どうか、暖かい目でご覧ください。
「……うぅん、朝か……」
朝の日差しが僕の顔を直接照らす。何故ならこの部屋には日光を遮るモノが……つまりカーテンが無い。
それどころか、家具や日用品といった物がほとんど無い。とんでもなく殺風景な部屋だ。
長い間、旅をしてきて食事にも拘らなくなった。
いや、食事に拘らなくなったのは奴隷時代からだろう。
何せ、出される食事は干からびたパンと、具の少ない薄いスープ。そして、何の動物のものかも分からないカビの生えた干し肉という生活を十年も過ごしたのだ。
故に、調理器具の類もない。
寝具もほとんどない。
旅の最中、野営するのも日常茶飯事だった。国王になってから使ってたふかふかのベッドも妙に落ち着かなかった。
寧ろ、
この世界での生活と探索の拠点とするために借りた六畳一間の襤褸アパート。
そこでいつものように目覚めた。
否、いつも通りの
暖かい。
薄い毛布を一枚羽織っているだけのはずなのに。
特に右半身のみに温もりを感じる。
そして、二の腕に何かが乗っている。
それらの違和感が気になり右側を確かめると――――
全裸の妖艶な美女が僕の二の腕を枕にして、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
◇
「……バイサー、君にいくつか聞きたいことがある」
僕が起きると、その動きを感じ取ったのかバイサーも目を覚ました。
そこで何故こんなことになっているのか問いただすこととする。
「まず、君には取り敢えず寝巻きがわりに『布の服』と『布のズボン』を与えた筈だ。
何故着ていない?」
畳の上に無造作に脱ぎ捨てられた寝衣代わりの服を指さす。
「だってぇ~、寝苦しかったんだもの。そんな怒んないで御主人様ぁ」
彼女は僕に甘えた声で許しを請う。とても真剣に謝ってるようには見えない。
「ふむ……、では何故君は僕の毛布に潜り込んで来たのかな? 君の為に予備の毛布を与えた筈だが……」
今度はさっきの服と同じように無造作に置かれた毛布を指さす(僕が使ってる毛布より彼女に与えたやつの方が生地は上等だ)。
「一人寝が寂しかったのよぉ、いいでしょ? 御主人様ぁ」
先程と同じ調子だ。反省の色は無い。
「それに昨日の晩はあんなに激しく“愛”を教えてくれたじゃない」
「ふむ……」
昨夜、バイサーが仲間になったとき――――
僕の一撃で再び倒れ伏したバイサーは、起き上がり仲間になりたそうに見つめてくる。
僕はそれに頷いて答えた。
すると―――
異形の怪物と化していた彼女が変化し始めた。
上半身は現れたときの黒髪の艶めかしくグラマラスな美女。
下半身も美しい上半身に相応しい女性らしい曲線美にあふれた人型のものとなる。
熱っぽい上目使いで僕を見つめてくるバイサーをそっと抱き寄せる。
彼女はそれに抵抗しなかった。
そのまま、驚いているリアスたちの方に振り替える。
「御覧の通りだ。彼女は僕の仲間になってくれた。もう攻撃しないでくれるね?」
「………一体どういうことなのか説明してもらえるかしら?」
少し間を置いて、驚愕から立ち直ったリアスが質問をぶつけてくる。
まあ、予測できたことだ。
「ふむ……僕がいた世界や、旅をしてきた世界では複数の冒険者がパーティを組むのが普通だった。その冒険者たちはパーティ内でそれぞれの役割を担っていたいた」
「それぞれの役割?」
「そうだ。君たちの『
「魔物使い?」
「ああ、読んで字の如く“魔物を使役する”職業さ」
「その力で洗脳でもしたって言うの?」
「それは違うかな。君たちにもそれぞれの役回りが与えられ、その特性に見合った“武器”を持っているだろう?
