魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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魔王に代わる、魔王へと――

「――通達が参りました、クラミアン王」

 

 ジャカルタ王宮内。

 玉座に座るクラミアンの目前。仕事――公開処刑を終えたユーランが淡々と言葉を告げていた。

 

「女神教で汚職を働いていた幹部連中の公開処刑を終えたと同時。デネギア神聖帝国からの宣戦布告が行われました」

「予想通りですね」

 

 大陸を席巻する女神教の宗主国からの宣戦布告。

 字面だけで見れば間違いなく絶望的な状況であるが――それでも。王と、その懐刀の表情は笑みを象っていた。

 

「とはいえデネギアとジャカルタとの距離は遠い。更に、陸路で進軍するならば大規模な砂漠地帯を越えなければならない。――なれば、デネギアが最初に打つ手は」

「女神教信奉国へ支援を行い代理戦争を仕掛ける事でしょうね。ジャカルタ近隣国は当然女神教を国教としているが故に」

 

 ですが、と。クラミアンは続ける。

 

「周辺国の一つ、ハレドは実質こちらの手に落ち。ハレド周辺諸国も内戦で荒れ果てている。ハレド側からの侵攻は避けるでしょう。たかだか代理戦争ごときで、国の威信をかけての大戦争を起こすとも思えない。戦争といっても、大規模なものは早々には起きない」

「ですなぁ」

「ならば――かつての魔王に倣いましょう」

 

 ユーランは、クラミアンの目を見る。

 強く、そして――相手の奥底へ潜る様な、深みのある目をしていた。

 

「小規模な戦を繰り返すと共に魂を蒐集する。――魔王の術式を用います」

 

 

 

 

「さて、新魔王クルルシカ。――これからの話をしようか」

「は、はひ....」

 

 ジャカルタ王宮、執務室。

 王宮法相の相談役の為に用意されたその部屋の中、クルルシカは魔王を滅ぼせし勇者が一人――アーレン・ローレンと向かい合っていた。

 

「これから恐らく、ジャカルタと女神教国との戦争が行われる。クラミアン王とユーラン殿の想定では国力を大きく削る程の大規模戦争は行われず、小競り合い程度の戦争がね」

「はあ」

「これから暫く君には――この小規模な戦争の跡地を回ってもらってだね。魂のストックを集めてもらう」

「え....?」

 

 アーレンは、実に晴れやかな笑みでそう言った。

 本当に、何処までも純真な顔であった。まるで子供の様な

 

「かつての魔王がやっていた事だろう。――小規模な戦いを引き起こし、一定量の魂を蒐集する。その繰り返しをする手法だ」

「....」

「ね?」

 

 え?

 まさかこの連中、勇者でありながら――魔王と同じことをしようとしやがっています....?

 

「君の術式で集めた魂のストックの半数は、レミちゃんを通じてジャカルタの魔法軍の強化に充てる。残りの半数は、君を通じて魔族たちの増強に使ってくれ。一定量の魂をこちら側でストック出来たら、君は魔界に帰るんだ」

「え....?魔界に帰れるのですか、私?」

 

 これは、実に予想外!

 かつて魔王を滅ぼした勇者一行に、新たな魔王たる己が捕らえられる....という最低最悪な状況下でありましたが。意外にもかなり優しい未来の展望が見え始めました。

 ――ですが。その展望の先にあるもの。それは、この悪魔にとっては更なる混沌が見えていたのでした....。

 

「うむ。その上で、君の配下となる魔族には”単身でかつての魔王を滅ぼした勇者四人と同盟を結んできた”と言伝すればいい。君の脱走の理由づけにもなり、君を魔王たらしめる実績ともなるだろう」

「....」

 

 段々と、この勇者一行(悪魔ども)の狙いが解ってきました....。

 え?マジ?こいつ等....マジ?

