時を失った英雄 in ハイスクールD×D   作:ksb

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説明回です。


33話 教会からの使者

 

 

昼過ぎ 自宅アパート

 

 

 

「―――そのようなことが……」

 

 

 午後、学校の授業が終わった頃を見計らい、イッセーくんに連絡を取った。

 やはり、キバくんの態度はおかしなままらしい。あの少年神父(フリード)の襲撃の後、キバくんは早足で帰宅した。僕はその後、殺された神父に蘇生呪文(ザオリク)を施し、この街から出るように言った。

 

 しかし妙だ。この世界については調べたが、キメラの翼なんて物は見たことが無い。加えてスーパーリングなど更に珍しい。錬金術に相当長けた者でなければ創り出すことは不可能であろう。

 それに“あの杯”―――液化した暗黒闘気。この世界における仙術でも闘気を扱うそうだが、『闘気の液化』なんてことはまず無理だ。それにあのゴブレットからは妖気の様なモノまで感じた。

 つまり、何らかの方法で生物から暗黒闘気を取り出し、妖術の類で液化した―――?

 

 いずれにせよ、この世界の技術ではない可能性が強い。以前戦ったスーパーキラーマシンもそうだ。あの殺戮機械(スーパーキラーマシン)はこの世界には無いものだとリアスは言っていた。

 それに加え、レーティングゲームに介入してきたいにしえの魔神……。数日後にグレイフィアさんに連絡を取ってもらったが、あの魔神を召喚して送り込み、バトルフィールドを結界で隔離した者の足取りは掴めなかったという。

 

 それらの事柄から推察するに、自分以外に異世界からの来訪者がいる、ということなのだろうか?

 

 

 いずれにせよ、今問題なのはキバくんだ。そこでイッセーくんから 何か知っていないか? と尋ねた。

 すると返答があった。なんでも(イッセーくん)も昨日リアスから聞かされたばかりらしい。

 

 

 キバ ユウト―――何でも彼は『聖剣計画』なるものの被験者だったという。

 

 神の領域にまで達した者が魔術、錬金術などを用いて作り上げた聖なる武器、それを聖剣という。しかし聖剣は先天的に扱える者が限られる。キリスト教内で聖剣エクスカリバーを扱える者を人工的に育てる計画が存在した。それが『聖剣計画』だ。聖剣は対悪魔にとって最大の武器。悪魔が聖剣に触れたらたちまちその身を焦がす。悪魔を斬ることができようものなら抵抗する術も与えず消滅させることができる。神を信仰し、悪魔を敵視する使徒にとっては究極ともいえる武器といえよう。

 

 因みに、他にもアスカロンやデュランダル。日本では天叢雲剣(あめのむらくも)等、他にも聖剣は色々あるそうだ。

 

 キバくんはエクスカリバーと適応するため、人為的に養成を受けた者の一人だったらしい。

 

 ところが聖剣にキバくんは適応できなかった。それどころか被験者達は、誰一人として聖剣に適応しなかった。それを知った教会関係者は、キバくん達を『不良品』と決めつけて“処分”に至った。

 

 つまり被験者達は全員殺された。たった一人、キバくんを除いて。

 

 キバくんがリアスによって悪魔に転生させたとき、彼は瀕死のなかでも強烈な復讐を誓っていたそうだ。

 キバくんは忘れられなかったのだろう。聖剣を、聖剣に関わった者達を、教会の者達を―――

 

 

 

「……しかし、どうして突然ぶり返したんだい? つい先日までは皆と普通に接していたが……」

 

「ああ、それは俺のうちでアルバムを見たからだと思います」

 

「アルバム?」

 

「幼稚園時代の近所の友達――――昔、親の仕事の都合で海外に行っちゃったんですけど……。その子といっしょに撮った写真の中に聖剣が写ってて……」

 

「成る程……」

 

 

 あの夜、フリードに対して向けた憎しみの表情。その裏にはそのような事情があったのかと思うと、陰鬱な、それでいて憤懣遣る方無い気持ちになった。

 

