時を失った英雄 in ハイスクールD×D   作:ksb

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54話 二つの脅威

  

 

「光の教団だと……!」

 

 

 堕天使総督アザゼルの口から発せられたその言葉を聞いた途端、まるで雷に打たれたかのような錯覚に襲われた。

 まさかこの世界でその名を聞くとは……。信じがたい、信じたくない。

 ――いや、あのコカビエル襲撃事件の夜に、死んだはずのイブールと再会したそのときから、きっと心のどこかで予測していたのかもしれない。

 だが、愚かにも無意識にその予測から目を背けていたようだ。

 僕の狼狽振りが周りにいるサーゼクス達に伝わったのだろう。全員の目線が集中した。

 

 

「……ほーう、その様子じゃ心当たりがあるんだな。『光の教団』の名前に?」

 

 

 アザゼルが口の端に笑みを浮かべながら訊いてきた。でも、その目は一切笑っていない。

 それにミカエルも便乗する。

 

 

「私も興味があります。以前、ここにいるイリナにその組織について、話してくださったそうですね?」

 

 

 大天使が側にいる従者に目をやった。どうやら教会の使者として訪れた彼女達とオカルト研究部の皆に話して聞かせた僕の体験談の内容がミカエルにも伝わっていたようだ。

 そして、それはリアスの兄・サーゼクスも同様らしい。

 

 

「確か、君と友人を奴隷に貶めた邪教団だそうだな」

 

「ええ、その団体は一体どのような者達なのですか?」

 

 

 魔王と天使長の問い掛け。これは説明する義務があるだろう。

 

 

「そうだね……『光の教団』はかつて僕達の世界に存在した新興宗教団体さ。以前、リアス達にも話したが、彼らは世界の終焉を唱え、それから免れる事が出来るのは教団の信者のみだと言った。

―――もっとも、彼らの信仰する『魔界の神』というのが世界の混沌の元凶たる大魔王だったんだけどね。要するに魔界の出先機関だったわけだ」

 

「いわゆるマッチポンプってやつだな」

 

 

 アザゼルの簡潔なまとめに対して頷く。

 言ってしまえばそれだけのことだが、教団の行いによって何千何万もの人々が人生を狂わされたのだ。

 

 

「そして、先ほど話した大教祖イブールが教団のトップだ。同じ名の組織が、縁もゆかりもないであろうこの世界で暗躍していて、死んだはずの教祖も現れた……となれば答えは一つしかない」

 

「貴方の世界に存在した『光の教団』が復活した……ということですか」

 

「うん、信じたくはなかったんだけどね」

 

「チッ、面倒くせえな……。禍の団(カオス・ブリゲード)だけでも面倒くさいのに異世界の邪教団までこの世界で暗躍してるってか? 全く災難だな」

 

 

 僕の言葉にアザゼルが嘆息した。その様子に僕も同情する。

 

 

「問題は禍の団と光の教団が連携することです。この世界の不満分子と異世界の危険因子が手を結んだ場合、その危険性は倍増するでしょう」

 

「それはそうだろうね。でも、あの連中が他の者達と手を組むとも思えないし……」

 

 

 ミカエルが懸念を述べたが、判断材料が無いので何とも言えない。この世界の脅威の度合いが分からないから何とも言えないが、確かに厄介かもしれない。

 しかし、情報が無い以上は議論が行き詰り、全員が押し黙る。そこをサーゼクスが仕切り直した。

 

 

「……とは言っても、今の段階では情報もないし、推測するしかあるまい。それよりも存在がハッキリとしている敵対勢力への対処について論じるべきだろう」

 

「禍の団への対策……ねぇ」

 

「アザゼル、君は旧魔王派が関与していると言うが、他にはどういう者達がいるのだ? それに、その組織の頭目は誰だ?」

 

「頭目はまだ分からん。だが、構成員には魔術師が多数、神器(セイクリッド・ギア)所持者も大勢いるってハナシだ」

 

 

 アザゼルの説明を聞き、疑問に思ったことを口にする。

 

 

「どうして魔術師と神器所持者が危険分子に?」

 

「そうだねぇ……。多分、魔術師達が禍の団に与するのは……そっちの魔王さんの御趣味が原因じゃねえか?」

 

「どういう意味よ! 失礼しちゃうわ☆」

 

 

 堕天使総督が魔王レヴィアタンに意味ありげな視線を向ける。意味がよく分からなかったので周りを見渡すと皆が困ったような顔をしていた。

 サーゼクスが苦笑を浮かべながら解説する。

 

 

「ああ……、セラフォルーの趣味はあんまり本職の魔術師達からは受けが良くないんだ。『魔術というモノに対して誤解を招く』ってね」

 

「それは何と言うか……」

 

 

