※この回には多分な独自解釈が含まれます。ご注意ください。
はぐれ悪魔―――爵位持ちの悪魔に下僕にしてもらった者が、主を裏切り、または主を殺して主なしとなる事件が極稀に起きる。
悪魔の力は人間の頃とは比べ物にならないほど強大だ。その力を自分の為に使いたくなる者がいる。それらの者たちが、主のもとを去って、各地で暴れまわる。
それが「はぐれ悪魔」だ。
そうした者は、主人、もしくは他の悪魔が消滅させることになっている。
更に、他の存在にも危険視されていて、天使、堕天使側も「はぐれ悪魔」を見つけ次第殺すようにしている。
―――何故なら制約を逃れ、野に放たれた悪魔ほど、怖いものはないらしい。
僕は今、イッセーくん、リアス、キバ、ヒメジマ、トウジョウと共に町外れの廃屋に来いる。僕も同行させて欲しいと願い出たとき、リアスはかなり渋ったが、最終的には許可してくれた。
毎晩、ここで「はぐれ悪魔」が人間を食らっているという。
それを討伐するよう、上級悪魔から依頼が届いたらしい。これも悪魔の仕事の一つだそうだ。
この話を聞いたとき疑問に思ったのは、「はぐれ悪魔」となった人間を転生させた爵位持ちの悪魔の存在だ。
人間を悪魔に変えて下僕とするという行いに、僕は今でも違和感がある。
確かにリアスは眷属たちを愛している。それに応えて下僕たちも主人に愛を捧げている。短い付き合いだが主従の絆は確かに感じた。
だが、己の下僕が「はぐれ悪魔」に堕ちた上級悪魔たちは、果たして自身の眷属たちを愛していたのだろうか…………
そんなことを考えながら歩いていると、廃屋となった建物が見えてきた。
「……血の臭い」
トウジョウがぼそりと呟く。
僕も腐敗した死体の臭いを感じる。そして微弱にだが、悪意の篭った魔力も―――
僕はリアスたち一行と共に廃屋内に入った。
「イッセー? それにリュカさんも」
「はいっ、部長」
「なんだい?」
「あなたたち、チェスは分かる?」
「チェスって……、ボードゲームのあれですか?」
「ああ、僕の元居た世界にもあったよ……」
エルヘブンに移住した伝説の名工が作ったという『モンスターチェス』を、臣下のピピンから献上されたことがある。それは一度も遊ぶこと無く名産品博物館に寄贈してしまったが、無事に元の世界に帰れたら、のんびりと遊んでみるのも悪くない。
「主の私を
「駒の特性?」
「私たちはこれらを『
リアスからの説明を聞いて、僕は何となく冒険者の職業を思い出した。女王はともかく、騎士はバトルマスターあたりだろうか。戦車は戦士、僧侶はそのまんまだ。兵士は……何だろう?
「何でわざわざそんなことを?」
「とにかく今夜は悪魔の戦い方を良く見ておきなさいイッセー、リュカさんも」
「あ、はい」
「分かったよ」
「……来た」
僕とイッセーくんが了解するとトウジョウが呟くように告げる。
暗がりから巨大な怪物が現れた。
上半身は美しく艶めかしい裸の女性、だが下半身は大型の獣だ。その上、尾は大蛇と来ている。
尾が蛇というのはウイングタイガーっぽいな……。だが上半身と下半身が違うのはタイガーランスやキマライガーっぽくもある。
「不味そうな匂いがするわぁ……。でも美味しそうな匂いもするわぁ……。
甘いのかしら? 苦いのかしら?」
「おっぱい!?」
イッセーくんが大胆……というか、恥じらいが無いというべきか、何も着けずに乳首も惜しげもなく露わになっている彼女の姿を見て、思わず歓声を上げた。
「はぐれ悪魔バイサー。主の元を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを吹き飛ばしてあげる!」
「小賢しい小娘だこと。その紅い髪のように、その身を鮮血で染めてあげましょうかぁぁあ?!」
バイサーが自身の形の良い豊満な乳房を揉みしだきながら嘲笑する。
イッセーくんはその淫猥な姿を見ながら鼻の下を伸ばしているが……。
僕はその乳房に魔力が集中していくのを感じ取った。
「雑魚ほど洒落の効いたセリフを吐くものね」
「こ、これがはぐれ悪魔……。ただの見せたがりお姉さんにしか~……♡ ……げっ!」
だが、下半身は巨大な獣だ。それに良く観察すると前足は人間の腕のようで、いささか生き物として歪んでしまっている雰囲気を放っている。
その部分を見て、おっぱいに興奮していたイッセーくんも冷めたようだ。
「主を持たず、悪魔の力を無制限に使うと、こういう醜悪な結果となるんだ」
キバくんの解説を聞いたイッセーくんは怯えながらも心底残念そうな表情になった。
「あんなに良いおっぱいなのに……あっ! アレ魔法陣じゃね!!」
バイサーが自分で揉みしだいていた乳房の乳頭が隆起し、それを中心に魔法陣が展開される。
そして――――
乳首から強力な閃光が放たれた!
