夜が明けた。
おはようございます、レロロ・レレレレーロです。
現在――穴を掘って土に還りたいほどに恥ずかしい気分と、脳神経がぶち切れそうな怒りで頭がこんがらがって思考がぐっちゃぐちゃです。もう本当にぐっちゃぐちゃです。この感情を発散するにはどうすればいい?誰を殺せばいいんだ?
まあ。まずは前者の感情から説明しようか。こっちのほうが自業自得な分理屈は説明しやすい。
己がキャラに似合わぬ、腐った玉ねぎの如くくっせぇ台詞を吐き散らした自己羞恥により死にそうです。死にたくて死にそうです。
昨晩の己が痴態を思い出し、寝る前からもんどりうって脳内で転がり回っておりました。
馬鹿ですか馬鹿ですまさしく馬鹿です。思い出すだけで恥ずかしい。普段の己では決して言う事のない台詞が馬鹿みたいに脳内から弾き出され喉奥から垂れ流されていた事実を前にあまりにも愕然としてしまう。
なんだ?お前はあの時自分が世紀の色男とでも勘違いしていたのか?宝石箱から宝石が出てくるからこそその輝きというのは価値があるものでございまして。そこらのジャガイモを剥いて出てきた田舎くせぇ顔面から出力された言葉に一芥程もその台詞は価値がねぇんだよ解ってんのかクソ馬鹿が。
くっせぇ~。思い出すだけであまりにもくっせぇ~。台詞と行動の臭さが時間経過と共に匂い立ってきて吐き気すら覚える。なんだなんだ。何があったんだ。馬鹿じゃねぇの。自分から吐き出された臭さにあまりにも死にたくなってしまいました。誰か俺を殺してくれませんか?今なら頭を垂れて穴を掘って斬首した頭部を自ら埋めます。対戦よろしくお願いします。
そんな死にたくなるような夜でしたが。
食事が終わってもう満足してくれただろうと思っていましたが。レミディアスは至極当然の如く――この部屋で寝泊まりすると主張してきました。
「おいコラ待て。この不気味な空間で寝ろっていうのか」
「....?当然でしょう」
「ざけんな!こんなんで安眠できるのはテメェだけだよ死霊術師!」
「うるさいわねぇ。いつ爆発するかも解らない屋敷ですやすや眠っていた間抜けが文句を言ってんじゃないわよ」
「うるせぇええええええええ‼」
多分この先ずっと擦られ続けるんだろうなァ....!そうですよはいはいわたくしはいつ爆発するかも解らない暗殺屋敷でぐうすか眠りこけていた阿呆ですよクソッタレ。なあ何度でも聞くんだけど暗殺屋敷ってなに?
「少しは危機感を持ちなさい。折角大貴族になれたのに、そんな事だとすぐに消されてしまうわよ」
「消されそうな権力の座に無理矢理乗せたくせに偉そうに....」
「この空間では消される事はないの。安心してぐうすか寝ていればいいわ。爆発するよりかはいいでしょう?」
「クソが.....!」
だったらそうしてやるわバーカ!と捨て台詞を吐いて。耳栓と安眠マスク君(視覚遮断結界魔法付き)を付けて、備え付けのソファーで横になる。
眠りにつく前。前述の通りですが、睡眠前に我が愛しの脳味噌君が記憶の整理ついでにレミディアスに吐きかけたクソの匂い立つくっせぇ台詞の記憶をご丁寧に読み返してくれたおかげで奥歯を噛み鳴らす羽目に
そんな夜を超えた先。
耳栓とアイマスクを外し、溜息と共に朝を迎えたその瞬間。
隣には――
「あ....?」
一瞬。
裸のままこちらに微笑みかけるレミディアスの姿が垣間見えた。
背中から伝わる感触はソファのそれではなく柔らかなシーツそのもので。
――おはようレロロ。全く、困ったさんねぇ。
優し気な微笑みに、少し桃色がかった肌の上に、汗の光沢が朝日に照らされた姿を一瞥。脳内に直接語り掛けるような、優しげな声。
脳内が蕩けるような甘い香りが鼻奥を通る。絡む腕先と両胸から、生々しい汗のじめりとした感触と共に体温まで伝わってきて。
一瞬のうちに背筋から爪先まで冷え込んだような感覚が走った。
走馬灯と共に。何一つ記憶にない己が脳味噌をシェイクするように頭を抱え、声すらも失った一瞬があった。
何故?
