30話 綻び
「いくわよ、リュカァッ!!」
人里離れた深い森
三人の堕天使が光の槍を振り翳し、僕に急降下してくる。落下の重さも加えた一撃。しかも、そのうち一人の妙齢の女堕天使は、闘気を身に纏い攻撃を強化している。常人が受ければ、確実にミンチと化すだろう。
あとほんの一刹那の後にそれが我が身に届く―――
「『天地の構え』!」
得物の『物干し竿』を斜めに構え、目を見開き襲来する堕天使達を視界に捉えた。そして闘気を極限まで溜める。
槍の先端が自分に突き刺さろうとする、正にその瞬間に物干し竿を動かす。
溜めた闘気を解放し、三人の攻撃を
竿で叩きのめされた堕天使達は後ろに吹っ飛び、全員が木に激突した。
「はああああああっっ!!」
すると後ろの方から、あからさまに情欲をそそる出で立ちに、両手に魔槍を持った女悪魔が突っ込んで来た。
かなり、強力な闘気と魔力を武器に纏わせている。その一撃は地を抉り、大岩をも穿つに違いない。
「『五月雨突き』!!」
「『氷結乱撃』!!」
美しい顔に必死の形相を浮かべた女悪魔と、それを迎え撃つ僕が互いに連打を放つ。『物干し竿』と魔槍が幾度もぶつかり合う。
ピキッ
ほう……! 僕の振るう武器にヒビを入れるか!
魔槍とぶつかり合うたびに、棍の先端部に亀裂が生じる。闘気を纏わせることで強度が増しているが、得物の性能差と、相対している者も闘気と魔力を槍に帯びさせていることで、均衡が破られたのだろう。
だが――――
「手緩い!」
そう叫び、更に強い闘気を放ち、棍に纏わせ、一気に薙ぎ払う。
女悪魔は魔槍をクロスさせ防御するが、彼女の防御を貫いて近くにあった岩に叩き付けた。
しかし、『物干し竿』は パァーン と軽い音を立てて弾け飛ぶ。
そろそろ、武器としては寿命だったし、僕の闘気が強過ぎた為に耐えきれなかったのだろう。武具としては引退させ、アロンアルファで修復した後に、本来の用途である“洗濯物を干すための道具”として活用しよう。
ポツッ ポツッ……
……雨か……?
肌に数滴の雨粒が降り落ちた。一滴、二滴、そしてすぐに豪雨となる。いや、幾らなんでもおかしい。
にわか雨でも、もう少しゆっくり降り始めるハズだ。これは自然のモノではない。そう思った瞬間――――
ブワンッ ブワンッ
二本の長く、太い蔓が叩き付けられてきた。これを飛び退いて躱す。すると、近くの樹木の陰から、桃色の忍び装束を纏った少女が懐に飛び込んで来た。
「もらったよ。御屋形サマ♪」
彼女が手に握るクナイが、僕の体を切り裂こうと迫ってくる。
「良い不意打ちだ。けど甘い!!」
スラ太郎の斬撃を、身を捻って躱し、彼女の顔に僕の顔を近づけ――――
ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ…………
僕の百烈舐めが炸裂する。この忍者娘は顔の上半分をバイザーで覆っているが、強引に下の方から舌を突っ込み、顔面を舐め回した。
「うひゃっ!? 何するんですかぁ~っ!?」
「当て身」
「うぐッ……」
百烈舐めで怯んだ(だけではなく赤面もしている)少女に手刀を振り降ろして気絶させる。そして、そのまま濃密な気配のする方向に放り投げた。
「―――ヌッ!? 良クココダトワカッタナ……?」
急に仲間を投げつけられ、若干戸惑ったふうではあったが、即座に冷静さを取り戻した水の精霊が姿を現した。
「君の気配は強いからね。レムオルで姿を消してもすぐ分かったよ」
「セッカク苦労シテ覚エタンダガナ……。マアイイ。イクゾ!!」
神秘的な美貌の人魚が、似つかわしくない闘志に漲った表情でこちらに向かって来た。
「『正拳突き』!!」
「同じく!」
僕と水の精霊、双方が真っ直ぐに拳を突き出す。闘気と闘気。力と力。拳と拳が真っ向からぶつかり合い――――――
「グアアアッッ!」
ベキッ グシャアァ……!
