主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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八話 猛牛(ミノタウロス)

 

 

「「8000ヴァリス!?」」

 

ベルとヘスティアの叫び声が耳を貫く。思わず耳を押さえながらラグナは頷いた。今日一日中ダンジョンに潜った成果は予想を大きく上回っていた。魔石の数、戦利品の量、たまたま運が良かったらしい。

 

「凄い、凄いよラグナくん!」

 

「僕がいなくても、こんなに稼げるなんて凄い……」

 

ヘスティアは興奮が止まらないとばかりに目を輝かせる。逆にベルは一人で稼いでみせたラグナに落ち込んでいるようだった。

 

「一人でこれなら、ベルと一緒ならもっと稼げるな」

 

「ラグナ……うん、明日はもっと稼ごう」

 

それに気付いたラグナはベルが落ち込まないように慰める。ヘスティアは二人の関係を微笑ましく見守った。その表情はまるで、二人の母親のようだった。でも同時に羨ましいという感情も生まれる。

 

神々は不変だ。ある程度成長すれば容姿は変わらなくなり、年も取らなくなる。何万年も生きる神は退屈に支配される。ヘスティアは恋をしたことがない。それは処女神だからという理由もあるが。同じ神のことを恋愛的な意味で好きにはなれなかった。

 

でも下界に降りて、さまざまな子供達がいることを知った。今の身体は全知全能ではない。普通の人間と何も変わらない身体。もしかしたら恋なんてものを経験出来るかもしれない。ヘスティアは改めて下界に降りてきて良かったと思った。

 

「【ステイタス】の更新しようか?」

 

「そうですね、お願いします」

 

【ステイタス】の更新。これは強くなるためには欠かせない儀式だ。怪物を倒した経験、何かしらの偉業を成し遂げた経験。それを恩恵は常に見ている。その経験を恩恵に反映することで、能力が上がっていく。

 

ヘスティアは指の先に針を刺して、背中に血を垂らす。神聖文字(ヒエログリフ)と呼ばれる文字の羅列が浮かび上がる。

 

しばらくすると光は消えて、文字が背中に消えた。ヘスティアは用紙に共通語で【ステイタス】を書いて渡した。

 

『ラグナ』

Lv1

力 I0→I46

耐久I0→I8

器用I0→I25

敏捷I0→I30

魔力I0→I0

『魔法』 

『スキル』

 

スキルは隠してヘスティアはラグナに渡す。それをラグナは真剣に確認する。力の上昇値は高く、耐久が低いのは攻撃を喰らっていないからだろう。敏捷も最初にしては伸びているが。原作のベルを知っている身からすれば、上昇値が低すぎる。

 

ラグナは羊用紙に無意識に力を入れて握りつぶした。これじゃ上層を抜けることも出来ない。このままじゃ【ランクアップ】にも一年以上を費やしそうだ。

 

焦っている姿をヘスティアは見ていた。彼が悩んでいるのに、自分は何も助けることができない。そんな無力感を感じながら、唯一出来ることを考えながら今日は眠りに就く。

 

彼女の頭には神友の鍛治神が浮かんでいた。

 

⬛︎

 

快晴の空。そんな澄んだ空気をしているのにも関わらずラグナの目は死んでいた。今日は2時間ほどエイナから説教されたのだ。初心者が五階層なんて死ぬ気なの?と。そんなにも怒られたにも関わらず、ラグナは同じ階層にまた潜るつもりだった。

 

しかし、今回はベルがいる。もしも発作が起きないかと心配する。怪物からベルを守る自信はある。だが倒れたベルを地上まで送るのは危険が伴う。今日もベルには休んでもらうか考えていたが。今日のベルは説得できる雰囲気ではなかった。

 

仕方ないと割り切り、ラグナとベルはダンジョンに向かった。ダンジョンの一階層から五階層は、薄暗い洞窟だ。冒険者は視力も強化されているため、少しの暗闇なら全く問題ない。

 

ダンジョンの特異なのは広さだろう。道が枝分かれして、それが奥まで続いている。昔の冒険者達が残した地図は、たくさんの冒険者を救ってきた。エイナから教わった道を元に、ラグナとベルは奥に進む。

 

「ベル、魔法は温存しろ。もしも俺が危ないと思った時に使ってくれ」

 

「……うん、わかった」

 