 

「これから我々は夥しい戦争の時代に入っていく。――君等魔族にも、この戦にいっちょがみさせてあげようと思うのだよ」

 

「君の前の魔王はいい策を仕込んでいたけど、結局は実力主義の魔族の社会でろくな実績を積めなかった事で魔族たちに不満をもたらしてしまった。そこを我々に付け込まれ滅ぼされた」

 

「だから。君等にも大きな戦争に参加させてあげようと思うのだよ。――我々の手筈の下にね」

 

「さすれば――。君等は魂のストックを集められ、魔族たちも戦争の中で身を立てる機会が与えられる。我々も魔族の協力を得られる。実にウィンウィンでハッピハッピハッピーという訳だ」

 

 

 ――あの。あのあのあのあの。

 ――本当に、この女が口にしている事は、人間の頭から捻りだされた言語なのでしょうか?

 

「....もしかして。皆さんは、私を通じて――魔界すらも利用しようと....?」

「当り前じゃないか。折角魔王を捕まえたんだ。魔王を捕まえたのなら、その膝元にいる魔族も利用しなければ勿体ないじゃあないか」

 

 

 ――かつての魔王を滅ぼした、勇者一行。

 ――彼等は魔王を滅ぼし。魔界の法則すらも狂わせ。そして、巡り巡った今、魔界すらも掌握しようとしている。

 

 恐らく数千年以上。殺しては殺されを繰り返し続けた人類にとっての、不倶戴天の天敵である魔族。

 この連中は――平気で、そんな種族すらも自分の手駒の一つとして使おうとしているのだ。

 

 

「これから、君と、君が治める魔界は――ボク等勇者一行と同盟関係となる訳だね」

 

 

 ――いや。こいつ等は、勇者なぞではない。

 ――勇ましき意思と共に平和を希求し、それ故大願を果たせし者共などではない。

 ――もっとどす黒い意思の下動いている。この世を破壊し、更なる混沌に呑み込むためだけに。

 

「あ,,,あは....は」

 

 もしも、魔王と称される者がいるのならば。

 そう言われるべきは、きっと自分ではない。

 

 この悪魔共にこそ、相応しい。

 こいつ等は勇者などではなく。魔王の首を刎ね飛ばし新たにその玉座に座りし者共だ――。

 

 

 

 

 その後は、クラミアンとユーランの想定通りに事が運んでいった。

 ジャカルタ周辺諸国はデネギアの宣戦布告と同時に、ジャカルタへの侵攻を開始した。

 とはいうものの。己が国教の宗主の顔を立てる為である。己が国力を大きく傾ける程の兵力は出せない。

 

 ジャカルタは小出しされた周辺国との小競り合いに合わせ。ハレド周辺にある元属国の鎮圧の為に軍を出す。

 

 ハレドの領土への鎮圧には、ジャカルタ王宮の魔法使いを束ねる魔法省が副大臣、レミディアス・アルデバランの姿があり。

 そして。

 

 ハレドに面する砂漠地帯。

 元ハレドの属国の一部は、長きに渡る支配の報復としてハレド領内へ侵攻を開始し。国境線付近の住民の虐殺まで始めたとの報がジャカルタへ入った。

 

 ハレドへの周辺国の侵攻の報を受け――ジャカルタ国軍による鎮圧が行われようとしていた。

 

 

「え...?」

 

 ――かつてハレドには、英雄がいた。

 夥しい程の魔族を砂漠にて屠り、ハレド周辺国の悉くを属国に落とした怪物。

 

 砂塵を巻き上げる魔獣配合の騎馬隊を操る、ハレドの大将軍。

 彼は――ジャカルタ領内の決闘にて、勇者一行の一人、カスティリオ・アンクズオールにより殺されたはずであるが。

 

「何故....あの悪魔は死んだはずじゃ....!」

 

 

 彼の死により、ハレドの没落は決まった。

 彼を殺したジャカルタがハレドへと攻め込み、その国体の悉くを破壊した故に、現状があるのに。

 

 

「ゼクセンベルゲンの死によって躍起になった馬鹿共を黙らせるには、――ゼクセンベルゲンが当然一番効果的よねぇ」

 

 

 ゼクセンベルゲンは、レミディアスの”呪音”によりその魂を拘束され、カスティリオに殺された。

 その魂は呪音を通じて――レミディアスのストックの内に収められていた。

 

 

