魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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勇気凛々!恐怖を乗り越え、勇者となれェ!

 アーレン・ローレンは知っている。

 勇者を知っている。

 恐怖を踏み越えし勇気を持ってしまった人がいた事を知っている。

 

 ――そして。勇気を持ってしまったが故に、破滅への道を歩んでしまった。その末路も。

 

 

 女神教の勃興は、様々な功罪を持ち込んだ。

 彼等が行使する告解魔法は、司法分野において革命的な進歩を見せた。

 嘘を否定する場を形成し。その場で証言された言葉の数々を告解の書に刻み付ける一連の魔法は。裁判の正当性を一気に跳ね上げた。

 証人保護の為の魔法も充実しており。司法機構の発展に関して、女神教は大きな役割を果たしたと言える。

 

 だが。それらの魔法を宗教組織である女神教が担っているという状況により、司法分野における腐敗もまた加速度的に進んでいった。

 

 どれだけ優秀な魔法があろうと。どれだけ司法分野が発展しようとも。女神教の目的は、女神教の永続でしかないのだ。

 彼等に力添えしてくれる権力層を、彼等の魔法が裁く事は絶対にあり得ない事なのだ。

 告解魔法は女神教により独占されている。

 それを行使するか否かは彼等の裁量。

 故に――裁判を円滑かつ平等に進めるための魔法の数々は、女神教を支持する権力層を庇う為の腐敗の温床となった。

 

 反女神教を掲げる貴族を選んで裁き、市民の反抗を抑制する。女神教の魔法の数々は、ただそれだけの代物と化してしまったのだ。

 

 

 

 これはとある貴族と、その貴族に雇われた元貴族の妾腹の魔法使いと、そして己が親友の末路。

 

 彼等は考えた。

 女神教の術式を解析し、告解魔法の独占を終わらせれば。女神教と、彼等と繋がった貴族による支配と腐敗は終わるのではないか、と。

 

 女神教の魔法は、他の魔法とは異なる術式を使っている。

 そして。わざと術式部分を煩雑化させ、他の分野の魔法使いによる分析をしにくくさせている。

 女神教にとっての魔法とは、術式を理解し、魔力という対価を払って行使されるものではない。神への信仰心と聖典への正しい解釈によってこの世に顕現する奇跡なのだ。

 術式の構造を分析して、あくまで理屈として行使される魔法とは異なる。聖典を読み込み、その解釈を深めていく事により魔法を行使できる。

 

 その分析に当たって。女神教の教徒であった親友は聖典の分析を行い。その分析をもとに雇われの魔法使いが術式構造を解析する。

 術式の解明は――あと一歩の所まで来ていた。

 

 

 あと一歩、踏み出せるよりも前に。

 彼等は滅ぼされた。

 

 

 ――女神教と癒着し権力の隆盛を極めていた貴族勢力、アルデバラン家によって。

 貴族の邸宅は焼き討ちされ。貴族と親友は殺され。生き残りは、その日偶然屋敷に不在であった雇われ魔法使いのみ。

 表向き、貴族同士の権力争いの末の事件として処理されたが。その実態は――女神教の術式の研究を抹消する為の処置であった。

 

 

 彼等が持っていた意思は、崇高で正しい代物だったのだろう。

 だが。その手段を誤ってしまったのだとアーレンは思っている。

 

 彼等はきっと。女神教と貴族の腐敗に苦しむ民を想い行動に出たというのに。肝心の民を味方にする行動を怠っていた。

 否。

 味方にする、などとはまだ生温い。

 ()()()()()()

 

 恐怖に怯え、ただ日々を過ごす民衆の全てが。勇気に震え、恐怖を踏み越え、渦となる為の力を。

 勇気は時に、傲慢を生む。

 己だけで全てを変えられると。そう錯覚してしまったが故の、破滅の結末であった。

 

 

 

 

 アーレン・ローレンは親友の研究を引き継ぎ。自ら女神教徒となり――破戒僧となった。

 破戒の道の最中。アーレンは女神教と相反する魔女の術式の研究を行い。己が望んでいた魔法を手に入れた。

 