腕が折れる音が響く。
水の精霊の腕が折れる音が、だ。
彼女は苦悶の表情を浮かべ、そのまま気絶し倒れた。
人魚のような姿の美女が地に伏すと、先程まで降っていた雨がぱったりと止む。そのとき、周りから強い魔力を感じた。
―――殺気ッ!
「「「マヒャド」」」
高位凍結呪文が周囲から一斉に放たれる。完全に包囲されている為、おそらく避けることは出来まい。
それならば、と思い、
「マホカン――――」
「マホトーン!!」
これは、呪文封じとは考えたな!
岩陰から、女の鋭い声で
その呪文をまともに受けてしまった。
極限まで意思の力を強めることで、熱や冷気への耐性を高める。
その直後に全身を凍り付かせて余りある冷気が押し寄せて来た。精神を集中させ耐える。ひたすら耐える。
やがて、その凄まじい冷気も止む。
どうやら、凌ぎ切ったかな……?
「かかったわね、御主人様!!」
「えっ?」
そう言われて辺りを見回してみる。しばらくして、漸く彼女が言わんとしていることが理解できた。
足が凍り付いていて動けそうもない。先程の水の精霊が降らせた雨は、この為の準備だったのだろう。
「ハハッ、なかなかに用意周到だね。これは良い手だ」
「余裕でいられるのも今のうちよ! 一斉に掛かりなさい!!」
青髪の女悪魔の号令で、金髪の女悪魔達が一斉に襲い掛かってくる。
この状態では動こうにも動けない。それなら――――
地脈と自分の気を呼応させ、大地の熱気を爆発的な早さで地表に噴出させる。
「『マグマ』!」
地面から溶岩を湧き出させた。その凄まじい高熱で以って脚を覆っている氷を溶かす。
更に、それだけに止まらず、冷気と熱で水蒸気を発生させる。辺りを白い湯気が包む。
蒼髪に赤眼の女悪魔が困惑した表情で、僕を見失しない辺りを見渡す。
「クッ! ……い、いない! 一体どこに!?」
「上だよ。グランドクロス!!」
「なっ!? ギャアアアァァァッッ!!!」
光の闘気を集約し、両手で十字を切る。前方に巨大な真空の刃が出現する。
聖なる風と閃光の十字架が、イシュダルとヘルヴィーナス達を周辺の地形ごと薙ぎ払った。枯れ葉の如く吹き飛ばされた彼女達は、纏めて戦闘不能になった。
―――――――――――――――――――――――
「いや~、良かった。実に良かったよ!」
訓練を終え、仲間達に向かって素直な感想を述べる。
「君達も随分成長したよ。堕天使の三人は光の力がかなり強まったし、バイサーもパワー、技術、魔力、闘気、いずれもが相当伸びた。ひょっとすれば、もう中級から上級悪魔の間くらいにはなったんじゃないのかな?」
僕の見解に、それを聞いたレイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、バイサーが赤面する。
「それにスラ太郎達も、イシュダル達も、戦い方に創意工夫が見られた。それは大きな進歩だ!」
転身したモンスター達も、
いや、イッセーくんの『
まあ、いずれにせよ彼女達は強くなった。出会った頃とは比べ物にならないほど
に――――
「ところで、あっちはどうなったんだろうか――――?」
少し離れた場所に目をやる。
そこでは、元居た世界で仲間にした者を中心に、モンスター達が訓練していた。
「空裂斬!!」
「ドルモーア!!」
「ミラクルソード!!」
「ガオオオオオオッッ(煉獄火炎)!!」
「雷光一閃突き!!」
「ライトニングデス!!」
「ゴアアアアアアッッ(荒れ狂う稲妻)!!」
「
「双竜打ち!!」
「タイガークロー!!」
「クルオオオオオッッ(猛毒の霧)!!」
「ジバルンバ!!」
「べタン!!」
「超パワフルスロー!!」
「メダパニーマ!!」
「蒼天魔斬!!」
「超はやぶさ斬り!!」
スライム族、巨大な竜、多頭の大蛇、多種多様な獣人族や悪魔、物に魂が宿った様な魔物などが入り乱れて、僕が異世界で学んだ技を試し合い、ぶつけ合っていた。
うん……、皆、頑張ってるな……。おや?
