主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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間話 エイナの冒険日誌

 

 ●月■日。

 

今日から【ヘスティア・ファミリア】に正式に所属することになった。冒険者としての記録を書き留めておくことにした。

 

最初は何を書こうか悩んでいる。まずは今日起こった出来事を書き記そう。

 

まず私は受付嬢を辞めたのは昨日のことだった。色々と手続きがあり、引き継ぎには相当な時間が掛かる。それを私は一日で終わらせた。

 

上司が口をぽかんと開けていたことを思い出す。早くても一週間以上掛かる手続きが、ここまで早く終わるとは考えてなかったのだろう。引き留められることはなかった。

 

その後はギルド長にも報告をした。一番ガミガミと言われそうだと覚悟していた。けど、意外にも何も言われなかった。むしろ「死ぬんじゃない」なんて言われた。

 

どうしてそんな言葉を。書いている現在も考えているけど答えは出なかった。

 

他にも同僚に先輩。色々な人に引き止められたり、怒られたり。色々と話をして、受付嬢としての生活は短くとも楽しかったと改めて思う。そして同時に冒険者として活動することに不安も覚えた。

 

元々、運動神経が悪くて受付嬢の道に進んだから、私は冒険者として活動できるのか。けど幸い、私には魔法が発現していた。受付嬢の日々が原因なのか、それともラグナくんと関わって私が変化したのか。ともかく魔法だ。

 

エルフの血が入っているから、別に不思議ではないけど……自分に魔法なんて想像していなかった。

 

そしてその魔法の内容にも驚かされた。詠唱連結、三段階に分けられた魔法。【マギナ・ラグナ】……改めてラグナくんに影響されてるなぁ、と思う。

 

詠唱もほとんどラグナくんが含まれてるし……やっぱり恩恵って想いとか心情とかか反映されるのは本当だったらしい。

 

いや、魔法名は今は置いておく。大事なのは魔法についてだ。詠唱連結、三段階の魔法。これは迷宮都市最強の魔導士として名高い、リヴェリア様と同じ魔法特性だった。

 

攻撃、防御、回復。それを三段階ずつ操り、万能の魔導士として君臨しているリヴェリア様の魔法と同じ特性の魔法が発現した、あまりにも身分不相応というか……恐れ多いという感想以外抱けない。

 

けど、同時にこの魔法ならラグナくんを助けられるとも思った。

 

その後、魔法の検証のためにラグナくんとダンジョンに潜った。魔法の効果は三つ。

 

一段階目が治癒能力の強化。ラグナくんが自身を傷つけてまで検証を始めた時は心臓が縮まるかと思った。そして同時に彼はこういうことを平気でしてしまうほど、自分を大事にしていない。私が見張らないといけないと思った。

 

魔法の効果に関しては即座の治療ではなく、徐々に回復していくもので、どちらかというと自動回復(リジェネ)に近いものかもしれませんね、とラグナくんは言っていた。

 

二つ目、三つ目は能力の向上に関するものだった。二段階目は『力』と『敏捷』の向上。三段階目は全能力と五感の強化。ラグナくんが目を輝かせていたことから、きっと相当な効果の魔法なのだろう。

 

その後、ヘスティア様とラグナくんからお祝いとして『豊穣の女主人』という場所で語り合った。ベルちゃんはある事情から入院していて、その場にはいない。少し寂しい気持ちもありながらも、ヘスティア様とラグナくんとの会話は楽しかった。

 

そしてなぜか明日、酒場のエルフの女性と訓練することとなった。魔法の知識も詠唱の知識も偏りがある私を思って、ラグナくんが頼み込んだのだ。

 

ラグナくん自身も魔法は発現しているらしいけど、地雷魔法らしく。そして習得している技術は教えられるものじゃないらしい。だからこそ知人である酒場の女性に師事をお願いしたのだという。

 

とてもありがたいことだと思う。未熟な私を導いてくれる教師がいるのはとても心強い。どんな訓練をするのだろう。明日はダンジョンの探索もするらしい。色々と忙しい日々になりそうだと、私は思った。

 

長くなったけど、今日の一日はこんなもの。明日からも頑張ろう!

 

 ●月◆日。

 

治療院のお見舞いが終わって帰宅して、日誌を書いている。

 

まず酒場のエルフのリュー・リオンさんとの訓練。それは初心者に教えるには相当厳しいものだと日誌を書きながら思う。

 

魔法を行使するには精神力(マインド)と呼ばれるものが必要だ。それを鍛え上げるには枯渇まで使用して、回復を繰り返す作業が効率が良いと言い放ったのだ。

 

その前に知識やら色々教えてくれたはずだが、後半の訓練で吹き飛んだ気がする。彼女は鬼畜教師だ、明日も訓練がある。トテモコワイ。

 

リオンさんとの訓練が終わり、私はラグナくんともう一人。サポーターをしているリリルカ・アーデさんとパーティーを組んで、いよいよダンジョンの探索を始めた。

 

知識では知っている怪物。その怪物がどれだけの冒険者を屠ったのか、傷つけたのか。受付嬢として知っていた私は怖かった。そんな怯えた私を感じ取ったのかラグナくんは静かに手を握って、大丈夫だと言ってくれた。

