魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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待っていた..... お前みたいな外道を.....

 ハレドの属国であった地には。現在夥しい程の争いが巻き起こっている。

 かつてハレドが運営していたプランテーションは多くの犯罪組織により支配され。食料の流通が大きく制限されている。

 プランテーションを巡る抗争は日々激化し、市民は食糧難と治安悪化のダブルパンチを食らい餓死者の山が出来上がる。

 

 ――この状況下。アーレンは己が魔法により市民へ守護霊を付与し。プランテーションを支配する犯罪組織への襲撃を行わせている。

 争いが、渦巻いている。

 

「――良い環境です」

 

 山の如く積み上がる死者の山。

 それらを見据え――フェルメノーツは神典を手に術式を作る。

 その術式は、二つ。

 因果操作魔法の術式に重ね合わせる――”反転”の術式。

 

 因果操作魔法は、術式付与者に対して善果を運び込み、悪果を排する。

 

 この効果を逆転させる。

 

「悪辣な環境であればあるほど――効果を放つ魔法は私の手にもある」

 

 術式の対象に向け――善果を排し、悪果を運び込む。

 

 

「あ....?」

 

 異変が巻き起こる。

 暴動の最中にあった市民。

 暴動を抑えんと必死の抵抗をする犯罪組織の構成員。

 暴動の影の最中にて身を潜める者共。

 

 その全員の肉体に。

 

「が....あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

 

 皮膚の色が変質し、その目から血涙を流す。

 暴力により命を奪い合っていた者共は――その瞬間から、己を蝕む病によりその命を散らしていく。

 

 暴動により生まれた生傷。返り血。そこから入り込む病原菌。

 もしくは街中に放置された死体より悪化した衛生状況。

 きっと――このまま放置しておけば、ごくごく自然と疫病が発生し、更なる死者を生むのだろう。

 

 フェルメノーツの因果操作を逆転させた魔法は、そういう因果関係をとことん加速させる。

 

 悪因により発生する悪果。

 劣悪な環境であればあるほど。その者に内在する悪因が多ければ多い程。この魔法は効果を発揮する。

 

 劈く悲鳴がフェルメノーツを中心に響き渡っていく。

 

 悪果をもたらし、善果を駆逐する。

 

 悪化した衛生状況によりもたらされる疫病を加速度的に蔓延させ。人間が持つ病への抵抗力を大きく低減させる。

 

 

 そして。

 この魔法により生まれ得た死者は――死への絶望の最中にて、強い救済への願いを込める。

 

 ――たすけ、たすけて....たすけて、神様....。

 

 予想もしえない死をもたらされた者達は、己の外へ救済の願いを込める。

 そうして死の狭間に生まれ得た絶望と。その一瞬の間に表出する救済願望を抽出し――魔力に還元する。

 

 アーレン・ローレンは、無意識に押し込めていた怒り憎しみを魔力に還元し、その者に守護霊を付与する。

 フェルメノーツは、

 

「ああ....ぎゃ....あ....おぎゃ、ぎゃああ」

 

 病に斃れ伏す者共。

 彼等は死を目前として――暖かな体温に己が全てを抱擁されるような感覚が走った。

 

 そうして出来上がった死骸を基に魔力が形成され。魔力がかき集められ――何かが形成されていく。

 

 形成された代物は、翼の生えた女体の巨人であった。

 建築物よりも遥かに高い体躯の上。尼僧服を着込み穏やかな笑みを湛えた何者かが召喚される。

 

「――五老聖、最初の一人。ミステン」

 

 それは。女神教に伝わる、神話上の人物。

 その巨躯を持って大いなる苦難を乗り越えた大聖人が一人。

 

 周囲の建造物よりも遥かに高いその肉体にてミステンは地面へ跪き。古代言語にて何事かを詠唱する。

 

 

 詠唱は空の色を緋色に変え。

 緋色より、灼熱を纏った何かが空より降り落ちる。

 

 それは――隕石であった。

 

 

 かつて悪魔により支配され、病が蔓延していた国々を滅ぼすべく行使された聖人の魔法。

 それが――天から降り注いだ。

 

 

 

 

「さてさて」

 

 空より降り落ちてくる隕石を一瞥し。

 アーレン・ローレンはそっと目を細める。

 

「これで、君が術式を使わなければ。二人諸共に死ぬ事になるね」

「え....ええええええええ!?」

 

 落ちてくるそれを見て、アーレンは――神弓をつがえる。

 

「ボクの魔法は、群衆それぞれの感情を魔力に変換して使用するもので。ボク自身に魔力を蒐集させる事は出来ない」

 

「先生もまた同じ。あの人は因果操作の効果を反転させて死なせた群衆の感情を転換させているが。やはり自分への蒐集は出来ない」

 

