「アーシア……」
イッセーくんが目の前に現れた修道服姿の少女を見て、そう呟いた。
確か、彼とリアスが以前話していた迷子になっていたところを案内し、友人になったという少女だ。
どうやらはぐれ
「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。どうしたの? 結界は張り終わったのかなかな?」
「――ッ! い、いやぁぁぁぁぁっ!」
アーシアという少女は壁に打ち付けられたこの家の住人の遺体を見て悲鳴を上げた。
「カワイイ悲鳴ありがとうございます! そっか、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてですかねぇ。ならなら、よーく、とくとご覧なさいな。悪魔くんに魅入られたダメ人間さんはそうやって死んでもらうのですよォ」
「……そ、そんな……」
少女は驚き、目を見開いている。どうやら
不意に彼女の目線がイッセーくんを捉える。少女は更に驚愕の表情を浮かべる。
「……フリード神父……その方たちは……?」
「人? 違う違う。そっちの冴えないのはクソの悪魔くんで、隣のはそのお友達の人間失格さんだよ。ハハハ、なにを勘違いしているのかなかな」
「―――っ!? イッセーさんが……悪魔……?」
そのことは彼女にとって余程ショックだったらしい。アーシアは言葉を詰まらせている。
「なになに? キミら知り合い?
わーお。これは驚き大革命。悪魔とシスターの許されざる恋とかそういうの? マジ? マジ?」
さも、面白そうにフリードはイッセーくんとアーシアを見比べながら嘲笑する。
一方、イッセーくんは苦虫を噛み潰したような表情だ。
おそらく、悪魔と聖職者という立場の違いを鑑みて、二度と会わないと心に決めていたのだろう。
「アハハ! 悪魔と人間は相容れません! 悪魔に魅了されたクソ人間とも相容れません! 特に教会関係者と悪魔ってのは仇敵さ!
それに俺らは神にすら見放された異端の集まりですぜ? 俺もアーシアたんも堕天使様からのご加護がないと生きていけないハンパものですぞぉ?」
少女に向かいフリードがねぶるような目つきで言う。
だが、ふと疑問に思った。
堕天使? 神に見放された?
これらの発言から察するに彼らは正規の聖職者ではないらしい。
「まあまあ、それはいいとして俺的にはこのクズ男さんたちを斬らないとお仕事完了できないんで、ちょちょいといきますかね。覚悟はOK?」
僕はどうとでも対処できるがイッセーくんの方は危ない。
いっその事
……いや、それは良くない。彼は血に酔っているだけだ。堕天使から与えられた力を振るうことに酔っている。
僕が今まで仲間にしてきた魔物達の中にも人間に手にかけた者もいるだろう。
どうして、魔物とは分かり合えて、同じ人間の彼とは分かり合えないと決めつけるのか。
子供を血の夢から覚まさせるのも大人としての務めだろう。
そう意を決して前に踏み出そうとすると――――
「………おいおい。マジですかー。アーシアたん、キミ、自分がなにしてるのか分かっているのでしょうかぁ?」
アーシアが震えながら僕たちを庇おうとフリードの前に出た。
「………はい。フリード神父、お願いです。この方々を許して下さい。見逃して下さい。
もう嫌です。悪魔に魅入られたとか言って、人間を裁いたり悪魔を殺したりなんて、そんなの間違ってます!」
「はぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!? バカこいてんじゃねぇよ、クソアマが!
悪魔はクソだって、教会で習っただろうがぁ! おまえ、マジで頭にウジでも湧いてんじゃねぇのか!?」
少年神父が怒り狂う。―――だが、アーシアは引かない。
「悪魔にだって、善い人は、優しい人はいます!」
「いねぇよ、バァァァァァァァカッ!」
「わ、私もこの前まではそう思っていました………。でも、イッセーさん良い人です。悪魔だって分かってもそれは変わりません! 人を殺すなんて許されません! こんなの! こんなの主が許すわけありません!」
バキッ!!
フリード・セルゼンが銃床で横薙ぎに少女を殴打した。
「キャッ!」
「おい、アーシア!」
イッセーくんが思わず駆け出そうとする。
「……堕天使の姉さんからは君を殺さないように言われてるんですけどねぇ。ちょっとムカつきMAXざんすよ。
殺さなきゃいいみたないなんで、ちょっとレイプまがいなことまでしていいですかねぇ? それぐらいしないと俺の傷心は癒えそうにないんでヤンすよ。
……と、その前にそちらのクズ丸一号とクズ丸二号を殺さないと駄目駄目ですよねぇ」
フリードがかなり物騒なことを口走っている。
今まで黙っていたがそろそろ止めるべきだろう。
「よしなさい」
「あぁん? 何言ってるざんすか? 今更命乞いなんてしないッスよねぇ?」
「君と話がしたい」
飽く迄も冷静に話し掛ける。
だが、彼は全く取り合おうとしない。
「悪魔のお友達のクズ人間が何言ってるんすかー? さっさと俺に斬られて死んでくださーい。てゆうか目障りなんでマジで死ね! 死ねと思っただけで死ねやッ!!」
僕の言葉に怒り狂ったのか、真っすぐこちらに向かってきた。
―――これなら容易い。
「えい」
「ギャッ!!」
まず、彼が右手に持っていた光の刃を手刀ではたき落とす。
そして続けて軽く息を吸う。
「テメェェェ!!」
「コオオオォ」
銃を持つ左手に、
僕の推測が正しければ銃というものはおそらく冷気に弱い。確か、以前居た世界でも大砲が寒冷地で故障し使えなくなったという話を聞いたことがある。
あの銃は、見るからに精密な構造をしている。どうやら、その推測は当たったらしい。
カチャッ!カチャッ!カチャッ!カチャッ!
