魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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肉体派死霊術師、襲撃

「....カイロウ」

「ん....おお、アーリア殿か!」

「貴方何をやっているの?」

 

 時間は、少々前後する。

 宿場を蹴り出されたカイロウが、何処かあてもなくふらついた挙句に入った近くの酒場にアーリアも入る。

 そこでは――その酒場で一番の安酒と、パンを二切ればかり頼んでいるだけのカイロウがいて。

 その周りを囲う、酒場の客がいた。

 酒の入った杯を天に掲げ、ゲラゲラと笑う男共。恐らくは炭鉱労働者であろうか――随分と機嫌のよさげな者共に囲まれたカイロウは、連中と肩を組み高らかによく解らない歌を歌っていた。

 

「何をやっているか、か」

 

 調子外れな歌を口ずさみながら、カイロウは続ける。

 

「主の金で、彼等に酒をふるまったのだ。普段の己は何よりも優先すべきは債務の返済故にこうして他者に何かを恵むという行為は行えないが――今この状況ならば、他人の金ならば、出来る.....!」

「言ってて情けなくならない?」

「ふ。甘いなアーリア殿。今こうして俺が呼吸し、領主殿の一存により生存を許されているこの状態。まさしく情けなさの極致。最早恥の臨界点を超え、己が自尊心なぞ谷底に蹴落とされている。谷底に蹴落とされたというのなら――後は這い上がるのみという事よ!」

「恥に限界なんてないわよこの馬鹿。恥は転げ落ちるものじゃなくて上塗りするものよ。その厚かましい面構えに更なる恥を上塗りしていくだけ」

「ぐお....!く、この女騎士....口論も存外に強い....!」

 

「まあまあ騎士様!いいじゃねぇか!他人の金でただ飯にありつくかただ飯を恵んでやるか、なぁんも変わらねぇ変わらねぇ!」

「他人様の金で食う飯がたまらなく旨いように、他人様の金で恵まれる酒も変わらず旨い!」

「見ろよ!このぶくぶく太ったお貴族様がたらふく砂糖を食った後の小便みてぇな見事な黄金色した麦芽飲料を!ウチのカミさんとこの兄弟が作ってんだぜ!」

「奢ってもらってなんだが、アンタも飲めよ!アンタも酔ってくれないとこっちのバツが悪いじゃねぇかよ!」

 

「すまぬ!俺は下戸だ!」

「そうか!酒に酔えねぇとは.....可哀想に....!」

 

 

「....」

 

 まあ、いいか。

 随分と楽しそうだし。

 

 しかし――中々いい風潮じゃないか。ああいった貴族の悪口など、以前までならどれだけ酩酊状態にあろうとも言えなかったであろう。

 国中を揺るがした貴族の大粛清は、この国の市井の意識までも変えた。

 貴族とは己が頭上に舞う理不尽であるという意識が、なくなってきている。

 

 

 どうしたものかな、とアーリアは考える。

 楽しそうに騒いでいる分には無害だし、こちらも何か注文して飯でも食うか――と思った所。

 

「――火事だァ!」

 

 金切り声のような声が聞こえてきた。

 外から聞こえてきたその声に、酔って騒いでいた連中は冷や水をかけられたかの如く素面に戻り――轟々とした音が聞こえて来た瞬間に紅潮した顔面を更に血色を巡らせ店から逃げ出していく。

 

「くそ....!店を燃やさせはしねぇぞ....!」

 

 店主もまた。バックヤードに貯めていた水の入った桶を手に、外へと向かっていく。

 

「.....」

 

 そうして外へと向かっていく皆々を――カイロウは、鋭い目で見つめている。

 

「カイロウ!何故ここに留まっているのです!火事ならば、我々も消火活動に――」

「アーリア殿。――これは、まやかしだ」

 

 外から聞こえる炎の音を聞き咎め。そうカイロウは呟く。

 これは――本当に火事が起きているのではなく、幻術の類が使用されているのだと。

 

「――客が外へ出た後、店の周辺に結界が敷かれた」

「なっ....」

「どうやら――騒ぎを引き起こし、我々を孤立させんとする何者かがいるようだな。アーリア殿、店の裏手の警戒を」

「....解ったわ」

 

 アーリアはカイロウの指示通り、店の裏手から外へ出て

 

 カイロウは得物を手に、ゆっくりと玄関口へ立つ。

 瞬間。――カイロウはドアを蹴り明けると同時に槍を突き出す。

 

 槍は突き込みと同時に術式が発動。穂先が変化すると共に、左右に刃が伸びる。

 仮に――扉の外側で不意打ちをしようとする誰かがいるのならば、逆に首が斬り裂かれているであろう。

 

 

「あらあら」

 

 肉を斬り裂く手応えと共に――カイロウの腕先に、今まで味わったことのない感触が生まれ行く。

 硬い。

 鋼鉄と見紛うが、確かに肉の繊維が感じられる。究極にまで圧縮し、幾層にも織り込まれた筋肉の感覚。

 

「うふ――はじめまして、カイロウ殿」

 

 眼前に現れたのは、――岩石であった。

 