 キバくんの気持ちは痛いほど良く分かる。人は時として魔物以上に残酷だ。僕も奴隷時代に大勢の仲間が使い殺しにされるのを見た。鞭打たれ、肌に隙間が無いほどの傷を負い、それが膿んで苦しみながら死んでいった者。奴隷監督に逆らい、槍で突き殺された者。作業場の落盤事故で犠牲になった者……。

 

 仲間の仇を討つのに夢中になるのも無理はないと言える。その傷は深く、一朝一夕では癒せるものではない。

 だが、今を生きる仲間を蔑ろにするのはいけない。

 明日にでも今晩にでも駒王学園に赴き、じっくりと話さなければなるまい。

 

 

「……ふむ、分かった。今日オカルト研究部の方に顔を出したいんだが……いいかな? 

 他にも皆に話さなければならないことがあるし……」

 

「それが……、今日は教会の関係者との会談があるんですよ」

 

「教会の関係者と?」

 

 

 それはまた妙な話だ。教会と悪魔は対立していたはず。それなのにその両者が会談するというのは余程のことがあったと見える。ひょっとすればフリードに殺された神父が関係しているのかもしれない。

 

 

「承知した。僕の話したい事と、その教会の関係者の話は関連があるかもしれない。僕も同席していいかい?」

 

「分かりました。部長に言っておきます……」

 

「ふむ……」

 

 

 電話を切り、身支度をする。

 これまでの装備は 『白いTシャツ』『おしゃれなバンダナ』『ブルージーンズ』だったが、ここ数カ月の間にスーパーキラーマシンだの(いにしえ)の魔神だのと戦うハメになった。無論、問題なく勝利したが、もう少し良い装備を身に付けた方がいいかもしれない。

 そこで袋からいくつかの装備を取り出した。

 

  E.『幻魔の法衣』

  E.『疾風のバンダナ』

  E.『ライトシャムシール』

 

 壁に『ミラーシールド』を立て掛けて、自身のコーディネートを観察する。

 

 ふむ、問題ない。

 

 『幻魔の法衣』は黒を基調とした服で、魔法使いなどが着る『魔法の法衣』を『幻魔石』という物質で強化した物。

 その性能は高く、単純な防御力のみならず魔法耐性も高い。それにパッと見た感じでは高級感のあるコートだ。この世界でも不自然ではあるまい。

 

 『疾風のバンダナ』はアニマル柄のバンダナで、これまでの『おしゃれなバンダナ』よりも守備力、回復魔力、いずれも上だ。更に素早さを上げる効果もある優れモノだ。

 

 『ライトシャムシール』は一見すると柄しかない風変わりな剣だが、戦闘時になると光の刃が出てくる。これならお巡りさんに職質を受けても、「ただの装飾品です」と押し通せる。銃刀法違反で逮捕されたりはないだろう。

 

 支度を終え玄関から出ようとすると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「あら、出かけるの?」

 

 

 黒髪のはぐれ悪魔バイサーだ。ここ最近はレイナーレ達やイシュダル達と何やら研究を始めたらしく、マーリンやネーレウスのネレウスやウインドマージのメルビー達と共に、この世界や異世界の魔術を調べている。

 何でも自分達で魔術結社を作ろうという話になっているらしい。魔術結社とは魔法使いや魔女が新たな魔法を研究する組織で、この世界には現在、黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)薔薇十字団(ローゼン・クロイツァー)灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)魔女の夜(ヘクセン・ナハト)等がある。

 マーリンの話では、この世界における魔法とは悪魔の魔力を独自に解析し、人間でも扱えるようにしたものだそうだ。しかしながら、その体系は多岐に渡り独自の発展を遂げ、すでに悪魔ですら扱えないものまであるという。バイサーやレイナーレ達は魔術についてあまり詳しくないそうだが、彼女達の魔力や光力を研究するために協力するつもりらしい。