 確かに彼女の格好は少々子供っぽい感じがする。僕の娘が着る分には大丈夫でも、妻が着るのはちょっと…………くらいのシロモノだ。しかし、そんなことで危険な組織に入って魔王に反逆することもあるまいに。

 一方のセラフォルーはプンスカ怒っている。

 

 

「もう☆ 私が魔法少女に憧れててもいいじゃない! フン」

 

「まあ、魔術師共にもそれ以外に理由はあるだろうさ……。そんでもって神器所持者の方は……これまた色々ある。自身の神器を制御しきれず社会に馴染めなかった連中が危険思想に染まったり、制御できても才能に溺れたり、とかな」

 

 

 そう言ってアザゼルはイッセーくんの方に目を向けた。

 

 

「特に厄介なのは神滅具(ロンギヌス)の持ち主……それも自分の力を制御できないような未熟者がそうなることだ。神を殺し得るほどの力を持つ奴がテロリストにでもなったら、それこそ世界の均衡を崩しかねない」

 

「俺がそうなるってのかよッ!?」

 

 

 その発言にイッセーくんが激昂した。彼だけじゃない。周りにいるオカルト研究部のメンバー全員がアザゼルを睨みつけている。

 その気持ちは良く分かる。大切な仲間が個人の人格を無視して理不尽に殺された。怒りを抱くには十分すぎる理由だろう。

 しかし、何とも救われない話だ。神の遺産が世界の均衡を崩しかねないと危惧した堕天使が、何も知らない少年少女の命を狩って回っていたとは……。

 

 

「ま、そういう危険性があったから神器所持者を集めたり排除したりしてたワケだ。別に今のお前さんがそんなつもりは無いってことは解ってはいるが、レイナーレの奴が殺した時点じゃ知り様がねえからな。悪かったとは思っちゃいるさ」

 

「よくも抜け抜けとッ!」

 

 

 ますますヒートアップするイッセーくん……それにしてもアザゼルはもう少し言い方を変えられない考えられないものだろうか。命を奪っておいてちょっと軽過ぎはしないかな。

 僕が少々不快に思っていることが伝わったのだろうか、堕天使の総督は肩をすくめた。

 

 

「そう怒るなって、異世界の旅人さん。わかっちゃいるさ、いずれ償いはする。俺にしかできないことでな。赤龍帝もそれでいいだろ?」

 

「……くっ!」

 

「そのことについては我々にも責任があります。神が死んでしまったことが原因で、以前のように適切な神器所持者の管理をすることはできません。それが原因でいくつかの不幸が起きていることも事実です。そこにいるアーシア・アルジェントの『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』なども正しくそうです。『システム』の維持のために彼女を追放せざるを得ませんでした」

 

「『システム』……?」

 

 

 ミカエルの口からまた新しいワードが出て来た。『システム』とは一体何なのだろうか。

 テーブルを囲う三大勢力の長達は知っているようだが、それ以外の皆はよく分からないらしい。

 

 

「……神が消滅した後、『システム』だけが残りました。加護と慈悲と奇跡を司る“力”と言い換えても良いでしょう。それは神が行っていた奇跡などを起こすためのもの。神は自身で造ったこの『システム』を用いることで地上に奇跡の恩恵を与えていたのです。悪魔祓いや十字架などの聖具にもたらす効果などですね」

 

 

 大天使は説明しながらアーシアとイッセーくんの方を向いた。

 

 

「今は私を中心に『熾天使(セラフ)』の皆で、かろうじて機動させている状態です。故に、システムに悪影響を及ぼす者は遠ざける必要がありました」

 

「アーシアが、悪魔や堕天使も回復出来る力を持っていたからですか?」

 

「……信者の信仰は、我等天界に住まう者の源。信仰に悪影響を与える要素は、極力排除しなければ、システムの維持が出来ません。『聖母の微笑み』の場合、信徒の中に『悪魔と堕天使を回復できる神器』が存在することで信仰に疑問を持つ者が現れます。故に『システム』に影響を及ぼす禁止神器としているのです」

 

「だから、アーシアを追放したんですか?」

 

「はい。ですから、そのことはずっと謝りたかったのです。それに――ゼノヴィア、貴方もです。貴方を失うのは大変な痛手でしたが、我々一部の上位天使以外で神の不在を知った者が『システム』に直結した場所に近づくと大きな影響が出ることは免れません。ですから、貴方も異端とする他に無かった」

 

 

 ミカエルが沈痛な面持ちで述懐する。それを聞いたアーシアとゼノヴィアの二人は、むしろ恐縮しているようだ。

 

 

「誰よりも深く神を信仰していた貴方達を裏切ることとなってしまった。――本当に申し訳ありません」

 

 

 そう言うと、ミカエルは悪魔となった二人の元信者に頭を下げた。天使長の地位にありながら、過ちを認め、頭を下げれるのだから(ミカエル)は僕が思っていたよりも慈しみ深いのだろう。

