授業参観―――学校で行われている授業の一環で、生徒の保護者が教室に入り、生徒が授業を受ける様子を見ることができる。ほとんどの学校では学校行事の一つとして年に数回程度実施しており、自分の子供のクラス以外の授業はもちろん、授業以外の休み時間、給食、掃除、下校指導等も参観できるところも存在する。
まあ、僕のいた世界にはあまり馴染みのない風習だ。……と言うか、僕自身学校に通ったことがないし、ティミーもポピーも行っていない。城の学者や仲間の魔法使いマーリンから授業を受けているからだ。
僕もグランバニアに帰ったら一度 二人の勉強を見てみようか……。
いや、ティミーはともかくポピーは駄目だ。娘は五つで帆船の設計図を書き上げる天才だった。
彼女に偉そうにものを教えようとしたら、逆に僕が教わるハメになる。それは父親としての威厳に関わるしなあ……。
駒王学園は沢山の人々に溢れかえっている。皆 生徒達の親御さん方だろう。ほとんどの人が楽しげな表情をしている。息子さんや娘さんの普段の頑張りを見ようと心待ちにしているのだろう。
学園内を見て回っていると、二人の男性が近寄ってきた。二人とも目が覚めるような紅髪――― 一人は魔王 サーゼクス・ルシファーだ。
「やあ、来てくれたんだね」
「こんにちは、サーゼクスくん」
僕と紅髪の魔王が挨拶を交わす。彼は続けて隣にいる男性を紹介してきた。リアスやサーゼクスと同じ鮮やかな紅色の髪という時点で薄々が察しは付くが……。
「こちらにいるのは私とリアスの父だ」
「どうも、リアスとサーゼクスの父です。娘がいつもお世話に」
「いえいえ、異世界に来て右も左も分からず困り果てていた僕の面倒を見てくれたのが彼女です。世話になっているのはこちらの方ですよ―――」
自己紹介のあと、しばらくは穏やかな雑談が続いた。グレモリー卿はなかなか気さくな人柄のようだ。短いやり取りの中からも娘や息子への深い愛情が窺える。僕も子供がいる身として何となく親近感を覚えた。
「ああ、ところで僕に会わせたい人物って一体誰なんだい?」
「そうだった。彼女の名前はセラフォルー・レヴィアタン。私と同じ四大魔王の一人だ」
サーゼクスが答える。
セラフォルー・レヴィアタン―――確かソーナ・シトリーの姉だったか。前回のコカビエル襲撃事件の際、コカビエルが口に出した名だ。リアスが兄のサーゼクスに救援を求めたにも拘わらず、ソーナは姉を呼ばなかった。
姉妹の間にしこりでもあるのだろうか。それが今日の授業参観に来る……。
「しかし、どうして会わせたいのかい?」
「彼女は外交担当だからね。君は言ってしまえばどの陣営にも属さない独自の勢力だから、会談の前に顔合わせをしておこうと思ったんだ」
僕は独自の勢力ねえ……。勢力なんて大仰な言い方をされると困るが、確かにどの陣営にも属していない。
セラフォルーが外交担当ということは所謂『根回し』というやつだろうか。
「ま、それも授業参観が終わってからだね。私達はリーアたんのところに行かなければならないのでこれで失礼させてもらうよ。また後でね」
……ん? リーアたん?
