主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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62話 中層進出

 

 

「リリ、本当に大丈夫なんだよな?」

 

 ダンジョン12階層、13階層に繋がる下り坂の近くでラグナはリリの状態を確認する。『インファントドラゴン』との戦いで負傷した右腕、エイナの魔法によって治癒されたとはいえ、まだ痛みはあるかもしれない。

 

「はい、ご心配おかけしました」

 

 リリは右腕を触りながら答えた。それにラグナは安堵の息を吐く。彼女は昨日戦闘職を始めたばかり。骨折の激痛はラグナも散々思い知っている。しかし、彼女は耐え抜いて戦った。

 

槍を持って2日目で『インファントドラゴン』を打ち倒した。紛れもない偉業にラグナは拳を握った、

 

「リリ、あの魔法はなに?」

 

 昨日聞いた話ではリリに発現した魔法は召喚魔法のはずだ、能力向上の力はない。しかし、瞳を真っ赤に染めて【ランクアップ】したような力を感じた。あれは一体なんなのだろうとベルが疑問を口にする。

 

「リリもよくわかりません……気づけば視界が真っ赤に染まって……」

 

「視界が真っ赤に?」

 

「はい。ただ、戦いたい……そんな衝動が溢れ出るような……」

 

「狂戦士を生み出す魔法ってこと?」

 

「魔法の副次効果のようなものでしょうか……確証は持てませんが」

 

 副次効果にしてはあまりにも強力すぎる。なんて【魔法】なのだとラグナは静かに戦慄を走らせる。しかし、理性を失うという点はリスクもある。使用には気を使う必要があるだろう。

 

「……リリの魔法は試して理解を深めていくしかないな」

 

「はい、ですがこの魔法は24時間の待機時間が必要なので……」

 

「使えるのは明日以降か……とりあえず魔法に関しては後から考えよう」

 

 魔法に関しては検証を重ねるしか理解を深めることはできない。待機時間が必要なため検証も簡単にはできない。少しずつ理解していくしかないだろう。

 

「ラグナ様……インファントドラゴンと戦ったリリたちに何かないのですか?」

 

「……何かって」

 

「褒め称えるとまではいいませんが、パーティーリーダーとして相応しい言葉があるはずです!」

 

「──よくやった」

 

 冒険者らしく、この場に相応しい言葉を考えた時にこの言葉が浮かんだ。それが正しいのかわからなかったが、リリたちは笑みを浮かべて「はい!」と素直に喜んだ。

 

「……でも、私はリリちゃんに怪我させちゃった」

 

「いえ、あれはリリたちが『インファントドラゴン』の気を完全に引くことができなかったのが原因です」

 

「ああ。本当なら俺が庇うべきだった……すまん」

 

 エイナとヴェルフはどこか暗い表情で己の力不足を嘆く。そんな二人にリリは立ち上がり、そんなことは考えなくてもいいと励ます。

 

「準備も何もなしに挑んだ戦い……それであそこまで戦えたなら十分だと思う。それより、ここはダンジョンだよ。反省会は後にしよう」

 

「ベル様、はいそうですね!ラグナ様、これからどうしますか?」

 

「予定通り中層と行きたいところだけど……リリは槍を失ったし……エイナさんもヴェルフも消耗しただろう?」

 

 質のいい回復薬で体力と傷は回復した。しかし、強敵との一戦は気力を使うものだ。何よりリリか武器を失ってしまったことも考慮すると地上に帰還することが安全ではある。

 

「私は大丈夫。それより魔法を試したい、かな」

 

「第二階位と第三階位ですか?」

 

「うん、今日のうちにある程度は自分の魔法を知っておきたいの」

 

 魔導士にとって自身の魔法、手札を知ることは何よりも大切なことだ。何より先ほどの戦いで第二階位と第三階位を魔法を使えたら、リリに怪我をさせることはなかったかもしれない。そんな負い目からやる気を滲ませていた。