キバくんは速さと剣。トウジョウさんはタフネスとパワー。ヒメジマさんは魔法……。でも、『魔物使い』の“武器”は剣でも力でも魔法でもない……。“愛”だ」
「“愛”?」
「そうだ。……それを伝えさえすれば『洗脳』なんてことをする必要はない」
リアスも他のみんなも明らかに半信半疑だ。だが、僕は自信を持って教える。
「目を真っすぐ見れば“愛”はきっと伝わる。相手が人間でも動物でも悪魔でもおんなじだよ。怒り、悲しみ、喜び……命は通じ合うものだ。
もう一度聞くよ。彼女を殺すのは止めてくれるね?」
リアスの目を正視し、静かに訊ねる。
「……分かったわ。でも、きちんと管理しなさい。
もし、そのはぐれ悪魔がまた人に危害を加えたら……そのときは絶対に殺すわ」
「分かったよ」
リアスたちに一礼すると僕はバイサーを抱えてその場を後にし、仮住まいのアパートに帰った。
現在―――
「御主人様ってば本当にダ・イ・タ・ンなんだから~♡
あんなに激しく“愛”を告白されたら、女としては頷くしかないじゃないッ♡」
う~ん、なんか様子が変だな……。まあ、プックルと再会した時も添い寝とかしてたし……。
まあ、いいか。♀のモンスターに好かれることも割とある。主にエンプーサとかから。
過去に例が無い訳じゃない。たぶん一過性のものだろう。
そう、強引に納得する。
「一応確認しておくが、僕の為にもう人は襲わないでくれるね?」
「モチロンよぉ。御主人様がいてくれるなら後は何にも要らないわぁ♡」
うん、何も問題はないな……。
僕は心の中で、そう結論付けた。
◇
その日の夜―――
再び駒王学園の校門前でイッセーくんを待っていた。
しばらくして、出てきた彼と合流し、彼の召喚者の元に向かう。
その道中……
「何だか浮かない顔をしているね? 何かあったのかい?」
そうイッセーくんに尋ねた。明らかに元気が無く落ち込んでいる様子だ。
「えっ、え~と、………何でもないです」
「……もしかして“自分が弱い”なんてことを気にしているのかい?」
彼がはぐらかそうとしたので、自分の考えをぶつけてみる。
すると、彼は驚きの表情になった。どうやら図星らしい。
「ははっ……、お見通しですか……。はい、正直に言うとそのことです」
「ふむ………」
彼の悩みは共感できるものだった。
僕の人生でも、“自身の無力さ”を克服することが最大の悩みといえた。
自分を人質にされ、あれ程強かった父が為す術もなく焼き殺されたとき―――
母を救うためには勇者の力が必要だというのに、その証たる「天空の剣」が装備できなかったとき―――
妻が、母と同じく出産した直後に攫われたとき―――
求めた勇者であった息子に、その勇者という重責を背負わせたとき―――
一体どれ程力を求めただろう?
そして、どれ程得られただろう――――?
「だが、リアスは君を愛している」
「えっ?」
「無論、今は臣下に対する愛情だ。でも、それだけでも十分なはずだ。
君という一人の にんげ……悪魔が生きる理由としては」
そうだ、「誰かに必要とされる」ということには、強さなど無くてもいいのだ。
僕が本当に辛かったときも、勇者でもない僕に、大勢の仲間が付いてきてくれた。
そのことが何よりの励みとなった。
「君を必要だと思ってくれている人がいる。今はそれで十分―――それでも強くなりたいなら、これから焦らず強さを身に付ければいい」
「……はい」
そうこうしていると依頼者の家に着いた。そこそこ大きな一軒家だ。
だが――――
……玄関が空いている。それに何か嫌な気配がする。
「イッセーくん。気を付けなさい」
「えっ? あっ、はい」
開きっぱなしの玄関から、そのまま家の中に入る。
二階には明かりも点いておらず、生き物の気配もない。
するのは一階だけだ。
一室だけ明かりが点いている。
「……ちわース。グレモリーさまの使い魔ですけど……。
依頼者の方、いらっしゃいますか?」
イッセーくんが恐る恐るといった様子で部屋の中に声をかける。
だが、返事が無い。
僕とイッセーくんは部屋の中に入った。
そこで見たモノは―――
人間の死体だった。
「ゴホッ!」
イッセーくんが顔を青くし嘔吐した。無理もない。その死体はかなり惨たらしいものだった。
壁に逆さ吊りに打ちつけられており、臓物が零れ落ちている。
急所を一突き……という感じではないな……。まるで、殺すことを楽しんでいるような感じだ。
「な、なんだ、これ……」
僕は殺し方から犯人の人となりを推測し、イッセーくんはただただ驚いている。
そこに声が掛けられた。
「『悪いことする人はおしおきよー』って、聖なる御方の言葉を借りたのさ♪」
振り返るとそこに居たのは、神父姿の白髪の少年だった。
目鼻立ちはかなり整っているが、あまり美少年という感じではない。
いや、美少年なのかもしれないが容姿以上に雰囲気に異常性を感じるからそう見えなくなってしまっているように思える。
「んーんー。これは悪魔くんと……人間なのに悪魔に魅せられちゃったお仲間さんじゃあーりませんかー」
僕たちを交互に見比べながら歓声を上げる。
悪魔と出くわしたというのにかなり嬉しそうな様子だ。
いや寧ろ、出くわしたから喜んでいるのだろうか。
しかし、確信する。この少年はやはり異常だ。
「俺は神父♪ 少年神父〜♪ デビルな輩をぶった斬り〜、ニヒルな俺が嘲笑う〜♪ おまえら、悪魔とその仲間の首を刎ね〜、俺はおまんま貰うのさ〜♪」
突然歌い出す少年。やはり情緒不安定なのだろう。
「僕ちゃんの名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属してる末端でございますデスよ。あ、別に俺が名乗ったからってお前さんたちは名乗らなくていいよ。俺の脳内メモリにお前たちの名前なんざ記憶したくないから、止めてちょ。
大丈夫だって、すぐに死ねるから! 俺がそうしてあげる。最初は超痛いかも知れないけど、すぐに泣けるほど快感になるから、新たな扉を開こうZE!」
どうやら、この少年もかなりの嗜虐性らしい。
昨日のヒメジマといいこの世界では流行っているのだろうか?