 因みに、僕に団体名を決めて欲しいと言われたので『ムチムチむち打ち団』と言ったら、全員に猛反発された。結局、組織名は保留になった。

 

 

「ああ、そうだ」

 

「それなら、うちらも行きたいっす! お兄さま~」

 

「私も同行させて欲しいぞ。御主人!」

 

 

 駆け寄って来たのはミッテルトだ。続いてカラワーナも近づいてくる。皆で共同生活になってからは、あまり構って上げられなかったからだろうか、二人とも寂しげな目で見つめてくる。思わず「一緒に行こう」と言いそうになったが心を鬼にすることにした。

 

 

「ダメだ。何でも教会の関係者が来るらしい。堕天使の君達は危険だ」

 

「そんな~……。ま、それなら仕方がないっす………」

 

「けど、今度は一緒に遊びに行こう? 海なんてどうだい?」

 

「海っすか! 行くっす! 嬉し~~♡」

 

「ああ、御主人と海に……か……。勿論、行くぞ♡」

 

 

 二人は機嫌が良くなった。やはり仲間とのコミュニケーションは大事だ。まして、こんな窮屈なタコ部屋みたいなところでの生活を強いている。ストレス発散に出かけるのも良いかもしれない。

 だが、後ろから――――

 

 

「「「「…………………………」」」」」

 

 

 他の皆が鬼の様な形相で睨んできた。これは不味い。

 

 

「勿論、全員で―――ね?」

 

 

 そう言うと、逃げるようにアパートから出た。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

  夕刻 オカルト研究部部室

 

 

 

「会談を受けていただき感謝する。私はゼノヴィア」

 

紫藤(しどう)イリナよ♪」

 

 

 僕が到着したときには、すでに教会からの使者とやらが来ていて、リアスと向かい合い、会談を始めていた。イッセーくん達はリアスの後ろに控えている。

その二人の使者は、どちらもイッセーくん達と同世代くらいの少女で、御揃いの白い外套を羽織っている。片方は青髪に緑のメッシュを入れた目つきの鋭い少女。もう片方の娘は栗毛のツインテールで、天真爛漫な印象を受ける。

 後れて入室してきた僕に、二人の少女が怪訝な顔を向けて来た。

 

 

「ああ、すまないね。構わずに続けてくれ」

 

 

 僕の謝罪の言葉を聞くと、リアスが話を再開する。僕はイッセーくん達の側に行った。

 

 

「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どういうことかしら?」

 

 

 確かに真っ当な疑問だと僕も思う。それに青い髪に緑のメッシュを入れた少女が答えた。

 

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

「う、奪われた!?」

 

 

 ほう………エクスカリバーとはこの世界における『天空の剣』の様な物のはず。それが盗まれたとあれば一大事だ。尤もその聖剣(エクスカリバー)は何本もあるらしいが……。となると市販の剣のいいやつ、『吹雪の剣』くらいの品なのだろうか?

 

 イッセーくんも疑問に思ったらしい。戸惑った表情をしている。そんな僕とイッセーくんを見かねたのだろう。リアスが申し出た。

 

「聖剣エクスカリバーそのものは現存していないわ。ゴメンなさいね。私の下僕に悪魔に成り立ての子がいるし、異世界から来られた方もいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」

 

「「異世界!?」」

 

 

 二人の少女は結構驚いたらしい。冷静そうな青髪の子も、明るい雰囲気の栗毛の子も口をあんぐりと開けている。無理もない。この世界では異世界の存在が確認されていないのだから。

 

 しばらくして、ようやく気を取り直したのか、それともあまり考えないことにしたのか、栗毛の子―――シドーと名乗った娘が話を再開し始めた。

 

 

「イッセーくん、それと―――「ああ、僕はリュカだ」リュカさんね。……エクスカリバーは先の大戦で折れたの」

 

 

