次回は戦闘シーンを入れたいですね。
「学校か……」
学校、そう言われても今一つピンと来ない。
サンタローズではサンチョに偶に読み書きを教わったが六才までだったし、ほとんど何も覚えていない。
旅の途中、道すがら父パパスからも色々なことを教わった。野営、食料確保の仕方といった旅の心得。
突くと見せかけては翻し、敵の出足を封ずる方法。かわすついでに、思いがけない角度から攻撃を仕掛ける手管。杖一本で、複数の敵と渡り合う様々な方法。剣と杖をまるで別々の生き物のように扱う技。万が一武器を奪われてしまった場合の、生き残るぎりぎりの戦略―――、それらの今の自分を支える多くの戦訓。
だが、父から学問を教わったという記憶はない。
字が読めるようになったのは奴隷時代だ。
その時、同じ班だった老人が昔とある国で学者をしていたらしい。偏屈な老人で初めは煙たがられたが、ヘンリーと共に何度もお願いするうちに数学や文学、歴史や世界の理について等、多くのことを教えてもらったものだ。
あの老人は無事に解放されたのだろうか……?
それにしても広い。
施設の規模からして元居た世界よりかなり充実している。
自分の知識にあるここと同じ規模の学習施設といえば、異世界のエルシオン学院くらいだ。
思えばあの学校は無茶苦茶だった。
ブーメランの合格試験として山を一周して戻って来るように投げろだの、神獣ハヌマーンを物干し竿で倒せだの、すばやく臆病なはぐれメタルを特技「ラストバッター」で倒せだの……。
その中でも「デスカイザーを毒針で倒せ」と言われた時は流石に呆れた。
そんなこんなで一応全ての秘伝書を貰ったが、二度と来るか!! と思ったほどだ。
しかし、そんなエルシオン学院も別の異世界に来ると懐かしくさえ思える。みんな元気でやっているんだろうか……?
やはり学校は必要だと思う。無事に元世界に帰ることができたのならグランバニアにも造ろか。でも先生はどうする? ああ……、マーリンかネレウス辺りにお願いしよう。彼らなら十分に博識だし適任だろう。
そんなことを考えていると夜間であるにも拘らず一室だけ煌々と光が灯っている部屋に案内される。
部屋の内装は今までちらりと覗いた教室とは大きく違う。部屋中に魔法陣やら文字やらが飾られており、教室というよりは隠棲した老魔術師が住んでいる家の居間みたいな雰囲気だった。
「みんな、お客様よ」
室内には三人の少年、少女がいた。
「紹介するわ。私の下僕たちよ」
「あらあら。はじめまして、私、
「……
「
「はじめまして、リュカといいます。ただの旅人です。よろしく」
挨拶を済ませると、軽く彼ら三人を観察する。全員なかなかの力の持ち主だ。
瞳には意志の光が宿り、強引に従属されているという雰囲気ではない。
それでも一応尋ねてみる。
「いきなりで申し訳ないけど聞かせてほしい。君達はリアスさんの下僕だそうだけど……、彼女に従っていて幸せかい?」
すると、彼らは困惑の表情を浮かべる。
何故そんな事を聞かれるのか分からない、といった感じだ。
やがて三人を代表してヒメジマという少女が答えた。
「部長には非常に良くしてもらっています。何も不満はありません」
彼女ははっきりとそう言った。横でリアスがそう答えるように強要している様子はない。彼女の意思でそう答えているように感じた。
他の二人も同様だ。寧ろリアスに対して敬愛の念すら持っている。
「ふむ……、申し訳なかったね。リアスさん。疑ってすまなかった」
「別に構わないわ。……今度は貴方の話を聞かせてもらいたいわね。まあ掛けてちょうだい」
そう言われてソファーに腰掛ける。
すると、ヒメジマさんが何やら飲み物を持ってきてくれた。
「粗茶です」
「どうも、ありがとう」
見たことのない飲み物だが頂かないのは失礼だろう。そう思って飲み干す。
「おいしいです」
「あらあら。ありがとうございます」
ヒメジマさんが下がり、僕は正面に座ったリアスを正視する。
「そうだね。まず、何から話そうか―――」
それから、この世界に来るまでの経緯を話した。
母の才能のこと、それが自分に受け継がれたこと、今まで多くの世界を渡り歩いて来たこと。
半時も話しただろうか、彼女たちは僕の話に聞き入っていた。
リアスの下僕たちはあまり信じていないようだったが、リアスは信じてくれた様子だった。
