「こんにちは、それとも こんばんは、の方がいいかな? この時間じゃ……」
今にも青年に光の槍を振り降ろさんとしている宙に浮かぶ翼の生えた少女に取り敢えず話しかけてみる。
理由は二つあった。
一つには言葉が通じるか試す必要がある。普通に考えれば世界が異なれば言葉も違って当たり前だ(何故か今までの世界では通じたが)。
二つ目は状況確認だ。この少女は何者か、この青年は何者か、どちらが善で、どちらが悪か。そもそも善も悪もない立場による対立か……。それらのどれかで接し方も変わってくるだろう。
無論、どういうことであれ殺し合いなど止めさせるが。
「あら……? 人間が入り込んで来たみたいね。それに、何その格好?
ま、今は取り込み中なの。申し訳ないけど死んでくれないかしら? 恨むなら運の無い自分を恨んで、っね!」
そう言うと、少女は自分に光の槍を投げつけてきた。
ふぅむ……、言葉は通じるみたいだ。
いや、通じているけど通じない、か……。けどまあ、理性はあるみたいだし何とかなるだろう。
樫の杖に軽く闘気を込め飛来する槍を往なす。杖によって弾かれた光の槍は後ろの街路樹に直撃した。
「あらら、ここの公園を整備している方には悪いことをしたかな……。
それよりも、そんなに怒らないで。ここに降りてきて少しお話しよう?
僕も君も、後ろの彼も色々と誤解してるかも知れないし……」
取り敢えず、落ち着かせよう。いや、彼女は冷静なのかもしれないな……。そっちの方が厄介だが……。
「……………へぇ……少しはやるようじゃない。あなたは何者なの?」
「ああ、申し訳ない。自己紹介がまだだったね。
僕はリュカだ。本名はもっと長いけどリュカでいい。ただの旅人さ。君は?」
無難に自己紹介をし、相手の返答を待つ。だが―――
「ふぅん……。聞いたこと無いわね。あなたも
「神器?」
神器、とは一体何なのだろうか。レアアイテムのようなモノなのか……?
いや、彼女は“あなたも”と言ったな……。この場合もう一人のその神器とやらを持っているのは後ろの彼か。
「ふぅむ……、申し訳ないけどその神器とやらが何なのか分からないな……」
「あら、それもそうね。ただの人間が知ってる訳もないか……」
僕の言葉を聞き、黒髪の少女は一人で納得しているようだった。
全く以って何が起きているのか分からない。
少なくとも彼女が僕らに害意を持っていることくらいだ。
「私はね。後ろにいる兵藤一誠くんが危険な神器を持ってるって、上の方々の命令で殺しに来たの。邪魔しないでもらえるかしら?」
「では、ヒョウドウ君はその神器とやらを使って悪さをするつもりがあるのかい?」
「俺がそんなことする訳がないだろ!! っていうか夕麻ちゃんどうしちゃったんだよ!?
神器とか訳わかんねぇよ!!」
彼の声色、表情、どれをとっても嘘をついているとは思えない。やはり止めるべきなのは彼女の方だ。
「……と彼は言っているけど、それでも殺す必要があるのかい?」
「そんなこと知らないわよ。関係ないわ」
「では彼を殺さないでくれるにはどうすればいいんだい?」
「そんなことできるわけないでしょう? というよりもあなたも死んでくれないかな?」
やれやれ、取り付く島もないな……。一体どうすべきか。
「死ぬのは勘弁してもらえるかな? 僕には帰らなければならない場所g――「ああ、もういいわ。死になさい」」
帰らなくてはいけない場所がある―――そう言い終える前に、彼女は僕の言葉を遮って、猛烈に襲い掛かってきた。
―――参ったな、出来るだけ穏便に済ませようと思ったんだが……。仕方が無いか。
彼女は次々と光の槍を放ってくる。それをあらゆる攻撃に備え身を固める「大防御」と相手の技によるダメージを転嫁する技「受け流し」で凌ぎ切る。
そこそこの威力みたいだが何とかなる。
しかし、防御に徹しても埒が明かない。少し攻撃してみるか―――
「バギマ」
「何の呪文、ソレ? ってキャアアアァァ!!」
中級真空呪文の生み出す風の刃を受けて彼女は地面に墜ちる。
威力は殺したが普通の人間をミンチにするくらいならできる、それくらいの破壊力はあった筈だ。まあ、明らかに人外だし、どう見ても只者じゃないから一発くらいなら死なないだろう。
魔法の竜巻に絡め捕られた彼女は錐揉みしながら地面に落ちた。
―――しかし、彼女はふらつきながらも起き上がる。
墜落されたとはいえ耐えきるあたり、やはり彼女も並の存在ではないだろう。
「君では僕たちを殺すことはできないよ。もうお家に帰りなさい。これ以上手荒なことはしないから」
「舐めるな! 人間風情が!! ………………ふん、それでもあなたが言う通り
その言い草に違和感を覚える。
『今は』……? まるで近い将来確実に勝てるようになるみたいな言い方だな……。
それに『私だけじゃ』というのも気になる。近くに彼女の仲間がいるのか?
彼女は徐に胸の谷間から珠のようなものを取り出す。
「あの得体の知れないやつに貰ったものに頼るのは癪だけど……、デルパ!!」
するとその宝玉から十体もの魔物が溢れ出た!!
