魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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これが!お前の!歩んできた道だァァァ!

「ほ....本当にこれでワシは助かるのじゃな.....?」

「ええ。ええ。敬虔なる女神の信徒よ。神の御意思が満たされれば、貴公の罪は晴らされるでしょう」

 

 暗殺屋敷が爆破される様を、遠目から見ている二人がいる。

 一人は、小太りちょび髭禿げ頭というこれでもかと陰険貴族のテンプレートをなぞりつつ脂汗を垂れ流す――今まさに天高く火柱を上げ吹き飛んだ屋敷の持ち主だった男であった。

 もう一人は、漆黒の僧服を着込んだ老年の男であった。

 がっしりとした肩幅の上。たくましい口髭を蓄えたその男は――にこやかな笑みのまま、爆発現場を見据えていた。

 

「無論....御意思が満たされれば、ですが」

 

 そうして。

 男の目には――火柱から逃げ出してきたレロロの姿が見えた。

 

「.....」

 

 その光景を無言のまま見つめ、

 

「あーららら」

 

 笑みから一転。老年の男ははぁ、と一つ溜息をつき呆れ果てた表情を浮かべた。

 

「どうやら貴方には、神の力添えは無かったようだ」

「な....どういう事だ....あ、あがががががが」

 

 元領主の男の身体には、何も外的な干渉は行われていない。

 暴力を振るわれたわけでも。何かしらの魔力反応があったわけでもない。

 

 だが。男の身体はみるみるうちに血色が失せ始め、身体全体にかけて激痛が走っていく。

 

「これまでの怠惰で傲慢な生活が招いた全てが結実しているのですよ。パッと見る限りでも、内臓に疾患が複数。それに性病も抱えていたようですな。今貴方は、それらが急速に悪化していっているのですよ。このまま病に朽ちるまで、是非とも苦しんで下さいね」

「き....きさま....!ワシは約束を守ったではないか....!屋敷の秘を教え、魔力を通す為の術式も教えたではないか.....!」

「私はねぇ。貴方に”レロロ・レレレレーロを確実に仕留める手段”を求めた訳で。その目的が達成できなければこんなものただやけに手の込んだ術式を拵えたキチガイの屋敷以上の何物でもないんですよ」

 

 男は、ただ無感動に――あり得ない速度で病状が悪化し、死へと向かっていく男の姿を眺め続けていた。

 

 

「どうしてこんな運命を辿ったんでしょうねぇ貴方は。生まれながら高貴な血を継ぎ、生まれながらの富と名声を受けた貴方が。その血が途絶え、富も名声も奪われ、そして何も残さず死に行く」

 

「可哀想な生命体です。力が与えられた時。その力をもって何かを成さんとするか。それともただその力に溺れるか。それは人としての適性です。貴方は生まれながら破滅しやすい適性の人間だったわけですな」

 

「きっとこれまで浴びるように飲んできた酒が内臓に病をもたらし。無分別に女を抱いてきたことが性病をもたらした。暴食も不貞も罪ですぜ貴族様」

 

「責めはしません。それが貴方の適性です。高貴な血の下に生まれれば下賤な欲望を駆逐できるなどただの幻想。貴方には特別な才能も無く、欲望を抑えるだけの器量も無く、力に溺れぬようにするだけの理性も無かった」

 

 滔々と。ただ男は説法していた。

 これより死んでいく者へ。何故お前は死なねばならぬのかをただただ説いていた。

 

「頼む....たすけ、たすけて....。痛い、痛いのじゃ.....」

 

「いやでーす」

 

「き...きさま、きさま...!それでも僧か.....腐れ外道め....!」

 

「外道....外道か」

 

 

 死に際に漏れ出たその言葉。

 老年の男は――それを耳にして、口元を大きく吊り上げた。

 

「道を外れると書いて外道ですが。では道とは何でしょう?」

 

「貴方がこれまで貴族であれたのも。貴族として血を紡いできた道の上に貴方が立っていたから」

 

「貴族としての威を保ち続けてきた道があるように。神という存在もまた同じように道が存在します」

 

「神が存在するか否かでいえば、私はいると考えます。この世は変わらず季節が移ろい。人の世を巡る法則があり。その法則に人は縛られている。この世界を設計した神のような何者かはきっと存在すると私は信じています」

 

「ただそれが、女神教の唱える神であるかどうかは解りません」

 

「なので、そういう意味で私は外道なのかもしれませんね。女神教の神の存在を確信しないまま、僧侶となっていますからな」

 

「ですが。これも貴方の前にある道と同じです。女神教の神が存在するかどうか、という前に。女神教という道があったのです」

 

「女神教を勃興した何者かがおり。それを信奉した何者かがおり。信仰を社会構造に組み込んだ何者かがおり。――そうして、神という(よすが)が、威が、権が、長く長く積み重ねられてきた。私はただその道に立っている。この道に本来立つべき人間ではないと自覚はしておりますがね」

 

「正直なところ――どうでもいいのですよ。神がいるかいないかなんて」

 

「神は存在しなくとも。神を畏敬し、縋り、縁とする人民の存在はいるのですからね」

 

「その道を、ただ――精々、利用させてもらうだけです」

 

「そして貴方は神にとって利用価値すらなくなった。ならば死んでください。さようなら~」

 

 

 男は――最終的に髪が全て抜け落ち、皮膚全体に黒い斑を浮かばせ、乾き切った血液を吐いて死んでいた。

 

