一方その頃。
「.....」
こんにちは。
次代の魔王候補として転生したはいいもののすぐさま魔界滅ぼせそうな悪魔のような勇者を目の当たりにしたのでいっそのこと人間の世界に逃げ出しちゃおうぜ~★ という。実に舐め腐った考えで人間界に降り立ったクルルシカ・ドーエンでございます。
「このガキどうしたもんかね?」
「顔はいいがガキっぽいし....でも体つきはがっしりしてるし....どうしたもんかね....」
「最近は奴隷の売買も厳しいからなぁ。近場で売れなかったら、さっさとリリースすっかぁ....」
舐め腐った代償というものを即刻払わされました。
奴隷売買やってるっぽい犯罪組織にとっ捕まってしまった訳ですなガハハ。
人型の魔族で角とか尻尾とか複眼とかそういうものが存在しないフォルムだったので、何とかまあ人間らしくやっていけると思っていたのですけど。
人間らしくはやっていけましたが。
代わりに、こんなろくでなし共に目を付けられちまった訳です。
こいつら。私を何処の奴隷にやってやろうかな~とかふざけた事をぬかしている訳だが。本当、舐め腐っているのは私も同じだと思うが。同じだけこいつらも舐め腐ってやがる。この野郎共私魔族ぞ?マジで指先一つでこの世からサヨナラバイバイできるんだぞこの野郎。
私魔族なので割かし背が高いんですよ。で、出るとこも出ていますけど妙に童顔なんですよね。なので、女の奴隷として何処に需要があるかな....って悩んでいる感じっぽいですね。マジでぶっ殺してやろうかなぁ。人を攫うならちゃんと考えて攫いなさい。
多分リリースというのは穏便に済ませられるのではなく。殺してポイ捨てする事でしょう。やはりこのご時世に人攫いなんてやってるカスはダメですね。
どうしたもんかなぁ....?
そんな事を思っていたら。
恐らく外の見張りでしょうか。「ギャあ!」という短い悲鳴が轟きました。
その悲鳴を皮切りに。凄まじい雑踏の音と共に怒号と殴打の音が響き始めてきました。
「お、おい!何がおきている!」
悲鳴。
悲鳴。
結構大きめの組織だったのでしょうか。魔法使いまで出張っているようです。魔族が持つ生まれ持った感覚器から、術式の反応がぴくぴく動いています。外も群衆同士の大乱闘といった風情があります。何かしら騒ぎでも起こっているのでしょうか――?
「あ....」
そして。
私は――感覚器から伝わってきた情報に、一気に絶望のズンドコに叩き落される感覚を味わいました。
この犯罪組織に殴り込みにかけている群衆全員から、
この術式は、覚えがあります。
己が心の奥底に仕舞っておいた恐怖が――湧き上がるように。
雑踏も怒号も急速に近付いてきて。逆に犯罪組織側の反応が薄まってきています。全員死んだのですか?死んだのでしょうね.....。
そうして――遂に私が捕らえられている部屋にまで彼等はやってきました。
粗末な衣服に身を包み、その衣服にあまねく返り血を浴びに浴びている連中であった。
枯れ木みたいに痩せていたり。中には女子供すらいます。
「クソが....!」
そうして。
部屋にいた組織の一員がナイフを手に群衆の先頭に立つ男に突っ込んでいきます。
男は、まるで戦い慣れていないような、へなちょこな腰先から繰り出される猫パンチみたいな攻撃を繰り出します。
明らかに戦い慣れている側の刃物は何故か軌道を逸れ。
明らかに勢いのない猫パンチが男の延髄へ叩き込まれる。
延髄へ叩き込まれたそれは。奇跡的な打ち所の悪さを発揮し脳髄から背骨までを揺らす程の強力さを発揮し。男は全身の力を失われ、昏倒する。
「死ね!」
「死ね!くたばれ!」
「お前等の所為で人生狂ったんだ!娘を返せ!」
「俺の妻を何処にやった!」
「返してよ!ボクのママを返してよ!」
そうして群衆の怒りは倒れ伏した男を、虫の如く蹴りつけるという行為に発展させる。