事前に彼女の乳房には何かがあると思っていた僕は余裕を持って避けたが、すっかり見とれていたイッセーくんは反応が遅れる。
しかし、リアスが咄嗟に押し倒したおかげで、彼も事なきを得た。
……バイサーの放った閃光が直撃した壁は高熱のためかドロドロに溶けている。
集束させたギラ程度の火力はあるようだ。
「確かにバケモノだ……ッ!」
「油断はしちゃダメよイッセー。祐斗!」
「はい!」
「――消えた!!」
キバくんがなかなかの速さで吶喊する。その様子を見たイッセーくんが驚嘆した。確かに人間を止めて、まだ一月も経っていない彼の視覚では認識するのは難しいだろう。
「早すぎて見えないのよ。祐斗の役割は騎士。特性はスピード。そして、その最大の武器は剣」
キバくんが何もない空間から魔剣を産み出し、バイサーに斬りかかる。
バイサーもそれを迎え撃とうと、両腕に血塗られた巨大なランスを構えるが―――
高速の剣技を放つキバくんに、呆気なく手にした槍ごと両腕を斬り落とされた。
そこに、小柄なトウジョウが異形のはぐれ悪魔に向かって、一見すると無防備に近づいていく。
「危ない! 小猫ちゃん!!」
バイサーはキバくんに両腕を斬り落とされたことに激昂したのか、それまで美しかった顔立ちも人間離れした醜い怪物の物に変貌した。変化は顔だけに止まらず、獣の胴体の腹部に巨大な口が現れる。
「ウグウゥゥゥ!! 死ねえええぇぇェェッ!!」
怒れる怪物は胴体の大口で、弾丸のように突っ込んでくるトウジョウを丸呑みした。
「お、おわっ!!」
イッセーくんはその光景を見て驚愕するが、リアスは冷静そのものだ。余程に仲間を信頼しているようだ。
「大丈夫。子猫は戦車よ。その特性はシンプル。馬鹿げた力と防御力。あの程度ではビクともしないわ」
その言葉通り、一度は閉じた口がゆっくりと開かれる。呑み込まれたトウジョウが内側から突っ張り棒の要領で力頼みに開いたらしい。
服の所々が裂け、肌の一部を露出しているがピンピンしている。傷一つない。
「……吹っ飛べ」
そう囁いたトウジョウがバケモノの口から牙を破壊しつつ飛び出し、盛大に振りかぶって、思い切りバイサーを殴りつけた。
「ウガアアアアァァァ!!!」
バイサーは悲鳴を上げながらぶっ飛び、かなりの勢いでもって近くの石柱に衝突する。
彼女と激突した柱はそのままへし折られ、バイサーも轟音と共に床に倒れ込んだ。
「子猫ちゃんには逆らわないようにしよう……」
その様を見たイッセーくんはぽつりと呟いた。
「最後に朱乃ね」
「はい、部長。あらあら、どうしようかしら。うふふっ」
リアスの呼び掛けに応じた黒髪の少女ヒメジマ アケノはいつもの柔らかい笑みを浮かべながら進み出る。
「彼女は女王。他の駒の特徴を兼ね備えた無敵の副部長よ」
「あらあら。まだ元気みたいですわね? それなら、これはどうでしょうか?」
キバくんとトウジョウの攻撃でダメージを負ったバイサーの前に進み出たヒメジマは、天井に向けて魔力が込められた手を翳した。
カッ! ドドォーーンッ!!
廃屋内に眩く光る雷が凄まじい音を立てながらはぐれ悪魔の肉体に落ちた。
「ガアアアアァアアアアァ!!?」
「あらあら。まだまだ元気そうね?」
感電し、苦しそうな悲鳴を上げるバイサー。だが、ヒメジマは雷撃を和らげるどころか逆に強める。顔には快感や愉悦が浮かんでいる。
バリッ バリッ バリッ!!