黒い鱗を纏った巨体のブラックドラゴンが―――
両腕が大蛇と化した蛇手男が―――
大盾とサーベルを構えたグレンデルが―――
黄金の肉体を持つゴールデンゴーレムが―――
地上に降り立ち鋭い殺気を向けてくる。
他にも 赤い肉体の魔竜ボスガルム。アンバランスなまでに大きな口を持つグレイトマムー。甲殻竜デンタザウルス。
何れも見知った魔物たちだ。だが「元の世界」では見なかった魔物もいる。
見るからに獰猛そうな巨獣はたしかヘルジャッカル―――
異常に発達した両腕を持つ黄金の龍はギガントヒルズ―――
そして桃色の巨鳥は極楽鳥という名前だったか―――
いずれも地上を闊歩する魔物の中ではかなり高位の者たちであると言えよう。
それらが公園内を埋め尽くした。
どいつもこいつも眼が血走っている。明らかに正気じゃない。人の肉の味を覚えた連中だ。
これはちょっと穏便には済みそうもないな……。
「何だ、コレ……? 一体どうなってやがるんだ?」
後ろに目をやるとヒョウドウという青年が震えている。
無理もない。一般人が相手をするのは些か危険な相手ばかりだ。
「君は後ろに下がってなさい。安全な場所に隠れてるんだよ。いいね」
「ちょっ!! アンタはどうするんだよ!? あんなバケモノに勝てるワケないだろ!!」
「僕なら大丈夫だよ」
「いつまで話してるの? お前達、そいつらを始末しなさい」
ギャオオオオオオオォォォォ!!!!
魔物たちが一斉に襲い掛かってくる。
しかし、すでに反撃の準備は整っていた。
「バギクロス!!」
極大真空呪文が押し寄せてきた魔物たちを迎撃する。
巨大な竜巻が怪物の群れを飲み込み、大気をも切り裂く真空の刃が彼らをズタズタにした。
だが、魔物の中にはバギ系統の魔法に高い耐性を持つ者もいる。
その内の一体であるゴールデンゴーレムがバギクロスを凌ぎ切り巨大なハルバードを振りかぶった。
「――ああ、ゴメンね。君達があの珠から出てくる間に準備を済ませてしまったんだ」
『バギクロス!!』
もう一度呪文が詠唱され、巨大な竜巻が発生する。最初のバギクロスを耐えた魔物たちは二度目のバギクロスによって肉体が切り裂かれながら疑問に思う。
何故、
山彦の悟りを開いておいて良かったな……。まあ、無くても何とかなったが)
山彦の悟り―――それを開くと呪文を山彦によって反響させ一度の詠唱で二度の効果が得られる、という技だ。以前、行くことになった異世界で体得した。
公園内には無数の魔物の死骸が散乱することになった。夕麻ちゃんと呼ばれていた少女は驚愕で目を見開いて茫然としている。
「もう一度言うよ。家に帰りなさい」
「……なっ、何やってるのよ!! 早く起きてこの男を殺しなさい!!」
ほとんどの魔物たちが生き途絶え、生き残った者も瀕死だというのにそのような指示を飛ばす。
答える者など誰もいないと思ったが、意外にも応じる者がいた。
「……レイナーレ様……、我々ではこの男を殺すことはできません」
答えたのは桃色の巨鳥 極楽鳥だ。二度目のバギクロスを飛んで躱したため助かったらしい。
「何を言ってるのよ!?」
「ですが、一度追い払うことならできます」
「だったら早くそうしなさい!! 早く!!」
殺すことはできないが追い払うことはできる? 何を言っているんだ……。 ま、まさか!
極楽鳥の躯が風の魔力を纏う。そして、その嘴が怖れていた呪文を紡ぐ!
「バシルーラ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――
しまった! 油断した!! そういえば以前居たことのある世界ではそんな呪文が使えたんだった。こんなことになるのであればマホカンタを使うべきだった!!
バシルーラによって吹っ飛ばされながらそのようなことを考えていると地面が見えてきた。
ドォォォーーーーーン!!!
地面に激突する。だがバシルーラ自体は攻撃呪文ではない。上空から落っこちたがダメージはほとんど無い。
どこかの森だろうか。しかし、同じ世界の筈だ。
いかん! ヒョウドウくんが危ない!!
歩いて戻ったのでは相当な時間が掛かってしまう。だが同じ世界で一度行ったことのある場所ならこの呪文が使える。
「ルーラ!!」
何もない空間に小さな核が生じ、光が集束すると周辺の景色が渦を巻く。色とりどりの光の粒になって中心の一点に集中した。
やがて世界がぱっと解けた。
両の足で元の公園の石畳を踏みしめる。
辺りはすでに暗くなっていた。
「ヒョウドウくん!!」
大きな声で呼びかけてみるが―――
「あら? どなたかしら?」
そこにいたのは血濡れで倒れたヒョウドウくんと、紅い髪の少女だった。
山彦の悟り:DQⅨより。味方1人を呪文詠唱後に同じ呪文をもう1度唱える状態にする特技。『けんじゃの秘伝書』を所持していれば使用可能になる。旧作品に登場する『やまびこのぼうし』とほぼ同じ効果であるが、こちらは数ターン経過すると効果が消えてしまう。
デルパ:漫画「ダイの大冒険」から。『魔法の筒』などからモンスターを呼びだす呪文。
便利ですのでこのシリーズでは乱用します。