 折れた? 聖剣が? どうやらエクスカリバーとやらは天空の剣と比べるとちょっと格が落ちるのかもしれないな……。あの至宝(てんくうのつるぎ)が折れるところは想像できない。

 それとも、天空の剣が折れるほど、その大戦は激しかったのだろうか。

 

 

「今はこのような姿さ。これがエクスカリバーだ―――」

 

 青髪の少女―――ゼノヴィアが傍らに置いていた布に包まれていた物をテーブルに乗せ、包装を剥がした。

 中から大振りな剣が現れる。かなり大きくごつごつとした印象を受ける剣だ。斬馬刀というやつだろうか。

 

 ふと横に目をやるとイッセーくんが震えていた。人間の僕はそれ程でもないが、悪魔の(イッセーくん)は相当なプレッシャーを感じるらしい。その怯え方から察するに、やはり悪魔にとっては危険極まりない逸品なのだろう。

 

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。そのとき、七本に分けて作られた。これはその内の一つで私が預けられた物。

 名は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。カトリックが管理している」

 

 

 七つ……。つまり、威力も七分の一という事になるのだろうか。そんなに大したことが無いという感じがするのも、そうだとするなら納得がいく。

 

 一方、シドーも自身の得物を披露しようとしていた。なにやら紐状のものが蠢いている。それは僕達の目の前で姿を変え、片刃の剣になった。

 

 

「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風にカタチを自由自在にできるから、持ち運びにすっごく便利なんだから。

 このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」

 

 

 シドーが自慢げに言った。まるで新しく買ってもらったおもちゃを説明するみたいな口調だ。

 しかし、本来敵である悪魔の前で言ってもいいことなのだろうか? 

 ゼノヴィアもそう思ったのだろう。渋い顔でシドーを窘める。

 

 

「イリナ………わざわざ悪魔にエクスカリバーの能力を喋る必要もないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう? 

 それに私の剣は能力を知られたからといって、この悪魔の皆さんに(おく)れを取ることなんてないわ」

 

 

 どうやら、シドーにはリアス達と戦っても絶対に勝てるという自信があるらしい。しかし、それはないだろう。近接戦では不利かもしれないが、遠距離ならヒメジマとリアスがいるオカルト研究部の皆のほうが有利だ。

 

 リアス達とゼノヴィア達の戦力を分析していると、後ろから凄まじい殺気を感じた。キバくんだ。

 今までの彼からは想像もつかないほど恐い表情を浮かべている。今にも飛び掛かりそうだ。

 

 (キバくん)の様子を気にしつつも、リアスがゼノヴィア達に尋ねる。

 

 

「………それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」

 

「カトリック教会の本部に残っているのは私のモノを含めて二本だった。プロテスタントのもとにも二本。正教会にも二本。残る一本は神、悪魔、堕天使の三つ巴戦争の折に行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだという話だ」

 

 

 リアスは額に手を当てて、溜息を吐いた。まあ、気持ちは分かる。

 

 

「私の縄張りは愉快な出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪ったのは?」

 

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』だ」

 

 

 『神の子を見張る者』……レイナーレ達の仲間か。この娘達に堕天使と同居してると言ったらどうなるんだろうか? 

 まあ、今は言わない方がいいか。

 

 

「堕天使の組織に聖剣を奪われたの? 失態どころではないわね。でも、確かに奪うとしたら堕天使ぐらいなものかしら。高位の悪魔にとって聖剣は興味の薄い物だもの」

 

「奪った主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエル」

 

「コカビエル……古の戦いから生き残る堕天使の幹部……。聖書にも記された者の名前が出されるとはね」

 

 

 また知らない名前が出て来た。しかし、話し振りから察するに結構な大物らしい。『神の子を見張る者』の幹部ということはレイナーレ達の知り合いなのだろうか。

 だとすると一度挨拶した方がいいのかもしれない。きちんと『神の子を見張る者』とやらのお偉いさんに独断で動いたことを謝らせた方が、彼女達も肩身の狭い思いをせずに済むようになるだろう。

 

 