 肌身に内包された筋肉は、ごつごつとした隆起と共に熱を上げている。

 身に纏う旅装も張り裂けそうなほど。その肉体に圧縮された筋が、今にも破裂しそうなほど――その肉体は異様であった。

 先程カイロウの刃が通ったであろう脇腹辺りは――傷口が膨張した筋肉に呑み込まれ、流血の痕跡だけを残すばかりであった。

 

 

「――貴公、何者だ?」

「ごめんなさい。名乗る訳にはいかないの。ただここに来た目的だけは教えてアゲル」

 

 肉に圧迫され、大地が響くような低温のその声で――男は言う。

 

 

「――”錬鉄槍”カイロウ。貴方の情報を、御前試合までに収集する為に来させてもらったわぁ」

「成程な」

「だから。今、このアタシの前で――紛う事なき全力を披露してもらうわ。全てはアタシの勝負の為に」

「目的は解ったが――よいのか?こうして貴公が我々を前にその正体を現しても。俺の雇い主は、今回の主催と繋がりが深い。貴公の見目をこちらで伝え、レロロ様を通じてカスティリオ殿に動いてもらう事も可能であろう」

 

 恐らく、如何ほどの実力か把握していないカイロウと直接戦う事で事前の対策を行うつもりなのだろうが。

 そもそもこうして堂々と姿を晒して襲撃してしまう事自体が、この者にとって何よりも不利を運び込むであろう。

 

「要らぬ心配よぉ。――アタシの肉体は、アタシでさえオリジナルが解らなくなってしまったもの。アタシでさえも、アタシが何者かを知る術は最早ないの」

 

「何故なら、アタシは肉体派死霊術師。死者の肉体を己が身体に降ろし、その権能を振るう。アタシの肉体は、ただ肉を、死者を、起こす為のモノ」

 

「アタシは――無限の手札を持っているわぁ。闘技場で切れる手札も、今この場でしか切れぬ手札も。――アタシの魔法、教えてア・ゲ・ル❤」

 

 岩石の如き男は、腰をくねらせ、両手にてハートを象り、そして――術式を行使する。

 行使する術式は、死霊術。

 ただ――死霊術を行使する術式構造の中。魂魄に関しての式だけがごっそりと取り除かれ。代わりに、肉体の構築物を組み合わせて形成された式が導入されている。

 

「『レッグス・アルパチーオ』」

 

 そして。その名を男は呟いた。

 

 瞬間――男の肉体は変化し、別の存在へと変化する。

 

「.....そうか。それが、貴公の魔法か」

 

「そうよぉ。これが――アタシの魔法」

 

 

 変化した肉体は、かつて――女神教の司祭騎士の一角であった男であった。

 天賦の肉体に神の祝福をその身に宿し、破壊神をその身に宿し者。

 因果操作魔法。その身に刻み込んだ、悪果を排し善果を運び込む祝福と共に――その鉄槌にて、司祭騎士にまで登り詰めた老兵。

 

 かつて褒章を手にせんと来訪した勇者一行と戦い、敗れ、その後処刑された――司祭騎士レッグス。

 その肉体を、己が身体へと――眼前の男は、降ろしていた。

 

「――司祭騎士レッグス。もう既に処刑されたと聞いていたが」

「そうよぉ。処刑された有象無象の中で最高の肉体があったから。大金はたいて買っちゃった」

 

 かつて鉄槌を握っていた諸手は、空であるが。

 その肉体に付与され続けていた、因果操作魔法は――変わらずその身に在り続けている。

 

「けどォ。元女神教の司祭騎士の肉体なんて、御前試合で使える訳もないじゃない。だから――こうして情報収集に使わせてもらうわぁ」

「いやはや。随分面白いじゃないか」

 

 成程、とカイロウは呟く。

 死者の肉体を己が身体に降ろす術式。恐らく御前試合では、別な肉体に成り代わり参加するつもりなのだろう。故に、――御前試合ではどう足掻いても使えない女神教司祭騎士の肉体を用いて、こちらを探りに来たのだ。

 

 こちらが戦えば戦う程情報は引き抜かれるが。あちらは本番で使用できない力を振るうのみで何らリスクはない。

 

 

「精々頑張って足掻きなさい。――アタシとしてはここで死体になってもらっても全く構わないもの」

「見た目に反し狡猾な御仁よ。だが勝つために手段を選ばぬ者は好きだぞ。――ならば、参る」

 

 かつて鉄槌を握りしめていた両手にて構えを取り体術の姿勢で待ち構える男がいる。

 

 構えを一瞥しただけで理解できる。

 間違いなく――この男は、強者だ。

 

「御前試合の前哨戦――精々楽しませてもらおうじゃないか」

 

 

 カイロウもまた術式を展開し――全力の突きを行使した。

 

 

▼▼▼

 

 

 店の裏手から出て周囲の状況確認を行っていたアーリアの耳に、轟音が聞こえてきた。

 結界で区切られた空間の中――木材が衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけるような音が。

 

「おおおおおお!」

 