謎の言葉を残し、紅髪の悪魔親子は去って行った。
◇
それから、しばらくの間は各クラスの公開授業をのんびりと覗いて回った。
数学だの理科だの国語だの、様々な科目の講義が行われている。そんな中で一番変わっていたのがイッセーくんのクラスだった。
何やら紙粘土で工作をしているようで、イッセーくんの作品に他の生徒が群がっていた。彼は美術の才能があるのだろうか? 僕はあまりそういったものには縁がない。
そんなことを考えながら歩いていると―――
「あ、リュカさん!」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこにはイッセーくん、リアス、アーシア、ヒメジマの四人がいた。声を掛けてきたのはイッセーくんだ。どうやら授業が終わったので、そこにある自販機で飲み物を買い、休憩していたらしい。
「やあ、こんにちは。それにしてもさっきの授業は凄かったね。人だかりが出来ててよく見えなかったんだが、どんな物を作ったんだい?」
「え、え~~っと……、こいつです」
彼の手にあったのはリアスの模型。なかなかに素晴しい出来だ。友人のヘンリーから結婚式の引き出物としてもらった『記念オルゴール』の上に乗ってる新郎新婦の人形に勝るとも劣らない。
「これは大したものだ」
「いや~~、へへへ」
僕が褒めるとイッセーくんが照れ笑いを浮かべた。しかし、少し疑問に思ったことがあるので尋ねてみる。
「でもこれ、全裸だけど、どうしたんだい? 想像で作ったの?」
「そ、それは!?」
僕の質問にイッセーくんがたじろぐ。そこにヒメジマが割り込んで来た。
「あらあら。イッセーくんってば毎日 部長のお体を見て触ってるのですわね。だから作れたのですわ」
「ちょっと朱乃!」
とんでもないことを言い出したヒメジマを止めるリアス。だが、当のヒメジマは意に返さない。
「今度 私も作ってもらおうかしら?」
「ッ!? そ、それは、ヌードという?!」
「もちろん脱ぎますわ。お触りもアリで♪」
「お触りッ! マジですか、朱乃さんッ!?」
歓喜の表情を浮かべる赤龍帝。しかし、当然―――
「ダメよ!」
「ダメです!」
案の定、リアスとアーシアに止められた。それは当然だ。ヒメジマも分かってからかっているのだろう。
しかし、イッセーくんの才能は凄い。僕が女性の体を見て触ったとしても、ここまで再現するのは無理だ。
妻の体は子供が二人くらい出来るほど見もしたし、触りもしたが、今ここで紙粘土を与えられても再現は出来ない。精々どぐうせんしの出来損ないみたいな造形にしかなるまい。
そんなことを考えていると―――
「魔女っ娘の撮影会だとっ!」
「これは! 元写真部としてレンズを通して余すことなく記録せねば!!」
イッセーくんのクラスメイトの……確かマツダくんにモトハマくんだったか、その二人が廊下を猛烈な勢いで走って行った。
そこにもう一人の男子生徒がやって来た。金髪の美少年、キバくんだ。
「祐斗、何事なの?」
「リアス部長。何やら魔女っ娘の撮影会をしているそうですので行ってみようかと」
キバくんが廊下の先を指差した。
◇
廊下の先にあったのは体育館だった。壇上の上にいる少女を無数の男子生徒が取り囲み、カメラを手に取って一心不乱に撮影している。
中心にいる少女は人間でいえば十代後半ぐらいか。可愛らしい服装……そう、弟子のミルたんと同じ格好をしている。「ミルキースパイラル7オルタナティヴ」とやらの衣装だったか。
尤も、ミルたんが着るのと目の前にいる少女のとでは大分
一方、この少女はどちらかというと小柄で、可愛らしい。以前、見せてもらったアニメの主人公にはこちらの方が近い。
でも、この娘も小柄ではあるけど、出るべき所は出ている女性らしい体型だ。やはり、アレは十代前半が着るべき装束だろう。
「ミルたんに近い感性の持ち主……かな」
「リュカさん、美少女と漢女を一緒にしないでください」
僕の言葉をイッセーくんが引き攣った顔で否定した。
そこに生徒会のサジくんが駆け込んで来て、群がっている男子生徒を追い払う。
「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだぜ! こんなところで騒ぎを起こすな!」
サジくんの宣告に、男子生徒達は強烈に抗議したが、やがて、渋々ながらも従い、立ち去っていく。
そして、仕事熱心な彼は、元凶たる魔法少女の仮装をした少女に向き直った。
「あんたもそんな格好をしないでくれ……って、もしかして御家族の方ですか? そうだとしても、その場のTPOってもんがあるでしょう。困りますよ!」
「えー! だって、この格好が私の正装だもん☆
みるみるみるみる スパイラル~~♪」
キラッ☆
…………これは……。少女がサジくんの言葉にまるで耳を貸さずに華麗にポージングを決めた。何とも形容しがたい人物だ。やはり、ミルたんに近いモノを感じる。
そればかりか、何やら強大な魔力の片鱗のようなものまで感じた。
まさか、本物の魔法少女か―――?