「先日からこの町に神父―――エクソシストを秘密裏に潜り込ませていたんだが、悉く始末されている……がその内の何人かが生き返って戻って来た。その者達の言い分では『自分は一度死んだが、謎の聖人によって救われた』とか言っていたな……」

 

「「「………………」」」

 

「えっ? 何で皆して僕を見るの?」

 

 

 多分、僕だけど………。

 ここ最近、夜中に魔力……というより光力を感じることが多くなった。そこでその場に行ってみると人が死んでいるのだ。死んで間もない者であるため、見て見ぬフリもできず片っ端から生き返らせた。

 あまり大っぴらにこの世界に干渉するつもりはないため噂になるのは避けたい。今度からはちゃんと記憶を消すことにしよう。

 

 

「で? 私達にどうして欲しいワケ?」

 

「私達の依頼―――いや、注文とは私達と堕天使のエクスカリバー争奪戦に、この町に巣くう悪魔が一切介入してこないこと。―――つまり、そちらに今回の事件に関わるな、と言いにきた」

 

 

 その言葉を聞き、リアスの瞳に冷たいものが宿った。

 どうやら彼女達(ゼノヴィアたち)の言葉はリアスのプライドを大きく傷つけたようだ。

 

 

「随分な物言いね? 私達が堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

「上の方々は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払うことができれば悪魔も万々歳だろう? 堕天使共と同様に利益がある。それ故、手を組んでもおかしくない。

 だから、先に牽制球を放つ。―――堕天使コカビエルと手を組めば、我々は貴方達を完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだ。―――と、私達の上司より」

 

「……私が魔王の妹だと知っているということは、貴方達も相当上に通じている者のようね。

 ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 

 リアスが声を荒げる。やはり相当怒っているらしい。だが、ゼノヴィアは上級悪魔の怒りに臆することもなく不敵に笑った。

 

 

「ふふ……。それが聞けただけでもいいさ。魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。一応、この町にコカビエルがエクスカリバーを三本持って潜んでいることをそちらに伝えておかねば何か起こったときに、私だけでなく教会本部も様々なものに恨まれる。

 故に、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三竦みの様子に影響を与えるだろう。特に魔王の妹ならば尚更だ」

 

 

 ゼノヴィアの説明を聞き、リアスが落ち着きを取り戻した。若いながらもしっかりしたものだと感心する。彼女(リアス)は気を取り直し、静かな口調で尋ねる。

 

 

「ところで、正教会からの派遣は?」

 

「奴らは今回の話を保留した。仮に私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後の一つを死守するつもりなのだろうさ」

 

「では、二人だけで? 二人だけで堕天使の幹部からエクスカリバーを奪還するの? 無謀ね。死に行くつもり?」

 

「そうよ」

 

 

 リアスの言葉から推し量ると、コカビエルとやらは、やはり相当強いらしい。どのぐらいの強者なのだろうか?

 以前に会ったティアマットくらいか? それともグレイフィアくらいか、サーゼクスくらいか……。スーパーキラーマシンとか古の魔神ぐらいなら僕一人でも何とかなるが―――

 

 

「私もイリナと同意見だが、できるだけ死にたくはないな」

 

「ほう……。君達はメガンテでも覚えているのかい?」

 

「メガンテ……? 何だ、それは?」

 

 

 自己犠牲覚悟ということはそれくらい使えるという事だろうと思い尋ねたのだが……。そう言えばこの世界にメガンテは無いという事を思い出した。

 しかし、それに準ずる自爆魔法があるのかもしれない、とは思うが。

 

 

「死ぬ覚悟でこの日本に来たというの? 相変わらず、貴方達の信仰は常軌を逸しているのね」

 

「我々の信仰をバカにしないでちょうだい、リアス・グレモリー。ね、ゼノヴィア」

 

「まあね。それに教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーが全て消滅してもかまわないと決定した。

 私達の役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことだ。その為なら、私達は死んでもいい。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだよ」