 

「俺も、リリスケに良いところを取られちまったからな」

 

「リリはサポーターとして、皆様をお支えするので……」

 

「……わかった。それなら中層に挑もう」

 

「それなら、早速アレを装備しましょう!」

 

 そうしてリリはラグナから受け取ったバックパックから『火精霊の護符(サラマンダーウール)』を取り出した。それをすぐさま全員に渡して、リリ自身も身につける。

 

「思ってたより真っ赤だね……」

 

「相変わらず、精霊の護符は派手だな……」

 

「文句言わないでくださいよ、高かったんですから!」

 

 火精霊(サラマンダー)の力が編み込まれた護符。その力は火属性の攻撃に対する耐性、そして暑さに対して強くなったりと色々ある。しかしながら見た目は派手であり、エイナは恥ずかしそうに、ヴェルフはげんなりとした表情で身につけていた。

 

「出発する前に……一応、13階層について説明するね」

 

「お願いします、エイナさん」

 

「13階層から14階層までに出現する怪物は二体いるの、一体目は『アルミラージ』。兎型のモンスターで、素早い敏捷性と天然武器(ネイチャーウェポン)を扱ってくる個体もいるから注意だね」

 

「兎型……」

 

 リリはベルのことを見つめる。白髪に赤色の瞳と灰色の瞳。どこか兎に近い風貌。それに思わず見つめていると、ベルは静かに首を傾げた。

 

「そして二体目は『ヘルハウンド』。この『火精霊の護符(サラマンダーウール)』を装備している理由だね。中遠距離から炎攻撃を仕掛けてくるの」

 

「魔法みたいなものだよな」

 

「うん、詠唱は必要ない代わりに少しのタメが必要。だからその隙に討伐したいね」

 

 エイナの受付嬢で培ったダンジョンの情報。それをラグナたちは頭に入れる。

 

「念の為言っておくけど……15階層からは『ワーム』『コウモリ』『ミノタウロス』、他にもモンスターがたくさん出現するようになる。だから中層の本番は15階層からなの、だから油断しないようにね」

 

「了解です。それじゃあ、早速出発しましょう」

 

 こうしてラグナたちは中層に繋がる下り坂を降りていくのだった。下り坂を歩き抜くと霧が晴れて、光源が乏しい階層。13階層、『最初の死線(ファーストライン)』と呼ばれる領域が姿を見せる。

 

そこでは怪物の質も量も跳ね上がるのはもちろん、ダンジョンの天然(トラップ)が多くなったりなど、警戒する点が増える。

 

ラグナたちを迎えたのは細長い通路、洞窟のような造りだ。10階層から12階層までの霧が広がる場所とは違って、奇襲などは心配しなくてもいい。

 

しかし、細長い通路から怪物が雪崩れ込むことで、処理が追いつかなくなり、全滅するパーティーが後を絶たない。

 

「……来るぞ」

 

 ラグナの言葉に全員が身構える。レベル3の感覚。それで奥から怪物の足音を感じ取って、数秒後に怪物は姿を現した。

 

『バゥウ!』

 

「──ヘルハウンド!いきなり五体です!」

 

 リリの声が迷宮に響く。最初の遭遇(エンカウント)は中層で多くのパーティーを全滅に追いやった仔犬のような姿形の怪物ヘルハウンドだった。

 

「おおおおおおお!」

 

 最初に行動したのは赤髪の鍛治師。闘志を滲ませた大剣による一振りでヘルハウンドの肉体を両断した。それに反撃の一射を浴びせようと炎を溜めるヘルハウンドに対して白髪の少女が静かに手を伸ばした。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

『オオオオオ!?』

 

 超短文詠唱による一撃が『ヘルハウンド』を粉砕する。どれだけ炎を吐こうと溜めようが、一声(ワンワード)による魔法で制圧される。少しだけ『ヘルハウンド』が哀れになるほどだった。