「ギャアアアアァァァ!!」
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を魔力で起こす力ね。そして何よりも彼女は究極のSよ」
目の前の光景を僕とイッセーくんに解説する紅髪の少女。
嗜虐性、サディストか……。僕はあまりそういうのは好きじゃないな……。
「うふふふふふふふ。どこまで私の雷に耐えれるかしらね。ねえ、バケモノさん。
まだ死んではダメよ? 止めを刺すのは私の主なのですから。オホホホホホホホッ!」
「……止めなさい」
ピタッ!
もうバイサーに戦意は無い。にも拘らず攻撃を続ける彼女に、我慢できず攻撃を止めるように言った。
どうやら……、声に少々怒りが篭ってしまったらしい。
ヒメジマは嗜虐の悦びに酔った顔から、一気に冷水を掛けられたような表情になった。
その場は微妙な雰囲気に包まれたが、その空気を変えるようにリアスが言う。
「そうね……もういいわ。さて……最後に言い残すことはあるかしら」
「―――殺せ」
「そう、なら消し飛びなさい」
バイサーの言葉を聞くと、リアスは赤黒い魔力の波を巻き起こしながらバイサーに止めを刺そうとした―――
「待ってくれ」
「…………どうしたの? リュカさん」
「彼女は僕に譲ってくれないか? 僕の仲間にしたい」
僕の言葉を聞くと、リアスは戸惑いと呆れが入り混じったような表情をする。
「何を言い出すのかと思えば……。彼女は大勢の人間を殺めたのよ? どうして生かそうとするの?」
「確かにそれは許されないことだ。だけどね、僕には無闇に人間を眷属悪魔にする上級悪魔にも問題があるように思えるんだ」
同じ人間から上級悪魔の眷属になった者として、僕はイッセーくんを知っている。
彼は僕に「悪魔になって、ハーレムを作るという夢ができた」と教えてくれた。
確かにイッセーくんには夢があり、優しく導いてくれる主君が、頼もしい眷属仲間がいるだろう。だけど、彼女……バイサーはどうなのだろう。彼女の元主人は彼女をどのように扱ったのだろうか?
――彼女に夢はあったのだろうか?
――彼女に優しい主人はいたのだろうか?
――彼女に心許せる仲間はいたのだろうか?
「人間にしろ魔族にしろ、自身に不相応な力を得られれば驕り昂って、暴走するかもしれない。それなら、与えた力に相応しい人品に育つまで適切に導くべきだ。寧ろ、そうなってからでないと償いに意味はないと思う」
その爵位持ちの上級悪魔の一人として自分も非難された気がしたのだろう。
どうやらリアスは気分を害したらしい。かなり表情が歪む。
「でもどうするの?
「何とかなるさ」
リアスの声に棘を含んだ問いかけに、何でもないように答える。
「べホマ」
最上級の回復呪文を傷ついたバイサーに施す。
キバくんに斬り落とされた両腕が、トウジョウにへし折られた胴体の口の牙が、ヒメジマの雷撃による火傷がたちまちのうちに治っていく。
「初めまして。僕はリュカだ。突然だが君、僕の仲間になってくれないか?」
「……何だと?」
「言った通りの意味だ。君には僕の友達になって欲しい」
「ふ、巫山戯るなッ!!」
彼女は癒えた腕で得物のランスを拾うと疾風の如く襲い掛かって来て、僕を串刺しにしようとした。
そのとき、脳裏に昔出会ったある人物との会話が思い浮かんだ。
――― 憎む心ではなく 愛をもって モンスターたちと戦うのじゃ。 その おぬしの心が通じたとき モンスターは むこうから 仲間にしてくれと いってくる じゃろう ―――
地獄のような奴隷としての日々。そこから逃れ、最初に訪れた大きな町。巨大なカジノや怪しげな店が並ぶ煌びやかな街の片隅で出会った老人の言葉。
迫りくる槍を見ながら、僕はそんなことを思い出した。
ガシンッッ!!
今にも僕に突き刺さろうとしていたランスの穂先を片手で掴み、止める。
そして、静かに語りかけた。
「僕は君を愛している。君と共に歩みたい」
初めは美しかったが、今ではすっかり醜悪な怪物のモノと化した彼女の顔を真っすぐ見つめながらそう言いつつ、もう片方の空いた拳に愛と魂を込める。
そして、その拳を振りかぶり―――
「正拳突き!!」
殴った、彼女の横っ面を。
その一撃でバイサーは倒れる。
そして――――
なんと、バイサーが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている
仲間にしますか?
はい
記念すべき仲間第1号バイサーさん。
仲間にする描写については賛否が色々あるようですが、こういう方針でやっていこうかと思います。
合わないと感じられた方はどうか御容赦ください。