 

「さて。生き残ってしまったのならば仕方がない。――まだ私がジャカルタ領内にいる事を悟らせるわけにはいかない。出来る事をやらねばなりませぬな」

 

 老年の男は、またしても深い溜息をついた。

 

「――魔王の術式がこの世界で観測されましたからな。この世界で、恐らく唯一であろう――魔王の術式を改竄できる力を持つ者を生かしておくわけにはいきません」

 

 男は右手を掲げ、詠唱を一つ。

 

「我が名は女神教司祭騎士長フェルメノーツ」

 

 手から生まれた術式はその構造を三つ、四つと変わっていき。

 それらが幾重に重なり合い。――召喚術式をくみ上げる。

 

 

「神罰を執行いたしましょう」

 

 

 組み立てた術式から生まれるのは、衣を纏い、羽を拡げた、端正な顔をした子どもの召喚体であった。

 女神教の教典における”天使”の姿をした彼等は――召喚者の命に従い、燃え盛る屋敷へと向かっていった。

 

 

▼▼▼

 

 

 爆発する屋敷から命からがら逃げだした先。

 魔力探知の反応があった後、空より――天使が現れた。

 

「――防御術式持っているか、クレオ!」

「氷魔法を転用したものであれば」

「上等だ!アルス、クレオの背後に行け!」

 

 天使が両の手を揃え祈りを捧げると共に――術式が刻み込まれる。

 術式から生まれ出るは、雷撃であった。

 

 神なる罰は、白き雷鳴と共に現れる。

 女神教の文言の一つであり、それを再現した術式と言える。

 

 クレオが氷の膜を作る防御術式を展開すると共に、レロロはその術式に手を加える。

 

 膜が形成されると共に、氷の一部が再構成され――雷鳴へ向かって氷塊となって飛んでいく。

 氷塊が落雷へ衝突すると共に再度膜を形成。クレオ側への落雷を一時的に押し留め――クレオ・アルスの双方が回避できる隙を作る。

 

「ひぇぇ~!」

 

 アルスはそのまま――凄まじい逃げ足にてその場を離れていく。

 

「お前も逃げろクレオ!」

「お断りいたします」

 

 天にそびえる天使たちを前に。

 クレオは――ただ変わらぬ目線を向け。そして一瞬だけ、己が主を見る。

 

 レロロは――雷への中和術式だけを己が身に刻み。雷への防御術式そのものは張っていなかった。

 雷の直撃を受け、全身に痺れが入っている。このままクレオが逃げ出せば、逃げ切る事は出来ないであろう。

 

 ――己が助かる為に私に防御術式の改良を行ったのではないのか?

 

 クレオにとってレロロは合理的な男であった。

 前領主とはまるで異なる。確かな価値基準と合理性があり、それに沿って動ける人物であると。

 故に。自分へ防御を張るよりも。クレオを動けるようにした方が助かる公算があるから助けたのだろう、と。

 

 だが。守るだけ守って後は逃げろと彼は言った。

 

 ――合理ではなく。単に私が生き残れるように図らっただけなのか?

 

 クレオは、その主の判断故に――彼がどういう人物像であるのか、また一つ理解の外に追いやられたような気がした。

 だが、関係ない。

 世の中、本当に心底どうでもいいが。

 ――己が責務を放り投げるほどに責任感がないわけでも、己を優先して守ってくれた主を見捨てるほど薄情でもない。

 

「――言ったでしょう。私は武術と最低限の魔法は修めていると。ああ、少し言葉が足りなかったかもしれません。謹んでお詫び申し上げます」

 

 くるり、メイド服をひらめかせて。

 袖口をまくり、懐より取り出した代物を両腕に装着する。

 

 それは仕込み手甲であった。

 装着した手先より、鎌の如き刃が飛び出す。

 そして。手先に氷の魔力を収束させ構えを取る。

 

「――()()()()()()()()の武術と、最低限の魔法を修めております」

 

 ふわり揺れるスカートの中。

 見えないその中で術式を展開し。跳躍と共に、その術式を踏む。

 術式により作り上げた小さな氷壁を蹴り上げ――空を舞う天使の群れへと突っ込んでいく。

 

 天使は術式を作り上げ、クレオへ雷撃を見舞わんとするが。

 術式を編むよりも前に、その首が手甲の刃にて斬り裂かれていく。

 

 断末魔と共に地に堕ち行くそれを冷たく見据え――氷の魔力が籠った掌にて別の天使の首を掴む。

 瞬間。

 掴まれた喉から冷気を通し。中にある気道から肺までを瞬時に凍り付かせる。

 吐き出す声も、生きるための呼吸も瞬時に封じ込められた天使は――声も上げられず、ばたばたと死にかけの虫の如く羽を振り回し――また地に堕ちていく。

 

 氷の足場の上。

 四つばかりの天使の命を、実に最低限の動作で抹殺した女は。他の生き残りを冷たく見据えていた。

 

「……」

 レロロは――呆けた顔でその様をただ見ていた。

 あまりにも予想外すぎる展開であった。

 

「――何かを殺す為ならば、この程度で十分でございますから」

 

 天使を前にすれども。

 何一つ、己が責務は変わらぬ。

 

「ゴミ掃除を始めましょう」

 

 神の使いとて。

 クレオにとっては――心底どうでもいい代物の一つでしかない。

 たとえ眼前に本物の神が現れようと同じことだろう。

 

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