 

 

 彼女達は何処までも信仰に殉ずるつもりらしい。その覚悟は半端ではないらしい。

 それはそうと心配だ。ゼノヴィア達を思い、出来る限り優しく尋ねる。

 

 

「……たった二人だけで、それは可能なのかい?」

 

「ああ、無論、ただで死ぬつもりはない」

 

 

 僕の問いに素っ気なく答えると、ゼノヴィアが立ち上がる。

 

 

「それでは、そろそろ御暇させてもらおうかな。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振舞わせてもらうわ」

 

「いらない」

 

 

 リアスの誘いをゼノヴィアが手を振って断った。

 

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

 

 シドーもゼノヴィアに続いて席から立つ。そのまま部室から出て行こうとした。

 しかし、それは不味い。その前に彼女達に伝えなければならないことがある。そこで僕がゼノヴィア達を引き止めようとしたとき――――

 

 

 

「―――兵藤一誠の家を訪ねた時、もしやと思ったが……まさかアーシア・アルジェントか? まさかこんな地で“魔女”に会おうとはな」

 

 

 二人の視線が、ふとアーシアを捕らえた。

 

 

「貴方が魔女になったという元聖女さん? 堕天使や悪魔をも癒す能力を持っていたせいで追放されたとは聞いていたけど悪魔になっていたとは思わなかったわ」

 

「あ、あのっ……私は……」

 

 

 口籠るアーシア。二人に言い寄られ、対応に困っているらしい。

 

 

「大丈夫よ。貴方のことは上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲にいた人達が貴方の現状を知ったら相当ショックを受けるでしょうからね」

 

 

 シドーの言葉を聞き、アーシアは複雑な表情を浮かべる。シドーは純粋にアーシアを気遣っているらしいが……。言い方が他には無かったのだろうか、と思わなくもない。

 

 

「しかし聖女と呼ばれていた者が悪魔とはな。堕ちれば堕ちるものだ。

 …………しかし、お前はまだ我等の神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア、彼女は悪魔になったのよ?」

 

 

 ゼノヴィアの言葉に、シドーが呆れた様子で口にする。

 

 

「いや、背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を忘れられない者がいる。その子からはそういう匂いが感じられる」

 

 

 青髪の少女が目を細めながら言い、栗毛のツインテールは興味深そうにアーシアの顔を覗き込む。

 

 

「そうなの? ねえ、アーシアさんは主を信じているの? 悪魔の身に堕ちてまで?」

 

「……捨て切れないだけです…。ずっと……信じてきたのですから……」

 

 

 シドーの問い掛けに、アーシアは俯きながら消えそうな声で答えた。

 

 その言葉を聞いたゼノヴィアが布に包まれた『破壊の聖剣』を取り出しながら酷薄に告げる。

 

 

「ならば、今すぐ私達に斬られるといい。神の名の下に断罪してやる。君が罪深くとも、我等の神は救いの手を差し伸べて下さるはずだ」

 

 

 何だか一気に剣呑な空気になった。ゼノヴィアの目は本気だ。断じて冗談の類ではない。無論、そんなことは座視できない。そこで僕が間に割って入ろうとすると―――

 

 先にイッセーくんがゼノヴィアに食って掛かった。

 

 

「アーシアを魔女と言ったな!?」

 

「少なくとも、今は魔女と呼ばれる存在であると思うが?」

 

 

 イッセーくんが奥歯を噛みぎりぎり鳴らす。思えば彼は教会に対して怒りを抱いていても不思議ではない。フリード、レイナーレ、それを考えれば堕天使・天使陣営に全く良い印象を持っていないのが当然だと言える。

 

 

「巫山戯んな! 自分達で勝手に聖女に祀り上げといて……、アーシアはずっと一人ぼっちだったんだぞッ!!」

 

「聖女は神からの愛のみで生きていける。愛情や友情を求めるなど、元より聖女の資格など無かったのだ」

 

 