「だから。死者の感情を使って、女神教の聖人を”召喚する”という手続きで転換した魔力を用いている」

 

「あの隕石を跳ねのける手段がボク一人には無い」

 

「だから――頼むよ」

 

 

 にこにこと、アーレンは笑っている。

 イカれてる。この女は心の底からイカれている。

 

 今、目前に死が迫っているというのに。全く死の恐怖を感じていない。

 むしろ――この死を回避できるのか。そのギリギリの瀬戸際の最中を、思い切り楽しんでいる。

 

「な....なんでそんな笑っていられるんですか!」

「生と死は表裏だよ。死にたくないという思考は、生きる事への執着を強く強く浮き彫りにしていくんだよ」

 

 轟々と音を立て迫りくる隕石を眺め。アーレンは己を決して変えない。

 

「――さあ。君の生への執着を見せてくれ」

「.....」

 

 ――そして。心底から信じている。

 まだ出会ったばかりの次代の魔王が、生き残る為に全力を尽くした上で。

 全力を尽くせさえすれば、この危機を乗り越えられると。

 

「君はボク等勇者の恐怖を知り。その恐怖から逃れる為に魔界から逃れた。素晴らしい行動力だ」

 

「この行動力に敬意を払い、ボクは君を信頼する事にした」

 

「君の人間性への信頼ではなく。己が生き残るためには手段を選ばない。きっと勇気を絞り出すであろう信頼だ」

 

「死にたくないだろう?ならば――全力を出さなければならない」

 

 

 にこやかなアーレンの声に。「ぐええええええええええ!」と奇声を上げながら――クルルシカは右手を上げる。

 

「やりますよ!やりゃあいいんでしょう!この鬼畜!悪魔!勇者!」

「そうだ!やればいいんだ!頑張ってくれ~!」

「うわあああああああああああああ!」

 

 

 眼前の恐怖を乗り越えんとする意思が、アーレンの魔法と繋がる。

 にこやかにその様を眺めるアーレンの目には。クルルシカの頭上に浮かび上がる守護霊が映っていた。

 

 

 魂の蒐集が、始まる。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 魂の蒐集が始まる。

 ”死者の魂を集め、それを魔力と変換する”という魔王の術式が発動した事により。クルルシカとフェルメノーツとの熾烈な魔力の蒐集戦が勃発する事となった。

 

 フェルメノーツが死を目前にした救済を祈る感情から召喚体であるミステンへの魔力を蒐集すると共に。

 クルルシカはこの国で死に、彷徨う魂を蒐集する。

 

 魂を魔力に還元し、アーレン・ローレンへと差し渡す。

 

 

 瞬間――アーレンは己が身に術式を刻み付ける。

 

「聖天使、ファリエリーゼ」

 

 刻み付けた術式はアーレンの全身へ行き渡り、その姿を光のベールで覆い隠す。

 

 ベールが剥がれると共に現れるは――純白のワンピースを着込んだ、清廉な少女であった。

 

 それは。かつて神弓を女神より明け渡されたとされる少女の姿。

 清らかなる乙女の口元に――悪意が籠った笑みを浮かべつつ。かつての聖人をその身に降ろしたアーレンはイムリスの弓を引く。

 

 

 矢は清浄の力を矢に宿し、隕石へ向かう。

 互いの力がぶつかり合った瞬間――衝撃の奔流がぶつかり合う音とは異なる、不協和音もまた同時に響き渡る。

 

 

 それは蒐集した魂の叫びでもあり。

 また、死に際に救いを求める絶叫でもあった。

 

 人の感情と、魂。それぞれ魔力に転換した代物が、声となって呻いている。

 

 

 隕石は光に包まれ消失すると共に。矢もまた塵となって消えゆく。

 

 

 己ではなく、己の外より魔力を集め放った魔法同士がぶつかり合い。消えゆく。

 この結果を受け――フェルメノーツが召喚したミステンも。アーレンが己の身体に降ろしたファリエリーゼも。双方ともがこの場より消え去った。

 

 

「.....」

 

 

 互いの秘奥を切り、対消滅した結果となり。

 フェルメノーツとアーレンはそれぞれ――死骸が立ち並ぶ街の中を歩いていく。

 

 歩く中。互いの姿を視界に収めると――双方共に立ち止まった。

 

「お久しぶりですね、アーレン君」

「ええ。久しぶりですフェルメノーツ先生。――腕前は衰えていないようで安心しました」

「そちらは随分と腕を上げましたねぇ。先生も殺す気でやったんですけどねェ」

 

 実に朗らかな空気で、――恐らく、かつての関係性のまま二人は会話をしていた。

 かつての。神学校の教師と生徒という関係性のまま。

 