 彼女は手に入れたのだ。

 

 ――民衆を渦とする、扇動者としての力を。

 

 

▼▼▼

 

 

 ――君に教えてあげよう。女神教の魔法と、魔女の魔法の双方を極めたボクの魔法の本懐をね。

 

 そう呟いたアーレンは。されど、変わらずファウムとの戦いを繰り広げている。

 

 だが、

 

「どうした、アーレン?――お前の魔法の本懐とやらは何処にあるんだ?ええ?」

 

 先程よりも――あからさまにアーレンの手傷が増えている。

 ファウムが巻き起こした阿鼻叫喚の地獄絵図の最中。その思惑通り、アーレンは広範囲の魔法を封じられた上――因果操作による防御も大きく控えるようになっている。

 因果操作による防御は、攻撃を他所に逸らす。

 逸らされた攻撃が――現在結界に閉じ込められている市民の誰かに当たるかもしれない。

 故に。アーレンは紫電を収束させてファウムの光の矢を打ち消す形での防御を行っている。逸れた攻撃が市民へ当たらないように。

 

「ぐ...!」

 

 それも。ファウムの攻撃が市民へ向かわんとするならば。己が身を挺してまでも防護を行う。

 その度彼女の身体には絶えず傷が生み出され、血を流す。

 どちらが優勢かは――火を見るよりも明らかであった。

 

 ――やはり。私の策は正しかったじゃないか。

 

 市民を閉じ込め苦しめるだけで、この女の力を大きく削ぐ事が出来る。自分の欲求を満たすだけで、勝手に弱くなってくれる。

 ここまでの結果だけを見るならば。間違いなく己の判断は正しいはず。

 

 だが。

 あのアーレンの言葉は、本当にただの強がりでしかないのか?

 そんな一抹の不安も、拭い切れずにいる。

 

 

 

 

 ――いい感じだね。

 

 苦しめられている市民。それを庇い、傷ついていく自分の姿。

 そして。

 その姿を見て――無力感や罪悪感にない交ぜとなった感情が宿った視線が、己に刺さっていく。

 

 

 ――いいねいいね。このまま、()()()()()()()()()()

 

 

 全て計算通りだ。

 あの拷問狂が取るであろう策なぞ、百も承知。

 市民を閉じ込め、盾にし、苦しめる。そうしてくることは解っていたし、やろうと思えばこうならないように立ち回る事も出来た。

 

 でも、()()()()()()。間違いなく自分の意思で、この状況をアーレン・ローレンは選んだ。

 

 何故か。

 巻き込む為である。

 

 今この時。この瞬間。ここにいる市民にとっての敵は、女神教の司祭騎士だ。

 あの女を恐怖し。あの女を憎悪している。

 そしてこの街には――女神教への恐怖が、市民の一人一人に根付いている。

 

 恐怖と憎悪と憤怒のタネは、しっかり芽吹こうとしている。

 

 

 ――光の矢が、アーレンの眼前に迫る。

 既に矢傷で血塗れの様相であるアーレンが、身を転がすように避けた先。

 

 そこには、大柄な偉丈夫と、豊かな茜色の髪が特徴的な女性との、恋人同士がいた。

 

 二人は戦いの隅で身を寄せ合い物陰に隠れていたが。遂にファウムの矢の軌道上にその身を乗せてしまった。

 

 矢は男の方へ向かう。その様を一瞥し、覚悟を決めたのか男が目を閉じた瞬間。

 その身を踊り出し――身を挺して男を庇う、恋人の姿があった。

 

「あ.....」

 

 光の矢は、庇い立てた女の身体に大穴を空けた。

 それでも女は――何とかその矢の軌道を僅かでも変えんと。最後その身を捩っていた。

 

 まさしく奇跡のように。――女の肉体を貫通したその矢は、男の肉体を避けていった――。

 

「ああ....ああああ.......ああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

 

 恋人を射抜かれ、即死した様を見て。

 男は――呆然とその様を一瞥し。絶望の叫びをその喉から絞り出していた。

 

 

 その様を見て。

 

 ファウムは――表情を引き攣らせて、その様を眺めていた。

 

 

 ――なんだ?何で、あの女、あんな事を....?