 その音は――人間が一人、凄まじい勢いで吹き飛んだ挙句に、納屋に叩きつけられる音であった。

 

「カイロウ.....!」

 

 先程酒場の正面の出入り口から出たはずのカイロウが納屋に叩きつけられる。

 その軌跡を荒々しく辿る、巨躯の僧服の男もまた、視線を横切った。

 

「っしゃあ!」

 

 僧服の男は吹き飛んだカイロウの肉体に即座に追いつくと、倒れ込むカイロウへ踏み込みと同時に拳を打ち付ける。

 地面についた槍の石突を足代わりにくるり回転し、カイロウはその拳を回避する。

 カイロウの代わりにその拳を受け止めた納屋は――全体を支える骨組みから砕け散り、ガラガラと崩壊を始めていた。

 

「あの男は.....!?」

 

 ちらりと一瞥した、あの男。

 知っている。あの男は――かつて女神教の司祭騎士をしていた、レッグスだ。

 

「何故だ......!あの男は公開処刑で確かに死んだはずではなかったのか.....!」

 

 頭に疑問が浮かぶ。

 首を落とされ死したはずの肉体が――当然の如くこの世を闊歩しているのだ。最悪の理不尽だ。

 

 されど――状況は、更なる理不尽を現実に突き付けていく。

 

 カイロウは己が前方と、レッグス擬きの周辺に地面から壁を作り出し――ぐるりと背後へ回るように移動する。

 レッグス擬きは己が眼前にひり上がった壁に、その鉄拳を叩きつける。

 鉄拳はその壁に打ち付けられ、打突のヒビを壁に生み出す。

 

 ヒビは、一瞬にして壁全体へと走り、衝撃が隅々まで無駄なく行き渡り、――崩落させる。

 鍛え上げた天性の筋骨。そして己が肉体に付与した因果操作魔法。

 これにより――レッグスの暴力には、確かな破壊神が宿る。

 

 崩落した壁の土煙。

 そこに紛れるように――伸び上がった槍がレッグス擬きの首筋に走っていく。

 

「ふんぬぅ!」

 

 その穂先が首筋に達するよりも早く。レッグス擬きの肘捌きが柄を打ち、突き込みを弾いていた。

 

「成程――肉体と、肉体に付与した魔法効果は継続しているが。肉体を動かす技量そのものは術者自身に由来するものなのだな」

 

 かつてのレッグスは、大振りの鉄槌をまるで小枝を振るうかの如く振り回す戦闘スタイルであったというが。

 眼前にいるあのレッグス擬きは――その恵まれた怪力をもってして、体術を振るっている。

 まさしく、奇々怪々。

 

「――カイロウ!これは....!」

「アーリア殿!貴公は宿に戻りレロロ様とクレオ様の下へ!」

 

 カイロウは――眼前の敵から一切目を離す事無く、アーリアに叫ぶ。

 

「この者の目的は俺だが、この先気が変わるとも限らん!クレオ様に加え、貴公もレロロ様の護衛へ!」

「....ッ」

 

 死んだはずであるが。

 確かに――眼前には、かつてジャカルタを恐怖で支配していた、女神教司祭騎士の姿がある。

 この強大な敵を前にして、逃げ出さなければならないのか。カイロウを一人、ここにおいて――。

 

 

 

 瞬間。

 カイロウとアーリアの二人の脳内に、通信用の魔法からの文字列が浮かび上がる。

 

 

 ――こちらレロロ。魔力探知に引っ掛かってクレオとよく解らねぇ召喚体と交戦中。時間はかかるだろうが十分倒せる。お前等も敵襲に備えていてくれ。

 

 

 

「.....」

 

 

 どうやら――レロロとクレオが横槍に入る危険性までも考慮して、既に相手は対策をしていたようだ。

 レロロとクレオの両者は、反対側の山奥に魔力探知の罠にかかり足止めを喰らっている。

 

「――うふ。今、貴方達の飼い主から情報は伝わったかしら」

「....カイロウ。この者は?」

「――御前試合にて情報のない俺を調査する為に襲撃しに来た死霊術師だ。あの姿も、仮初のモノらしい」

 

 カイロウがそうアーリアに伝えると――眼前の敵は、不敵に笑う。

 

「そういうコト。――精々死なないように、全力で戦いなさいな」

 

「.....」

 

 今、この男は――己を見ていない。そうアーリアは感じた。

 もう己への対策は積んでいて。最早歯牙にもかけていないのだろう。あの男の眼には――カイロウしか映っていない。

 

「舐めやがって....」

 

 ポツリ呟き――アーリアもまた両のサーベルを引き抜いた。

 

 

 

「私も相手するわ、カイロウ。――覚悟なさい腐れ死霊術師」

「うふ。――いいわねぇ。歓迎するわよ」

 

 クク、と笑みを浮かべて。――死霊術師、ウィンブル・ガジェンナムは微笑む。

 

 この肉体派死霊術師の技量と女神教司祭騎士の肉体を併せ持った異形の存在。――破れるものならば、破ってみろ。

 

 実力を絞りに絞り切った先に、はじめて対策というものは出来るのだから――。

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