主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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七話 ある医神の決意

 

 

ゼウスと共に畑仕事をして、剣の稽古を付けてもらった経験はダンジョンで大いに活きた。ダンジョンの恐ろしさは物量。怪物は倒された瞬間。すぐにまた湧き出る。それを相手していると、すぐに消耗してしまう。回復薬もないような装備状況で、無傷で切り抜けるには集中力の維持が必要だ。

 

その点。ラグナは体力には自信があった。幼少期から畑仕事をして、ゼウスとベルと出会ってからは剣の稽古にも励んだ。その血も滲むような経験は怪物に攻撃させる間も無く瞬殺していく。

 

ラグナ自身も自分の力に驚いた。新人冒険者で三階層を探索している冒険者はいない。いるとしたらよほどの自殺希望者だろう。

 

「とりあえず、この袋が埋まるまで戦うか」

 

ラグナは小さい袋に魔石を入れて呟く。上層の怪物の魔石は総じて小さい。この袋を埋めるのにも、相当な時間が掛かるだろう。今の【ヘスティア・ファミリア】には、お金が全く足りない。

 

ヘスティアもバイトをしているが。一気に稼がないと時間がない。強くなるためにも、もっと下の階層で戦う必要があった。

 

「……もう少しだけ、下に降りるか」

 

ラグナは小さく呟いて。剣を腰に刺して、先に進んでいった。

 

⬛︎

 

白髪の少女ベルは本を読んでいた。故郷から持ってきたベルのお気に入りの本だった。そんな大好きな本を読むが、集中出来なかった。熱のせいなのか、それともラグナが心配だからか。

 

懐かしい孤独感にベルはダンジョンの出来事を思い出す。短文詠唱から放たれた一撃は魔法初心者のベルでも強力であることが分かるほどだった。察知不可能、防御不可能。音速で放たれる一撃は、敵を近づけさせない。

 

だから思った。この力があれば守れるって。もしかしたら彼の隣に並び立つことが出来るかもしれない。それで調子に乗っていた。────運命はベルを鎖のように縛る。

 

倒れてラグナの足を引っ張った。ラグナを助けるどころの話ではない。何の役にも立たずに、彼の重荷になっている。

 

もしも。もしもこのままラグナはベルを置いてダンジョンに向かうとして。いつか仲間なんて物を手に入れて、前に進んでいくのだろうか。そんな幻想に、ベルは絶望する。

 

ベルは証明したい。自分は役に立てると。彼にラグナに守ってもらうだけの人間でいたくないと。明日ダンジョンに潜るとしたら。発作が出たとしても血反吐を吐いたとしてもベルは戦いに付いていく。

 

その結果、二人で死んでしまうならそれでいい。冒険者のよくある末路を歩んでいい。最後は彼を守って死にたい。そして悲しんで欲しい。そんな感情がベルの奥底にはあった。

 

そんな時だった。教会の外からノック音が聞こえたのは。誰かが尋ねて来たのだろうか。ベルは重い身体に鞭を打って、教会の扉を開く。

 

「誰、ですか?」

 

見たことのない老人。服は清潔に豪華そうな装いだ。そして身体から漏れ出す神威が、老人を神だと証明している。ヘスティアの神友とかだろうか。そう思っていると、老神は呆然と立ち尽くしている。

 

「あの……?」

 

「あ、ああ。すまんかったな、儂はディアンケヒト。【ディアンケヒト・ファミリア】の主神だ」

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】って、ラグナが言っていたところ……?」

 

最高の回復士のアミッド・テアサナーレが所属している【ファミリア】。オラリオ一番の回復士は彼女だと、ラグナは言っていた。そんな有名な【ファミリア】が何しに来たのだろうと訝しむ。

 

「僕の名前は、ベル・クラネルです。それで……何の用でしょうか?」

 

「医神の儂が来た理由は、一つだけだろう。お前さんの身体を診せてくれるか?」

 

「……別にいいですけど」

 

少し悩んで、ベルは了承した。この老人が神であることは間違いない。何か怪しい行動を取ったとしても、ベルには【魔法】がある。それに医神ならば、自分の病気について分かるかもしれない。

 

教会の地下にベルは案内した。このホームはベルにとって過ごしやすい場所だった。妙な安心感がここにはある。老神はホームを見て、同情するような目でこちらを見た。確かに他の【ファミリア】からすれば、ホームとは呼ばないだろう。

 

「背中、失礼するぞ」

 

ベッドに座ったベルの背中をディアンケヒトは触診する。肺の辺りを触り、神としての権能を発動する。神は原則として力は使えない。それは下界に降りる時に決めた規則であり。破ったら即刻天界に転送される。

 

それならばディアンケヒトが行ってるのは何か。それは権能の一部の使用だった。医療の神のディアンケヒトは、人体に潜む病などを探すことが出来る。もちろんだが、ミアハにも同じことが可能だ。