「ヒィィィィィト・ミルキィィィィィ・スパァァイラルゥゥゥ・ボムァァァァァッ!!!!」
その中に、全身傷だらけになりながらも拳にメラ系統の魔力を纏わせ、大きな戦斧を持つ大柄な怪人・エミリネーターのエミリーを殴り飛ばすミルたんがいた。
「素晴しい!! まだメラ、メラミ、ギラ、ヒャドしか覚えていないというのに僕の仲間達に混じって戦うなんて!!
君にも一度挫折を知ってもらおうかと思い、この訓練に放り込んだが………、魔法のみでは敵わない、筋力・体術のみでも敵わないということを知り、咄嗟に魔法と打撃を組み合わせた技を編み出すなんて、なんと途轍もない発想力!! 臨機応変さ!! やはり、
「「「「…………………………」」」」
僕は夢中になって叫び、絶賛するが、後ろにいる女悪魔・女堕天使達が、どこか冷めた眼差しで僕を見つめていたことに後になって気付いた。
◇
夜 オカルト研究部部室
「……とまあ、昼にこんなことがあってね。本当にミルたんの成長ぶりには驚かされる………。あれ、皆どうしたんだい?」
「……いえ、何も」
ヒメジマの淹れてくれた緑茶を頂きながら、日中の出来事を話した。オカルト研究部の皆は困っているような、悔しがっているような、複雑な表情を浮かべている。特にイッセーくんとリアスが顕著だ。
「―――ところで、聞いたよ。何でも学園の球技大会で優勝したんだってね。おめでとう」
何だか怪しい雰囲気になって来たので、僕が別の話題をふる。それに、ヒメジマが乗っかってくれた。
「あらあら。ありがとうございます。ですけど……飽く迄、学園内でのことですから、あまり大したことではありませんわ」
「謙遜はいらないよ。どんなことでも一番になる事は良いことだ。無論、勝つことだけに執着しすぎるのも良くないが、君達の勝利にはオカルト研究部内の“強い結束”があったことだろう。
全員が一つの目標に向かって努力する。素晴しいことじゃないか……。おや?」
僕の言葉を聞くと、その場の空気がまるで『凍える吹雪』を撒き散らされたかのように冷えた。
僕がまた変なことを言ったのかとも思ったが、全員の視線が、無意識に一人に集中する。キバくんに向かって―――だ。キバくん当人も難しい顔をしている。
「皆、一体どうしたん――――」
しかし、僕が言葉を紡ぎ終える前に、床に魔法陣が出現した。その中から銀髪のメイド・グレイフィアが現れる。だが、本人ではない。立体映像だ。半透明のグレイフィアが無表情のまま話し始めた。
『御嬢様。緊急のはぐれ悪魔の討伐命令が下りました』
「そう……、悪いけどそういうことだから、ね。急がないといけないの」
リアスが部長の座る席から立ち上がり、皆も真面目な表情に変わる。だが、キバくんだけが今までの顔付きと変わらない。どこか気の抜けた面構えだ。
「ああ、僕も付いて行くよ」
ひょっとすれば、僕なら分かり合えるはぐれ悪魔かもしれない。それなら一緒に行った方がいいだろう。何よりキバくんが心配だ。
こうして、オカルト研究部の皆と共にはぐれ悪魔の討伐に向かう事になった――――
空裂斬:漫画「ダイの大冒険」に登場した剣技。後にモンスターズシリーズでも採用された。勇者アバンが完成させたアバン流殺法の一種「アバン流刀殺法」の一つで、心の眼で敵の弱点や本体を捉え、光の闘気を込めてこれを切り裂く「空の技」。