 

その後、ベルは剣技にて残りの三体を斬り伏せた。上層と変わらず効率的で圧倒的な動きに瞠目しながらも、ラグナは戦闘の音を聞きつけて怪物が現れないか警戒する。

 

「複数の足音……エイナさん、早速魔法を」

 

「【旅人を導きし森光(ひかり)、咲き誇る光花(こうか)よ】」

 

 エイナが詠唱するのは第二階位の攻撃魔法。第一階位より強力だろう魔法を試すべく、呪文を紡ぐ。

 

「……アルミラージです!」

 

 そしてラグナが警戒を促した数秒後、奥から現れたのは『アルミラージ』だ。白の毛皮、赤い瞳。兎の怪物としかいいようがない姿形はどこか白髪の少女を彷彿とさせる。どこか愛らしい姿に攻撃を躊躇う冒険者も少なくない。

 

『キャウッ!』

 

『キュイッ!』

 

「あの時は観察する暇もなかったけど、似てるなぁ……」

 

 その『アルミラージ』を見て、ラグナは思わずベルを見つめた。それに首をコテンと傾げるベル。それに微笑を浮かべながら怪物の動向を見つめる。すると、近くにあった大岩を砕き、エイナの言葉通り天然武器(ネイチャーウェポン)を装備する。

 

小斧、短剣、短槍。各々違う武器を装備、『アルミラージ』の恐ろしさは集団の戦闘力。あの武器で囲まれればレベル2であっても簡単に殺される。そしてパーティーにはラグナ以外はレベル1の状況、気を抜けば殺される。

 

「【破滅を退き、厄災を撃ち払わん】」

 

『キュイィィイイイイイ!』

 

「来ますよ!」

 

 一体の『アルミラージ』から、一気に雪崩れ込んでくる。ラグナも見守る立場から《聖火剣》を抜いて、臨戦態勢に入る。最初の一撃はベルだった、接近してくる怪物をすれ違い様に一刀両断。その後も接近してくる怪物を次々と斬りふせる。

 

ヴェルフも担いでいる大剣を振り下ろし、同じく両断。しかし、大振りの攻撃によって隙が出来たヴェルフに『アルミラージ』の二体が天然武器(ネイチャーウェポン)を振り下ろそうと攻撃を繰り出す。

 

「させるか」

 

『キュイ!?』

 

 それを阻止するのはラグナの《聖火剣》。ヴェルフが目を剥くほどの剣速を持って、怪物を捩じ伏せた。しかし、ヴェルフが礼を言う暇はない。この戦闘音を聞きつけて奥から『ヘルハウンド』の群れが現れた。

 

「【芽吹け、妖精の魔花(はな)──我が名はアールヴ】」

 

「詠唱が完成します、射線から離れてください!」

 

「……あれは第一階位と同じ」

 

 詠唱の完成。それと共に頭上に生成されるのは光の玉だった。エイナの第一階位の攻撃魔法【リヒトレイン】と同じような玉だ、違う点を挙げるとすれば大きさだろうか。一体どんな魔法なのか、ラグナは考察しながらも射線から離れる。

 

「【リヒトデウス】!」

 

 魔法名と共にエイナは頭上の光の玉から光線を発射した。

 

【リヒトレイン】とは違う。複数の弾丸ではなく、一つの光線。威力に特化した、光線は地面を削り『アルミラージ』を巻き込みながら一瞬で奥にいた『ヘルハウンド』にまで届き、炎を吐こうとしていた怪物が全滅する。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 そして撃ち漏らした『アルミラージ』をベルの魔法が討伐して、中層での戦闘は終了した。

 

「エイナ様の攻撃魔法……凄まじいです!」

 

「ああ、地面が削れてやがる……」

 

「威力の違う光の弾丸、いや光線か」

 