脆弱なはずの力が何故か骨を砕かせ。内臓へ衝撃を届け。激痛を生み出していく。
彼等には――奇跡の加護が付いている。
同じだ。
同じ顔をしている。
その頭上に守護霊を浮かばせて。
鬱屈した感情が爆発した、怒り憎しみの形相を刻み付けて。
「やぁ」
そうして。
怒号やら悲鳴やら骨が砕ける音やらが響き渡る中。
現れた。
「君を探していたんだよ」
パンツルックに改造した僧服に身を包んだ女。
少年とも少女とも捉えられる、中性的な顔つきのその姿が。
「奴隷船をちょいと襲撃してね。隠されていたここの本拠を探し出したんだ」
「ボクの守護霊はこちらに幸運を運び込む。彼等の勇気が、結界に隠されていた犯罪組織の本拠を見つけ出すという”奇跡”を引き起こしたのさ」
「結界の出来が妙に良かったからちょいと苦戦しちゃったね。君の魔力反応まで断絶させられるとは。まあでも、苦労した甲斐はあったね」
「ああ。もしかしてはじめましてかな?」
「――ボクの名前はアーレン・ローレン。君たちのかつての王をぶっ殺した超カワ破戒僧だよ~。君の名前も聞いていいかな?」
にこやかに笑みを浮かべ、そう女は私の前にやってきた。
あ
あ
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁァァァああああああああああああ‼」
かつて魔界を蹂躙し。何もさせずに魔王を滅ぼし尽くした、忌まわしい悪魔が四人。
その内の一人が――全く同じように現れた。
怒り憎しみに囚われた者共を暴走させ、暴徒を形成し、虐殺の道を作り出す、扇動者の魔法使い。
何百年という間溜め込んだ魔族共の怒りを用いて暴動を引き起こし。魔界を混乱に陥れた最悪の魔法使いが。
眼前に。
「君にも幸運の加護がある。――女神教のクソ馬鹿共にとっ捕まるよりも、君は随分マシな方に先に見つけられたよ。そうだろう?次代の魔王様?」
▼▼▼
あの家に出される真なる目的を私は知っていた。
――私に、あの男を殺させるためだ。
貴族の子など、その権力を握る事が出来るまでは都市に住まう庶子よりもきっと死にやすい。
妾腹の子など特にそうであろう。
本妻からは当然憎まれるし。憎まれるだけではなく暗殺を仕掛けられる事も日常茶飯事。
――だから私は力を付けた。
腹違いの兄から襲い掛かられ、習得していた氷魔法で気管を凍らせ返り討ちにしたあの日から。人の殺し方を本能的に理解した。
己は氷の下級魔法しか使えぬ。
だが、人を殺すにはそれだけで十分。
気管を凍らせればそれだけで人は死ぬ。
冷気を操れば死角もカバーできる。
氷壁を作れば空へ逃げる事も出来る。
人の殺し方を。己で考え、手法を編み、練度を高め、より鋭く、より強靭に、クレオは研ぎ澄ませていった。
そうして。クレオは別領主の下へ出される事となった。
少女性愛傾向のある、悪い噂の絶えない貴族。
クレオに手を出し、返り討ちに殺してくれることを望んでいたのだろう。
だが。新しく出向した先にいた男は――唯一、危機本能だけは高かったのだろう。
人を殺す術を磨き上げた鋭い雰囲気に。恐怖の感情がきっと先だったのだろう。
世の中、どうでもよかった。
だから。自分の貞操を守る為に――己が主を殺して処刑されるならそれもそれでよい。
そういう、ある種の自棄な思考が――逆にクレオの身を守っていた。
きっと殺す理由が見つかった時は、躊躇いも無く殺す。その意思を、前の主は理解していたのだろう。
「――ゴミは片付けました、ご主人様」
ニコリともせず、無表情のまま。
クレオは――天を駆ける天使の悉くを殺し尽くすと。レロロの眼前にて一礼した。
「あ、ああ....よくやった....」
レロロはあまりにも予想外の展開を前に口元を引き攣らせて、ただそう呟いていた。
――な、なにが起きている....?