【魔法】を使うには精神力(マインド)と呼ばれる力を使う。恩恵にも乗らないため分かりづらいが、魔導士にとって一番大事だとラグナは考えていた。ダンジョンには長期戦の場合が多い。精神力を回復する物もあるが、それだけに頼ってはいられない。

 

ベルは魔導士としての経験は浅い。精神力が枯渇すれば、一気に体力を持っていかれる。そしたら命の危険まである。それだけは避けなければ。ラグナはゴブリンを切り捨てながら考えていた。

 

「ここが五階層?あんまり雰囲気変わらないね」

 

「まあ、そんなに差はないな。六階層からは出てくる怪物も増えてくるが」

 

今のラグナとベルの限界は五階層だ。防具並びに武器を揃えなければ、六階層で戦うのは危険過ぎる。新人用の剣じゃ不安すぎる。ベルならば六階層の敵も一撃かもしれないが。

 

「また『戦利品』……流石は幸運兎か」

 

「なんか言った?」

 

「いや、何にも」

 

昨日ダンジョンに潜った時より『戦利品(ドロップアイテム)』の数が倍ぐらい違う。やはり幸運を持っているベルはすごいと思う。同時に自分にも幸運があればと考えることも仕方ないだろう。ベルの幸運はチートレベルで強い。

 

五階層に到着して敵と戦う。ベルはラグナが倒した怪物の魔石を拾っていた。【魔法】を使えないことに不満はあるが。使って倒れて迷惑を掛けるよりはずっとマシだ。こういうサポーターの用な役割でも、ベルは意外と満足していた。

 

それよりも凄いのはラグナの剣技だろう。初日には一瞬だけしか見れなかった戦い。間近で見るとやっぱりラグナは才能があると思う。敵の攻撃を読んで弾いて、すぐに反撃して倒す。背中に目があるかのように、華麗に避けていく。故郷の村でどんな修行をしたのだろう。

 

そんなことを考えながら怪物を次々に倒していくラグナをベルは見ていた。

 

そんな時だった。冒険者の叫び声が聞こえたのは。

 

「お前ら、逃げろ!!」

 

「ミノタウロスだ、ミノタウロスが来るぞぉぉ!!」

 

冒険者は必死の形相で逃げていた。ラグナはまさか、と苦笑いする。脳が警鐘を鳴らしている。そこから逃げろ、逃げないと死ぬぞと。初めての死の気配に、ラグナの体はすぐに動いた。

 

コボルトを一瞬で斬り殺し、遠くで見守っていたベルの元に近づき横抱きに。全力で疾走する。地面を思いっきり蹴り飛ばし、前傾姿勢になりながら走る。冒険者の聴覚は、凄まじい足音を捉える。

 

『ブモオオオオオオオオ!!!』

 

「────」

 

中層にしか湧かない『ミノタウロス』。その脅威はレベル1の冒険者の動きを止める『咆哮(ハウル)』。当然、ラグナは抵抗することも出来ずに動きを止めた。

 

「【福、音(ゴスペル)】」

 

ベルは止まったラグナを見て。後ろから追ってくるミノタウロスに魔法を放つ。上層の怪物を簡単に破壊する攻撃魔法は、ミノタウロスの頑丈な肉体によって阻まれた。

 

損傷を与えることは出来た。それでも倒すことは出来ないと一瞬で理解する。でもベルに出来ることは【魔法】を放つことだけだった。一発、二発、三発と連続で【魔法】を使用する。

 

その時間稼ぎのおかげか。ラグナは再び動き出した。ベルの額から汗が噴き出る。精神力を一気に使った影響だった。そんなベルを見て、ラグナは更に焦りを募らせる。

 

原作が開始する日が分からなかった。そんな言い訳は通用しないのだろう。必死に慎重にダンジョンに潜るべきだった。色々な後悔が頭を埋め尽くす。

 

五階層を抜けて四階層に入った時。分かれ道となっている左側には冒険者が。それを見た時、ラグナは一瞬でベルを投げ飛ばした。

 

「────え?」

 

新人冒険者達は、何がわからない表情でベルを咄嗟に受け止めた。女性二人、男性一人のパーティは奥から姿を現す怪物を見て表情を青くさせる。新人冒険者でも知っている『ミノタウロス』。

 

ベルは理解してしまった。彼は『ミノタウロス』を足止めする気だと。

 