そこに―――
「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って―――」
「ソーナちゃん! 見つけた☆」
現れた駒王学園生徒会長ソーナ・シトリー。彼女の姿を見た途端、謎の魔法少女の表情がより一層明るくなった。
そこにサーゼクスとグレモリー卿もやって来た。そして魔法少女に話しかける。
「ああ、セラフォルー。ここにいたのか。捜したぞ」
……ん? セラフォルー? 何処かで聞いた名だが……。
同様の疑問をイッセーくんも抱いたらしい。怪訝な顔をする。
僕達の疑問にリアスが答えた。
「この方は現四大魔王の御一人、セラフォルー・レヴィアタン様。そしてソーナのお姉様よ」
「えええええええええええええええええええええええッッ!!?」
………魔王、ね。
イッセーくんが驚愕のあまり絶叫したが、全く耳に入らない。
気が付いたら呻き声を上げて片膝を床についていた。
「……う、う~~~ん」
「ど、どうしたんスか、リュカさん!」
「いや、ちょっとカルチャーショックがね……」
いやいやいや、この娘が魔王というのはちょっとありえないだろう。
魔王、魔王ね。あははははははは……
どうやら僕は“魔王”というものにこだわりがあるらしい。それもそうだ。僕の半生は魔王と戦いの為に費やされたと言っても過言ではない。
サーゼクスくんはまだ分かる。オンボロアパートに訪ねて来たり、妹の授業参観に夢中になったりしていても、魔王の装束に身を包んだ姿は威厳に溢れていた。
しかし、この少女は―――
そりゃ世界が違えば魔王の在り様も異なるという事は分からなくもない。
でも、それにしたって……。
もし、僕の元いた世界を侵食した かの魔王が―――
『ついにここまで来たのね☆ 伝説の勇者とその一族のみんな! 私が誰なのか勇者ちゃん達はもう分かってるわよね☆ 魔界の王にして王の中の王 ミルドラースとは私のことよ☆
とぉ~~っても長い時間をかけて私の存在はすでに神をも超えたの! もはや世界は私の手の中にあるわ☆ 私の下僕ちゃん達があれこれと頑張ってくれていたみたいだけど……。あんなことはそもそも必要のない下らない努力にすぎなかったのよねん♡ 何故なら私は運命に選ばれた者、勇者も神をも超える存在だったの……。さあかかって来なさい。私が魔界の王たる所以を見せてあげるわ☆』
とか―――
『流石ね☆ 伝説の勇者とその一族のみんな! でも不幸なことね……。なまじ強いばかりに、私の本当の恐ろしさを見ることになっちゃうことになるなんて……。もう、こうなったら思いっ切り泣かせちゃうんだから! その苦しむ姿が私への何よりの捧げモノなのよ☆ 勇者なんておかしな血筋を私が今ここで断ち切ってあげちゃうんだから!!』
……って言ってきたら、さぞかし微妙な気分になったことだろう。
幾千幾万の魔物がひしめくエビルマウンテンの最深部で待ち受けるピンク色の可愛らしい魔法少女―――
まあ、それはそれで面白かったかもしれないが……。
ともかく、僕の勝手な思い込みを押し付けるのはよろしくない……。うん、よろしくない。
「セラフォルー様、お久しぶりです」
「あら、リアスちゃん! おひさ~☆ 元気にしてましたかぁ?」
「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」
「うんっ☆ でも、ソーナちゃんったら酷いのよ、今日のこと黙ってたんだからー! もう、お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」
冗談なのか巫山戯けているのか本気なのか……、何だかとても物騒なことを言っている。止めるべきなのだろうか。
というより、彼女は四大魔王の中では外交担当ではなかったかな? こんな調子で大丈夫なのか心配なんだが……。
「ん? リアスちゃん、あの子が噂のドライグ君?」
「はい。イッセー、御挨拶なさい」
「初めまして、兵藤一誠です! リアス・グレモリー様の
「初めまして、魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ レヴィアたんって呼んでね♡」
イッセーくんとセラフォルーが自己紹介をし合っている。イッセーくんは緊張しているふうだが、魔王の少女はノリノリだ。僕のイメージする魔王の重厚感とは程遠い。
「それで、こちらの方は?」
魔王の両目が僕を捉えた。僕もきちんと自己紹介しておこうか。
「僕はリュカだ。異世界から来た旅人だよ」
「へぇ~~☆ あなたが……」
興味深げに僕を観察する魔王セラフォルー・レヴィアタン。どうやら僕の力を見定めているらしい。
そこにサーゼクスが入って来た。
「私が呼んだんだ。会談の前に顔合わせをしておこうかと思ってね」
「これは、セラフォルー殿。何と言うか、実に奇抜な衣装ですな。魔王としては少々如何なものかと……」
「あら、おじさま☆ ご存じないのですか? 今のこの国ではこれが
「ほう、そうなのですか! これは私が無知だったようだ」
「ハハハッ、父上。信じてはなりませんよ」
グレモリー卿、サーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタンの談笑。
魔王と冥界の重鎮の会話とは思えない程軽い。
いや、ひょっとすれば あの魔界の王も裏ではこんな感じだったのだろうか?
