時を失った英雄 in ハイスクールD×D   作:ksb

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56話 刺客

 

 突然、目の前に現れた女悪魔の放った爆撃。それは新校舎の会議室を瓦礫の山に変えた。

 僕は咄嗟に防御魔法(スカラ)を使って事無きを得る。時間を止められて無防備になっていたアーシア、ヒメジマ、ソーナ、シンラ達をサーゼクスとセラフォルーが、他の動けた者達、キバくん、ゼノヴィア、シドーをミカエルとアザゼルが障壁を張って守った。

 

 

「三大勢力のトップが共同で防御結界とはね……、ふふっ、なんと見苦しい!」

 

 

 爆発の余波でもうもうと土埃が立つ。

 ……それがだんだん晴れていくと、前方から女の嘲笑が聞こえてきた。

 

 

「……どういうつもりだ、先代レヴィアタンの末裔―――カテレア・レヴィアタン?」

 

「いわゆるクーデターですよ。今夜の会談の、正に逆の考えに至っただけです、サーゼクス・ルシファー。神と魔王が居ないのならば、この世界を変革すべきだと」

 

 

 サーゼクスの問い掛けに、そう嘯いたのは強力な魔力を放つ、褐色の肌を大胆なスリットの入った服で包んだ、蟲惑的な美女であった。

 カテレア・レヴィアタン―――そう呼ばれた女悪魔は敵意に満ちた眼差しを僕達に向けてくる。

 

 

「カテレアちゃんやめて! どうしてこんな!?」

 

「セラフォルー……、正当な魔王の後継者たる私から、レヴィアタンの座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!」

 

「わ、私は……」

 

 

 セラフォルーの叫びに、カテレアは憎々しげな眼差しで返した。

 

 

「安心なさい、今日この場で貴方を殺して、私が魔王レヴィアタンを名乗ります」

 

 

 カテレアの宣言にセラフォルーが顔を歪める。

 どうやら二人は因縁浅からぬ関係……というかカテレアの方が一方的にセラフォルーを憎んでいるようだ。

 それも当然なのだろうか。彼女は自分自身が“魔王レヴィアタン”に相応しいと思い込んでいるらしい。

 そして、その座を奪ったセラフォルーが許せない、か……。

 

 彼女の気持ちも分からなくはない。まったく逆の称号に関してのことだが、僕にも経験がある。

 

 まだヘンリーと旅をしていた時代……魔界に囚われた母を救うためにどうしても“天空の勇者”が必要だった。サンタローズの洞窟で天空の剣を手にしたとき、『もしや、自分こそが伝説の勇者なのでは……』と全く期待しなかったと言えば嘘になる。

 でも、その束の間の願望は天空の剣の柄に触れた瞬間、木っ端微塵に叩き壊された。

 

 『 お ま え で は な い 』

 

 剣によってハッキリと、そう教えられたのだ。

 そのときの悔しさ、悲しさ、やるせなさは今でも脳裏に焼き付いている。

 『選ばれなかった者』の苦しみだ。

 “勇者”になれなかった僕と、“魔王”になれなかった彼女(カテレア)……本当によく似ている。

 

 だが、真の勇者たる息子と出会い、接していく中で気付いた。

 選ばれた者には選ばれたの者の苦しみがあるという事実に……。

 世界を救う勇者であることへの責任―――その重さは我が子の小さな体を圧し潰してしまいかねないほどに大きいものだったと僕は思う。

 だけど、ティミーは耐えた。耐えることができた。耐えられるが故に勇者だった。

 

 果たして、そのことを理解できないでいる彼女は、魔王の重責に耐えられるのだろうか――――?