 

 

 あり得ない。

 己が手から放たれた神の矢が。何の防御術式も付与されていない女の身体如きで神弓の矢の軌道を変える事など、出来るわけがない。

 本来なら。庇い立てしたところで、二人同時に貫かれて天に召される結末が変わる訳がない。

 

 なら。何故そのような奇跡が起きたのか。

 

 奇跡の背景には、魔法があった。

 

 

 ――アーレン・ローレンの、因果操作魔法が。

 

 

 アーレンは矢を回避しつつ――矢の軌道上にいたあの男へ、因果操作魔法を仕掛けた。

 あの男が助かったのは恋人の涙ぐましい自己犠牲などによるものなどではなく。アーレンの魔法によるもの。

 

 

 その理屈を知った上で。

 ファウムは見えてしまった。

 

 一瞬。ほんの一瞬。恋人を穿たれた男の姿を見て、口元を大きく吊り上げるアーレンの、悍ましき姿を見てしまった――。

 

 

汝の怒りは、汝だけのもの

 

 

 そうして。

 アーレンは――魔力を伴った言葉を、紡いでいく。

 

汝の憎悪は、汝だけのもの

されど。汝の恐怖は、汝だけのものにあらず

恐怖の水底に、己だけの憤怒と憎悪を沈めよ。さすれば、恐怖の水は晴れん

 

 聖典を解く口法にて、聖典に書かれていない言葉を紡ぐ。

 その言葉は朝の静寂に響く鳥の囀りの如く。阿鼻叫喚の地獄の最中であっても、しん、と響き渡った。

 

 

 言葉はその意味ではなく。言葉に内在した魔力を、彼等の脳に染み渡らせる。

 

 

「アーレン....!貴様、何を....!」

「だから言ったじゃないか。ボクの魔法の本懐を教えてあげるってね」

 

 

 恋人を殺された男の脳内に、走馬灯の如く記憶が流れていく。

 

「ボクの魔法の本懐は”勇気の魔法”だよ。怒りや憎しみにその身を震わせ、恐怖を乗り越えんとする、その勇ましき意思を”魔力”に還元し、力とする」

 

 

 女神教という代物が、生まれながら己の傍らにあった事。

 貴族と結びつき、腐敗が進んでいると親から愚痴を受けた事。

 実際にその腐敗の様を目の当たりにした事。

 司祭騎士が市民へ反徒の言いがかりをつけ拷問をしているという噂が流れた事。

 その噂が、真実だと知った事。

 

 そして。恋人が今まさに殺された事。

 

 

 今奮い立つ怒り、そして憎悪。恐怖によって意識の底に沈められたそれらが――アーレンの詠唱によって、怒りに付随した記憶と同時に立ち上がっていく。

 

 

 それらがぐるぐると脳内を駆けまわる最中――男の背後に、守護霊が生まれる。

 

 

「本人が生まれながらに持つ”魔力”ではなく。彼等が意識の奥底に沈めた感情を元手に魔力へ変換する。”呪法”の技巧さ」

 

 

 

 にこやかで、はれやかで、爽やかな笑みと共に。

 アーレンは周囲を見た。

 

 

 地獄の中にいた民衆の目から――恐怖が消え去った。

 背後に張り付く守護霊の出現と共に。

 

 

 ただその目に、純然たる感情を湛えて。

 

 ファウムを、見ていた。

 魔法の余波で怪我をした者。結界で全身が焼け爛れ絶叫を上げていた者。瓦礫の下に埋もれてしまった者。隠れて息を潜めていた者。

 

 その全員が。

 

 

「勇気凛々って奴さ。――さあ皆」

 

 

 全員、が。

 

 

 

「勇者になろうぜ」

 

 

 

 

 

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