 彼と、彼が率いていた騎馬隊は。

 レミディアス・アルデバランの死霊術により――その手駒の一つとして、もう亡国となった己が祖国を駆けまわる。

 

 彼の出現により――劈くような悲鳴が辺りに響き渡る。

 

 彼の姿は。今この場にいる者共にとって、筆舌に尽くしがたい悪魔であり。

 その死は、確かな希望であった。

 その死がひっくり返される事。それは――希望から一転、絶望へと切り替わる瞬間であった。

 

「精々――新たなストックの為に、死になさい」

 

 絶望を召喚せし死霊術師は、そうただ冷たく呟いていた。

 

 

 

 

「さあて」

 

 そうして――暫しの時間が過ぎた。

 

「結構な魂のストックが集まった所で。――最高のイベントをこれから執り行おうと思うのだが、どうだろう?」

 

 

 ここは、ハレドの戦場跡。

 元ハレドの属国により侵攻を受けた後――レミディアスの死霊術により召喚されたゼクセンベルゲンにより、鎮圧した戦場跡。

 ここ最近の戦の中、最も死者が多かった場所である。

 

「十分な魂のストックが集められたところで――召喚の儀を行おうかな」

 

 ふんふん、と楽し気に鼻歌を口ずさむアーレンは。

 象られた術式の上に――三つの神器を並べる。

 

 神典ウルムス。神弓イムリス。神槍アーケール。

 三つの神器を並び立て、――女神教の召喚の儀に使われる術式を用いた円陣を形成する。

 

 

「いやはや。大層楽しみじゃ。――まさか本物の女神と顔を合わす事になるとはのぉ」

 

「本当に呼び出せるんでしょうね?」

 

「ボクを信じてくれよレミちゃん。――ね、先生?」

 

「うむ。これはウルムスの儀典にて補足した術式だ。召喚に不足はない」

 

「....どうして俺まで駆り出されてんだ」

 

「魔王の術式とこちらの術式を結び付けられる技術を持つのが貴殿以外おらぬのでな。すまぬなぁ」

 

「まあ護衛はおります故。ご安心ください、レロロ様」

 

「こ...ここを乗り切れば....ようやく離れられる....!」

 

 

 

 円陣の前には――アーレン、レミディアス、カスティリオの三人に加え。元女神教司祭騎士長のフェルメノーツに、レロロ、そしてレロロ配下のメイドであるクレオに。そして――新たな魔王であるクルルシカ。総勢七名が、雁首揃えてこんな所に集まっておりました。

 

 これより始めるのは、女神教における――”女神”の召喚。

 魔王の術式によりかき集めた魂のストックと、この戦場跡の魂も揃えて。――十分な準備の下、召喚の儀を行うべく。

 アーレンにとっての、大願成就の為に。

 

 

 

「いやあ。いよいよだねぇ。本物の女神さまは、本当に教典通りの美しさがあるのかな?」

 

「所詮は伝承じゃ。もしかすればとんでもない化物が出て来るやもしれぬぞ」

 

「それはそれで楽しいかもしれないねぇ」

 

 ふふ、と。アーレンは笑う。

 

 

「ようやくここまで来たね、レロ君」

「.....」

「いやはや。――破戒僧に使役される女神さまが生まれるかもしれないなんて、実に痛快だろう。女神教の破砕の序章に、実に相応しい」

 

 アーレンはレロロの目を見て。また、より笑みを深くする。

 

「きっと――彼女も喜んでいるさ」

 そう言ってアーレンは――目を細めて、遠く空を一瞬だけ眺めた。

 

 

 ――計画は進んでいく。

 ――魔王を滅ぼさんと一歩を踏み出したあの日から始まった、この狂った計画は。

 

 

「さあて、それじゃあ」

 

 

 ――魔王を滅ぼし。魔王を手中にし。

 ――今度は、女神をもこの手にする為に。

 

 

 まあ解っていた事だ。

 俺等は、勇者などではなく。

 

 

「はじめようか」

 

 

 ――新たに生まれた、魔王のようなものなのだから。

 




これでひとまずアフター編も一区切りとなります。
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