 

 

「聞いたことがあります。前大戦で旧魔王が滅び、新たな魔王を立て、戦争を終わらせようとしたときに徹底抗戦を唱えたのが、旧魔王の血をひく者達だったんです。すでに戦力が枯渇していた戦後の悪魔達は、最後の力で強硬派の旧魔王軍の一門すべてを冥界の隅に追いやったんだとか……。

 その後、今の四大魔王様達が種の存続を旨に新政権を樹立したんだそうです」

 

 

 キバくんが僕に説明をしてくれる。…………なんと言うか、本当に僕のイメージする魔王像と違う。唯一絶対の魔の支配者ではなく血筋、情勢に左右される存在だとは……。

 一方、悪魔達のやり取りを眺めていたアザゼルは、苦笑しながら肩をすくめた。

 

 

「やれやれ、新旧魔王派の争いに巻き込まれたのかと思ったら、お前達の狙いは、この世界そのものというワケか」

 

「ええ、アザゼル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界、この腐敗した世界を私達の手で再構築し、変革するのです!」

 

 

 カテレアの言葉にサーゼクスもセラフォルーもミカエルも表情が曇る。

 しかし、堕天使総督は違った―――

 

  

「ククククッ……、フハハハハ」

 

「……アザゼル、何が可笑しいのです!」

 

 

 アザゼルの哄笑を、女悪魔が鋭い声で咎めた。アザゼルは悪童のような笑みを浮かべながら答える。

 

 

「ククク……、腐敗? 変革? 陳腐だな、おい? そういう台詞はいの一番に死ぬ敵役の台詞だぞ?」

 

「私を愚弄するか!!」

 

「それに、だ。大体、お前達は今、この世界で何が起きているのかわからないのか?

 これまではただの空想の産物でしかなかった異世界の存在が立証され、そこから明確な脅威が迫ってるんだぞ?

 だと言うのに、お前達旧魔王派はその連中とつるもうってのか? 自分達が世界を牛耳るために? 呆れてものも言えんな。到底魔王の器じゃない」

 

 

 アザゼルが冷たく言い捨てた。カテレアの表情が憤怒に染まる。

 しかし、アザゼルの言い分が全面的に正しいだろう。異常事態に内輪揉めをするなんて愚の骨頂だ。

 それに――――

 

 

「…………僕も君は魔王に相応しくないと思うなあ……」

 

「――――ッ!」

 

 

 ……つい、思っていたことが口から洩れてしまった。ボソッとした一人言だったのだが、耳聡く聞かれてしまったらしい。次の瞬間、カテレアが、まるでオーガキングのようなおっかない目で睨みつけてきた。

 

 

「異世界からやって来たばかりの……それも“ただの人間”に何が分かると言うのです?」

 

 

 おやおや、かなり御怒りの御様子だ。わざわざ“ただの人間”という部分を強調しての言葉。どうやら癇に障ったらしい。う~~ん、何と説明したものか……。

 

 

「……いや、別に大したことじゃないんだけどね。僕は異世界から来たんだし、当然の事だけどこの世界のヒトとは価値観が違う。だから、“魔王”って称号を持つ者の定義が異なる訳で―――」

 

 

 そのように前置きした上で……

 

 

「君、心臓が一個しかないだろう?」

 

「「「―――は?」」」

 

 

「僕の元居た世界にも魔王はいたし、渡り歩いて来た世界の伝承にも魔王と呼ばれるの者は登場するんだが……。そうだねえ、僕の知っている“魔王”と呼ばれる者は心臓を二つ持ってる場合が多い。更にその上の“大魔王”となると三つになる」

 

「「「…………」」」

 

「だから、魔王を倒そうと思えば二つの心臓を潰さなきゃならないんだけど、そのことを知らない勇者が心臓一つを破壊したことで勝ったつもりになって、魔王に『あいにく私の心臓は左右に一つずつあるのだ』と言われるのは、様式美みたいなものだね」

 

 

 僕の説明を聞いたサーゼクスとセラフォルーは引き攣った笑みを浮かべていた。

 そう言えば彼らも心臓が一つしかない。この世界でこの条件に意味は無いのかもしれない。

 

 

「……ハハッ、君のところの魔王は大変そうだね。他にも条件みたいなものはあるのかい?」

 

「んー……。そうだな、戦闘関連で心臓の数以外だと、高位呪文を覚えてるとか、強力な火炎か冷気を口から吐けるとか、一つの動作で二回攻撃できるとかだよ。

あと他に何か一芸を身に付けてる場合も多い。睨みつけただけで相手を強制的に眠らせるとか、相手の防御を無視した火炎や冷気を放てるとか、瞑想で肉体をバラバラにされても再生できるとか……大魔王クラスになると神さえも石にしてしまう呪いとか、人間の夢を具現化して一つの世界を創造するとかだね」