何故こんな事に?
俺は何処で何を間違えてこんな死への道まっしぐらな選択をしてしまったのだ。
マズい。これはもう社会的な死が待ち受けているのやもしれぬ。
蒼ざめた表情。死を覚悟し、再度、その恐怖の源泉に目をやると――。
「ええああ....ヴぁああああ....あああん??????」
そこには。
頭蓋骨の額の上に幻覚術式とピンク色のハートマークを頬骨に刻み込まれた――裸の骸骨がいた。
「.....」
骸骨はかちゃかちゃとうるせぇ音を立てて骨しかねぇ両手で肉のねぇ両頬に手をやって、肋骨を立てた横ばいの体勢のままくねくねと腰をくねらせ、骸骨なりの「恥じらい」のポーズを取っていた。
「.....」
よくやった俺のこめかみ君。あやうく青筋が切れて憤死する所だった。
レロロは――怒りによる反射行動により、術式を構築する。
岩石魔法を己が右腕に付着させ、腕の強度を上げると共に――レロロはその骸骨の頭蓋目掛けて鉄拳を叩き込んだ。
「このクソボケがよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおォォォォォォ‼」
朝日が差し込む窓から小鳥が囀る音が短めに聞こえた瞬間。
ベッドの背骨ごと骨が砕かれる音が響き渡り、次に聞こえ来たのは悲鳴のような音を立てながら逃げ去る小鳥たちの羽ばたきであった――。
●
「.....」
月が雲に隠れる暗夜であった。
視界も聴覚も遮断した男が――眼前に存在している。
「....馬鹿ねぇ」
自分ならば絶対にありえない。
己が五感をシャットダウンして眠りにつくなど。
あまりにも能天気。仮に自分に暗殺の魔の手が迫ってきたらなどとは、露とも思っていないのだろう。
「本当に....」
レミディアスは、ソファで歯軋りしながら眠っているレロロの姿を一瞥し微笑んだ。
本当にこの男は馬鹿なのだ。
口に出せばこうして気恥ずかしさで死にたくなるような気障ったらしい言動を行い。その反動でこうして悪夢に叩き落されようとも。それでも――言わなければならない状況だったから、やらねばならない状況だったから、そうしたのだ。
そういう男だった。
総じてそういう性質を持って生まれた人間の事を馬鹿というのだろう。
そして。
総じて――心根にどうしようもない善良さまで持ってしまった馬鹿というのは。他者を救う事もあれば、いいように利用される事もある。
「.....」
レロロが遅効性の恥を喰らい苦悶の声を上げる事となった代償として吐き出した台詞は、レミディアスの耳朶の奥に今でも残っている。
レミディアスは無言のまま兵士の召喚体に命じ、レロロの身体をベッドに運ばせる。
ベッドにレロロを横たわらせ。装着したアイマスクと同じ術式をその目蓋に行使。
歯軋りを終え、ようやく深い睡眠下に落ちたレロロを見下ろす。
「.....ふん」
――人の事をやれ恋愛クソザコナメクジなどと蔑んでくれた*1ものよ。
――そういう貴方はどうなのかしら?甲斐性のかの字も無さそうな男だもの。精々権力を手に入れて前の領主のお手付きのメイドに手を出すくらいが精々なもの*2でしょう?
――貴方もこれまで散々わたくしを馬鹿にしてきた*3んだもの。この機を逃す訳にはいかないわ。
――どうせ、貴方だって*4恋人なんていたことはないでしょう*5?