 地面に残った跡を見ながら全員が瞠目する。第二階位、攻撃魔法【リヒトレイン】とは比べ物にならない威力。しかし、殲滅力は劣っており……強敵や硬い怪物が相手などで真価を発揮するのだろう。その威力はラグナも受けたら、ただじゃ済まないと予感させるほどだった。

 

「凄い威力だけど、狭い場所じゃ使いづらいね……加減したけど、予想より威力が出ちゃったし……」

 

「手加減して、あれなんですか……?」

 

「う、うん。ラグナくんたちに当たるとまずいと思って、出来るだけ精神力(マインド)を抑えたんだけど……」

 

──恐ろしい。

 

手加減して、この圧倒的な威力。その頼もしさと恐ろしさに戦慄を走らせる。そして、これよりさらに強力な第三階位の魔法は一体どれほどなのだろうとラグナは背筋を凍らせる。

 

「それより、いきなり多すぎじゃないか?」

 

「それはリリも思いました。『怪物の宴(モンスターパーティー)』でしょうか?」

 

「単純に中層だからってのもありえるが……」

 

 それは先に進み、怪物と遭遇してみないと確かめようがない。ラグナたちはリリと共に魔石を拾い、細長い通路を進み探索を続けた。

 

⬛︎

 

 その後のことだ。中層13階層の終盤まで探索をしたラグナたちは14階層に進むことなく、12階層にまで戻っていた。理由は回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジックポーション)が底を突きそうだったからである。

 

何より今日は『インファントドラゴン』との戦いでリリも武器を無くしている。14階層以上で戦うならリリの経験値も考慮して次回に回した方がいいという判断だった。

 

そして現在、ラグナたちは前方で杖を地面に突き刺し魔力を高めている半妖精(ハーフエルフ)を見つめた。中層で試すことができたのは第二階位魔法だけ。第三階位を試すためには広い場所が必要だった。

 

そして12階層なら、その場所に適しているため魔法の準備を始めていた。13階層で見せた攻撃魔法の第二階位は尋常じゃない威力だった。であれば、第三階位の威力は想像もできないほどなのは間違いない。ラグナたちは静かに見守った。

 

「【裁きの業雷(ひかり)が放たれる】」

 

 一声と共に魔力が膨れ上がる。エイナを中心に漂う魔力の粒。幻想的な姿にラグナは見惚れる。

 

「【地獄の戦乱、巻き起こる終末。神々の角笛は高らかに鳴り響く】」

 

「【至れ、我が魔杖。無情なる魔女の鉄槌。轟け、汝の雷霆。無慈悲なる王の審判】」

 

 滞りなく詠唱が続けられる。詠唱が終盤に差し掛かったのか、エイナは杖にさらに力を込めた。

 

「【開け、第三の霊峰──我が名はアールヴ】」

 

 エイナを中心に魔力の光が魔法円(マジックサークル)のように地面に広がっていく。その距離、30M。エイナ自身も、その光景に瞠目しながら魔法名を唇に乗せた。

 

「【アスト・ヴァンヘイム】!───〜〜〜〜!?」

 

 瞬間、エイナは肉体から精神力(マインド)が搾り取られる感覚を味わった。余っていたはずの精神力、それがたった一回の魔法使用で全て奪われた。エイナは目を見開きながら、精神枯渇(マインドゼロ)に陥り、そのまま気絶した。

 

「エイナさん!?」

 

 倒れる直前、ラグナがなんとか受け止める。あまりにも急なことでラグナは思考が停止して何が起こったのか状況を把握できない。

 

「……精神枯渇(マインドゼロ)のようです……!よほど魔法使用に精神力を持っていかれたのでしょう……」

 

「そ、そうか……」

 

 リリの言葉にラグナは、ほっ、と息を吐く。しかし、一回の魔法使用で精神力が無くなるほどの魔法。改めてその威力が想像できないと恐ろしさすら感じた。

 

そのままエイナはリリが背負い、ラグナたちは地上に帰還するのだった。

 

 

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