 

 

 サーゼクスの疑問に答えていく。その途中で疑問に思ったことがあったので、今度は僕が彼らに質問した。

 

 

「そういえば、君とセラフォルーは何かあるのかい? 雄叫びで敵の体を凍りつかせるとか……」

 

「いや、それは無理だし、心臓は一つだし、火炎も冷気も吐けないが……。我々悪魔の扱う魔力はかなり応用が利くし、わざわざ口から火炎を吐こうとは思わないよ」

 

 

 そういえばそうである。サーゼクスくんやリアスの滅びの魔力といい、ヒメジマの雷といい、それは飽く迄『魔力』の応用であり、呪文やブレス攻撃ではない。僕らの世界の基準で分類すれば『魔力を消費する体技』であろうか。

 そうなると、リアス達は『イオナズン』や『メラゾーマ』などよりも『火炎龍』や『ジゴスパーク』の方が適性があるのかもしれない。

 

 

「ふぅむ……、なかなか興味深いね。でも、やっぱり『激しい炎』くらいは覚えておいた方がいいよ? 『灼熱』とか『輝く息』は大変だけど『激しい炎』とか『凍える吹雪』ぐらいだったら君達ほどの潜在能力があればあっという間に習得できるだろうし……」

 

 

 サーゼクスくん達に勧めてみるが、どうも乗り気じゃない様子だ。まあ、別にいいだろう。この世界の魔王事情は良く分からないし。

 

 

「余所見を―――するなッ!!」

 

 僕とサーゼクスが無駄話をしていたことに痺れを切らしたのか、魔王に成り損ねた女悪魔が、魔力の弾を無数に放ってきた。

 

 

「―――はあああぁぁっ!」

 

 

 僕は 激しい炎を 吐いた!

 

 超高速で迫って来る魔力弾を炎が薙ぎ払う。全ての光弾を相殺し、打ち消す。

 咄嗟の判断であったが、我ながら上手くいった。僕もオカ研のみんなも全員無傷だ。

 

 

「……ナルホドね。確かに便利だな。おい、サーゼクス、セラフォルー、習ったらどうだ?」

 

「「…………」」

 

 

 アザゼルが茶化すような口振りで褒めてくれた。話を振られた両魔王は困惑気味だが……

 しかし、カテレアが言う通り、今は話をしている場合じゃない。襲撃者の頭目に改めて向き直る。

 

 

「ともかくだ。少なくとも今の君の力ではサーゼクスにもセラフォルーにも及ばない。“この世は力こそ全て”、なんて言うつもりはないけど、でも、魔族……いや、悪魔の中では大切なことなんだろう? なら、もう少し力をつけて、その上で話し合ってみるべきじゃないのかい?」

 

 

 僕に今言える精一杯の言葉。

 しかし、カテレアには通じなかった。否、そればかりか彼女の逆鱗に触れたらしい。

 僕のことなど路傍の石程度にしか思っていなかった彼女の表情が一変する。まるで、巨大な海魔に睨み付けられるような……背筋が凍るようなものを感じた。

 

 

「………気が、変わりました」

 

 

 カテレアはそう呟いた。そして、先程の爆発で破壊され崩落した壁が積み重なった瓦礫の山の影を見遣る。

 

 ――――ッ!

 

 彼女につられて、僕もその場所を見た。

 

 何かいる。

 

 何か、とても恐ろしいものが、だ。これまで僕や三大勢力のトップに、一切気取られないほど完璧に隠蔽していた者。

 おそらく先程からずっと潜んで、こちらを窺っていた何者かが、そこにいる。

 

 

「私が三大勢力のトップを抹殺し、有象無象の相手を貴方に任せるつもりでしたが……、私がこの男を殺します。

 その間の時間稼ぎは任せましたよ――――」

 

 

 カテレアの視線の先にある空間が歪み、そこから絢爛豪華でありながらそこかしこが薄汚れた儀式装束に身を包む、一人の男が現れた。

 

 

 

「大教祖イブール」

 

 

 

 故郷から遠く離れた異世界の地にて、僕は宿敵と二度目の会合を果たす――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

  イッセーside

 

 

 

「待ってろよ、ギャスパー、小猫ちゃん! 今行くからな!」

 

 

 俺とリアス部長は魔法陣を通じて、無事に旧校舎のオカ研の部室に転移してこられた。

 さっそく、部屋の中を見渡すと、小猫ちゃんとギャスパーが壁に貼り付けられ、捕まっている! 許せねえ! 