「そう、なかなか大変だったのね……。 で、これからどうするつもりなの?」
「今まで通りだ。この世界でも“門”を探す。何としてでも見つけ出して元の世界に帰る」
「でも、たぶん大変よ。この広い世界であなた以外に見えないその“歪み”とやらを見つけるのは」
「あはは……まあ、そうだね。でもやらなくちゃいけない」
そうだ、自分には愛する家族がいる。
妻が、息子が、娘が、叔父が、従妹が、そして多くの仲間たちが―――
僕は絶対に帰らなければならないのだ。
「ところでこちらも聞いて言いかい?」
「あら、何をかしら?」
「君たちが悪魔と呼ばれる存在だというのは分かった。
でもそれがどのようなものかを具体的に聞きたい。それにあのレイナーレという少女………。彼女は君たち悪魔とはまた異なる存在だね?
確か堕天使と言っていたか……、あの娘が一体何なのか知っているのかい?」
彼女は明らかに人間ではなかった。リアスたちとも異なる。
その正体は非常に気になる。
「そうね……。あのレイナーレというのは堕天使―――元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に堕ちてしまった存在。私たち悪魔の敵ね。
私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ。冥界―――人間界で言うところの『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分割してるの。
悪魔は人間と契約して代価を貰い、力を蓄える。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使も含めると三竦み。それを大昔から繰り広げているのよ」
「成る程―――」
彼女の説明は自分にとって、極めて馴染みの深いものではある。
……というのも、僕の元居た世界もそれに近い形式だったからだ。
世界、と一口に言っても、それはいくつかの層に分かれている場合が多い。
僕の世界では大きく分けて天界、地上、そして暗黒の魔界。
そこから更に地上も人界、獣界、妖精界に分かれるのだ。
おそらく彼女の言うところの冥界は、僕の世界の暗黒の魔界に相当するのだろう。
そして、
何処の世界も世知辛い話である。
「……ふむ、それともう一つ、レイナーレは興味深いことを言っていた」
「興味深いこと?」
「……
僕の言葉を聞いた彼女は少し目を見張ったが、やがてゆっくりと語り出した。
「……そうね。神器というのはね――――」
彼女の説明はこうだった。
特定の人間の身に宿る、規格外の力。聖書の神が人間に与えたもので歴史上の偉人の多くが神器所有者とされている。
神器は人間に先天的に宿るものなので人間か人間の血を引く混血しか持たない。
ほとんどは人間社会でのみ機能する程度だが、中には神・魔王・仏を脅かす能力のものも存在し、それらの神器は神滅具―――ロンギヌスと呼称される。
「……まあ、こんなところかしら」
リアスが静かに説明し終えた。
神器、何とも興味深い物だ。神が人間に与えた力とは―――。
しかし、神はどうしてそんなものを与えたのだろうか?
僕らの世界では 神、マスタードラゴンが勇者に力を与えるという。
僕らのときはそうではなかったが、伝承では先代天空の勇者がマスタードラゴンによって力を授かり、その時代の世界を脅かす魔を討ったという。
しかし、この世界の神は何故……? 寧ろイッセーくんはそれのせいで死にかけたのだ。
次々疑問が沸き立ってくる。
まあ、今はそんなことを気にしても仕方がないだろう。
「それと、最後にもう一つだけ。君は『悪魔は人間と契約して代価を貰うことで力を蓄える』と言ったが、代価とは何だい? それは……魂とか、かな?」
「今どき、命を代価にするような強い願いを請うような契約者はいないわ。それに『人間の価値は平等じゃない』し……。まあ、お金とか物とかが一般的かしらね」
「ふむ……、一応参考までに聞いておくけど『元の世界に帰りたい』という願いを叶えてくれるにはどれくらいの代価がいるんだい?」
「無理よ」
あっさり断られた。流石に命をくれてやる気はないが、寿命の半分とか、死後の魂とかなら考えたかもしれないのに―――
「代価の問題じゃないわ。どうやってあなたにしか見えない“門”を探すのを手伝うのよ?