という訳で。
レミディアスは己が指先に術式を構築し。レロロの額をなぞる。
術式は、魂に記録された情報を見る魔法を形成する代物。
魔法の発動条件は、対象が自分に対して心を許している(魂にプロテクトされない)状態かつ、睡眠状態にある事。
脳に記憶している情報ではなく、魂に記録されているものであるため。基本的に魂に問いかけを行い、その応答を行うという手続きによって情報を得る。その為得られる情報は基本的に主観的である。
先程の言葉で、レロロがレミディアスに対して憎しみを持っていないという事に確信を覚えた故に使用する。
――さあ。貴方の空虚な恋愛遍歴を見せてもらおうかしら。
恐怖2割。興味8割といった感じで。レミディアスは、魂に語り掛けた。
――初恋は、高校一年の時。よく笑いよく食べる可愛い子だった。告白したけどフラれた。死にたくなった。青春の痛みだァ~
「....」
スッと思わず目を細め奥歯を噛み締めるが、耐える。まあいい。フラれたのなら。
とはいえ。もう既に初恋自体は通り過ぎているという時点で、気に喰わないのは本音ではあるが。仕方ない仕方ない。
そういえば。高校、とは何だろう?恐らくレロロの前世での学業機関の一つだろうか。
まあいいや。
はい次。
――はじめての恋人は大学一年の時。告白されて付き合った。美容師と浮気された。フラれる。
「.....」
はじめての恋人が浮気。仮に自分ならば、必ずや地獄の果てまでも追いかけ地獄よりも恐ろしい場所に送り込むのだろう。やはりこの男、脇も性格も甘い。
だが。
ここから――怒涛の畳みかけが始まる。
――傷心の時に二人目の恋人が出来る。リボ払いでホストに貢ぎ始める。連帯保証人にされそうになったため逃げるように別れる。引越しした。
――ヤバい女に付きまとわれる。勝手に付き合っている脳内設定を作り上げられ連絡先を交換した瞬間からバケモノみたいに鬼電され住所特定される。一年に二度のお引越し~。ついでに電話番号もおさらば~。
――三人目。学外のOLの人と付き合う。落ち着いた美人だった。彼女が住むマンションに誘われてお酒を飲んでいたらいつの間にか全裸の上に手錠で拘束されていた。手錠をかけられたままなので上着を着れず仕方なしに上半身に布を巻いて脱出。大学の工学科の友達に手伝ってもらい手錠を斬ってもらう。至極当然の如く別れる。
――ヤバ系の女遍歴が大学中に知れ渡り、悪名が轟く。女の子に避けられる大学生活を送る事となる。
――社会人。既婚女性にモーションをかけられる。その後その行動が旦那にバレかけると”私じゃなくてあいつに迫られた”と虚言を撒き散らす。裁判一歩手前まで泥沼状態。女性恐怖症になりかける。
「えぇ....」
何だコイツ?
所々何やら専門用語に溢れているが、――本当にろくでもない恋愛しかしていない事は如実に伝わってくる。
魂から伝わるそれはレロロの主観情報。そこに付随するレロロの感情まで流れ込んでくる。
本当に――もう女はこりごりだという想いが痛い程に伝わってくる。
――転生後。クソオヤジから紹介されたクソ性悪そうな女の婚約者。見た目通りのクソ女だった。もうマジで何の未練もない。じゃあな。消えちまえ。
「.....」
転生してからもこうなるのか....と。そのあまりにあまりにな恋愛遍歴を辿り口元がひきつく感覚がレミディアスに走る。
そして。
――女神教から抜け出した変な女と術式の研究をはじめる。互いに好意はあったかもしれないが、もう正直解らん。ただまあ、女性不信はこいつのおかげで完治できたから感謝している。アルデバランの襲撃で死んでしまった。
「あ.....」
魂への問いかけは、この言葉を最後に途切れる。
アルデバランの襲撃で死んだ、というたった一つの文言が――レミディアスの動きを止めていた。
「.....」
――こんな経験を経て尚。レロロは迷いなく、レミディアスを憎んでいないと言い切ったのだ。
その事実に。本当にどうしようもない程の感情が己の中で渦巻くのを感じる。
「本当に....馬鹿ねぇ」
そうして。
哀しみだとか、罪悪感とか、そういう諸々を籠めた微笑みを浮かべた後に。
「――とはいえ。どんなに哀れで惨めであろうとこれまで恋愛してきた事は気に喰わないわね。でも、まあでも哀れではあるし....」
レロロの頬を優しくなでながら――新しい術式をレロロに付与する。
「一瞬だけいい思いをさせてあげるわ」
という訳で。
そのままレミディアスは、レロロの隣に骸骨を忍ばせると――満足気な笑みを浮かべていた。
●
「あの馬鹿は何処行った!」
「落ち着いて下さいレロロ様!レミディアス様は公務により国外に出ております!」
「ざけんじゃねぇ!あのクソ馬鹿には今日という今日は物申してやらねぇと気が済まねぇ!」
その後の事であるが――。
レロロの寝室より堂々とレミディアスが出てきた事で、両者の関係に対する噂が一気に広まったのだという。
一晩にてものの見事にしてやられたレロロは、絶叫を上げながら怒りを露わにしていたのでした――。