃を予測して回避を続ける小人の少女。

 

「【刻まれし誓約(ゲッシュ)を破り、もう一度凶猛なる槍を】」

 

『──オオオオオオオオオオオオ!』

 

「おおおおおおおおお!」

 

 増援として呼び寄せた怪物を光の弾の援護もあって壊滅させたヴェルフは大剣で尾を斬り裂く。しかし、反撃によってヴェルフも吹き飛ばされる。そのままリリに接近する竜。

 

「……【リヒトレイン】!」

 

 ギリギリまで引き寄せ、エイナは精神力(マインド)を振り絞り、最後の弾丸を放つ。狙う場所は目、それによって竜は怯んだ。

 

「【もし許されるならば】」

 

『オオオオオオオオ!?』

 

 竜の背に乗り移る。そしてベルとラグナ、エイナとヴェルフは見た。その瞳が血の色に染まるところを。

 

「【今ここに女神の一装を】」

 

───フィアナ。

 

最後に魔法名を呟くと、身体から放たれていた淡い光が形取られ、瞬く間に頭から靴まで全てが光の鎧が装着される。そして右腕には真っ赤な槍が握られていた。

 

『───オオオ「おおおおおおおお!」』

 

 竜の咆哮。その前にリリが絶叫と共に槍を何度も繰り出した。今までのリリではありえない『力』による貫殺。竜の鱗を砕き、肉が潰れる音が響き渡る。そして竜はすぐに命を落として、灰と化した。

 

「ぁぁ、おおおおおおおおおお!」

 

 竜だけでは終わらない。目に入った怪物を殺戮するべく、リリは駆け抜ける。それを見たラグナたちは絶句して、戦慄を走らせていた。

 

リリが発現させた魔法の名前は【フィアナ】。召喚魔法に分類されるものであり、この効果はヘスティアでさえ予測不可能。実際に使用してみるまではわからないだろうと語っていた。

 

【フィアナ】にはラグナに似た魔法特性があった。それは全能力を魔法威力に変換するもの。そして使用後は24時間の待機時間(インターバル)を要するというものだった。

 

そのため魔法の効果は全くわからず、しかしラグナと同じ効果を持った魔法。何より長文詠唱のため使用には気をつけるようにとヘスティアから忠告されていた。

 

その魔法の効果は鎧と槍の召喚。もしかしたら他にも召喚できる武具はあるのかもしれないが、今わかってるのはそれだけ。

 

それだけじゃリリが狂ったように怪物を蹂躙している姿は説明はできない。あのように能力が激上しているのにも説明がつかない。

 

その能力が激上しているのは、もう一つの副次効果。戦闘意欲を限界まで引き出し、狂戦士を生み出すというもの。それによってリリの能力は【ランクアップ】にも見紛うほど上昇していたのだった。

 

リリの殺戮は怪物が全滅するまで止まらなかった。

 

 

 




【フィアナ】。
鎧と槍などを召喚するだけの魔法。ラグナと同じく全能力を魔法威力に変換する特性を持ち、フィンと同じく使用後には待機時間を要する。現在のリリのステイタスでは大した武具は召喚できない。
その副次効果として、瞳が赤く染まり能力が激上する。その結果、狂戦士が誕生する。
全能力が向上してから使用しても、その能力の激情は常に一定。
魔法威力に変換されるのは召喚した武具だけ。
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