「女神教は魔王候補を捕らえてどうするつもりなのでしょう?」

「君はどう思います?」

「大方、魔王の術式を簒奪して新しい術式を作り出すつもりでしょう?」

「おお。流石はアーレン君だ。うむ、正しい。――魔王の術式によって女神教の信仰に則った新たな術式を作り出し。それを女神教の聖典に追加する事を目論んでおります」

 

 アーレンの答えに、ぱちぱちと拍手しながらフェルメノーツはそう言った。

 

「魔王の術式は魂の蒐集と、蒐集した魂から新たな術式を形成し、譲渡する。この魔王の術式を女神教が継承し、形成した術式を”聖典に”継承させれば――それだけで女神教の力が跳ね上がる」

 

 訥々と、フェルメノーツは答えていく。

 

「大陸最大の宗教組織の利点ですな。我々には幾万もの信奉者がおり、幾万の戦力がある。一つ術式を形成できれば、それだけで幾万の戦力の向上が望めるわけです。更により単純に魔力を集められる方法があるというのも魅力的です」

 

「ですよね~。それで先生」

 

「はい」

 

「そろそろ――この人生に飽きを感じていませんか?」

 

「.....」

 

 アーレンは。

 かつての己が師に問いかける。

 

「先生は――たとえ女神教が唱える神がいなくとも、女神教が作り上げた道を評価すると。そう以前仰っていたかと思います」

「そんな事も言いましたかね」

「どうですか?今なおこの道の上に立って。――今になっても、その道が安泰であると、そう思われますか?」

「.....」

 

 図星を突かれての沈黙ではなく。

 フェルメノーツは――相手の真意を量るための沈黙を、続けていた。

 

 

「虚構であろうとも。それが万人を支配するだけの力が備わり、威を保つならば。それは間違いなく力です」

 

「ですが――もうこの道、大分ひび割れていませんか?」

 

「この力によって、市井に住まう人々を恐怖に陥れ。恐怖に縛って。そうして作り上げてきた支配体制ですが。もう大分ガタが来ていると思うのです」

 

「大半の市民にとって。もう女神教は宗教組織ではなく癒着組織です。自分たちの魔法で貴族を庇護し、その代わり権力を得ただけのハイエナです」

 

「もう、貴族の権力と、組織としての威以外に力はありません」

 

「――そして。こうして必死に魔王の力をみっともなく求め、司祭騎士長という最高戦力を送り込むほどに逼迫している組織です」

 

「先生。この道の上に立って、まだこの女神教という道を評価していますか?」

 

 

 アーレンの問いかけに暫しフェルメノーツは沈黙すると。

 

 逆に、問いかける。

 

「君は――魔王の術式を手にして、何をするつもりなんだい?」

 

「そうですね。まずはフェルメノーツ先生にご協力を頂きまして。ウルムス、イムリス、アーケールの三つの神器を揃えまして」

「揃えて?」

「この神器を触媒として――聖典に書かれている、あのクソッタレ女神を”召喚”します」

 

 

 そして、と。

 アーレンは――悪魔の笑みを浮かべる。

 

 

「そして。女神教宗主国、デネギア神聖帝国内にて。この破戒僧が女神を召喚する様を、実演する。この破戒僧の身に、女神を降ろすのです」

 

 

 ――かつて。アーレンは女神教宗主国神聖デネギア帝国内にて時の枢機卿の一人を殺害し、神槍アーケールを簒奪している。

 女神教が勃興し。女神教により支配されし帝国の最中。

 女神教に反旗を翻せし女が、女神を召喚し、操る様を見せつける。

 

 

「この道を粉々に砕く。その様を――先生、是非とも一緒に見てみませんか?」

 

「.....」

 

 

 フェルメノーツは、ジッとアーレンの目を見た。

 本気か。ただの狂気か。

 

 三つの神器を揃え、魔王を手中にしたとて。女神などという代物を呼び起こせる術式を作り出せるのか?その確信があるのか?

 

「先生。――こっちの道の方が、ちょいとこの先艱難辛苦はございましょうが」

 

 アーレンは。

 至極真っすぐな目で。狂気を孕みながらも、真実味のある表情で。

 つまりは――恐ろしく本気の情念を籠めていた。

 

「きっと、楽しいですよ!」

 

 

 と。

 

「....成程」

 

 この狂気が。この情念が。――きっと、魔王の討伐という偉業を成し遂げたのだろう。

 

 今己の前に。再び道が出来上がった。

 

 一つは、かつては盤石かと思われた。これまでも、これからも続いていくと判断した道。

 一つは、恐ろしく先の見えない道。

 

 フェルメノーツの目には――今まで見てきた強固な道が。

 何故だか、実に頼りなさげな、所在なき姿に見えてしまっていた。

 

 

「――君は。正真正銘の”外道”だったわけだ。アーレン・ローレン君」

 

 そう呟いて。フェルメノーツは静かに目を細めていた。

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