時を失った英雄 in ハイスクールD×D   作:ksb

26 / 58
25話 克服

  

 

「僕の愛しい弟子達に何をしたんだい?」

 

 

 リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームに突如として乱入してきた“いにしえの魔神”とその配下達。

 妖女イシュダルとヘルヴィーナスがリアス達を始末しようとした、正にその時―――

 一人の男が現れ声を掛けた。リュカである。その声色はゾッとするモノがあった。

 

 穏やかな怒り―――

 

 

 一言で言い表せばそんなものか。しかし、それが向けられているイシュダル達は恐れおののく。

 だが彼女も“いにしえの魔神”の副官たる女悪魔だ。目の前にいるのは所詮人間、そう考え精神を立て直す。

 

 

「何って言われてもね……。たった今始末するところよ。邪魔しないで貰えるかしら」

 

「邪魔するに決ってるだろう? 彼らは僕の愛弟子だ。殺すなんてことは僕が許さない」

 

 

 リュカの眼差しに剣呑さが増した。その言葉には逆らい難い力が帯びている。イシュダルはこの男(リュカ)が凡そ常人でないことをはっきりと認識した。

 しかし、内心焦りながらもその感情を押し殺し、冷静に相手と自分達の戦力差を分析しようとする。

 味方はヘルヴィーナスが三十一体、自分が一人。敵は不死鳥兄妹にその眷属が四人、リアス・グレモリーと五人の眷属。そして目の前の男。しかし相手の内、ライザー達はほぼ戦闘不能。魔王の妹とその配下は自分達の相手にはなるまい。

 そう考えれば、脅威となり得るのはこいつ(リュカ)だけだ―――

 

 

「許さないですって……。この数のヘルヴィーナスに何ができるというのかしら? お前達、この男を殺しなさい!!」

 

 

「「「マヒャド!!!」」」

 

 

 

 周囲の空間が瞬く間に氷結する。30体ものヘルヴィーナスが放つ高位氷結呪文の威力は絶大だ。

 冷気が荒れ狂い、あらゆるものが凍り付く。常人は勿論のこと、いかなる上級悪魔であっても、血液は勿論、骨の髄まで凍り、粉々に砕け散って粉末と化すであろう。

 

 だが―――

 

 

「マホカンタ!」

 

 

「「「ギ、ギャアアアアアアァァァァァアアアッッッ!!!」」」

 

 

 魔鏡反射呪文マホカンタ―――あらゆる魔法を反射させ、撥ね返す呪文。この魔法は世界ごとに微妙な違いがあり、味方からの有効な魔法も跳ね返してしまう世界が多い。リュカが元居た世界でもそうだった。

 しかし、味方からの呪文は例外にできる世界もあった。そこでその世界で覚え直し改善した。

 

 マホカンタによって撥ね返された氷結呪文(マヒャド)の嵐はそのままヘルヴィーナス達に直撃する。

 ヘルヴィーナスという種族はいにしえの魔神によって産み出された高位魔族だ。その上、氷結系呪文・特技に耐性を持っている。

 しかし、どんなに悪魔として高い能力を持っていようが、冷気に耐性があろうが自分達の一斉発射が仇となった。

 その場には三十体もの見目麗しい女悪魔の氷の彫像が並び立つこととなった。

 

 

「お前達ッ!? チイィィィッ!!」

 

 

 部下がやられたのを見て、舌打ちしたイシュダルは目を怪しく光らせる。その光線はリュカにも降り注がれる。

 その瞬間、リュカの体が動かなくなる。

 

 

「むっ……!」

 

「もらったっ! 『タナトスハント』!!」

 

 

 妖女が会心の笑みを浮かべる。勝利を確信した、という表情だ。凄まじい早さでリュカに接近しナイフを振り翳す。

 イシュダルの短剣から不気味に輝く三本の鞭が生み出され、彼女はリュカにそれを叩きつけた。

 

 魔女の眼差し―――敵全体にダメージを与え、麻痺状態にもする体技。

 

 タナトスハント―――相手が毒や麻痺などの状態異常に犯されているときに大ダメージを与える技。

 

 イシュダルにとってこの二つの特技は必殺技だ。これまで多く敵を『魔女の眼差しで』で麻痺させ動けなくし『タナトスハント』で止めを刺す、というコンボで仕留めてきた。

 

 

 彼女にとってこの組み合わせは黄金パターン。最初に麻痺させた時点で勝利したも同然だ。

 本当に(・・・)麻痺させることができていたのであれば……

 