「──走れ、走れぇぇぇぇぇえええええ!!!」

 

初めて聞いた絶叫のような叫び。新人冒険者達はベルを連れて走り出した。ゆっくりと距離は離れていく。

 

「離して、ラグナが……ラグナが!!」

 

暴れようにもベルの力じゃ抜けることは出来ない。精神力も尽きて何も出来ないベルは、文字通り無力だった。新人冒険者達は必死に地上を目指す。ベルは気を失うまで、叫んでいた。

 

⬛︎

 

 

ベルを連れていった冒険者達を見て、心の中で感謝する。目の前のミノタウロスは涎を垂らして俺を見ていた。捕食者と獲物の関係。それは間違いないだろう。

 

俺はベルが行った反対の通路に走り抜ける。ミノタウロスは前傾姿勢を取る。──まさか。頭によぎったミノタウロスの攻撃方法。それを思い出して俺の脳は警鐘を更に響かせる。

 

『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

「う、おおおおおおおおおおおお!!!」

 

地獄のような雄叫びに俺も全力で駆け抜ける。助けが来るまで俺は逃げ切らないといけない。だが猛牛は俺が走る速度より明らかに速い。そのままじゃ追いつかれて殺される…!

 

だが奥には更に分かれ道が。俺はどっちに行くか一瞬悩む。冒険者がいない方向に逃げなければ犠牲者が出る。アドレナリンの影響か。俺は自然と冷静に考えていた。

 

このミノタウロスは【ロキ・ファミリア】が逃してしまった怪物。冒険者が死んだら、原作と違った方向に進む可能性がある。それだけは避けなければならない。

 

俺は一か八で、左を選択した。道中に怪物もいるが全て無視する。今は後ろの怪物に集中しなければ…!

 

だが俺はどうやら運がないらしい。魔石を拾っている冒険者が奥にいた。上層を探検している冒険者のほとんどはレベル1。ミノタウロスのレベルは2。上層にいる人間はミノタウロスに敵わない。

 

「ミノタウロスだ!早く、逃げろ!」

 

「嘘だろ……ふさげんなっ!」

 

冒険者は悪態を突いて走って逃げていく。ここから先はさっきみたいに道が分かれていない。このまま逃げれば、あの冒険者も餌食になる。俺は足を止めて、振り返る。

 

身長は2Mを余裕で超えている。筋力はもちろん。ベルの【魔法】でも攻撃が通らなかった。そんな怪物は、息を大きく吐いた。臭い怪物の匂いが鼻に付く。馬鹿みたいに心臓が鳴っている。

 

『ブモオオ……』

 

「はは。俺はやっぱり、ベルみたいな運ないな……」

 

主人公みたいにはいかない。原作知識を持っていてもなんの役にも立たない。どうしようもなく馬鹿な俺に呆れ果てる。剣を握り俺は腹を括った。今ここで死んだらベルを助ける人間はいなくなる。

 

ここが岐路だ。生きて帰れるか、ここで死ぬか。俺は絶対に生きて帰る。震える腕に力を入れて、俺は発走した。

 

『ブモォォォォォ!』

 

ミノタウロスは力任せの一撃を放ってくる。有り得ない速度と威力に瞠目して剣を盾にする。ガラスが割れたように剣はバラバラになって飛んだ。顔に剣の破片が飛んで傷が付く。そのままミノタウロスの攻撃は俺は当たった。壁に激突して、口から血を吐く。

 

たった一撃受けただけで、この威力。剣で守ったおかげで、致命傷は免れたが。走る気力は失われた。じりじりと詰め寄ってくるミノタウロスに、俺は呆然と立ち尽くす。

 

ミノタウロスは最後の攻撃を仕掛けようと拳を掲げた。その攻撃を受けて、俺は簡単に死ぬはずだった。

 

銀の一閃が怪物の内臓を斬り裂く。目にも止まらない軌道、ミノタウロスの肉体を貫く剣技。剣を極めた人間の技術はミノタウロスを簡単に解体する。いつか見たゼウスの技のようだ。

 

ミノタウロスは死んで、少女は俺のことを見る。金髪の髪、黄金の双眼。【剣姫】がようやく登場した。

 

「大丈夫、ですか?」

 

「大丈夫じゃ、ないです」

 

初めての邂逅は英雄(ベル・クラネル)とは違う。どこか奇妙な出会い方だった。

 




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