「おい、お前か? この人を殺したのは?」
「YES! YES! 俺が殺っちゃいました♪ だってー、悪魔を呼び出す常習犯みたいだったしー、なら殺すしかなくね?」
その答えを聞き、イッセーくんが戦慄する。
たしかに数日前まで争いとは無縁だった彼にとっては衝撃的な言葉なのだろう。
だが、時として人間は人間に対して、魔物以上に残忍になることがある。僕は身を持ってそのことを知っていた。
光の教団で奴隷たちを酷使する者の中にも人間はいたし、かつてカボチ村から魔物の仲間として追い出された時はただただ悲しかった。
「あんれ〜? 驚いちゃってるのかな? 逃げないのかな?おかしいなぁ、変だなぁ。
てゆーかさ、悪魔と取引するなんざ人間として最低レベル、クズ街道まっしぐらよ。そんなこともご理解できないもんですかねぇ? 無理? あーそうですかクズの悪魔だからしょうがないですよね」
「人間が人間殺すってのはどうなんだよ! お前らが殺すのは悪魔だけなんじゃないのか!」
「はぁぁぁ? 何それ? 悪魔の分際で俺に説教? ハハハ、笑える笑える。漫才コンクールで賞取れますですよ、それは。
いいか? よく聞け、クソ悪魔。悪魔だって人間の欲を糧に生きているじゃねぇか。悪魔に頼るってのは人間として終わった証拠なんですよ。エンドですよエンド!
だから、俺が殺してあげたのさー。俺、悪魔とそれに魅了された人間をぶっ殺して生活してるんで、お仕事でござんすよ」
「あ、悪魔だってここまでのことはしない!」
イッセーくんには悪いが、その言葉はちょっと疑問に思う。
「う~ん……、それは悪魔にも拠るんじゃないかな? バイサーみたいなのもいるし」
「ちょっ!? リュカさん!! それはそうかもしれないけど!!」
「はぁ~? 何言ってんの? 悪魔はクソですよ。カスのような存在なのですよ? 世間の常識ですよ? 知らないんですか? マジ、赤ん坊から……んや、胎児からやり直したほうがいいって、って人間から転生したっぽい悪魔のお前さんに胎児もクソもないか。むしろ俺がお前を
そして剣の柄から光刃が飛び出た。
ああいう武器は僕も一つ持ってるな……。確か『ライトシャムシール』だっけ?
しかし、そんなことよりも、あの刀からはレイナーレやカラワーナから感じた、堕天使と同じ力を放っている。彼女たちの仲間なのだろうか……?
「俺的にはお前らがムカつきMAXなんで、斬ってもいいですか? 撃ってもいいですか? OKなんですね? 了解ッス! 今からお前らの心臓にこの光の刃を突き立てて、このイカした銃でお前たち二人のドタマに必殺必中フォーリンラブしちゃいます!」
少年神父が僕とイッセーくんに向かって駆け出してきた。
そしてそのまま光の刀で薙ぎ払ってくる。
剣の技量やスピードは若さの割にはそこそこ高い練度と言えるだろう。
しかし、フリードの攻撃はそれだけではなかった。
筒状の物から光を放ってきたのだ。
僕は躱せたが、イッセーくんは足に食らった。
「ぐあぁっ!!」
「どうよ! 光の弾丸を放つエクソシスト特製の祓魔弾は! 銃声なんざ発しません。光の弾ですからねぃ。
ふむ、あれが『銃』か……実物を見たのは初めてだな。まあ、普通の『銃』ではないみたいだが。
銃のことは聞いていた。以前、旅をした世界にあるベンガーナ王国という国では戦車という兵器があったし、他の世界のガナン帝国にも大砲はあった。
これ等の世界や、より技術の発達した世界にはおそらくあったのだろうが見たことはなかった。
「死ね死ね悪魔! ついでに死ね、悪魔のお仲間さん! 塵になって、宙に舞え! 全部、俺様の悦楽のためにぃ!!」
少年神父が剣を振り回す。
僕は躱せるし、そもそも闘気を纏っていれば、当たってもあまり痛くない。
だが、イッセーくんはかなり厳しい状況だ。
何でも悪魔にとって光は猛毒らしい。その上、最初に足に祓魔弾を受けたせいで動きがぎこちない。
すぐに助けなくては! そう思ったとき―――
「やめてください!」
部屋の外から少女の声がした。
現れたのは修道女の装束を身に纏った金髪で小柄な娘だった。
その娘を見て、イッセーくんは困惑した貌で呟く。
「アーシア……!」
カボチ村:Ⅴに登場する村。ここの出来事は作中屈指の鬱イベント。
ドラクエで出てくる銃ってマァムの魔弾銃ぐらいでしたよね……?
なんでベンガーナ軍は戦車だけじゃなくて、銃も量産しなかったんだと思う今日この頃。