それに“門”が見つかってもそれがあなたの世界に繋がっているのか分からないじゃない。
更に言えば仮に運良くあなたの世界に当たっても、どうやって代価を取り立てに行くのよ?」
全く以てその通りだ。悪魔を頼りにすることはできないらしい。
やはり自力で見つけ出す他ない―――
そう思って、僕は立ち上がった。
「情報、どうもありがとう。僕はもう行くよ」
「―――そう、気を付けてね。あなたは堕天使に目を付けられたと思うわ」
「あはは、気を付けるよ。――ところで彼、ヒョウドウくんだっけ? 彼はどうなるんだい?」
「彼は私の下僕として蘇らせたわ」
「偶に様子を見に来てもいいかな?」
「……いいわ」
自分には彼を不注意で死なせてしまったという負い目がある。
もし、彼が悪魔として馴染めず苦しむのであれば救う義務がある―――
そういう思いからの提案を、リアスは一瞬躊躇ったが受け入れてくれた。
―――――――――――――――――――――
リアスとの会合から数日が過ぎた。
依然としてこの町に留まっている。
あてどなくこの世界をうろつきまわるのは憚られた。
まず広い。総面積509,949,000km²、国連加盟国数 193か国(国連とはなんだ?と最初は思ったが)
これを虱潰しに探し回るというのは流石に骨が折れる。
それに、これまでの世界ではなんとなく目の前に困ってる人が、放っては置けない人たちがいて、彼ら彼女らを助けて回っていたら、救済し終える頃にふらっと立ち寄った場所にあったりするのだ。
故に今回『放っては置けない人物』ヒョウドウ イッセーくんのそばに居れば見つかる……様な気がしないでもない。
いろんな世界を旅していた為か、この町の雰囲気にも慣れることができた。
まず問題になったのは服装だ。紫のターバン、マントの格好はこの国では目立つ。
持っていた装備の大半もやはり浮いてしまうだろう。
だが、袋を漁っていたらこの町にも馴染めそうな服が出てきた。
E.『おしゃれなバンダナ』
E.『白いTシャツ』
E.『ブルージーンズ』
危険な魔物が闊歩する世界なら絶対にしない組み合わせだが、この街には自然に溶け込むことができる。
次にお金だが、あらゆる異世界で共通して価値があるものがあることを経験上知っていた。
―――とある貴金属店―――
「あの~、すみませ~ん」
「はい、いかがされましたか?」
「金を売りたいのですが……」
「はい、畏まりました。御品物はどちらでしょうか?」
「これなんですが……」
「―――ッ!?」
(二十四金の延べ棒!?)
「いくらくらいになりますかね?」
「少々お待ち下さい!!」
◇
「まあ、こんなもんか……」
かなり分厚い紙の束が詰った封筒を持って、住処である襤褸アパートに帰宅した。
部屋に入り腰掛けると、袋から「くんせい肉」を取り出し、齧りながら思考を巡らせる。
「明日辺り、また学園の様子を見に行ってみるか――――」
エルシオン学院:ドラクエⅨに登場する施設。エルマニオン雪原の真ん中に鎮座するエリート名門校。ドラクエ本編においてはⅣのイムル以来となる学園施設。
おしゃれなバンダナ:Ⅵ、Ⅶ、Ⅸに登場する装備品。赤地に柄の入った、やや派手な印象のバンダナ。
白いTシャツ:DQⅨで登場した防具の一つ。柄やポイントがないシンプルなTシャツ。誰でも気軽に着ることができる。
ブルージーンズ:DQⅨに登場。ドラクエらしからぬカジュアルな下半身防具。何の変哲もないストレートジーンズだが、守備力はそこそこ高い。