ドルモーア:ドルマ系の上位呪文。DQMJが初出。その後Ⅸにも登場している。
ミラクルソード:3DS版Ⅶ、Ⅷ、Ⅸに登場した特技。初出はⅧ。通常より大きなダメージを与え、そのダメージ量に応じ自身を回復させる。
煉獄火炎:ⅦとⅨに登場した「しゃくねつ」を上回る火炎ブレスの最強技。威力は絶大。
雷光一閃突き:Ⅷに登場。敵1体に魔人の如く斬り掛かり当たれば会心の一撃と同等のダメージを与える「魔人斬り」の槍版である「一閃突き」を更に強化したもの。メタル狩りの御供。
ライトニングデス:Ⅷの短剣スキルを100ポイントまで上げると、敵1体に通常攻撃と同等のダメージを与え、更に一定確率で即死させる攻撃である「アサシンアタック」がこれに進化する。攻撃の際のダメージと即死確率が上がっている。
荒れ狂う稲妻:Ⅸに登場する敵専用の特技。荒れ狂う稲妻を呼び寄せ、敵全体を攻撃し、敵全体に雷・爆発属性のダメージを与える。「いなずま」や「はげしいいなずま」の更に上に位置する稲妻系の技。
フィンガー・フレア・ボムズ:漢字表記では「五指爆炎弾」。漫画「ダイの大冒険」に登場するメラゾーマの応用技。五本の指のそれぞれにメラゾーマを発生させて一斉に放つ、氷炎将軍フレイザードの必殺技。
双竜打ち:Ⅷから登場した鞭の特技。 通常よりも威力の高い攻撃を、ランダムな対象に2回行う。Ⅶの「つるぎのまい」に並ぶバランスブレイカー。
タイガークロー:DQⅨで初登場した特技の一つ。両腕を大きく振りかざし、1回で2回攻撃をする「はやぶさ斬り」の爪バージョン。Ⅹの初期は異常な強さを誇り問題となった。
猛毒の霧:Ⅴより登場した特技。敵1体を猛毒に陥れることができる。
ジバルンバ:イルルカ3Dから新しく登場したジバリア系最高位攻撃呪文。
べタン:元々は「ダイの大冒険」に登場するオリジナル呪文だったが、後にDQMJ2へと逆輸入された。 ダイ大では漢字で書くと「重圧呪文」。狙った敵を中心に地上に円形の超重力場を作り出し、円内の敵を瞬時に圧殺する呪文。
超パワフルスロー:Ⅷに登場する特技。通常だとブーメランによる攻撃は右に行くにつれて徐々に威力が落ちるが、MPを消費する代わりに全ての敵に均等なダメージを与えることができる「パワフルスロー」から進化する。与えるダメージが0.8倍から1.2倍になり、更に2体目以降の敵にも与えるダメージが落ちないのでかなり強力。
メダパニーマ:Ⅷ以降に登場する呪文。 その名の通りメダパニの上位版で、敵全体を混乱させる。ちなみに、本編では「メダパニーマ」、モンスターズでは「メダパーニャ」を通している。本作ではなんとなくこっち。
蒼天魔斬:ⅧとⅨに登場。斧で地面を削り、蒼い髑髏のようななオーラを出して敵にぶつけて攻撃。 通常の1.3倍のダメージを敵1体に与え、たまに麻痺させる効果がある。
超はやぶさ斬り:Ⅹに登場。闘気を溜め、超神速の4回攻撃を繰り出す単体技。その名の通りはやぶさ斬りの上位技。
ヤバい……。ミルたんのインフレに歯止めが掛からなくなってきた。まだ3巻だぞ……。