 

「なんちゃって!」

 

 

 喉を切り裂こうと不用意に接近した彼女に、リュカは体を捻ってタナトスハントをかわしつつカウンターの回し蹴りを放った。リュカの凶器ともいうべき脚がイシュダルの顎にクリーンヒットする。

 

 

「悪いね。僕は以前にある魔物(・・・・)から麻痺で散々やられた、という経験があるんだ。その時から麻痺対策だけは決して怠らないようにしている」

 

 

 そう言うとリュカは右手の中指にはめられた指輪を翳して見せた。

 丸く乳白色の、まるで月の様な輝きを放つ石が嵌め込まれた指輪だ。

 

 満月のリング―――麻痺を防ぐ力を持つという指輪

 

 つまり、リュカは麻痺などしておらず、動けなくなったフリをして、こちらが無警戒に接近するように仕向けたのだ。

 そうだと理解したイシュダルは激昂する。

 

 

「キ、キサマァァァッ!! 人間の分際で舐めたことを……、私の呪いで未来永劫縛り付け、地獄の苦しみを味わわせてやる!!」

 

 

 そう吐き捨てるとイシュダルは、再び両目に魔力を集中させる。彼女の紅い瞳が不気味な光を帯び始め―――

 

 

  カアアアァァァッ!

 

 

 呪いの光線が放たれた。リュカは袋から剣を取り出しその怪光線を受け止める。

 忌々しい敵が沈黙したと思い、イシュダルが目をやると………

 

 全く呪いを受け付けていないリュカがいた。

 

 

「……な、何だとアンタは本当に人間なの……?」

 

 

 人間が自分の呪いを受けて無事なはずがない。そう思って生きてきた彼女は震えながらリュカに訊ねる。

 あり得ない、絶対にあり得ない。イシュダルの心は目の前の男に対する恐怖で塗り固められていく。

 

 

「勿論そうだ。……しかし、僕を注意深く観察していれば呪いが効かないことは分かったはずだ」

 

 

 そう言われ、イシュダルはリュカが手に握る剣を見た。

 無数の骸骨を寄せ集めて造られた、切っ先が斧のようなおどろおどろしい見た目の剣だ。

 

 あれの名はたしか―――

 

 破壊の剣。強大な攻撃力と敵の急所を破壊し大ダメージを与える効果がある半面、強力な呪いが掛かっているというシロモノ。

 

 

「いいかい? 強力な呪いにはそれより弱い呪いを打ち消してしまうという性質がある……。要するに『破壊の剣』の呪いで以って君の呪いを打ち消させてもらった」

 

 

 イシュダルはその言葉を心の中で反芻し、こう思う。

 

 ―――あり得ない。

 

 いや、“強力な呪いにはそれより弱い呪いを打ち消してしまうという性質がある”というのは理解できる。

 自分達のいた世界とは異なる世界の話にこういうものがある。

ある城に“かつて世界を闇で覆おうとした暗黒の神の魂を封印した杖”があった。とある 魔術師がその杖に乗っ取られ、城に呪いをかけた。城内にいた人々は悉く呪われ肉体が茨と化したが、一人だけ助かった。

 調べてみると、その者は赤子の頃に竜神族の王に呪いをかけられていたという。

 

 問題は“自分のかけた呪い以上の呪い”がかかった状態で平然としていることだ。それは絶対にあり得ない。

 

 するとリュカは、まるでイシュダルの考えを読んでいるかのように話した。

 

 

「僕は以前、極めて強力な呪いをかけられた。肉体が石と化し、八年のあいだ身動き一つ取れなかった……」

 

 

 リュカはこれまでの人生を心の中で思い返す。

 自分にとって生涯で一、二を争うほど辛い期間である(奴隷であった頃とどちらが辛いかは判断しかねるが)。

 

 

「人生で大切なのは、『いかに失敗から多くを学ぶか』だ。君の……君達の敗因はあまりにも“学び”が足りなかったことだ。僕は呪いを克服する為に“幻魔剣”という技術を学んでいる」

 

「“幻魔剣”!?」

 

 

 かつて行った世界。そこで出会ったフルカスという男から学んだのだ。

 幻魔剣――――武具にかけられた呪いを制御し、呪力に変えるという技法。

 その最大の効果は、それら呪われた武器で付けた傷はしばらくの間は回復させることができないというものだが………正直、そっちはどうでも良かった。

 その技法を学んだ理由は“呪いの制御”にある。強力な呪われたアイテムの呪いを制御下に置く。

 そうして敵の呪いを、より強力な呪いで打ち消すのだ。

 全てはあの苦しみを二度と味わわないために……、家族と引き裂かれぬために……。

 

