魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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じゃあな、夢の残骸よ――

 魔王を滅ぼし、凱旋した勇者が、王宮内で役職を持つ権力者となった。

 名声と権力の双方を手に入れた彼等。

 さぞ、縁談の山が来るであろう――そう思うであろう。

 

 結論。

 レミディアス、アーレン、カスティリオの三名は。ただの一度たりとも、縁談の申し込みは無かった。

 

「まあ当然ですわね。――貴族ならば。我等に刃向かいし者の末路など知っているはず」

「カカ。見合い程度ならば受けてやらん事も無いがな」

「あら。意外ねカスティリオ。そういう話はむべもなく切り捨てるタイプかと思っていたわ、貴女」

「当然条件があるがの。わらわに打ち勝てる者で、そして生涯わらわに勝ち続ける気概がある者じゃ。謀略でもってわらわと縁談を結んでもそれはそれでよい。それもまた一つの勝利の形じゃ。――わらわに勝つという事は、その生涯をわらわの復讐に付き合わされることを意味するがな。それすらも勝ち続けられる者ならば致し方あるまい。謹んで縁談を受け入れよう」

「そういう話かと思っておりましたわ」

 

 王宮のテラスにて、二人の女が茶を啜っていた。

 レミディアス・アルデバランと、カスティリオ・アンクズオールであった。

 

 両者とも、魔王を打ち滅ぼせし勇者パーティが二人。王宮内での知名度も当然に高く、特にゼクセンベルゲンとの決闘にて劇的な勝利を演出したカスティリオには一割の羨望と――九割程の恐怖の目が向けられている。

 

「それで、貴様は良いのか?」

「わたくしがそこらの有象無象の縁談を受け入れるとでも?」

「そうかそうか。ところで――レロロじゃが」

「....レロロがどうかしたのかしら?」

「よいのか?」

「よいのか、とは?」

「なんじゃ。貴様の所にはまだ話が届いておらぬのか」

「だから、なんですの?」

「奴の所には、山のような縁談が届いておるらしいが」

「は?」

 

 は?

 

「奴は何故か我等の中では至極まっとうな人間性を持っておる。そして同時に我等にとっても無視は出来ぬ影響力がある。――奴一人引き入れるだけで、我等に対しての縁も出来る。そういう考えの者が山ほどジャカルタにはおるという話じゃな」

「.....」

「無論。レロロはどこぞの貴族との縁談など受けぬだろうがな。――とはいえ中には無視できぬ条件の者もおるであろう。まあ見合いくらいは....と考える事はあるかもしれぬ。奴は根が真面目じゃ」

「.....」

 

 レミディアスは茶を置く。

 表情こそ変わらないが。いつもの穏やかな目の奥に隠された冷たさが、漏れ出ているのを感じる。

 その様を、実に愉快気にカスティリオは見ていた。

 

「根が真面目じゃからのぉ。配下が出来て、苦しい生活を強いられる領民を見たらきっと責任感が芽生えるじゃろうて。政略結婚一つで領民が豊かになるなら....でコロッと行ってしまう事もありうる。何せ根が真面目じゃからのぉ」

「.....」

「どうする?」

「どうするもこうするもあり得ませんわ」

 

 レミディアスは――漏れ出る冷たさを全身に纏いながら、言葉を続ける。

 

「....レロロは我等勇者パーティが一人。我等と同列を成す英雄が一人だわ。そんな者をたかだか名誉欲に駆られたジャカルタ貴族如きに手渡す訳にはいきませんわ。我等の沽券にも関わる」

「かっかっか」

 

 冷静、から。冷酷、へ。レミディアスが身に纏う雰囲気が一変していく。

 

「レミディアスよ。一つ老婆心からの忠告をくれてやろう」

「....何かしら?」

「仮に。仮にじゃ。貴様が恋に落ちたとしよう」

「....万に一つもあり得ませんが、まあ仮定の話ですわね。聞きましょう」

「恋もまたこの世で幾星霜続く闘争の一つよ。貴様はまさしく闘争の天才であるが――悲しいかな。恋にまつわる闘争に関してはあまりにも不適格」

「....何が言いたいのかしら?」

「言葉を選ばぬ事を望むなら明瞭に言ってやろう。――貴様は恋愛に関しては超絶クソザコナメクジじゃレミディアス。才能も無ければロクな努力もしておらぬし努力の仕方も解らぬ。そこらの幼子の方がよりマシなレベルじゃ。もう生命体のカタチとして恋愛に向いておらぬ」

 

 そう微笑みを湛えながらカスティリオが言うと。

 大きく目を見開きながら、レミディアスは――杖をカスティリオに向ける。

 

「カスティリオ。その言葉を撤回するつもりはないわね?」

「無いが?太陽が昇っては降り、季節と共に星が移ろい、海に魚が泳ぐように。貴様は恋愛クソザコナメクジじゃ」

「殺されたい?」

「かっかっか。人間というものには悲しいかな。適正というものがある。悲しいよなァレミディアス」

 

 カスティリオは突き付けられた杖をものともせず、茶を啜る。

 

「恋とは不思議な闘争じゃ。敵を打倒するにあたっては間違いなく強さが必要じゃが。恋に関しては敢えて弱さを作る事の方が余程重要じゃからなァ。強さというものが至極邪魔になる事が多い」

「.....」

「貴様は弱味を見せる事を絶対に許さぬ。プライドが高く、強きを演じる事に執着する。恋心というものも人としてどうしようもない弱味じゃが。貴様はその弱さを徹底して隠す。――貴様の高すぎるプライドが弱きを見せる事を拒否し、恋心も否定し、結果何も伝わらぬ。恋という戦場にはつくづく向いておらぬよ貴様は」

「.....」

「さあ――どうする?」

 