 

その権能の一部を使ってディアンケヒトは確信した。ベルの病気はメーテリアの病気と同じであることに。

 

幸いなのか。この少女は一人でベッドを出れるぐらいには筋力がある。もちろん安静に過ごす必要はあるだろうが。完治しなかったら、残り十年ほどの命であることはわかる。

 

レベルが上がらない限りは寿命は伸びない。それを分かっててラグナが、少女をダンジョンに連れ出そうとしていることに気付く。

 

最初は病弱な子をダンジョンに連れていく外道かと思ったが。それは少女のことを思ってのことだった。ならミアハの言っていた一時的に発作を抑える薬を作るというのは、理に適っている。

 

「……どうでした?」

 

「そう、だな……儂の力では治らないだろう」

 

「ですよね。僕も自分の身体だから分かるんです。これは治らないって。僕のお母さんも同じ病気だったらしいんです」

 

「────っ!?」

 

その何気ない一言がディアンケヒトを襲った。たまたま容姿が似ていたわけではなかった。本当にメーテリアの子だと知り動揺する。

 

メーテリアは病気で身体が弱い。そんな彼女が子供を産んだなど信じられなかった。そんなメーテリアが命賭けで産んだ子供は、メーテリアと同じように運命に弄ばれている。

 

怒りで神威が溢れ出しそうだった。ディアンケヒトはそれを必死に抑えて、ベルに誓った。

 

「───先程の言葉は撤回しよう。儂がお前を……ベルを治す」

 

「え?」

 

「儂は用事が出来たので帰る。また会おう、ベルよ」

 

「……え?」

 

急な態度の変化にベルは頭を傾げる。状況に置いてかれたベルはヘスティアが帰ってくるまで固まっていた。

 

ディアンケヒトの瞳は覚悟で燃えていた。いつもの守銭奴の姿はない。そこにあるのは偉大な医神としての一面だけだった。

 

⬛︎

 

ダンジョン五階層。一階と二階とは比べ物にならないほど怪物の量が多くなって来た。三体から五体の怪物が同時に襲ってくる。それを対処しても、また次の怪物が現れる。それを繰り返していると、袋には入りきらないほど魔石を手に入れた。

 

怪物の討伐数は30を超えてからは数えていない。これ以上この階層にいると。怪物の攻撃を受けてしまいそうなので、元の道を引き返す。洞窟のような空洞を進み、ラグナは地上を目指した。

 

ダンジョンには初心者殺しが多く存在する。例を上げるなら『ウォーシャドウ』が有名だ。六階層から出現する怪物は、鋭利な鉤爪のような腕で攻撃してくる。

 

しばらくは五階層で、怪物を倒して経験値を獲得しなければ危ない相手だ。しばらく歩けば、0階層の安全地帯に辿り着く。あとは長い階段を登るだけで今日のダンジョン探索は終了する。

 

初日にしたら、十分な魔石の量。これがどれだけの稼ぎになるのか、ラグナには想像出来ない。原作のベルは持ち前の幸運で、『戦利品(ドロップアイテム)』を拾っていたから。そこの差はあるだろう。

 

幸運の発現の条件が気になる。もし自分にも幸運が発現すれば、ギャンブルで一攫千金をラグナは考えていた。

 

ギルドに到着する。青い空が少しずつ闇に染まっていく。そんな情景を想像しつつ。ラグナはギルドに入った。中にはまばらに冒険者が魔石の換金をしている。ラグナも列に並ぼうとする。

 

「──ラグナくん!」

 

「あ、エイナさん。こんばんは」

 

「こんばんは。結構ダンジョンに潜ったんだね」

 

エイナはラグナの手に持っている魔石袋を見て話す。エイナは沢山の初心者冒険者を見ているが、一人でここまで集めているのは初めて見たと驚いている。冒険者になって数日のはずなのに、少しおかしいとエイナは思った。

 

何より防具に一切の傷が見当たらないのだ。身体は回復薬を使えば即座に回復する。だが防具は絶対に消耗する。剣などの武器も同様に。

 

「怪我はしてないの?」

 

「結構浅いところの探索だったので、大丈夫でした」

 

「それにしては魔石の大きさが、おかしいと思うんだけどな……?」

 

エイナは鎌を掛けてみる。するとラグナは目を丸くして汗を掻いた。エイナはやっぱりと、肩を落とす。どうやら教育が足りなかったらしい。

 

「明日また、時間ある?」

 

「あ、あります……」

 

「その時に話はするから、ね?」

 

どこか有無を言わさないエイナの雰囲気に、ラグナは明日のことを考えながら換金に向かった。

 

 

 




コメントありがとうございます。
今日は調子よかったら、夜も投稿します。よろしくお願いします!

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