 聖女……ね。思い返してみても、彼女の言う“神からの愛のみで生きていける聖女”とやらには僕も会ったことが無い。結構な数の異世界を渡って来たが探索が足りなかったのだろうか。

 強いて言えば異世界で『赤き珠の聖女』とやらの話を聞いたが、その内容からしても“神からの愛だけ”で生きていけるとは思えない。大勢の仲間たちに支えられてこそ輝く女性(ひと)だったらしい。

 

 一方、イッセーくんはますますヒートアップしていた。

 

 

「何が信仰だ…、神様だッ! アーシアの優しさを理解出来ない連中なんか、みんなバカ野郎だッ! 

 その神様はアーシアがピンチだったときに何もしてくれなかったじゃないかッ!」

 

「神は愛してくれていた。何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくは偽りだっただけだ」

 

「いや、そうとも限らないんじゃないかな。トロッコで同じところをぐるぐる回ってて、忙しくて気付かなかったとか……」

 

「……リュカさん。冗談を言っていい時と、ダメな時があります」

 

 

 イッセーくんとゼノヴィアのやり取りに口を挟んだら、トウジョウに怒られた。

 一応、実話に基づく真面目な意見だったんだが……。

 

 

「……君はアーシア・アルジェントの何だ?」

 

「家族だ! 友達だッ!! 仲間だ!! お前等がアーシアに手を出すのならッ! 俺はお前等全員、敵に回しても戦うぜッ!!」

 

 

 イッセーくんが吠えるように宣言した。それを聞きゼノヴィアが薄く嗤いながら聖剣を布から取り出した。

 

 

「……ほう? それは私達教会全てへの挑戦か? 一介の悪魔が大口を叩くね……」

 

「いい加減にしなさい」

 

 

今度はさっきよりも大きな声な、そして彼女達を諌める気持ちを込めて話しかける。

 

 

「……イッセーくん。それにアーシアさんも……少し、僕の昔話を聞いてくれ………」

 

 

 彼ら彼女らを諭すには調度良い話がある。それを語ることとしよう――――

 

 

 

「僕はまだ赤子の頃に母親を攫われた。それから父は僕を連れて母を探す旅をしたんだ。だが、ある事件に巻き込まれて父は僕の目の前で殺された。親を失った僕は友人のヘンリーと共に奴隷にされた。そこで働かされたのが『光の教団』という宗教団体の神殿だ。

 

 その教団は“いずれ世界は滅びる。生き残るのは教祖様の光の下にある信者だけだ”と言い、勢力を拡大していた。その神殿では僕ら以外にも沢山の奴隷達が働かされていた。

 そこで大勢が使い殺しにされた。だが、僕とヘンリーは生き抜いた…………」

 

 

 そこで、一旦言葉を切る。目を閉じ思い起こせば今でもハッキリと目に浮かぶ長く苦しい時代。生き残れたのは偏に彼……、ヘンリーのおかげだった。

 まさしく親友、心の友。僕が今こうして異世界を漂流しているとき、彼はどうしているのだろうか―――。きっと心配してくれているに違いない。

 

 いけない、少々思い出に耽ってしまった。話を再開することとしよう。

 

 

「ある日、新人のマリアという奴隷がやって来た。

 彼女は元教団の信者だったのだが、教祖の大事な皿を割ってしまってね。それで奴隷にされたんだ。彼女は初日にヘマをしてね。奴隷監督の足に大岩を落としてしまった。

 彼女は鞭で打たれ、乱暴されそうになった。僕もヘンリーも見ていられなくてね……。その監督官を叩きのめした。それで三人揃って懲罰房行きになった。その時ばかりはもうダメかと思ったね……。

 

 だが、僕らは助かった。救ってくれたのはマリアの兄ヨシュアだ。彼もまた妹と同じく教団の信者だったんだが、妹が奴隷にされたとあって狼狽していた。そんなときにマリアが乱暴されかけ、それを僕とヘンリーが助けたと知って、僕らを逃がそうと思ったらしい。そこで彼は死体を捨てる為の樽に僕たち三人を押し込め、海に投げた―――」