 謝られた二人は、困惑しながらも笑いながら首を横に振った。

 

 

「どうか頭をお上げください、ミカエル様。長年教会に育てられた身、多少の後悔もありましたが……こんなことを言うのは他の信徒達に、申し訳ありませんが、今は悪魔としての、この生活に満足しております」

 

「ミカエル様、私も今、幸せだと感じております。イッセーさんや部長さん、オカルト研究部の皆さんやリュカさん……そんな大切なヒト達がたくさん出来ました」

 

「……貴女方の寛大な御心に、感謝します。それと、ゼノヴィア、貴方にはこれを―――」

 

 

 そう言うと、ミカエルは何もない宙から一振りの輝く宝剣を取り出した。だが、その剣にはどこか見覚えのある――ああ、僕がついうっかり壊しちゃって、錬金釜で直した

元『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』……現・エクスカリバー(仮)か。

 

 

「あの後、貴女が教会にこれを置いて行きましたが、これは貴方に差し上げます。三大勢力和平を記念しての贈り物として、そして貴方への謝意の証しとして、です」

 

「あ、ありがとうございます、ミカエル様!」

 

 

 ゼノヴィアが聖剣を恭しく受け取る。まあ、あの手の“持ち主を選ぶ系の武具”はちゃんとした使い手が持ってないと『宝の持ち腐れ』になりかねないし、好判断と言うべきかな。

 ミカエルは、続けてイッセーくんの前に進み出た。そして、再びもう一振りの宝剣を取り出す。

 

 

「これは龍殺しの聖剣『アスカロン』です。実は、これも赤龍帝殿、貴方に授けようと思いましてね」

 

「りゅ、龍殺しって……これを俺に、ですか?」

 

 

 アスカロン――か。見た目はなかなか立派な剣だ。それにこの気配(かんじ)、ドラゴンキラーやドラゴンスレイヤーと同じ、竜種への特効武器だろうか。何でまた、それを(イッセーくん)に?

 

 

「はい。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させると言った方が正しいでしょうか。歴代の中でも最弱の宿主と噂の貴方にとって、良い補助武器になるのではないかと思いまして」

 

「最弱……これでも色々努力してるんですけどね……、いえ、認めますけど」

 

 

 ミカエルのストレートな物言いに鼻白むイッセーくん。だが、大天使は構うことなく進める。

 

 

「実は我々三陣営の間で、贈り物をし合うこととなったのです。我々はすでに例の聖魔剣を頂きましたし―――」

 

 

 そう言いつつ、後ろで控えていたキバくんに目を向けるミカエル。すると、この会談の前にも三大勢力間で擦り合わせが行われていたということか。

 

 

「私とサーゼクス殿とアザゼルの三人で、この聖剣に特殊な術式を施してあります。ですので、悪魔の貴方でも問題なく触れますよ。さあ……」

 

『相棒、「赤龍帝の籠手」に意識を集中するんだ。波動を聖剣に合わせろ』

 

「お、おう……」

 

 

 天使長と「赤龍帝の籠手」に宿るドライグがイッセーくんに促す。イッセーくんが神器を展開し、恐る恐る触れると、アスカロンは光の粒子となり赤龍帝の籠手に吸い込まれていった。無事に譲渡が完了したらしい。

 聖剣であり、竜殺しであるアスカロンを、悪魔であり竜を宿すイッセーくんが拒絶反応もなく取り込めたことに安堵する。

 

 

「どうやら上手くいったようだな。これで俺ら三大勢力も目出度く講和成立…………っと、そうだ、忘れるとこだった。その前に俺達以外の世界に影響を及ぼしそうな奴らの意見を訊いとこうか、無敵のドラゴン様達?」

 

 

 一連のやり取りを見物していた堕天使総督アザゼルが、ヴァーリくんとイッセーくんを交互に見回しながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 新校舎で会談が行われているのと同時刻―――

 

 オカルト研究部の部室がある旧校舎に向かう一団があった。

 

 

「げるげる、げはははは! 不用心な奴らでげる。一番御守が必要な危険物にロクな監視を付けてないとは、間抜けとしか言いようがないでげる。それではお前達、手筈通りにやるでげる」

 

「「はっ!」」

 

 

 先頭に立った大柄な男のたった一つしかない大きな目玉が、ぎらりと残忍な光を放った。

 

 

 

 

 




ドラゴンキラー:DQⅡが初出。それ以降ナンバリング作品では皆勤など、シリーズではおなじみの武器。その名の通りドラゴン系の魔物に対して大きいダメージを与える効果を持つことが多い。昔は刃と手甲が一体化した、インドのジャマダハルみたいな形状だったが、Ⅷ以降は普通の剣に近くなった。

ドラゴンスレイヤー:ⅧとⅨに登場する剣系武器の一種で、「ドラゴンキラー」の強化版。
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