「僕の名前はリュカだ。本名はもっと長いけどリュカでいい。ただの旅人さ」
目の前に居たのは腰まである深紅の長髪、雪のように白い肌、人間離れした美貌の少女である。
だが気になったのは彼女の美貌ではない。彼女が人間ではないということだ。
ただの人外であればかなり見てきている。というより、自分ほど多くの人外に囲まれた人間は少ないのではないか、とさえ思う。
しかし驚いたのは彼女の持つ魔力だ。かつて世界を支配しようとした魔界の王ミルドラースの支配下であった暗黒の世界。そこに巣くう魔物は地上にいる魔物とは比べ物にならないほどの力を持っている。
潜在能力では彼女は暗黒の世界の魔物に勝るとも劣らない……いや、まだ足りない。
暗黒の世界の深淵……神をも超越し、更に進化によって記憶と引き換えに全てを超越した地獄の帝王。彼の住まうかの洞窟。そこで帝王を守護する魔物にも匹敵するかもしれない。
だが彼女の能力はおそらく荒削りだ。仲間にし、修行し、魔物使いとして彼女の力を引き出せば……。
いやいやいや、それどころではないな。彼女の正体や目的、この世界の情報を得る方が先決だ。
彼女の気配に殺気はない。だがかなり警戒はしているようだ。
周りを見渡せばあのユウマちゃん……いや、彼女の配下は主のことを「レイナーレ」と呼んでいたか……の召喚した魔物のズタ襤褸になった死骸が散乱している。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は君に危害を加える気はない。
今度は僕が質問してもいいかな? 君の名前は何と言うんだい?」
「リアス・グレモリーよ。ただの旅人さん。
それと警戒しなくてもいい、と言われてもねぇ……。周りの死骸の山はあなたがやったの?」
「ああ、襲われたからね」
「それで、どうしてこの魔物達を倒せたのにこの子は殺されたの?
……この傷は堕天使によるものだけど」
「ふぅむ、それは―――」
取り敢えず、自分が異世界から来たこと、黒い翼の少女――レイナーレに、ヒョウドウくんが襲われていたこと、止めようとしたら、自分にも殺意を向けてきたこと、彼女を止めようとしたら、確か『魔法の球』という名前の
「全く僕としたことが、あのレベルの魔物にいいようにあしらわれるとは……。
クッ、人一人も守り切れず死なせてしまうなんて……。
――おや、彼から微弱にだが生命の気配を感じるが……、生きてる!?」
今まではすでに殺されてしまったものだと思い込んでいたが、微かな生命力を感じ驚く。
だがその一方で―――
「蘇らせたのは君かい? それもただ単に蘇生させただけではないね? 今の彼からは人間のではなく魔族の気配がするんだが……」
僕の価値基準では、蘇らせたことは別に問題ではない。僕も、僕の仲間たちも、何度も死に、何度も蘇りながら戦ってきたのだから。
しかし、死者の蘇生が不可能とされる世界で異世界の魔法を用い、人を蘇らせるのは混乱を招く恐れもある。
それよりはこの世界の理に基づいて蘇生できるのであれば、そうさせた方が良い。
だが、彼から発せられるのは人の気配ではなく魔族、もしくは魔物に近いものだ。
もし、目の前の彼女が何らかの邪術を用いヒョウドウくんを魔物として復活させ、悪用しようとしているのであれば止めるべきなのだろう。
「説明してもらえるかい? 君が何者で何のために彼を人外として復活させたのか……」
そう言い終えると彼女の言葉を待つ。
「そうねえ。まだまだ聞きたいことはあるんだけど、あなたの疑問にも答えましょうか……。
私はね……、悪魔なの」
返ってきた答えは……まあ、予測の範疇だ。
「私がその子を蘇らせたのは……その子のポケットの中を見てもらえれば早いわ」
言われたので彼の服の中を探ってみる。
彼女の言わんとしている物はすぐ見つかった。
これは魔法陣? 小さいが……それなりの力を感じる。彼女はヒョウドウくんにこれで召喚されたのか?
