教会に戻ってきたが、イッセーくんは大丈夫なのだろうか……?
リアスたちを回復させた後、すぐさま聖堂に向かった。
だがリアスたちには余裕がある。確かにキバくんとトウジョウは強い。レイナーレより地力は上だ。
イッセーくんには
あれは未知数だ。
しかし、如何せん使い手が未熟だ。歴戦の戦士ならバイキルトを掛けただけでもドラゴンを屠れるが、ほとんど一般人に毛が生えただけのイッセーくんではそうはいかないだろう。
だが、リアスには絶対的な信頼を抱いているらしい。
走るどころか早歩きにもなってない。
そうこうしている内に教会の前に着いた。
戦闘の音はしていない。どうやら終わったらしい。
さて、立っているのは
イッセーくんたちだった。
レイナーレはすでに地面に倒れていて、気を失っている。
それを、イッセーくん、キバくん、トウジョウの三人が取り囲んでいた。
三人とも傷を負っているがキバくんとトウジョウはかすり傷程度だ。
だが、イッセーくんは両足に怪我をしている。
「……部長、来てたんスか」
「ええ、……無事に勝ったようね」
「ぶ、部長……それにリュカさんも……。ハハハ、なんとか勝ちました」
「フフフ、えらいわ。さすが私の下僕くん」
「良くやったと思うよ、イッセーくん。 べホマ」
「あっ、あざッス……」
ボロボロのイッセーくんが僕とリアスに勝利の報告をする。
僕はすぐに彼に
「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいですか?」
「……なんか、ヤバいんですか?」
「教会は神――もしくはそれに属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合があるでしょ? そのケースだと、私たち悪魔が教会をボロボロにすると、あとで他の刺客から付け狙われることがあるの。恨みと報復よ」
なかなかに物騒だ。このことが後に火種になるかもしれないとは。だがそれをリアスは否定する。
「でも今回それはないでしょうね」
「どうしてですか?」
「ここは元々捨てられた教会だったわ。そこをとある堕天使たちが自分の私利私欲のために活用しただけだからね……。
“一応”――― あんな
全く問題ないとは言い切れなかったのだろう。
だが“一応”大丈夫らしい。
「ん? ここに寝かせてたはずのあの
ふと目をやると長椅子に寝かせていたフリードが消えている。
「それが……レイナーレを倒した直後に起きて逃げたんス。リュカさんにこう伝えろって『俺、オマエにフォーリンラブ。必ずぶっ殺す』って……」
「そうか……」
随分嫌われたものだ。またいずれ出会ったときに和解できることを期待しよう。
一方、リアスは気絶しているレイナーレに目を向けた。
「朱乃」
「はい」
リアスの呼び掛けに答えたヒメジマは魔法で水の塊をレイナーレにぶっかける。
水の魔法とは珍しい。僕が使えるのはコーラルレインとメイルストロムぐらいだ。
後で教えてもらおうか。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」
「……グレモリー一族の娘か……」
水にむせて目を覚ましたレイナーレに挨拶するリアス。声も眼差しも底冷えするような冷たさだ。
一方、レイナーレもリアスを睨みつける。
「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間だけでしょうけど、どうかお見知りおきを」
「……してやったりと思ってるんでしょうけど、私に同調し、協力してくれる堕天使も居るわ。私が危なくなった時、彼らは私を―――」
「残念だけど、彼らは助けには来ないわ」
「堕天使カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルト。彼女たちは彼が、リュカさんが倒したわ。この羽は彼らの物。同じ堕天使のあなたなら分かるわね?」
「いや、まあ、倒したというか捕らえたというか……ドーナシークさんには逃げられたけど……」
仲間が倒されたと聞き、絶望したような顔をするレイナーレ。
しかし、僕が詳細を説明すると安堵の表情を浮かべた。
結構仲間思いらしい。
「………赤い龍。この間までこんな紋章はなかったはず……。そう、そういうことなのね。
イッセーが堕天使に勝てた最大の理由がわかったわ。
堕天使レイナーレ。この子、兵藤一誠の神器はただの神器じゃないわ。それがあなたの敗因よ」
「――――『