「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくお姉様である私との再会なのだから、も~~っと喜んでくれてもいいと思うのよ?
『お姉様!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うの~、お姉ちゃんは!」
ソーナに無邪気に言い募るセラフォルー。どうやら妹への愛情は本物みたいだ。それも、極めて深い。しかし、『百合百合』とは何だろう? 何らかの儀式だろうか。
「……お、お姉様。私はここの生徒会長を任されているのです……。
いくら、身内だとしてもお姉様の行動は、あまりに……。そのような格好は容認できません!」
必死に苦言を呈するソーナ。だが、魔王レヴィアタンにはまるで通じない。
「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんな事を言われたらお姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーナちゃん知っているじゃない!
キラめくステッキで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」
「お姉様、ご自重ください。魔王であるお姉様にキラめかれたら小国が数分で滅びます!」
天使堕天使をまとめて抹殺……って、これから和平を結ぶってときにそんなこと言っていいの?
う、う~~ん……、本当にこの
イッセーくんはサジくんに何かを尋ねている。
「おい匙、コカビエルが襲ってきた時、会長はお姉さんを呼ばなかったけど、仲が悪いからってワケじゃないよな?」
「逆だ、逆。セラフォルー様が、会長を溺愛しすぎているから、呼ぶと逆に収拾がつかなくなるってさ。
妹が堕天使に穢されるとか言って、即戦争になってたかもしれん」
ああ、成る程。サジくんの説明を聞いて安堵した。姉妹の仲が悪い訳ではないらしい。
「うぅ……! もう耐えられません!」
ソーナは叫ぶと、後ろを向き逃げ出そうとした。羞恥からだろうか? 彼女の気持ちも分からなくもないが、やはり姉は大切にして欲しい。多少素行に問題があったとしても肉親であることには変わりない。
ソーナは 逃げ出した! しかし リュカに 回り込まれて しまった!
「なっ!?」
「知らなかったのかい? 魔物使いからは逃げられない」
「何なんですかそれは!!?」
魔王の妹が驚愕する。どうやら、僕の動きを認識できなかったらしい。『星降る腕輪』の御蔭かな。
取り敢えず、彼女の肩を掴むとセラフォルーの前に差し出す。
「逃げることはないだろう? どんな姿でも彼女は君の姉だ。君の愛すべき家族じゃないか」
「ちょ、ちょっとリュカさんっ!?」
「ありがとっ、リュカちゃんっていい人ね☆ ソーたぁぁぁぁぁんっ!!」
セラフォルーがソーナに抱きついた。その姿は本当に微笑ましい。悪魔であっても魔王であっても姉妹の愛は変わらない。
僕には兄弟がいない。彼女達のやり取りが本当に羨ましい。でも、ソーナはと言えば―――
「恨みますよ! リュカさぁぁぁぁぁんっっ!!」
姉に抱擁されながら、恨みがましい目で僕を睨みつけ、他方、すっかり蚊帳の外のイッセーくん達は生温かい目で僕を見ていた。
記念オルゴール:リメイク版DQⅤに登場。ラインハットの名産品。ヘンリーとマリアの結婚後にラインハットのヘンリーを訪ねると貰える。ヘンリーとマリアの結婚式の記念品であり、オルゴールの上に大きな二人の人形が付いていて、オルゴールを鳴らすとその人形も動くというカラクリ仕掛けのオルゴール。
どぐうせんし:DQⅣ、Ⅴに登場する土偶型モンスター。Ⅳでは限定的にシンボルエンカウントが採用された珍しい敵。ザラキ、ラリホーマを連発する厄介なヤツ。
ⅤではⅣから大幅に弱体化し、序盤の古代の遺跡やサンタローズの洞窟などに出現する。打撃の他、スカラで守備力を上げてしまうことがある。
また、活動報告にてアンケートを取りたいと思います。出来ればでいいですので是非 ご協力お願いします。