少年神父が僕に向けて何度も引き金を引く。だが故障してしまったために光の弾が出ることはない。
「さあ、お話をしよう?」
「……な、何なんだ、テメエは……」
今まで、頑なにふざけた態度を崩さなかったフリードが恐怖している。
まあ、分からなくもない。ブレス系の特技を人間が放つのは珍しい。職業システムがかなり発展した世界でないとまず無理だ。
だが、怯える彼に構わず話をする。
「アーシアさんの言う通りだ。悪魔にも様々な者がいる。君の言う通り人間と相容れない輩もいるだろう。
だが、ただ『悪魔だから」という理由で殺すのは感心できない」
「……は、はぁぁぁぁぁああああっ!? 何言ってるんですかねぇ!? 悪魔に魅入られたクズ人間と話すことなんて、なんにもありませーん」
持っていた武器を二つとも失っても、まだその態度を崩そうとはしない。
なかなか根深いものがあるらしい。
「話をしないのかい? ……なら握手から始めよう」
「なっ!?」
そう言って彼の血塗られた手を取り、もう一方の腕でそっと抱き締める。
「たとえ今、この場で分かり合えなくても、近い将来は理解し合えるかも知れない。……そのときのために分かり合うための努力はするべきだ」
言葉に心からの思いを込める。
自然に彼の手を握る手にも、彼を抱きしめる腕にも力が篭る。
そうだ。今すぐ分かり合えなくてもいい。カボチ村で村民に魔物の仲間だとして追い出されたときも、時はかかったが結局は分かり合えた。
今この時でなくてもいい、未来に於ける融和の種を、僕と
よう―――
「分かり合えないなんて悲しいじゃないか……。
ほら、僕も君も同じ暖かい血が流れている。同じように脈打っている。
……同じなんだ……、人間も、悪魔も、堕天使も……!」
フリードが僕の腕から逃れようと暴れる。
そろそろいいだろうと思い放してあげると、彼はその場に崩れ落ちた。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
少々強く抱きしめ過ぎたのか、彼は息を切らしている。
まあ、問題はないだろう。
「アーシアさんは大丈夫かい?」
「……えっ? あ、はい。大丈夫です」
僕とフリードのやり取りを見て茫然としていた彼女だが、話しかけると正気に戻った。
しかし、顔には先程の殴打による痛々しい痣が残っている。
「ホイミ」
「あ、ありがとうございます」
「イッセーくんにも」
「えっ? あざッス……」
二人の傷を癒し終えると少年神父が起き上がる。
「テメエ……」
「今日はもう帰りなさい。だが、もう人殺しはダメだ。二度とするんじゃないよ? いいね?」
出来るだけ言葉に力を込めて、フリードにそう告げる。
「おい、クソ人間……。おまえ絶対殺すから」
「今はそれでもいいよ」
フリードは顔を引きつらせながらも気丈に宣言する。
それになんでもないことだ、と言うように応えた。
すると、
ビカッ―――!!
まぶしい光か!?
周りを見渡すとフリードとアーシアの姿が消えていた。
「ア、アーシアッ! アーシアッ!!」
「まあ、落ち着きなさい。彼は『堕天使の姉さんからは殺さないように言われてる』と言っていた。……命の心配はないだろう」
「で、でもっ!」
アーシアがいなくなったことにパニックになるイッセーくんを取りあえず落ち着かせる。
「それにだ―――」
「それに?」
「近い将来、必ず
なんとなくだけど、僕はそう思う」
半ば確信を込めてイッセーくんに言った。
ちなみに、僕はこのとき知らなかったが、フリードが使ったのはフラッシュバンと呼ばれる物だったらしい。
そのことを後から教えられて「この世界には便利なものがあるもんだなぁ……」と感心した。
ブレス系:Ⅰの頃から存在するが、人間キャラが使えるようになったのはⅥから。ドラクエの職業システムは凄い(小並感)。
まぶしい光:Ⅴ以降に登場するマヌーサ系特技。MP消費0なのでⅤでは便利。
リュカの弱点:現代兵器 別に威力はどうってことの無いレベルだが急には対処できない。