「ブ、ブーステッド・ギア………。『
一時的にとはいえ、魔王や神すら超える力が得られるという………あの忌まわしき神器がこんな小僧の手に宿っていたというの!?」
「言い伝え通りなら、人間界の時間で十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくのが『赤龍帝の篭手』の能力。時間が経てば経つほど力は倍になり、いずれは上級悪魔や堕天使の幹部クラスに届くようになる。それに極めれば、神すら屠ることができるそうよ」
この世界の歴史についてはまだ詳しないため、その『赤龍帝の篭手』がどれ程凄いのかは分からない。
しかし、レイナーレの驚き方からして相当なものだということは伺えた。
効果は僕の知識の中で言えばテンションに近い。
無限にテンションを上げ続けるというのは強力だ。
“あの特技”が怖いが―――
「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね」
そういうとリアスは手に魔力を込める。
どうやら、
「じょ、冗談じゃないわ!こ、この癒しの力はアザゼルさまとシェムハザさまに―――」
「愛のために生きるのもいいわね。でも、あなたはあまりにも薄汚れている。とてもエレガントではないわ。そういうの、私は許せない」
「イッセーくん! 私を助けて! この悪魔が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛してる! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」
このままでは殺される――――そう思ったのだろう。
それまでの冷酷で大人びた声を、妙にあどけない、可愛らしい声色に変えイッセーくんに命乞いをする。
推測ではあるが、おそらく彼を誘惑し、恋人になり済ましたときの調子なのだろう。
だが―――
「グッバイ。俺の恋。部長、もう限界っス……。頼みます……」
「……私の可愛い下僕に言い寄るな。消し飛びなさい」
イッセーくんは
リアスが滅びの魔力をレイナーレに浴びせようと手を翳し―――
「止めてくれ」
僕が止めた。
リアスが静止する。
「この娘は僕に預けてくれないか?」
「………何を言うの?」
「そうっスよ!! こいつのせいでアーシアが!!」
リアスが信じられないという眼差しを向け、イッセーくんは激昂した。
近しい者が傷つけられたのだ。その反応は当然と言える。
「……イッセーくん。君の気持ちは痛いほど分かる。
友人を、恋人を、……そして家族を、傷つけられたら怒り狂い、憎しみを抱くのは当然だ。僕にも身に覚えがある」
目の前で嬲り者にされ、炎に焼かれ断末魔を上げる父の姿―――
今でもくっきりと目に焼き付いている。
あいつらを、あの魔物達を一体どれ程憎んだか―――
「だったら!!」
「それでも、だ。君には僕と同じにはなって欲しくない。復讐とは虚しく、汚く、暗いものだ。君には似合わない。
それに、だ―――彼女の行動の原動力になっていたのは愛だ。リアスは“薄汚れた愛”と言ったが、僕はそうは思わない。愛にきれいも汚いもない。僕はそう思う。
無論、彼女のしたことに弁解の余地はない。他者の愛を踏み付け、アーシアさんの命まで奪った。
……だが、僕は彼女を更生させたい」
チカラ―――それは恐ろしいものだ。幾らでも欲しくなってしまう。
自分に勇者の力があれば……! どれほどそう願ったことか。
偶々自分に勇者として以外の資質があり、
勇者じゃない僕を認めてくれる人がいたから良かったが―――
彼女にはそうした存在がいないのだろう。
「でも……!! それじゃアーシアが!!」
「………」
ふむ……。やってみるしかないか……。
レイナーレに歩み寄り、彼女の胸に手を当てて魂を探る。
やはりそうだ。魔術の類で強引に結び付けられている。
神器と所有者の魂は極めて一体に近い。僕はそう考えていた。
そうじゃなかったら、神器を奪われたとしても命を失うというのはおかしい。
自分の魂に他者の魂の一部を縫い合わせるなど、かなり無茶な魔術を使ったとしか思えない。
睨んだ通りだ――――
「邪なる威力よ、退け マホカトール!」
破邪呪文で魂の縫合を解きほぐす。
そして―――
宙に淡い緑色の光を放つ物体が現れる。
無事に『
それを持ったままアーシアの亡骸の下に向かう。
神器を
よし、あとは彼女に
その時―――
「よくも……! よくも私の『聖母の微笑』を!!」
グサッ……!
