魔王滅ぼしたけど多分新しい魔王ポジが生まれただけ   作:丸米

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扇動!暴動!大暴走‼

 魔法とは、魔力を対価とし、術式を空間に刻み、行使される。

 故に。魔法を扱うに辺り、魔力の多寡は非常に重要となる。

 

 たとえどれだけ強力な魔法であろうとも。一個人が持つ魔力で行使出来る魔法は限られてくる。

 故に。強力な魔法使いたちは、自らに備わったもの以外で、魔力を調達できる方法を用意する。

 

 ある大魔法使いは、大量の生贄を調達し。

 ある召喚魔法使いは、大量の霊魂を魂魄術にて捕らえ、魔力の代替物として用い。

 

 そして。

 アーレン・ローレンは――他者の感情を利用し、魔法を行使する。

 

 

 他者の無意識に沈められた怒りや憎悪。

 それらを意識の底から引きずり出し、魔力に変換する。

 

 本来感情というものは、生きていく中で発散されるもの。

 喜びの感情はいずれ薄れゆく。怒りも憎しみもいずれ背景となって忘れ行く。ずっと怒り続ける事も、ずっと憎しみ続ける事も、ずっと喜び続ける事も、等しく難しいであろう。

 

 だが。

 一つだけ――感情が発散される事無く、ただ無意識の内側に沈殿する場合もまた、ある。

 

 

 それは。恐怖により抑え込まれていた場合だ。

 

 

 感情の発散を恐怖により押さえつけられた時。人はその感情を外に吐き出せないまま無意識の中に沈めていく。

 

 

 アーレン・ローレンの魔法は――そういった代物を掬い上げ、表出させ、魔力に変換させる。

 

 恐怖の対象を見せつけ。思い切り恐怖させ。その上でこの恐怖の根源を消し去りたいと強く強く願わせる。

 そうする事で。アーレンの魔力を使用せずとも、多くの人間を巻き込んだ大規模魔法を扱う事が出来る。

 

 魔法の効果は単純で、守護霊の付与である。

 恐怖を踏み潰す程の怒り憎しみを抱えた者達のその感情を魔力代わりに、――要は、己が魔力を使用せず。他者へ守護霊を付与する。

 

 

「お.....おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」

 

 ファウムが閉じ込めた市民全てに守護霊が取りつくと共に。

 彼等の全てが――ファウムに殺到していく。

 

「来るな....!この私に、近付くな....!近づくなァァァァァァァァァァ!」

 

 

 ファウムは、先程アルスにやったように。矢でもって彼等の頭上にある守護霊を破壊せんとするが。

 壊したところで、またも生え出てくる。

 感情を源泉とした魔力の創出は、溜め込んだ怒り憎しみが発散され終えぬ限り――終わる事はない。

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああぎゃあああああああァァァァァァァァァァ!」

 

 

 

 守護霊による因果操作魔法の加護が付いた群衆は、大波となりファウムを飲み込んでいく。

 その悲鳴もまた、波に飲まれるように怒号の中消えていった――。

 

 

 

どうだ皆!

 

まだまだやれるだろう!

 

たとえその司祭騎士が消えた所で、女神教はまだそこにある!消えちゃいない!

 

また君たちの大事な存在が、背信者の名の下に壊されていく様を見るのか!

 

君たちには、加護が付いている。それは女神教が掲げる偽りの神などではない。己に内在する、己だけの神が!

 

 

 怒号の中でも響き渡る、澄んだ声音が彼等の脳を打つ。

 魔力を含んだ美しい声が、彼等に内在する感情に触れる。

 

 扇動者、アーレン・ローレン。

 少年とも少女とも捉えられる美貌と、澄んだ美しい声を持つこの女には、関わる全てを演目に変える。

 劇場はこの世界。俳優はこの世界に生きるあらゆる人間。観客は誰一人としていない。

 彼女の姿が。彼女の声が。もしくは彼女という存在そのものが――舞台袖で脇見する演者の手を優しく引っ張り上げる。

 

 おいで。

 この先に新しい世界があるよ。

 君はただの観客なんかじゃない。勇者なんだ。

 振り絞った勇気が、世界を変えられる。君もまた、この世界で役を与えられるべき俳優なんだ。

 

 他者の感情に触れ、力に変える。

 人それを、カリスマと呼び。

 そして――また、扇動者とも呼ぶ。

 

 たとえ舞台が灼熱の炎吹き荒れるリンボの底であろうとも。涼やかな笑顔で引き込んでいく。

 

 彼女の魔法が――厳格な階級社会であった魔族の勢力圏内にて分断と争いを巻き起こし、混乱の底へ叩き落した。数々の独裁小国家を破滅へと追いやった。自由を愛し、支配を嫌う彼女の在り方と魔法は。恐怖を以て人の感情を押さえつける諸々にとっての、何処までも鋭い刃となった――。

 

 

 ――まだまだ。まだまだだよ。まだまだ君たちの勇気は死んではいまい。

 

 

「――結界は解除した。さあ後は自由だ」

 

 

 ファウムが仕掛けた光の結界を解除すると共に、渦となった大波が解き放たれる。

 