「そうよ、彼が死に際に願ったの。私の腕の中で死にたいってね。
でも彼は
だから、蘇らせたの。私の下僕としてね」
「下僕、だと……」
下僕―――その言葉を聞いた途端、体に悪寒が走った。かつての忌まわしい記憶。
暗い洞窟、どろりと淀んだ生温かい空気。病んで爛れた人間の体臭。汗と油と血に塗れた服、縺れ絡まり依り紐のようになった髪。重荷を背負いおろおろ歩く生気を失った人々の列。怒声を上げ、鞭を振るう奴隷監督。槍穂を並べ自分達を、まるで家畜を見るような目で監視する衛兵たち。
終わることのない地獄のような日々。
「もう一度聞く……。何として蘇らせたと言った……?」
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リアスside
リアスを困惑していた。召喚されるのを感じ来てみれば学園の後輩が死んでいた。
それはともかく、彼の死因は堕天使の光だ。
彼からは神器の力を感じる。おそらくそれを危険因子と判断され殺されたのだろう。
そして何より周囲に散らばる魔物の死骸だ。どいつも人間界をうろつく魔物ではない。見たこともない種が大半だ。
そして―――
目の前に現れた男だ。
襤褸布の様なものの上に紫紺のマントとターバンを見に付けている。
凛々しく精悍な面構え、それでいて清楚で気丈な美女のようなあどけなさがある。
そして何よりその瞳だ。黒曜石のような漆黒。そして人間とは思えぬほどに澄んでいる。
リュカと名乗るこの男は明らかに“普通”じゃない。人間でありながら堕天使を追い詰め、魔物の群れを一人で皆殺しにし、強制転移で遠地に送られたというのにすぐに戻ってきたとは……。
「自分は異世界人だ」というのは冗談の類かと思ったが、こうなると信憑性を帯びてくる。
彼は自分に何者かと尋ねてくる。そして、どうして一誠くんを蘇らせたのかも―――
「私はね……、悪魔なの」
全く驚いていない。 寧ろ想定通りと言わんばかりだ。
どうして蘇らせたのか、という問いに対しても一誠くんが持っていた魔法陣を見せたら即座に理解した。
どうやら魔法に対してかなり造詣が深いらしい。
だが、そこから彼の態度は一変した。
いや、“表面上”の態度は変わらない。冷静で穏やかだ。
しかし、“内面”は……
「もう一度聞く……。何として蘇らせたと言った……?」
“下僕”
その言葉だ。
それを聞いた途端、彼からとてつもない
魔力や、仙術でいうところの気の様なものまで溢れ出している。
無論、魔力の方は大したものではない。少なくとも兄サーゼクスや他の四大魔王、大王家の者や、大公家の者等に比べればかなり小さい。
かなり抑えつけての魔力であるが……。例え完全開放しても兄達程ではない、と思いたい。
気の方はかなり異質だ。仙術はあまり詳しくはないが生命に流れる大元の力であるオーラ、チャクラと呼ばれるものを重視し、源流としている。
悪魔や天使の力とは異なり直接的な破壊力はあまりないはず。
ところがどうだ、目の前にいる男の気は悪魔すら素手で屠れそうではないか!
彼女は理解した。
理屈でも、であるが、何より直感で―――
この問いにうまく答えなければ―――、私はここで死ぬ。
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「どうしたんだい? 『何として蘇らせたと言ったのか』と聞いたんだが?」
再度尋ねる。ひょっとすれば聞き間違いということもありうる。いきなり攻撃するのはまずい。
「下僕として、と言ったわ」
「そうか……。だが、僕と君との間には認識の相違があるのかもしれない。
僕にとっての『下僕』とは、他者に隷従させられ、仕事を失敗したり、放棄したり、反抗したら懲罰を受け、脱走しようとしたら殺される……そういうものだという認識だ。 この世界では違うのかい?」
「概ねその認識であってるわ。でも違うところもある」
「何がだい?」
「私の下僕たちは”幸福”よ。少なくとも私はそう信じているわ」
幸福? 下僕が? 自分の信じる神の為に死ねるのは幸福だから、その神を祭る神殿を建てる為に使い殺しにされる奴隷たちも幸福だ……かの光の教団の信者達がそう話しているのを聞いたことがある。
強者の傲慢か? しかし、目の前に佇む少女の瞳をじっと見つめる。
嘘偽りはない。それにかなり聡明だ。弱者の心境を自らの都合のいいものに決めつける程愚かではない。
だが―――
「悪いが信じられないな。この目で見ない限りは」
「……でしょうね。いいわ。私の下僕達のところまで案内してあげる。 それに、あなたのお話ももっと聞きたかったしね」
地面に紅い魔法陣が展開する。周辺の景色が歪み、そして―――
目の前には大きな建造物があった。
「ようこそ。駆王学園へ」
魔法の球:漫画「ダイの大冒険」より。「魔法の筒」の強化版。
リュカさんにとって『下僕』、『奴隷』はNGワード。