 

 

 イッセーくん達もゼノヴィア達も真面目な表情で僕の過去の出来事に耳を傾けている。

 

 

「その後、紆余曲折を経て、教団と戦い、その教祖を倒した。だが、思ったのだ。

 “案外、普通だ”と……。

 

 僕はそれまで『光の教団』はとんでもない邪教で……実際、邪教だが……、その信者も邪悪な者達かと思っていた。しかし、それは間違っていた。彼らのほとんどは“普通の人”だったんだ。農夫、工夫、職人……。生来の悪党などいなかった」

 

 

 イッセーくんとアーシアの肩に手を添える。

 

 

「彼らの多くは後悔していたよ。故郷に残した家族を思ったり、これまで奴隷達にした残酷な仕打ちを反省したり……。そんな彼らに怒りをぶつけることに一体何の意味があるだろう?」

 

 

 そうして、今度はゼノヴィア達に向き直る。年端もいかない少女達の姿が、あの鰐頭の怪物と化した男と重なる。

 

 

「イッセーくん……確かに今のゼノヴィアさんの言行はあまり気分の良いものではなかった。身勝手で、残酷で、愚かで……。

 だが、彼女に怒りをぶつけて何になるだろう? 僕は寧ろ“怒る”べきではなく“哀れむ”べきかと思う。純粋な信仰心を煽られ、おだてられ、死地に赴かされる……本当に哀れじゃないか」

 

 

 改めて、イッセーくんの方に振り向き、諭す。

 

 

「彼女達は哀れな狂信者だ。言うなれば“信仰の犠牲者”だ。それに怒りをぶつけても何にもならないよ。寧ろ、応援してあげるべきだ。

 

 そういう訳だから、僕は君達に協力を―――うぇ!?」

 

 

 改めて振り返ると、僕の喉元に破壊の聖剣が突き付けられた。

 ゼノヴィアが憤怒の表情を浮かべている。血管が浮き出し、歯をむき出し、明らかにヤバい顔だ。

 

 

「私達の信仰を侮辱する気か……?」

 

 

 

 どうやら僕の全力のフォローは、盛大に裏目に出たらしい。

 

 

 

 

 




幻魔の法衣:DQⅨで登場した防具の一つ。異世界の住人、幻魔の強大な力が宿った黒い法衣。『精霊の法衣』を上回る性能を誇っている。

疾風のバンダナ:SFC版DQⅢから登場した装備品。DQⅦまでは装飾品、DQⅧとDQⅨでは頭部用防具として登場している。魔力の篭ったアニマル柄の魔法のバンダナで、疾風を呼ぶとも言われている。虎のようなイカしたデザインが格好いいだけでなく、生地の裏側には動作が俊敏になるルーンの紋様が織り込んである。風の魔力が込められているため、頭に巻くと疾風のように素早く動けるようになる。

ライトシャムシール:DQⅧに登場する武器。刀身が光で形成されたシャムシール。通常時は柄のみで、戦闘時に光る刀身が現れる。

ミラ―シールド:DQⅣやDQⅧなどに登場する盾。細かい違いはあるが、総じて呪文もしくは弾を跳ね返す効果を持っている。

吹雪の剣:DQⅢから登場した武器。吹雪の剣。Ⅴ以降、仕様は若干異なるが、Ⅴが最も活躍する作品。通常攻撃時、対象のヒャド系耐性が無耐性で1.5倍、弱耐性で1.4倍、強耐性で1.15倍、無効で1倍のダメージを与える効果を持つ。

メガンテ:DQⅡ以降に登場する自己犠牲呪文。神話では、神々が人間に善なる心を与えるため使ったらしい。全体攻撃呪文の一つで、使うと使用者が死亡する代わりに、Ⅱでは相手を必ず全滅させ、DQⅢ以降は即死させるか瀕死にする
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