 その様を見届け――満足気な笑みを浮かべ、アーレンは再び空に術式を描く。

 

「さて。レロ君に何があったか教えておかないとね。――事態の収拾は頼んだよ」

 

 

▼▼▼

 

 

「.....」

 

 

 レロロ・レレレレーロの脳裏に、伝言用の術式が浮かび上がりこんな文章が浮かび上がってきた。

 

 ――ボクの魔法で守護霊付きの暴徒が百人近く生まれちゃった❤後は頼んだよマイダーリン❤後始末お願い❤やっちゃえ❤

 

 

 

「は?」

 

 

 レロロはそう呟き、

 

 

 

「な....なにが、なにが起こって....」

 

 カスティリオの不意の一撃を喰らい倒れ込んだレッグスもまた――信じられない面持ちで、それを見ていた。

 

 

 

 現在、レロロたちがいる街路の反対区画から微かであるが――怒号が聞こえてきた。

 それは徐々に鮮明になっていき。様々な破壊音も巻き込み、より明瞭な音としてこちらの耳に突き刺さる。

 

 集団は街中を駆けずり回って教会の設備や施設を破壊し回り。止めに来た僧兵や王都兵すらも難なく撃退し暴れ回っている。

 

 ――何だアイツら!まるでこっちの攻撃が当たんねぇぞ!

 ――弓兵と魔法兵は撃つの止めろ!あいつ等守護霊が付いている!下手に撃ったら味方の方に曲がって飛んでいくぞ!

 

 それは、あり得ざる光景。

 武器を持った兵士たちの攻撃は当たらず、素手の暴徒の攻撃は不思議と当たる。

 よしんば当たっても、武器は精々肌を掠める程度。だが暴徒の拳は急所にいい角度と威力で当たり。その拳は壊れる事も無い。

 

 まさしく――奇跡の集団。

 

 

「な~にやってんだあの野郎......!」

 

 

 ぐええ、とレロロは呻く。

 そう。こういう事を引き起こすのが、アーレン・ローレンという女であり。まことに遺憾ながら、これまでも何回も作戦の一環として使用してきた方法である。

 まて。

 まてまて。

 

 今回の作戦は”暗殺仕掛けた女中餌にしてより大物が釣れたらいいねぇ~”だったはずなのに。あの馬鹿、テンション上がってとんでもない事をしでかしやがったな......!

 

 ――アーレン曰く、”勇気の魔法”

 幼児向け絵本の表題で書かれてそうな名前の魔法であるが。

 要は――恐怖で押さえつけていた感情を魔力に変換して守護霊を付けるという方法で、人為的に暴徒を生み出す魔法である。

 

 政情が不安定で、国民が抑圧されている政情にある国ほど有効となる魔法であり――”人々を支配の抑圧から解放する”というアーレンの本質の願いが籠められた悍ましい魔法でもある。

 

「お~。壮観じゃあ」

「ええ。いい景色だわ」

「おい。和んでんじゃねぇ」

 

 カスティリオとレミディアスはそんな光景を、お祭りを遠くで眺めるような穏やかな目で見ていた。

 ――やっぱりこいつ等終わってるって。

 

 

 くええ、と謎の鳴き声を上げながら。レロロはそそくさと白紙の書状と羽ペンを取り出し、何事かを書く。

 書状を纏め封に閉じると。レミディアスに手渡す。

 

「レミディアス。召喚獣使ってこの手紙をユーラン殿へ送っといてくれ」

「そりゃいいけれども....。送ってどうするの?」

「どうするもこうするも、事態収束させろってあのバカから無茶振りされたから、もうやるしかねぇだろ.....!やっちまったんだからさァ!あの馬鹿がさァ!」

「はぁ。別にそのままでいいでしょうに.....。ま、精々励みなさい」

 

 手紙を受け渡すと。レロロは走っていく。

 あの暴徒が行き着く先はもう解っている。

 

 ――女神教の白色の塔。

 

 

 ジャカルタにおける女神教の本拠ヘ向け、レロロは泣きながら走っていった。

 

 

▼▼▼

 

 

 暴徒は、一般的なそれと異なり略奪を伴う事はなかった。

 店舗や市民が住む住宅などがその暴力の被害に遭う事はなく。ただただ、女神教の関連施設や設備だけが破壊されていく。

 

 彼等は波となって流れ込み。渦となり女神教を破壊していった。

 

 彼等が向かう先は、一つ。

 

 ――女神教の本拠。白色の塔である。

 

「開けろ!」

 

 術式により固められた防護壁。

 だが――それらも因果操作が付与された彼等の手にかかり、破壊されていく。

 

 

 ジャカルタの国教であり、司法集団である女神教。

 その本拠が、陥落した。

 

 

 

「おーおー。やってくれてるなぁ.....」

 

 

 さて。

 現在――レロロ・レレレレーロはソロソロとした足取りで、暴徒で固められた白色の塔の前に立った。

 

 

「畜生.....もう、こういう役割は終わったと思ったのになぁ......」

 

 だが仕方あるまい。

 あの野郎どもが好き勝手やった後の着地点を整理して、何とか死なずに着陸させるのが――俺の役割なのだから。

 

 

 ――レロロ・レレレレーロ、行きます!

 

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