 

 拘束されている二人の前にいるのは数人のローブを来た魔術師達だった。中心にいる男以外は全員若い女……つまり魔女か!

 ―――って、今はそんなことはどうでもいいんだよ、しっかりしろ! 俺!

 

 

「部長! イッセー先輩! 来ちゃダメですぅぅぅ!!」

 

「ほう……、この建物にはイブール様が転移封じの結界を張って下さられたはずでげるが……一体、どういう仕組みでここまで来たでげる?」

 

「生憎だけど、その質問に答える義務はないわ。ギャスパーと小猫を放しなさい!」

 

 

 リーダー格っぽい男が耳障りな声で話しかけてきたので、部長が毅然とした態度で応える。

 すると、今までフードで隠れていた、大きな、そして一つっきりの目玉がぎらりと光った。

 

 げるげる、げははははは……

 

 人並みの身長だった男が、哄笑と共に、ぶくぶく膨れ上がり、着ていた服がビリビリ破ける。

 そこにいたのは瘤みたいにハゲた頭、一本の角、紫色の肌、一つ目の醜い顔をした巨大なバケモノだった。 こんなヤツ、絶対にこの世界の悪魔じゃない! 異世界の連中か!

 

 

「げるげる、げはげは! それこそ出来ん相談でげる……。この世界では希少種だという猫哨に『停止世界の邪眼( フォービトゥン・バロール・ビュー)』の所持者……是が非にでも回収するように仰せつかっているでげる!

 

 ―――すぅっ、……げがはああああっっ!!」

 

 

 怪物が激しい炎を吐いてきた! ヤバい、このままじゃ丸焦げだ! そう考えた次の瞬間、赤黒い魔力が俺の隣から放たれた―――

 

 

「はあああっ!」

 

 

 ナイスです、部長! 部長の滅びの魔力が奴の吐く炎を打ち消した! しかし―――

 

 

「げるげる、甘い! べ ギ ラ ゴ ン !!」

 

 

 怪物が間髪入れずに両手を掲げると、その手から光が迸り、頭上に灼熱のアーチが出現した。それを俺達に向けると目が眩むほどの光と、触れてもいないのに肌が焼けるほどの熱が一気に押し寄せてくる―――!

 

 

「部長ォォォオオオッッ!!」 

 

「――――ッ!?」

 

 

 咄嗟に飛び出して部長を抱きかかえると、横っ飛びに躱す! ほんの僅かの時差も無く、超高熱のレーザーが俺の背中を掠めて通過した。

 

 

「ぐああああっ!?」

 

「イッセー!?」

 

 

 熱い! 熱い熱い熱い熱い熱い! 背中がメチャクチャ熱い! この熱に比べたら前に戦ったライザーの炎なんて銭湯のサウナみたいなもんだぜ! 背中をごっそり削ぎ落とされたかと錯覚するほど熱い!!

 痛みのあまりに倒れ込み、床をのた打ち回る。

 

「イッセー!? しっかりして!」

 

「……大丈夫ッス、部長……」

 

 

 部長が心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。それに何とか答えて立ち上がり、怪物を見る。

 

 

「貴方は一体何者なの!? 答えなさい!!」

 

「我が名は神官ラマダ! 『光の教団』の最高幹部でげる! お前達も三大勢力も旧魔王派も全部、ただの踏み台げる!

 

 偉大なるイブール様の作りだす新たなる秩序の礎になることを誇りに思うがいいでげる!!」

 

 

 




心臓の数に関してはダイ大からです。
ハドラー ⇒ 二個 バーン様 ⇒ 三個
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