 レミディアスは表情は崩さぬまま――内心では、歯軋りをしていた。

 カスティリオはこの弁舌の果て、言い負かした勝利の感覚に笑みを浮かべている。

 

 レミディアス・アルデバラン。

 悲しい程に、恋愛に向いていない女であった――。

 

 

▼▼▼

 

 

「――こんな味の料理があるのですね」

「口に合ったか?」

「はい。美味しゅうございました」

 

 レロロは取った出汁から灰汁を丁寧に取った後に裏漉しを行い。調合したスパイスと共に別に炒めた肉と野菜を投入。また暫し煮込む。

 カレーであった。

 

 出来上がったそれを、メイド長と共にパンに浸して食事をしていた。

 

「アンタ、ここに来て長いのか?」

「長いと言えば長いのでしょうか....。幼い頃にこちらに引き取られて、おおよそ十五年ほど経ったでしょうか」

「....そうか」

「とはいえ、私は幸運ではありました。――私は妾腹とはいえ貴族の血を引いていたので、人質を兼ねた保険の役割がありました」

「保険?」

「はい。私の元の名はクレオ・フレデリオと申します。今は没落し消え去ったフレデリオ家の血を引く者です。――ここの領主と政治的同盟を結び。妾腹の私はこの場所に出されました」

「.....」

「人質とはいえ、保険でもあります。フレデリオの女系が万一断たれた際に呼び戻す為の。そういう諸々の事情があり、前当主はそれなりに私を大事に扱ってくれました」

「....そっか」

 

 なので、と。メイド長は言う。

 

「まあそれでも側近の扱いでしたので。武術と、基本的な下級魔法程度は嗜んでおります。護衛の任もなんなりと」

「そりゃ心強いな」

 

 そうして、メイド長――クレオと共に食事をしていると。

 玄関先から呼び鈴の音が聞こえてきた。

 

「....誰だ?」

「恐らく、使用人志望の者でしょうか。――対応してきます」

「俺も行こう」

 

 という訳で。

 クレオとレロロが玄関先へ向かい扉を開けると――。

 

「失礼いたします。こちらの屋敷で使用人を集めているとお聞きしまして――あ」

「あ」

「?」

 

 その扉の先に現れたのは。

 レロロがかつて王宮で見た事のある女であった。

 

「――ぎゃあああああああ!何故貴方がいるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「そりゃこっちの台詞じゃ毒殺メイド野郎がァァァァァァァァ!」

 

 褒章を貰いに王宮に出向いた際に、勇者一行に毒を盛ろうとした挙句。アーレンによって告解魔法を掛けられた――王宮の給仕、アルスの姿であった。

 

 

「お前、生きてたのね」

「死んでたと思っていたんですか⁉」

「まあ....死んでもそれはそれで、って枠だったな正直....」

「ひどくないですか⁉」

「うっせぇバァカ。誰が自分を毒殺しようとした下手人に情けなんざかけるか。生き残れるチャンスを与えただけ感謝しろ」

「ひどい!」

 

 その後。

 一応、屋敷の中に入れ茶くらいは恵んでやることにした。

 テラスからのカレーの匂いに「美味しそうな匂いですね~。ですね~.....」と実に物欲しそうな声で呟いていたが。そこらの野良猫に餌付けするのもいけないのに暗殺メイドにしてもいいという道理はないだろうと完全に無視していた。

 

「ところで....あのぅ....私、雇ってはくれないですかぁ~?」

「ない。帰れ!」

「惨い!」

「どうして一度自分を殺そうとした女を雇い入れる貴族がいるってんだ馬鹿が!他を当たれ!」

「そんな冷たい事言わないで下さいよぉ!私あの日からずっと貧民街の片隅でぶるぶる震えながら潜伏し続けて、ようやく城塞都市の外に出られたんですよ~!同情しました?同情するなら仕事を下さい~!」

「凄い!これっぽっっっっちも同情できねぇ!」

「ええ~!これでも王宮で給仕の仕事していたから仕事は出来ますから!お願いしますよ~!」

 

 

 ぎゃんぎゃんと言い争う中。

 給仕のアルスは――ふと我に返ったように辺りを見渡した。

 

「....どうした?」

 

 アルスは真顔になりとことこと屋敷の内装を確認し。そして玄関口の柱の数を数え――表情が蒼ざめていく。

 

「お、おいどうした.....!」

「レロロさん!これマズい!マズいです!」

 

 アルスは血相を変えて叫ぶ。

 

「何がマズいんだ....?」

「この屋敷、構造そのものが術式になっているタイプの奴です!私一度だけ王宮の宝物庫で見た事があります!ここ、暗殺屋敷です!」

「へ?」

「屋敷全体を術式として、その構造で術式を形成するタイプの屋敷です!レロロさん、探知魔法を使ってみて!」

 

 言われるまま探知魔法を使う。

 何も反応はしない。

 

「探知域を屋敷全体に!天井から敷地の外まで広げて下さい!」

 

 アルスが言った通り。屋敷全体を覆うように球状に探知範囲を広げると。

 

 屋敷全体を包んだ瞬間。――ようやく探知魔法が”術式”を認識した。

 

「術式を刻むんじゃなくて、屋敷の内部構造で術式を作っているんです!――後はこの屋敷に必要量の魔力を注ぐだけで、全部爆発します!」

「え、マジ....」

「マジです!」

 

 

 アルスは「急いで!」と言って一足先に屋敷を出る。

 

 レロロとクレオはお互い目を合わせ、即座に屋敷の外へ走り出す

 瞬間――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷全体が、眩い光に包まれ――その全てが轟音と共に天に向かって火柱が上がっていた。

 

 

 

 

 

 レロロ・レレレレーロ。

 人生二度目の屋敷の大爆発であった――。

 

 

 

 

 

 

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