―――腹部を見ると光の槍が刺さっていた。
レイナーレが僕を光の槍で後ろから刺したのだ。
完全に油断していた。
何故なら、普通に考えてありえないのだ。
僕さえいなければリアスたちは満場一致で
言ってしまえば彼女の行為は地獄から脱出する為の蜘蛛の糸を自分で引き千切るようなものだ。
故に絶対にあり得ない。そう思っていた。
無論、
だが彼女は死の恐怖からと、それから解放された安堵から茫然自失となっており、瞬間的に沸き起こった殺意を抑えることができなかったのだ。
この場にいた誰もが一瞬、何が起こったのか分からなかった。
だが、それを理解すると皆一斉に動き出した。
リアスが滅びの魔力を、朱乃が雷を身に纏い、木場が魔剣を作りだし、小猫が長椅子を投げつけようとした。
だが―――
「イルイル!」
スイイィィィィィッ
「―――きゃあああぁぁぁっっ!!」
僕の方が早かった。
リアスたちの攻撃が届く前に、袋から取り出した魔法の筒にレイナーレを封じ込めた。
「ははは、ちょっと気が緩んでいたかな……」
べチャ
何かが落ちる音がした。
下を見ると、それは自分の肝臓だった。
ふむ………。ここ数年、酒を飲んでいなかったからな……。結構、健康そうな色だ。
床に落ちた自分の内臓を冷静に観察し、拾って腹に空いた穴に押し込める。
「べホマ」
自身の傷を回復させながら考えた。
どうしてこうなったのか―――?
いつもならあのくらいはどうとでもできるハズだ。
普通に躱せるし、彼女の力では闘気を纏うなり、筋肉に力を入れるなりすれば、まず刃が通らない。
単なる油断か? いや、いかに油断していても、あのくらいは反応できる。
スーパーキラーマシンと戦って疲労してたのか? それも否、あれぐらいの敵と一日に何度も戦ったことがある。
あれこれ考え、ようやっと答えに気付く。
―――寝不足だ
自分がいかに強大な魔物を屠れるほど鍛えていようが、所詮人間だということを忘れていた。
つまり、生活スタイルがイッセーくんたち悪魔と同じになっていたのだ。
朝は早起きし、昼から夕刻にかけて図書館でこの世界のことを調べたりし、夜はイッセーくんたちと共に過ごす。
一日二~三時間しか寝ていない。
戦闘中はアドレナリンの分泌で何とかなるのだろうが、それ以外だと注意力が散漫になっても仕方がないと言える。
参ったな。体調管理は冒険者の基本だろうに……。僕もまだまだ修行が足りないと言わざるを得ない。
長椅子に腰かけ傷を回復させる。傷は大体回復したが、何だかだんだん眠くなってきた。
「あ~……、ゴメンね。大丈夫だ、問題ない。アーシアさんは――――」
アーシアさんは起きてから蘇生させるのでそのままにしておいてくれ、そう言い終わる前に視界が暗転した。
◇
「……う~ん、ふぁ~……よく寝た……。あれ? ここどこだ?」
辺りを見渡す。眠りに落ちた教会ではない。
オカルト研究部のソファーの上だ。
「あら、起きたの?」
リアスが声をかけてきた。他にも部屋の中にはイッセーくん、キバくん、ヒメジマ、トウジョウがいる。
「もう午後よ。それにしても凄いわね。体にあんな穴が空いて生きているなんて……。あなた本当に人間?」
「は、ははは……」
するとそこに金髪の少女が現れた。
「リュカさんがお目覚めになられたのですか!?」
「あ、あれ?」
目がおかしくなったのだろうか? アーシアが生きているように見える。
戸惑っている僕を見てリアスが説明する。
「アーシアは私の
「は? えっ、それって悪魔になるってことじゃ……」
「はい……」
そう言うと、
「えっ?え、えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」
おそらく生涯で最大の凡ミスである。
マホカトール:漫画「ダイの大冒険」より。範囲内の邪悪な力を消し去る効果がある。
リュカの弱点 その2:寝不足 それが続くと注意力が散漫になる。ゲーム的に言うと敵に先制されやすくなる。
『聖母の微笑』を引っぺがしたことについてはあんまり深くツッコまないで下さい<m(_ _)m>