数秒固まった後。レロロはある事に気が付き、ハッと意識を戻す。
まだ危機は続いている。
「いや。ボケっとしている暇はねぇな。――取り敢えずこの場から逃れるぞ。転移魔法を使う」
「転移魔法....?ご主人様。私はそのような高度な魔法は扱えませぬ」
「俺もだ。魔力が足りねぇ」
「ならばどうなさるおつもりで?」
「こいつを使う」
そう言うと。
レロロは転移の術式を地面に刻み込み。クレオには大急ぎで天使の死骸を集めさせる。
そして――集めた死骸を転移陣の中心に置く。
「アルス....はもうどっかに逃げたな。よしよし。二人分の魔力で事足りるか。ならギリギリ足りるな」
そう呟き。レロロは一つ息を吐いた。
「本来、召喚魔法は本体の魔力が切れるか、殺されるかしたらその肉体は消える。こいつ等、殺されても肉体が消えていない。という事は」
天使の肉体。
そこには――また別の術式が刻み込まれている。
「こいつは一般的な召喚体じゃねぇ。肉体を魔力で作った上で、そこに召喚で呼び出した魂を封じ込める形で動かしている。滅茶苦茶高度な魔法だ。レミディアスとは別の方面で研鑽を積んだ召喚魔法使いだな」
「何でそんなやり方をするのでしょう?」
「肉体を作り出す召喚のやり方は魔力の負担が重いが、一度作り出したら召喚体の自律行動の精度が上がるし、活動時間も相当長くなる。そして、いざ死んだ後に――」
天使の死体に刻み込まれた術式。
それが発動し――凄まじいまでの魔力が収束していくのを感じた。
「こうして、自爆用の術式を、残った魔力で発動する事だって可能なんだよな」
レロロは爆発の瞬間に。己が左手に別の術式を刻む。
「それを利用する。爆発する瞬間に体外に放出される魔力をこっちで吸い上げて――足りねぇ魔力の不足分を賄う」
「そうですか」
術式の発動が一瞬でもズレれば、レロロもクレオも死ぬのであろう。
だが。――クレオは全く動じていない。
「行くぜェェェェェェェェェ!」
大爆発と共に、燃え盛る屋敷は今度は跡形もなく吹き飛んでいった。
残るものは、何も無くなった。
▼
「は~あ」
転移の瞬間。
身体が分解され、転移地点で再構築されるこの感覚を、恐らく一生慣れる事はないのだろう。
だが――。
「助かったァ!」
無事、転移は間に合い。
爆発に巻き込まれ無惨に骨一つなくなる死に様を晒す事無く――生き残る事が出来ました。
「ここは....?」
共に転移を果たしたクレオが周囲を見渡す。
眼前には、よく手入れされた庭園と。――巨大な王宮がある。
「ジャカルタの城塞都市の王宮。――これ、サッサと報告しなきゃならねぇしなぁ」
「ここが....」
恐らくはじめて見るのであろうか。クレオはジッと、その姿を見ていた。
「....あら?」
ふらふらと立ち上がろうとしたレロロの前に。
――漆黒のドレスを着込んだ女が、現れる。
「あらあら。――随分とボロボロねぇ、領主様?」
「レミディアス....」
恐らくレロロの魔力反応があった故に真っ先に来てくれたのだろう。
何だかんだこうして皮肉を吐き散らしながらも、こいつにも仲間が転移してきたら心配で真っ先に来てくれるくらいには人間らしい感情の機微が生まれてきてくれたのか。いやはや成長とはやはり素晴らし――。
顔を見る。
そこには――明らかに目の奥が笑っていない、バケモノの目があった。
「え?」
「.....」
遅れてやってきたカスティリオは、凄まじいまでに性格が悪そうなニヤケ面を浮かべていて。
レミディアスは、何故か怒りの表情でこちらを見やっている。
え?
え?