 

支えるはずが、支えられている。彼の背は大きく、偉大だった。それは精神面でも、そして戦闘面でもそうだった。

 

鮮やかって言葉が似合うのかな。今までのラグナくんの努力の結晶とも呼べる、剣技。見ているだけで心が奮い立つような戦い。思わず拳を握りしめて、見惚れてしまうほどだった。

 

ラグナくんについて語ると、羊皮紙(ようひし)が足りなくなりそうだから、サポーターをしているアーデさんのことを書こうと思う。

 

アーデさんの仕事は魔石を拾うこと、そして荷物を持つことが主な役割だ。サポーター。その役割は受付嬢として知識にあった。

 

冒険者として荷物で手が塞がることは戦闘力の低下に繋がる、何より回復薬、携帯食料、武具。あらゆる道具はダンジョンにおいて必需品。だからこそサポーターという役割はとても大切な仕事だ。

 

でもそんなサポーターを軽視する冒険者は多くいる。分け前を与えないなんて最低なことを言う人だって、もちろん。

 

そしてアーデさんは小人族(パルゥム)。周りから馬鹿にされ、搾取されてきたのだろう。その表情は暗く、そしてどこか取り繕っているようにも見えた。

 

でも、その仕事振りは素晴らしいの一言だった。ラグナくんが倒した怪物の魔石を無駄なく拾い、疲労したのを感じ取れば回復薬を差し出す。気遣いができて、視野が広い子だと思った。

 

同時に危ういとも感じた。彼女とは初対面、何も知らない。だけど、なんとなくそう思った。

 

ダンジョン探索が終わり、地上に帰還した私たちは魔石を換金してからベルちゃんのお見舞いに向かうことになった。

 

【ヘスティア・ファミリア】に所属したことの報告。私としてはそれだけのつもりだった。

 

けど、ベルちゃんの瞳は鋭く私を射抜いた。まるで邪魔者でも入ったとでも言うように。今日相対した怪物よりも遥かに恐ろしい、そう思ってしまうほどの圧力だった。

 

彼女の何を怒らせたのか、何もわからない。ラグナくんに聞いてみようとも思ったけど、私の勘違いかもしれないし……とにかくベルちゃんとは同じ派閥の仲間だ。仲良くなりたい。

 

 ●月◆日。

 

今日は色々あって、帰宅したのが夜を過ぎた頃だった。

 

何から話せばいいのか。まず今日もダンジョン探索のために噴水広場で待ち合わせをしていた。そのときヒューマンの男性冒険者が話しかけてきた。

 

その男性冒険者の口から語られたのはアーデさんに関するものだった。冒険者の武具を盗むコソ泥、金目のものを奪うクズ。そんな罵倒を大声で冒険者は話していた。

 

そしてその冒険者は提案をしてきた。アーデさんを嵌めないかというものだった。

 

アーデさんは冒険者から盗み、金銭となるものを隠している。それをダンジョンで誘き寄せ、暴力を使い奪うつもりだ。冒険者の現実、闇とも呼べるものに遭遇して私は怒った。

 

けど、私には何の力もない。冒険者として彼等に対抗することはできない。だからこそラグナくんが「断る」と拒否してくれて嬉しかった。

 

そして同時にアーデさんに近づいてくるなら容赦しないと、睨み付けた。それでヒューマンの冒険者は姿を消していった。

 

その後、アーデさんが近くにいて……ラグナくんは真偽を確認するために【ヘスティア・ファミリア】の教会で話し合いを行った。

 

アーデさんは自分は盗みを働いたと告白した。その全ては【ソーマ・ファミリア】という派閥から抜け出すため。

 

普通に金を稼ぐにもサポーターという職業と小人族(パルゥム)という種族に支払われる金は少なく、脱退するために必要な金額は程遠い。

 

お金のためじゃなく復讐という気持ちもあったのだという。今まで搾取してきた冒険者に仕返すため、偶然にも発現した変身魔法を使って盗みを働いた。

 

それに対してラグナくんは嫌悪することもなく、アーデさんの全てを受け止めた。

 

そして脱退金まで用意しようとして、どうしてそこまでするのとアーデさんは言う。その答えは「幸せになってほしいから」というものだった。

 

私でさえ衝撃を受けたのだ、当の本人であるアーデさんが受けた衝撃は計り知れるものじゃない。彼女の栗色の瞳が晴れていくのが目に見えてわかった。

 

そして、ラグナくんはその日のうちにアーデさんを救った。

 

脱退金を用意して、【ソーマ・ファミリア】に乗り込み、囲まれて戦闘を行い、傷だらけになっても、彼は救ったのだ。サポーターの少女を、仲間を救ったのだ。

 

すごいことだ。素晴らしいことだ。彼の人間性に私はますます惹かれた。けど……同時に怖いと思った。

 

彼はきっとこうして、困っている人がいれば……助けてほしいと願っている人がいるならば、どこまでも駆けつけて助けてしまうのだろう。

 

その優しさで彼が傷ついてしまうことに私は恐怖した。そしてもう一度支えたいと強く思った。

 

 

 

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