 

「君はあまりにも自分の才能を過信しすぎた。故にワンパターンな戦い方しかできず、相手の手にこうも翻弄される……。

 そして! 他者の命を弄び、粗末に扱い、その果てに奪おうとした!! これも自身の才能を過信し過ぎたことが原因だ!!僕は今からそれを正す!!!」

 

 

 破壊の剣に渾身の“愛”と“魂”を込める。

 そして大きく振りかぶり―――

 

 

「 さ み だ れ 斬 り !!!」

 

 

  ズガアアァァァァッッッンン!!!

 

 破壊の剣を振り回す。空気が唸り、軋み、剣圧によって衝撃波を発生させる。

 その衝撃波によってイシュダルが盛大に吹っ飛ばされる。

 彼女はそのまますっ飛んでいき、校舎の壁に衝突し、壁に巨大なクレーターを造った。

 

 

「ぐふっ!」

 

 

 イシュダルはズルズルと校舎の壁からずり落ち、そのまま気絶した。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

  グラウンド

 

 

 

 そこでは“いにしえに魔神”とグレートドラキーの死闘が繰り広げられていた。

 魔神が手の甲から生えた極太の針で巨大蝙蝠を突き刺す。合体ドラキーは魔神に鋭い牙で以て咬み付く。

 グレドラと魔神の双方が大きく息を吸う。魔神が光の炎を、グレドラがグレイトフルブリザードを吐く。

 凄まじい炎と極寒の冷気がぶつかり、混じり合い――――

 

  ドガアァァン!!

 

 空気が圧縮し、膨張し、それらを繰り返し爆風が発生する。

双方が爆発の衝撃を受ける。グレドラがより激しく羽をはためかせ、魔神が尾を地面に突き立て、脚を地にめり込ませて衝撃に耐える。

 

 その最中、“いにしえの魔神”がグレドラに向け呪文を唱える。

 

 

「ルカナン!」

 

『へっ!? うにゃあぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 突如として守備力低下の呪文をかけられたグレドラが衝撃に耐えられず吹っ飛ぶ。

 それを見ていた魔神が「今こそ好機」と言わんばかりに畳み掛ける。

 

 

「バイキルト!」

 

 

 魔神が攻撃力を倍増させる呪文を唱え、巨大な針状の骨を振りかぶる。

 

 

『グハァッ!!』

 

 

 その攻撃が合体ドラキーに直撃する。しかし、闘気で防御した。とはいえルカナンで守備力を下げられていたのだ。結構なダメージを受ける。

 

 

 

『あ~、痛かったにゃ……』

 

「フンッ、貴様もなかなか強かったが、どうやらここまでのようだな」

 

 

 魔神が勝ち誇る。敵の能力を下げたり、自身の能力を引き上げたりする補助呪文のレパートリーはまだある。

 戦力が拮抗している状態ではそれらが使える方が大分有利なのだ。

 そう思えば、魔神の考えもあながち間違いではない。

 

 

 

 ―――しかし、そこに一人に男が現れた。

 

 

 イシュダル達を倒し、グレドラの救援に来た男。リュカである。

 リュカはのほほんとした口調でグレドラに話しかけた。

 

 

「かなり、苦戦しているみたいだね。手伝うかい?」

 

『よろしく頼むにゃ』

 

 

 リュカはまるで家事の手伝いでも申し出るような口振りで尋ね、グレドラも依頼する。

 一方、現れたのが人間であるという事を知り、魔神が嘲笑した。

 

 

「人間風情が一人増えたところで何ができる?」

 

「さあ、結構色々できるかと思うが……」

 

 

 

 魔神の言葉に、リュカはまるで茶化すかのように答えた――――

 

 

 

 

 




魔女の眼差し:Ⅸより。敵専用の技。

タナトスハント:Ⅸより。毒・猛毒・マヒ状態の敵1体には通常攻撃の1.5倍のダメージを与えることができる。

より強力な呪いによる呪いの打ち消し:DQⅧから。

幻魔剣:漫画「ロトの紋章」から。剣王キラの代名詞。

さみだれ斬り:名前が「さみだれけん」と変わったりする。ややこしいのでこの作品では「さみだれ斬り」で統一。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。